闇鍋 in 幻想郷   作:触手の朔良

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後々のシナリオ展開の為、主人公の表現の仕方を変えました。
それに伴い以前の話に、若干手を加えるつもりですが、話の流れは変えません。

所謂アレです。ゲームブック的なやつですハイ。


5話 メイド参入

 小鳥の囀りをアラーム代わりにして、十六夜咲夜は目覚めた。

「ん……、眩し……」

 デフォルメされたネコちゃん模様のパジャマに身を包んだその姿は、完璧で瀟洒と揶揄されている普段の彼女とは遠く掛け離れていた。カーテンの隙間から差し込んだ朝日を瞼の向こうに感じて、無意識に手庇(てびさし)を作る。そして何度か目を(しばた)かせ、起床を試みる。

 そんな彼女の視界に有り得ぬ物が飛び込んできて、寝呆けた頭は一気に覚醒へと向かった。

「え――?」

 庇にしていた手の、その小指に見慣れぬ物があって。

 ガバリと、勢い良く上体を起こす。あんまり健康に良く無さそうな起床である。

 咲夜は、己の小指に巻き付けられたソレをまじまじと見る。何も無い空中から生えている赤い糸が、小指にぐるりと括り付けられていた。

(これって、アレよね……?)

 その正体、その名称が脳裏に浮かぶ。おそらく、元凶たる人物を想像し咲夜は小さく溜め息を吐いた。

 

 

「私ゃ知らんよ」

「え……?」

 そう、元凶と思しき主人はバッサリと切り捨てた。

 どうせまたお嬢様が退屈しのぎとばかりに始めた事だろう。そのように決めつけていた咲夜にとって、その答えは想定していなかった。

「で、ですがこれは――っ!?」

 ――運命の赤い糸。

 そう、口にする事が咲夜には憚られた。口にした瞬間、その存在を認めてしまうようで、言葉の途中なれど彼女は口を噤んだ。

「運命の赤い糸、かしら? 私達には見えないのだけど、興味深いわね」

 そんなメイドの努力も、主人の親友によって呆気なく壊されてしまうのだった。

 咲夜は目覚めてから一通り朝のメイド業務をこなしつつ、いつ主人に伺い立てようか見計らっていたのだが。

 そうして午後のお茶会。主人と、その親友に紅茶を振る舞い、会話の途切れた隙を見て咲夜は尋ねた。

 だが主人の返答は望んだものではなく、咲夜は狼狽を隠す事が出来ない。

「ふぅん。本当に? 幻覚じゃないのか? 赤い糸だなんて、これっぽっちも見えないけど?」

「あ、あります! 嘘じゃありません!」

 咲夜自身、何度も外そうと試みていた。だがその度、指先は糸をすり抜けて触れる事すら出来なかった。

 だが、確かに存在しているのだ。小指から、どこかへと繋がっているのだ。

 それが自分以外の者に見えないのは計算外だったが、そう言えば、メイド妖精たちも気にした様子が無かったな。

(本当に、私以外は見えないの……?)

 それ故に主人も識者も、咲夜を見る目は半信半疑だった。

「しっかしそれが実際に在るとしてだ、どうして今更見えるようになった?」

「ふぅー……。そうね。普通に考えれば、咲夜の運命の人が現れたって事だと思うけど」

 従者の心も知らず、二人は話のタネにして楽しげに盛り上がっている。

「という事はアレだな? 咲夜の運命の相手が生まれたと、そういう事になるのか?」

「おめでとう咲夜。結婚は二十年後ぐらいかしら?」

「嫌です、そんな! おばあちゃんじゃないですか!」

 彼女は特別強い結婚願望がある訳ではない。今は、という冠詞が着くが。つまりは人並み程度にはあったのだ。

 そんな二十年後まで結婚出来ないと言われてしまっては、流石に咲夜の乙女心が傷つく。

「咲夜。子供が出来たら私が名前をつけてやろうか?」

「……式には呼んで頂戴ね」

 勝手な事ばかり云う吸血鬼と魔女。端にからかっているだけなのか。或いは人外には二十年など矢の如き歳月に過ぎないのかもしれない。

 咲夜は頭を抱えずにはいられなかった。

「しかし、そうだな――」

 レミリアはしばし考える。その可愛らしい顔がニヤリと、いやらしく歪んだのを見て親友は「あ、また碌でも無い事を考えたな」と察した。勿論メイドも察した。

「咲夜。オマエに暇を出してやる」

「え――?」

 

 

「いやなに。折角だからな、その未来の旦那様とやらを拝見するのも一興だろう?」

 人里の往来。主人の言葉を思い出し咲夜は小さな吐息を零した。

 と言うか咲夜だって気にならない筈がない。見てみたい気持ち半分、会いたくない気持ち半分。

 その相手が自分の好みに合うかどうか。素敵な人かどうか、という問題ではない。

 この赤い糸とやらに自分の運命が左右されるのが、どうしようもなく前向きになれない理由だった。

(はぁー……。気が乗らないわねぇ……)

 突然の休暇に手持ち無沙汰な咲夜は、仕方なく赤い糸の原因を探るべく、糸の先がどこに伸びているのか調べることにしたのだが。……結局主人の言う通りになっている気がするが、そこは深く考えずに置こう。

 そうして辿り着いたのが人里だった。

 まぁ当然か、と思う。幻想郷で人が集う場所など限られている。その中でも人里が、尤も人間の集まっている場所なのだから。取り敢えず、まだ見ぬ運命の相手とやらが普通の人間っぽくてホッとする。

 しかし、まだ油断はならない。この糸が、何故今日になって見える様になったのか、という事だ。

 主人らは「運命の相手が()()()()」からだと言っていたが。では私の相手はまだ毛も生えそろっていない赤子だと云うのか。

 いやいや待って欲しい。確かに自分は子供は好きだが、そういう意味ではないのだ。

 というか、その仮説が合っていたら、自分が結婚出来るのは本当に十年二十年先になってしまう。勘弁して欲しい。

 そんな事を考えていたから、咲夜は反応する事が出来なかった。

 赤い糸の示す先を辿っている最中。今までにないぐらい急に、糸が激しい動きを見せた。

 何だろう、と思う暇もない。

「――きゃっ!」

 突如として現れた何かにぶつかり、咲夜は尻もちをついてしまった。

 ちょっと涙目になりながらぶつけた尻を擦っていると、頭上から声を掛けられる。

 ――すいません。大丈夫ですか?

 その男の顔を見た瞬間、咲夜の感情は彼女の手から離れてしまった。

 早鐘を打つ心臓、桜色に染まる頬。頭は妙に熱っぽく、思考は霞掛かりとても正常な判断を下せそうにない。ただ視線だけが、彼の顔から離す事が出来なくなっていた。

 それ故に、眼の前へ伸ばされた手の意味に気付くのが遅れてしまう。

 

 ――打ち所が悪かったのだろうか?

 アナタはメイド姿の少女とぶつかってしまった。

 突然横から現れたものだから碌に反応も出来ず、思いっきり衝突してしまう。体格差からアナタはたたらを踏むだけに済んだものの、メイド少女を転倒させてしまった。

 アナタは慌てて手を差し伸べるも、少女の様子はどこかおかしく。

 惚けた様子でじっと、アナタの顔を見詰めるだけで一向に手を取る様子がない。

 心配になったアナタは膝を折り、身体の具合を確かめようと顔を近づける。少女が小さく呻き、赤かった顔が更に真っ赤に染まった。

 これはいよいよ只事ではないと、少女の身体を抱き上げようとした。

 

 ――間違いない。

 咲夜は確信した。彼の動きに合わせ、従う様に動く赤い糸。

 この人こそが、私の運命の人なのだ!

 会いたいとか会いたくないとか、そんな気持ちは既に消え去り、ただ歓喜だけが胸を満たしていた。

 差し伸ばされた手を取る事に躊躇していると、彼が心配そうな表情を浮かべつつ接近してくる。心臓が一層昂ぶりを見せた。

「はいはい。そこまでにしときなさいよ」

 男の腕が咲夜に触れようとした刹那、横から現れた霊夢がさらりと咲夜を立ち上がらせた。そうしてメイド服に着いた土埃を、親切にもパンパンと払ってやる。

 そんな無理矢理立ち上がらせて大丈夫なのだろうか、という男の心配は杞憂だったようだ。少女には目立った外傷も無く、どこか身体を痛めている、という事も無さそうだった。

 だが、それにしては咲夜の表情は複雑な形に歪んでいた。

「何よ。言いたいことがあるならハッキリ言えば?」

「……ありがとう、と言うべきかしらね」

「なら私は、どういたしまして、とでも言っておこうかしら?」

 ……何故だろうか。平穏な、何でもない遣り取りの筈なのに酷く物騒に聞こえるのは。

「怪我がなくて何よりだったわね。行きましょう〇〇」

 霊夢は咲夜に一瞥だけくれて、早々に立ち去ろうとする。

 ぐいぐいと引っ張られる腕からは、一刻も早くこの場を離れようという意思を感じた。

「も、もし――! ○○様、と仰るのでしょうか!?」

 周囲の視線が一斉に咲夜に注がれる。彼女はここが、往来のど真ん中であるのも忘れているかの様だった。

 霊夢が小さく舌を打ったが、周囲の喧騒に掻き消されアナタの耳には届かなかい。

 アナタは首肯した。対して二人の反応は対象的だった。

 花綻ぶ咲夜と、苛立ちを隠そうともしない霊夢。

「あ、あの! ……もし、○○様がよろしければ紅魔館へいらっしゃらないでしょうか!?」

 いよいよ以て、霊夢の眉根が深い皺を刻んだ。しかし前後不覚になっている咲夜は気付かない。

 しかし、彼女の言葉は、その、あまりにも脈絡が無く。流石のアナタでも、戸惑いは隠せない。何故――と。

 そんなアナタの気持ちを汲んだのだろうか。咲夜は慌てて言葉を付け足した。

「その――お詫びもしたいので」

 お詫びとは、随分と大袈裟な。

 お互いの前方不注意が招いた結果なれど、どちらかと言えば被害者は少女の方なのだ。そこまでの礼を尽くされる必要があるのだろうか?

 アナタはどのように答えようか考えあぐねていると、代わりとばかりに霊夢が口を開いた。

「咲夜――。あんた、どういうつもり?」

「……別に。貴女には聞いておりませんわ」

 アナタは偶然にも、少女の名前が咲夜なのだと知る。しかし今この時点に於いて、それは些細な情報に過ぎなかった。

 またしても、不穏な空気が立ち込める。一触即発、という雰囲気を纏い、少女はお互いを睨め付けている。

 さて。アナタは急いで決断しなければならない。

 

 

A――【折角なので誘いを受ける】

B――【申し訳ないが丁重に断る】

 

 




好感度状況

霊夢:?
紫:★
魔理沙:☆☆
アリス:★★★
文:☆
咲夜:★★


活動報告にて、AルートかBルートか、アンケートを募りますので、他にもご希望がある方はそちらでお願いします。
特に希望が無いようであれば、Aルートで取り敢えず進みます。
選ばれなかったルートも、話自体は書くつもりです。
期間としては一週間ぐらいと、多めに見積もって置こうかなと思っています。
その間は、放置気味だった他の作品の執筆に重点を置くつもりですので、何卒よろしくお願いします。

2017/4/25追記 アンケートを打ち切りました。感想共々、ありがとうございます

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