自分ではここでこのキャラを出す、なんて発想自体ありませんでした。
リクエストありがとうございます。
2017/4/22 後のシナリオ展開の為に、主人公の表現を変えました。
えぇっと……。
――これは一体、どういう状況なんでしょう?
おずおずと、現状が呑み込めずアナタは沈黙を破った。
自身の真向かいにはちょっと変わった巫女服風の服を着た、黒髪の美少女が座っていた。
その隣に座る、これまた金髪の少女も随分とレベルが高い。つば広のトンガリ帽子を被り、何だか魔女を連想させた。
隣に座っている金髪の少女も、これまた驚くほどの美少女だ。フリフリのクラシカルロリィタは彼女に良く似合い、お人形という印象を抱かせる。
目が覚めると黒髪の――博麗霊夢と云うらしい――霊夢に手を引かれ、六畳程の純和室の部屋へと通される。部屋の中央に、主の如く鎮座する丸いテーブルは、ちゃぶ台が合った。随分と時代錯誤ではあったが、部屋の雰囲気にはよく合っていた。そうして予め準備されていた座布団に座らされると、「お茶を持ってくるわね」と一言を残し彼女は部屋の奥へ消えてしまった。
大人しく待っていると、前触れもなく襖が開く。ぴしゃんと、襖が柱を打つ音に肩が飛び跳ねてしまった。
隣の部屋から現れたのは金髪の二人組。それぞれを霧雨魔理沙、アリス=マーガトロイドと名乗った。そうしてアナタも己の名前を告げる。互いに簡単な自己紹介を済ませると、正面に魔理沙が、隣にアリスが腰を下ろした。
アリスは、ちょっとばかし座るのを躊躇していた。
少し逡巡して、結局隣に腰を下ろし、その距離が些か近く感じるのは考え過ぎだろうか?
「なぁなぁ、○○は外来人なんだろ? 外の世界ってどんなんなんだ? 鉄の箱が走ってたり、ちっちゃい鉄の箱の中に小人を飼ってたり、でっかい鉄の箱の中で生活してるって本当なのか!?」
身を乗り出して魔理沙が興味津々に、と云った様子で聞いてくる。その口調は年頃の少女にしては独特で、積極性も相まりアナタは少しばかり気圧されてしまう。
外来人、という聞き慣れない単語。意図の解らない質問に、アナタは困惑してしまう。
「よしなさいよ魔理沙。○○さんが困っているじゃない」
そんなアナタの雰囲気を察してくれたのだろうか。アリスがやんわりと釘を差してくれる。
その事について感謝を述べると、彼女は顔を真赤にして俯いてしまった。
「……その、アリス、で言いわ」
ぼそり、と。蚊の鳴くような声でした。一瞬、その言葉の意味が解らず、きっとアナタは呆けた表情を晒していた事だろう。
「おっ! それなら私も魔理沙って呼んでくれよな! いやぁ、霧雨さんだなんて呼ばれると、背中がむず痒くなるんだぜ。見たところ、そんなに年も離れてなさそうだし。私も○○って呼ぶから、な!」
そう、魔理沙が気さくに乗っかってきた。
かと言って出会ってすぐの女性を下の名前で呼ぶことに若干の抵抗感を覚えるアナタ。しかし少女らの好意を無碍に扱うのも気が引ける。自身の矜持を捨てて、アナタは一音一音丁寧に言葉を紡いだ。
――魔理沙。アリス。
するとアリスは更に顔を赤くして押し黙ってしまった。
元気いっぱいだった魔理沙ですら「お、おう……」と一言だけ呟いて、帽子のツバで顔を隠してしまう。
その少女らの反応に何か、失礼な事をしてしまったのだろうか、と己の行いに後悔を抱く。
そうして間を置かずに、盆を持った霊夢が戻ってきた。盆の上には湯気の立ち上る急須と四つの湯呑み。それと煎餅が盛られていた。
霊夢の視線がアリスの位置を確認すると、その柳眉が大きな吊り上がりを見せた。それも一瞬のことで、霊夢は対面へ回ると「どきなさい」と一言。有無を言わせぬ迫力でで魔理沙を蹴散らした。家主の言う事に魔理沙も大人しく従い、結局
……何だろうか。不穏な気配を感じるものの、アナタは尋ねる事が出来なかった。正面に座る少女の無言の圧力に、屈してしまったのだ。
「初めましてよね。私の名前は博麗霊夢。あなたは――」
そうこう縮み上がっていると、霊夢が優しく語り掛けてきた。先程、一瞬なれど恐ろしい雰囲気を纏った少女と同一人物には見えず、一先ずは胸を撫で下ろす。
矢張り気の所為だったに違いない。何せこんなに可愛らしい娘が、斯様な恐ろしい雰囲気を発せられる筈がないか。
そう、結論付けたアナタは霊夢に向かって自己紹介をする。
「ふぅん、○○ね。よろしく。それと博麗さんだなんて、そんなに堅苦しく呼び方はしなくていいわ。これから一つ屋根の下で住むんだもの」
……霊夢の言動に、自分の耳の出来を疑う。
「いいえ、聞き間違いなんかじゃないわ。まぁ、順を追って話しましょうかね」
「ねぇ霊夢。やっぱり――」
「はぁい霊夢」
アリスが何事か口を開こうとして、別の女性の声が被さった。
突如として何も無い空間に裂け目が生まれた。ぬらりと音も立てずに切り口が広がる。開けた向こうの空間は赤黒く、無数の瞳がギョロギョロと忙しなく動くそこは、何ともなしに世界の傷痕の様だと、アナタは思った。そうして中から姿を見せたのは、それはそれは美しい妙齢の女性だった。
胸元の大きく開いた紫のワンピースに身を包み、不思議な形状の帽子を被った、美しい金髪を持つ女性。
その、現実離れした光景。そして女性の美貌にアナタの目は奪われた。
「――あら?」
視線が、絡む。
女はアナタの姿を認識すると、一度だけ首を傾げて再び空間の裂け目に身を滑らせた。
アナタは女の姿が見えなくなってしまった事に対して、妙に名残惜しさを覚えると、間を置かずに耳元へ息を吹きかけられた。
ゾクリと、背筋に冷たいものが走る。
「――初めまして」
慌てて振り返ると目と鼻の先、先程の女性の顔があった。彼女の下半身は奇妙な空間の裂け目に飲まれていて、何がおかしいのかニコニコと美しい、されど何処か信を置くのを躊躇するような笑みを浮かべている。
「私は八雲紫よ。以後お見知りおきを、外来人さん」
妖艶な見た目に反して可愛らしい、少女の様な声だった。そのギャップがまた、彼女――八雲紫の魅力を引き立てている様に思えた。
真白なシルクの手袋に包まれた指先が、アナタの頬に触れた。そのままつつーっと唇にまで這わせて、何が楽しいのだろうか。ぷにぷにと唇の感触を楽しんでいる様だった。
アナタはと言えば、あんまりな美人さんを前に固まってしまっていた。
ガツン! と、大きな音が鳴り響く。
「――ちょっと紫。ふざけてるんじゃないわよ」
霊夢さんが湯呑みを叩きつけていた。未だその中身が大きく波打っているのが、どれだけ強く叩きつけたのかを現していよう。
不穏な気配は一つだけではなかった。アナタのすぐ真横、油の切れたブリキ人形さながらそちらに首を動かせば、酷く沈んだ様子のアリスが床を見つめてブツブツと聞き取れぬ声量で何事か呟いているではないか。率直に言って、怖い。
紫はおや――? と思った。霊夢がこのように激する何て、そうそう無いからだ。
そうして霊夢とアナタの顔を交互に見やり、がしぃっとアナタの手を握った。
「れ、霊夢の事をお願いね!」
「なっ! ちょっ! 紫ぃ!?」
「あぁ! ようやく、ようやくこの子にも春が訪れたのね!」
「ちったぁ人の話を聞けぇ!」
紫は随分と感極まった様子で、その目元に涙まで浮かんでいる。
霊夢の必死の制止にも関わらず、紫の暴走は止まらない。
「はぁ……、若いのにすっかり枯れちゃってて、心配してたのだけど。霊夢にも相応の少女らしさがあったのね……!」
アナタはと言えば、にぎにぎと繋がった手から伝わる体温にドギマギするしかなかった。
これは、よくない。非常によくない。
何せアナタは健全な男子なのだ。美人な――それもいい香りのする――女性にこれほど接近されて、嬉しくない筈が無かった。もっと直接的な表現をすれば、劣情を催されてしまいそうだった。
それ故にこの状況を惜しみつつも、早々に断ち切らなければならなかった。
茹だった頭でちょっと考えて、疑問を口に出す。
――二人はどのような関係なのですか?
答えたのは霊夢だった。とても面倒臭そうに、紫を一睨みして口を開いた。
「私と紫? あー、腐れ縁かしら――」
「そうね。掻い摘んで言えば、霊夢の保護者ってところかしら?」
「……あんたみたいな保護者はお断りよ」
そう、じゃれ合う二人は言葉の遣り取りほど仲が悪い様には見えず。
苗字が違うのは、きっと複雑な家庭の事情があるのだろうんだろうと考えたアナタは、無難な台詞を選択する。
――若くて綺麗なお母さんですね。
そう口にすると、水を打った様に静まり返ってしまった。
マズイことを言ってしまったのだろうか? 不安とは裏腹に次の瞬間――。
霊夢は呆気に取られているようで、開いた口が塞がらなかった
魔理沙は火の点いたように笑い転げる。
アリスですら、笑いを堪えるのに必死なようだった。
対してもう一人の当事者である紫はと云うと。
「あ、あら……?」
困惑している様だった。
おかしい――おかしいわ。紫は自身の変調を冷静に分析する。頬はおそらく桜色に染まっているだろう。早鐘を打つ己の鼓動が、他の誰かに聞こえやしないか、意味のない心配をしてしまう。
自分自身、もうすっかり年を食った気でいたが、まだまだ案外と若いという事か?
紫の視線がアナタへと無遠慮に注がれる。容姿が優れている訳ではないが、かと言って醜い訳ではない。
ふむ――。
「霊夢。私この子のこと気に入っちゃったわ。ねぇ、この子私にくれ――?」
「ハ――? あんまり巫山戯た事抜かしてると陰陽玉を■■にぶち込むわよ?」
「じ、冗談よぉ~……。霊夢の想い人を取るわけないじゃないぃ~……」
若い身空の少女が、あんまり口にして欲しくはない言葉を放ち、霊夢は紫を睨んだ。その、視線だけでも弱小妖怪を殺せる程の殺気を孕んでいる。
「……別に、想い人じゃぁないわ」
そうは言っても説得力が無いと、魔理沙は思った。アリスも同様だろう。
ただ一人、額面通りにその意味を受け取ったのはアナタだけだった。
「そ、それじゃぁ私は退散するわね。後は若い子たちだけで楽しんで頂戴」
そう言って紫は来た時同様に空間の裂け目へ消えてしまった。何をしに来たんだろう……。
「……何しに来たのよあいつ」
アナタの心の声を霊夢が代弁する。
そうして気まずい沈黙が舞い降りて、冒頭へと戻る訳だが。
霊夢が不機嫌なのは、まぁ分かる。しかし何故アリスまで? そんな空気に、魔理沙は居心地悪そうにあーとかうーとか唸りながら、帽子のツバを弄んでいた。
それ故にアナタは清水の舞台から飛び降りる必要があったのだ。このようにして、好ましくない空気。それを打破する役目は、何時だった男なのだ。
「あー、そうね……」
霊夢はばつが悪そうに頬を掻いた。
「どこまで話したんだっけ?」
「おう。○○を霊夢の家で預かるって話をしてた所だな」
アリスの細い眉が、不快そうに歪む。
「つってもだな霊夢。まずは○○に幻想郷の事を話してやらないとダメだぜ? コイツはなーんにも分かっちゃいないんだから」
意外と、と云っては失礼だが、魔理沙がこのように細かい気配りをするタイプには見えなかった。魔理沙もまた乙女と云う事だろう。それに何より、彼女が話を纏め、進めてくれたのは非常にありがたかった。
こういう役はてっきりアリスがしそうだな、と思っていたアナタは当の彼女は、ちらと横目で盗み見る。そうして慌てて正面へ向き直った。アリスは未だ、何事かを床に呟いていた、怖い。
「あぁ、そうね。○○、あんまり驚かないでいてくれると助かるんだけど――」
そう、霊夢は前置きして教えてくれた。この世界の事、アナタの世界の事。
折角の前置きは無駄になってしまった。
こうしてアナタは幻想郷にやってきました
好感度状況
霊夢:?
紫:★
魔理沙:☆
アリス:★★★
八雲紫は近所の、仕事は出来るけど私生活はダメなお姉ちゃん的なイメージです。