順調そうなら、以前に投稿してある話にも採用します。
11A話 メイドさん再び
「◯◯さん――?」
いよいよもって手持ちの金も心許なく。
これは本格的に仕事を探さねば。
――しかしどうしたものか?
アナタは職を求め、どのように動くべきか方策を練っている時であった。
喜色に満ちた声で名前を呼ばれ、反射的に声の主へと振り返る。
そこにはほんのりと頬を朱に染めた十六夜咲夜が立っていた。
a――【紅魔館へ出向いている】
「今日は霊夢と一緒ではないのですね」
咲夜の瞳が僅かに左右を見据え、尋ねてきた。変哲の無い話題――というには彼女は随分と気を張り詰めているように見えた。
その問いに首肯を以って応える。
「……本当ですか?」
何故、そんな事を念押しするのか?
まるで嘘つき呼ばわりされた気がして、アナタは語気を強め再度否定する。
咲夜は驚きに目を丸くし、バツが悪そうに顔を背けた。
「……申し訳ありません。あの霊夢が、アナタを一人にするとは思えなくて」
一体霊夢のどこを指して「あの――」などと評しているのだろう。
そんなアナタの疑念を目聡く察したのだろう。
「女の勘は、巫女に引けを取りませんから」
咲夜の弁はアナタの疑問を払拭する事なく、一層の謎を深めていった。混乱するアナタを横目に、咲夜はクスリと笑った。
「それで、◯◯さんはお一人でどうされたのです?」
――はぐらかされている。
アナタはそう感じたが、きっと答えを教えてはくれないのだろうという奇妙な確信があったアナタは、結局咲夜の誘導に従う他なかった。
「……そうですか。お仕事を探していたのですね」
アナタの事情を聞いた咲夜は暫し逡巡する様子を見せ、「でしたら」という言葉と共に切り出してきた。
「
そのような提案を告げてきた。
自分からすれば正に渡りに船であるが、いいのだろうか?
咲夜に気を遣わせてしまっているのでは? そのようなアナタの戸惑いを、完璧で瀟洒なメイド長は見逃さなかい。五百歳児の相手を務めるには、このぐらい気は回せなければ話にならないのだ。
「私の立場をお忘れですか? 館の人事の采配は、私に一任されていますから。それに――」
アナタの不安を取り除く様に、少女は言葉を続ける。
「こちらを見て下さい。我が館も常に人手不足でして。」
咲夜が手品の如く取り出した一枚のチラシにはメイド募集中の一文。そして仲睦まじげに――睦まじげな?
メイド妖精と、目の前の少女の写真が載っている。
そのチラシをじぃっと見詰め、尚も男は返答に窮しているようで。
咲夜は平静を装っているも、その内心は神に祈りたい気持ちで一杯だった。
悪魔の従者が神を相手に祈りなどと。それほどまでに、少女は必死だったのだ。
「どう、でしょうか……?」
本当におそるおそるといった風に。咲夜は男の様子を伺う。
そうして返ってきた男の言葉は、咲夜を大いに喜ばせるのだった。
b――【出向いていない】
――十六夜さん。
反射的に彼女の名前を呼ぶと咲夜は、それはもう少女らしい笑みを浮かべ、思いもよらずアナタの脈が一つ跳ねる。
嬉しそうに駆け寄る彼女の背後に、激しく揺れる尻尾の幻覚を見た。あまりにも昨日受けた印象と異なり、アナタは戸惑いを隠せない。
「奇遇ですね。どうしたのですか、このようなところで?」
無防備なまでに近い距離。全く警戒する様子の無い態度。
こう言っては失礼かもしれないが、自分と彼女は、そこまで親しい仲ではない。その事が一因となり、アナタの戸惑いに拍車を掛けている。
だって自分と彼女は、霊夢を通して一言二言言葉を交わしただけに過ぎないのだから――。
「◯◯さん?」
アナタが反応を返さないのを不思議に思い、咲夜は小首を傾げる。
その可愛らしい仕草に、アナタは落ち着きを取り戻す。
そうとも。一体彼女のどこに――恐怖を覚える必要があるのだ。
アナタは小さく頭を振り、気持ちを切り替える。そうして己が現状を彼女に説明した。
金子が欲しいのだが、職もなければ宛もない。どうしようか途方に暮れている、と。
「そういうことでしたら!」
説明の途中であるにも関わらず、咲夜は言葉を遮り力強く主張した。手を握りながら、というおまけ付きである。
「ウチで働けば良いのです!」
ウチ、というのはどこを指した言葉だったろうか? アナタは霊夢と咲夜の遣り取りを思い返すも、当てはまる様な言葉は交わされておらず、じぃっと咲夜の姿からウチを推察する事にした。
彼女の姿は、どこからどう見ても、紛うことなきメイドである。
という事は彼女には仕える主人がいるのだろう。となればウチというのは、彼女と同じ職場を指すのだとは想像に容易い。だが――もう一度考えてみよう。彼女はメイドであり、雇われる側である筈。彼女の一存で人一人を雇う雇わないを決められる立場にあるとは思えない。仮に、彼女が自分の想像よりも上にある立場の人間だとしても、矢張り雇われの身である咲夜に対し無茶を強いてしまうのではないか?
……自分の事を思ってくれての提案なのだろう。それを断るというのは大分心苦しいものがあるが。
アナタは丁重に、且つやんわりと内容を包み咲夜へ返答する。
「で、でしたら――!」
尚も咲夜は食い下がる。
何がここまで彼女を駆り立てるのだろうか? アナタが頭に疑問符を浮かべていると、咲夜は「少々お待ちくださいっ」と言葉を残し応える間もなく、その姿を音もなく消した。
目の前にいた少女が唐突に姿を消す、という怪奇現象を前に挙動不審となって周囲を見回していると、「お待たせしましたっ」と少女は先程と寸分違わず位置に現れた。ただ、不自然なまでに肩で息をしているのが、気掛かりと言えば気掛かりであった。
「えぇ。大丈夫ですよ◯◯さん。主人の許可を取って来ましたので、何も問題ありませんよ」
今の一瞬でどうやって――そんな疑問を自問し黙していると、咲夜はニコリと告げてきた。
「他に何か邪魔なモノでも?」
彼女の些か過激な物言いに内心引いた事を悟られぬよう、アナタは引き攣った笑みを浮かべる。
咲夜の笑顔は完璧であった。その整った顔立ちも相まって一瞬見惚れる程の出来であるが、その――作り物然とした笑みの裏に確固たる意思を垣間見たのは気の所為であろうか?
――絶対ニ逃サナイ。
そんな意思を感じたのは、きっと己の意思が弱いからなのだろう。
\テレレッテッテッテー/
十六夜咲夜の好感度があがった!