出来たものを腐らせておくのも何なので、先に投稿してしまいます。
その間は8B話の空白部分は妄想で補って下さい。
9AB話 二日目の選択
「おはようございます! どうもどうも清く正しい射命丸、射命丸文です!」
彼女の挨拶は溌溂としており、朝の澄んだ空気に相まりとても爽やかなものだった。そして朝の挨拶にしては大き過ぎる声量に、頭が割れる様な痛みを覚えた。
障子を開けた先、目の前に現れた文の姿にアナタは驚きを隠せない。
――どうしているんですか?
「いえ、日を改めて訪ねさせて頂いたのですが?」
アナタの問いに文は心底不思議そうな表情を浮かべて、小首を傾げた。その愛らしい動作に「自分の方がおかしいのだろうか?」と常識を疑ってしまうが、いやいや、常識が無いのは先方である。
「何よぉ……。朝っぱらからうるさいわねぇ……」
寝ぼけ眼を擦りながら、白襦袢に身を包んだ霊夢が姿を現した。トレードマークとも言える腋の開いた巫女服も大きなリボンも付けてないので大分受ける印象が異なるが、美少女である事には何ら変わりなかった。
「あややや。おはようございます霊夢さん! ふんむ、残念です。お二人が同じ部屋から出てきてくれたらそれだけでスクープでしたのに」
「……何あんた。昨日の今日でもう来たの? って言うか時間ぐらい考えなさいよ」
「何を仰る霊夢さん、です! スクープは生モノなんです! おちおちしていたら他の記者にすっぱ抜かれてしまうこと受け合いです! 第一発見者はこの私なのに、記事にするのは他の天狗が早いなんて何という恥辱なんたる屈辱! 人の噂も七十五日と言いましょう、その間中私は天狗社会の中でずぅっとその事で笑われる羽目になるんです!」
「あ、そ。どうでもいいけど」
霊夢の機嫌は、決して良いとは言えない。巫女である霊夢の朝は早い。彼女は既に起床していたおり、叩き起こされたという訳ではないが、考えても見て欲しい。朝も早くから家の前で、鴉がカァカァと大声で喚いているのを。うん、これでは不機嫌になるのも
しかし、そこはそれ。見た目はピチピチでも中身は老獪な鴉天狗、抜かりはない。
「霊夢さん。これ、ほんのつまらないものですがよろしければ――」
文はあからさまに腰を低くして霊夢に擦り寄り、菓子折りを渡した。勿論中身は、山吹色である。
「あらっ、分かってるじゃないっ……!」
霊夢の声音が分かり易く喜色に染まった。
「それでは、少しの間○○さんをお借りしても?」
「今から朝食の準備をするから、それまでの間なら好きにしていいわ。……乱暴に扱わなければね」
「ははぁっ! それはそれはもう、下にも置かない扱いを心がけますますとも……! この射命丸、もてなしに掛けましては幻想郷一と自負しておりますので、えぇ! 私のインタビュー術は受けた方々から大変好評を博していますからね!」
文は自信満々に胸を張り、己の立派な双丘をこれでもかと誇示している。
その割には本人の意思が全く無視されて話が進行している気がするが……。
既に霊夢の興味は文に無いのか、彼女の視線は手元の菓子折りに注がれていた。霊夢はだらしなく口元を緩めながら、大事そうに菓子折りを抱えながら屋内へと戻っていった。
「さてさて○○さん覚悟はよろしいでしょうか!?」
覚悟が必要になる事をされるのだろうか。
気のいいアナタは苦笑した。博麗神社には居候の身である。家主が良いと言えば従うのも
「おやどうなさいました? 今更ながら私の美貌にお気づきになられたと? ふむふむ慧眼と、言わざるを得ませんが残念ですが人間の、えぇそれも凡人さんは私のお眼鏡には適わないのですよ失礼ながら」
己の身を掻き抱きながら、わざとらしく流し目を向けてくる文。確かに艶やかな仕草ではあるが、彼女一番の魅力である健康的な肢体とは絶妙なチグハグさを醸し出し、アナタの心の余裕は奪われずに済んだ。
――えぇと。アナタがお綺麗なのは重々承知ですが。
「あ、あやぁぁぁっ!?」
男の真っ直ぐ過ぎる賞賛に、文は変な体勢をとって固まった。シェーというヤツである、シェー。
「あ、あやあややややっ! な、何を当たり前な事を○○さん! 私が可憐で可愛くてプリチーな美少女新聞記者であるなんて天地が生まれる前から当然昭然自然過ぎる事実でありますので別に○○さんに改めて言われたって嬉しくも何とも無いんですがまぁそれはそれこれはこれ折角の好意ですので受け取って上げなくもないこともないですけど!?」
文は一息に捲し立てた。そうする事で却って冷静さを取り戻そうとしたのだ。その試みはとりあえずは成功を収めたようだ。途中、勢いに任せる余り口走った内容が変になってしまったが、必要な代償と割り切ろう。
バクバクと小刻みに脈打っていた心臓も今は落ち着き、赤みを帯びていた頬も元通りになっている筈に違いない。
そうしてもう一度深く深呼吸し、文は主導権を握るべく口を開こうとして、出来なかった。
アナタの顔を正面から見ようとすると、どうした事か目が逸れてしまうのだ。
その原因が解らず、何とも無しに文が唸っていると、見兼ねてアナタは声を掛けた。
――頼みがあるんですけど。
「は、はい! な、何ですか?」
突然――文はそう感じた――声を掛けられて背筋を伸ばす鴉天狗。人間相手になんてざまだ、脳の片隅が文に囁くがそれに耳を傾ける余裕はそんなに無かった。
アナタは文が落ち着くように、ゆっくりと丁寧に言葉を紡いだ。
――インタビューを受ける代わりに、一つお願いしたい事があるんです。
文は男の言葉を咀嚼するように呑み込み、その意味を吟味した。
男のちょっとした気遣い、その甲斐もあってか、彼女はすっかり冷静さを取り戻したようだ。
「……ふむ。ギブアンドテイクという訳ですね。……いいでしょう。わざわざ貸し借りを残しておくよりも後腐れがありませんしね、えぇ」
文はペン尻を唇に当てちょっとだけ悩む素振りを見せると、アナタの提案を了承した。この鴉天狗は切り替えも決断も早いようだ。
「それでは、何がお知りになりたいのですか? えぇ勿論私が知る範囲、記者として差し障りのない範囲であれば何でもお答えしますよ!」
そう言って文はとてもいい笑顔を作った。記者としての、外行きの笑顔である。
アナタは文がテンパっている間に、予め考えておいた質問を口にする。
――幻想郷について、もっと詳しく教えてほしい。
「ほほう? 幻想郷を知りたいという姿勢は見上げたものですが、えぇ。質問の幅が広すぎて何とお答えして良いものか、いえ記者ですから? おおよそ私の知らない事など無いと言えましょうが、そこのところどうか誤解なきよう」
文の目が、相手の真意を推し量る様に細められる。そこには明らかに格下と、相手を侮る色が見えた。そんな文の一面を気付かなかった事にして、アナタは質問の内容を狭める。
アナタは昨日の出来事を話した。曰く、霊夢に案内をされ多様な人間や妖怪と出会った。もっと多くの人妖と知り合うにはどうしたら良いか、と。
「……そういう事でしたら、えぇ」
文はアナタの幻想郷に対する認識の甘さ、警戒心の薄さに一瞬だけ眉を顰めたが、自分がする必要のない心配だと、瞬時に作り笑顔に切り替えた。
そうしてアナタが求めているだろう知識を朗々語り上げる。
初めて聞く地名。聞き慣れない人名。文の口から語られる幻想郷を、一言一句逃さぬようアナタは真剣に耳を傾けた。
そんなアナタの態度に気を良くした文は益々饒舌になり、要らぬ知識までひけらかし始めた。
恐ろしい吸血鬼の統べる紅魔館。そこには館の限られた者にしか知らされていない、住人がいるらしい。
迷いの竹林の、更に奥にあるという永遠亭。そこでは不治の病以外なら何でも治療してくれるという。
人妖平等を謳う命蓮寺。霊験あらたかな寺であるくせに、行く度に姿形を変える正体不明の存在が居ついているそうな。
「――とまぁ、こんなところでしょうか」
どこで息継ぎをしているのだろう? そんな下らない疑問が浮かんでしまうぐらいに、文の舌はよく回り口調も早かった。
語った以外にも幻想郷には目ぼしい場所はあるが、力の無い人間が近寄るには危険が多すぎる。いや、今説明した場所に危険が全く無いかと言われればそうではないが、文は自身の独断と偏見で彼には危険そうな場所を敢えて伏せる事にした。
むしろそちらを殊更に語り危険を周知させた方が良いのかとも考えたが、そこまでしてやる義理も無いと文は考えた。
「参考になったでしょうか? いえ勿論ならない筈がないのですが、確認の為というよりも形式上の礼というヤツですね、えぇ」
口々の端々に天狗特有の傲慢さが垣間見える。
しかしアナタにとっては鼻につく態度どころか子供が自慢げに胸を張っているように感じ、つい口元が緩んでしまう。
――ありがとう。
感謝の気持ちを素直に伝える。
目の前の人間の、全く無邪気な様子に文は「うっ」と小さく呻き、ちょっとだけ身体を反らせた。
「……なんなのよコイツ」
呟きは男の耳に入らぬ様に小さく、小さく。
文は何とも表現し難い、モヤモヤとした感情を覚えた。
さて。文の説明は――幾つか眉唾なものもあったが――アナタにとって大変有意義なものだった。
その中でも特に――。
A――【紅魔館に興味を抱いた】
B――【永遠亭に興味を抱いた】
C――【命蓮寺に興味を抱いた】
D――【守矢神社に興味を抱いた】
――自分の興味がそちらへ向いているのを確かに感じた。
「さて! 私は私の務めを果たしましたので今度はそちらの番ですよ! さぁさぁ!」
文がペンと手帳を取り出し気炎を吐いた。
「えぇ、まずはお名前年齢身長体重から家族友人と諸々の親しい人の構成を教えて頂きましょうか? 次に好きな食べ物嫌いな食べ物趣味嗜好と主な休日の過ごし方などを教えてください。外の世界の方ですから、えぇ、解らない事があれば都度お聞きしますのでそこのところよろしくお願いしたりしちゃいますね!」
ズイと、己が気合を示すように段々と身を寄せてくる文。
普段の彼女であれば分別を弁えてインタビューをするのだが、此度に限ってはギブアンドテイクである。更には自分の役割も既に果たしたとなれば遠慮は無かった。
これは迂闊な約束をしたかと、アナタはちょっとだけ後悔した。
結局インタビューという名の質問攻めは、霊夢が朝食を呼びに来るまで続いた。
「はぁ……。やっぱり彼、いいわぁ……」
「……紫様。食事中にスキマで別の場所を覗くなんて、行儀が悪いですよ」
ちゃぶ台の上にご飯に
既に作ってからそこそこの時間が経っており、折角用意した食事もすっかり冷めてしまった。
紫の大好きな半熟に上手く焼けたと云うのに、彼女は一向に箸を付けようとしない。彼女の関心は目の前の小さなスキマに注がれ、どこかの別の場所を眺めているようだった。
主人の口から漏れる言葉から推察するに、どうやら男を見ているようだった。
藍は嫉妬した。名前も声も、顔すらも知らない男に。
自分が丹精込めて作った朝食よりも、主人を夢中にさせる男に嫉妬した。
式神になったとはいえ藍は大妖、九尾の狐である。立派も立派な九尾が悉く逆立ち、その背後にメラメラと嫉妬の炎を滾らせているのだから、藍の姿は大変恐ろしいものに映った。常人であれば、見ただけで魂を抜かれるぐらいである。
だが、それだけの膨大な妖気を受けながらも気にする素振りも見せない紫もまた、途方も無い大妖怪なのだ。はふぅと熱っぽい吐息を零し、時折
その憂いを帯びた横顔はいっそ作り物めいた美貌を持ち、藍は己の激情も忘れて見惚れてしまった。そうしてまた、主人の「はぁ……」と悩ましげな吐息を聞いては、嫉妬の炎を再燃させた。
そんな気分を紛らわせようと、藍は食事に集中した。
ガツガツムシャムシャ!
おかずを取ろうとしてはガチガチと箸と皿がぶつかって、乱雑に口へ放り込んでは食べ滓が散らかった。全く、誰の行儀が悪いというのか。激しい感情の余り、獣としての一面が大きく出てしまっているようだ。
紫はそんな従者を見咎める事もせず、スキマの中のアナタを、ひたすらに目で追うのだった。
Aルート好感度状況
霊夢:?
紫:★★
魔理沙:☆(★)
アリス:★★★
文:☆☆
咲夜:★★★
美鈴:★
パチュリー:★(★)
Bルート好感度状況
霊夢:?
紫:★
魔理沙:☆☆
アリス:★★★(★)(★)
文:☆
咲夜:★★
慧音:★
早苗:☆
マミゾウ:☆
最終的には全ルート書くのでアンケートは無意味かなー、なんて思い始めましたまる。
一応活動報告にそれ様の場を設けますので、小さい意見とかでしたらそちらの方にご記入下さい。
ご協力のほど、よろしくお願いします。