闇鍋 in 幻想郷   作:触手の朔良

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ちょっと私生活が忙しくて中々執筆の活動に向かい合えません。
8B話にツッコミたいネタが幾つかあり、全部入れたら長くなりそうなので、取り敢えず小分けにしようかなと。
先に9話と称した話を投稿してしまった弊害がここに……!


8B話前編 人里クエスト 

「それじゃぁ、何を注文する?」

「そうね。私は紅茶と苺のショートを」

「はいはい! 私は白玉あんみつパフェを下さい!」

「ふぅん、美味しそうね。それじゃ私も同じのを――じゃなくて」

 霊夢はジロリと睨みを効かせ、怪訝そうに顔を歪めた。

「何であんたが自然に混じってるのよ?」

「え? 普通についてきたからですけど? あ、店員さん。カプチーノもお願いしますね」

「……お願いだからメニューを見て注文してよ」

 歩き通した霊夢とアナタ。人形劇を終えたアリス。そして――先程まで演説に喉を酷使していた早苗。

 それぞれ理由は違えど疲労を覚えた一行は、手近な店に飛び込んだ。飛び込んだのだが……。

 いつの間にか平然と、ついさっきまでは己が宗教の素晴らしさを問うていた巫女さんが、霊夢と険悪な雰囲気を醸していた巫女さんが、ちゃっかりと加わっていた。

 いや、彼女が背後にぴたりとくっついていたのは分かっていたのだ。だが霊夢もアリスも徹底的に彼女を無視するし、直接的な会話を交わしていないアナタが話し掛けるのも気が引けていた。

 きっと行き先が同じ方向なのだ、そうに違いない。そう思い込む事で、アナタも無理矢理にその状況を納得していた。

 そうして霊夢が「ちょっと休憩しましょうか?」と言って、この店の暖簾を潜ったのだ。酒という一文字がデカデカと書かれた店に。

 彼女――東風谷早苗と言うらしい――が同じテーブルに座り平然と注文に混じるのだから、もう無視を決め込む訳にも行くまい。

 と言うかだ、思い思い勝手を言う少女らに店員さんが困っているではないか。

「何さらっと追加してるのよ。私が聞いてるのは手段じゃなくて、理由よ理由。あ、私には熱い緑茶ね」

「いやですねぇ霊夢さん。私と霊夢さんの仲じゃないですか」

「えぇ、商売敵という水と油の関係よね」

「昨日の敵は今日の友とも言いますよ?」

 巫女同士の舌戦はヒートアップする一方だった。というか、霊夢だけが一方的にムキになっている構図であった。短い付き合いだが、霊夢がこうまで感情を露わにするのが珍しく、アナタは驚きに目を丸くした。

 二人の言い合いは終わりが見えず、いよいよ店員は目の端に涙を浮かべていた。

 気の毒に思ったアナタはメニューを開き、出来る限り少女らの要望を汲み取りつつ料理を注文した。

 店員さんは明らかに助かった、という安堵の表情を浮かべ、一秒でも早く離れたかったのだろう。早足でカウンターの奥へ姿を消した。

 ……その店員の格好が周囲から浮いていたので、矢鱈アナタの目に焼き付いていた。

 赤い髪に赤いマント。幻想郷では珍しい洋装。ちょっと丈が短すぎやしないか、と心配になるミニスカートからすらりと伸びる生足が魅力的な女性だった。

 アナタがそんな事を考えていると、ズボンの裾をくいくいと引かれる。

 ――何だろうか?

 隣に座る霊夢は未だ納得がいかないのか、早苗とぎゃーぎゃー言い合っている。ふと視線を落とす。裾を引っ張っていた物の正体とは小さな、可愛らしい人形だった。

「シャンハーイ」

 人形が微かな鳴き声(?)を上げる。

 釣られてアナタは、人形を操っている向かいの少女に目を向ける。

 アリスは一体何が不満なのか、ぶすっとした様子で上目遣いにこちらを見つめていた。

 何とも居心地の悪さを覚えたアナタは居住まいを正し、周囲に目をやった。昼時をちょっと過ぎたぐらいだと言うのに、居酒屋は思いの外繁盛していた。

 ガハハと笑いながら酒を煽る、小麦色の筋肉を晒す男衆もいれば、チビリチビリとカウンターの端でひとり飲みを嗜んでいる女性もいる。中には明らかに未成年そうな姿の少女もいるが、アナタはここが幻想郷であること、記憶の中の常識が通用しない世界であることを思い出した。

「それはそうと――」

 巫女の口論に変化が訪れる。

 何となく、会話をする機会を逸したアナタは、二人の巫女の他愛のない争い争論を呆けながら耳を傾けていた。

 そう、発した早苗の口調は明らかに今迄のものと異なり、興味の惹かれたアナタは更に意識を耳へと集中した。

「こちらの男性はどちら様なんです?」

 突如として向いた話の矛先。アナタは即座に反応出来なかった。

 一拍置いて言葉の意味を理解したところで口を開こうとしたものの、間髪入れずに霊夢が答えた。

「別に。ウチの居候よ」

 その答えは簡潔にして明瞭であったが、過不足のない説明であったかと言われればノーである。

 霊夢の説明に納得いっていないのか、早苗は尚も話し掛けてきた。

「外の世界の方ですよね?」

 この子も大概変わった子のようだ。全く自分のペースを崩さず、「ちょっと」という霊夢の声を完全に無視し、何処か期待を秘めた目を向けられる。

 アナタは首肯した。緑髪の少女は「やっぱり!」と喜色満面に立ち上がった。

「そうじゃないかなって思ってたんです!」

 早苗がどうしてここまで喜ぶのか解らず、アナタは曖昧に頷いた。

「あ、ごめんなさい。私ったら、挨拶もしないで失礼しましたっ」

 早苗は一つ咳払いをし、凛とした透き通る声で自己紹介をした。

「私、現人神の東風谷早苗と申します。守矢神社で風祝をさせて頂いています」

 ペコリと、早苗は頭を下げる。その自然な動作に釣られてアナタも軽く会釈をした。

 礼儀正しい少女だと、アナタは思った。だからこそ霊夢との遣り取りで見せた彼女の天然さから、「変わった娘さんだなぁ」という印象が拭えない。一方で、幻想郷で出会った人物の中では、比較的価値観が近いと感じたアナタは、ある閃きが脳裏に浮かんだ。

 ――東風谷さんも外の世界の出身なんですか?

 アナタの思いつきも中々捨てたものじゃないようだ。早苗は一層喜びを露わにした。

「はいっ、そうなんですよ! 当たり前ですけど、幻想郷(こっち)じゃ同郷の人と会うなんて全然なくて。ついはしゃいでしまいましたっ。ごめんなさい」

 恥ずかしそうに微笑む早苗の姿は、超然とした人間の多い幻想郷に置いて、年相応の少女だった。そんな彼女にアナタは望郷の念を抱いた。

 そうしてアナタと早苗は盛り上がる。二人だけで、二人にしか通じぬ、外の話題で。

 当然面白く無いのは霊夢とアリスである。時折会話に混じろうと試みるも、根本的な問題として外の世界の知識が圧倒的に足りない。結局は時々、短い相槌を打つ事しか出来なかった。

「はいはい。お待たせしました~」

 先程の赤髪の店員が、少々気怠げな声を上げて注文した料理を持ってきたところで話が中断される。

 四人の視線は自然と店員の、トレーの上にある品々に吸い寄せられる。

 そんな時である。アナタは脇腹に鋭い痛みを感じた。

 反射的に振り向くと、隣の霊夢が随分と憮然とした表情を向けてくるではないか。とんと心当たりの無いアナタは批判混じりの視線を向けるも、少女の眉間の皺は更に深く刻まれ、もう一度脇腹を抓られた。

 短い悲鳴を上げるアナタ。

「どうしたんですか?」

 斜向いの早苗が不思議そうに訪ねてくる。

 見ればアリスは既に料理へと手を付けている。彼女の希望した注文の品では無いというのに、文句の一つも言わず、ぜんざいの白玉を無言で口に運んでいる。その僅かに吊り上がった柳眉を見て、アナタは察する。アリスは自分の状況を知って無視をしているのだと。

 尚も早苗はきょとんとしている。

 アナタは額に脂汗の珠を浮かべながら、なんでもないよ、と苦笑いを作った。

 




好感度状況

霊夢:?
紫:★
魔理沙:☆☆
アリス:★★★(★)
文:☆
咲夜:★★
慧音:★
早苗:☆

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