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「――こうして二人は末永く幸せに過ごしました。めでたしめでたし」
その言葉を最後に人形劇の幕を閉じると、観客から一斉に拍手が上がった。
完全オリジナルのお話は初めてだったので、見せるまでは不安で仕方なかったが、この反応を見る限り上々のようだ。
アリスは嬉しくなった。口元は綻び、極々自然な笑みを浮かべることが出来た。そんな七色の人形遣いの姿は、男性ばかりか女性をも見惚れさせる魅力があった。
アリスは、最後のシーンを演じてくれた二体の人形ともども礼をする。
するともう一度、わぁっと歓声が上がり、アリスの足元に沢山のおひねりが投げられた。
がやがやと思い思いの感想を口にしながら、人々が去ってゆく。面白かった。また見に来よう。それを耳にする度、アリスは胸に少しの恥ずかしさと嬉しさが込み上げてきた。
大分人もまばらになり、さて片付けようかしら、といったところでアリスは声を掛けられた。よく聞き知った、知人の声だ。
「何やってるのよ」
「れ、霊夢――と○○!?」
いつまで経っても帰る気配がない、どころかアリスに近寄る人影があった。霊夢と○○である。
「い、いつから見てたの?」
「そうねぇ。優しい魔女が、傷だらけの青年を助けたってところだったかしら」
「最初っからじゃない!」
あーもー。と唸りながらアリスは真っ赤になった頭を抱え蹲ってしまう。
その背中からはたっぷりと負のオーラが放たれており、何と励ませば良いのか、アナタは声を掛けあぐねてしまう。
神経が図太いと言うか何というか、霊夢は特にアリスを気遣う様子も見せず、一体の人形を手に取った。
「それにしても、よく出来てるわねぇ」
「あっ! ち、ちょっと!」
霊夢は、アリスが最後まで操っていた二体の人形の、内一体の男性型を手に取った。腕を、脚を、ぴこぴこと動かしている。その外見、誰をモデルにしているかなんて――霊夢はチラとアナタに視線を向けてきた。
「勝手に触らないでよ!」
霊夢の掌の中で弄ばれる人形を、アリスはひったくる様に取り返す。
これには霊夢とて、カチンと来たようだ。
「それにしても、可哀想ね。妄想を形にして喜ぶしか出来ないんだから」
「……なんですって」
巫女と人形遣いを中心に、不穏な空気が立ち込める。
「はぁ……。これだから見識の狭い人は嫌ね。この世のフィクションを楽しむゆとりも無いなんて」
「ちょっと、勝手に主語を大きくしないで頂戴。そういうあんたこそ、言い返せないからってレッテルを貼るんじゃないの」
そうして収まるどころか加速度的に悪化の一途を辿ってゆく。
二人の遣り取りを眺めていた僅かなギャラリーも、とばっちりはご免だとそそくさと離脱していった。
しかしアナタは逃げる訳にもいかない。少女らが発する、あまりよろしくない感情を正面から受け止めつつ、何とか場を治めようとアナタは――。
――【霊夢を諌める】
――【アリスに矛を収めて貰う】
――【霊夢を諌める】 アリス好感度+1
「何よ」
アナタは霊夢に、言い過ぎだと注意した。
「○○……」
アリスが胸の前で手を組み感激した視線を向けてくるが、今は置いておこう。
対照的に霊夢は、あまり表情に出してはいないが、明らかに気を悪くしている。
「ふぅん。こいつの味方するんだ」
霊夢の物言いはつっけんどんで、さしものアナタも気分を害した。
だが同時に拗ねた子供のようで、目の前の少女がまだ年端もゆかぬ少女だという事をアナタは思い出す。
アナタ自身、少々冷静さを失っていたのかもしれない。
アナタは一つ一つ丁寧に、自分の考えを説明した。
どちらの敵だ味方だという訳ではない。人のものを勝手に触られたら誰だっていい気はしないだろう。それが大切な物なら尚更である、と。
そうしてアナタは「アリスも言い過ぎたと反省している」と、ワンクッションを入れる。
ここで自分に話が振られるなんて、思ってもみなかったアリスはうっと小さく呻き声を上げた。しかしアナタの目を見て、その意図を解したのだろう。ちょっとだけ逡巡する様子を見せて、一つだけ嘆息した。
「そうね。私もカッなってやり過ぎたわ」
そうして二人は霊夢に注視する。
さて。こうまで言われて、一人駄々をこねていたら正真正銘の子供である。
外堀を埋められた、と霊夢は小さく息を吐いた。そして、そっぽを向いてぶっきらぼうながらにも言い放つ。
「……悪かったわよ」
本心からのものでは、ないのかもしれない。
だがこの場を収めるには十分な謝罪であった。
二人の喧嘩が本格的なものに発展しなかったのは、アナタの功績と言うよりも、ひとえに二人がアナタの想像以上にずっと大人だった事が大きな要因であろう。
兎にも角にも、人里の一角で、突如として激しい弾幕ごっこ開かれるという事態は避けられたのだ。
この平穏を有難く思おうではないか。例え、僅かの間の仮初に過ぎぬとしても。
――【※】
――【アリスに矛を収めて貰う】
「で、でも霊夢が!」
そこを何とか、とアナタはアリスを拝み倒す。何とも情けない姿だ。
だが、プライドを捨てる程度で場が収まるのなら安いものだ。何故霊夢ではなくアリスなのか、と云うのもどちらかと言えば大人なのはアリスだと思ったからだ。
アリスの口がもごもごと蠢く。きっと色々と言いたい事があるのだろう。彼女は目をぎゅっと瞑り眉根に皺を作り、うんうんと唸る。
そうして目一杯、諦めたように盛大な溜め息を吐いた。
「はぁ……。分かったわよ……」
アリスには本当に悪いことをしたと思っている。
アナタはもう一度アリスに謝罪を告げる。しかしアリスは「もういいわ」と、口を閉ざしてしまった。
霊夢に目を向けると、彼女も彼女で不満げな瞳を向けてくる。
とりあえずは、場を収めることには成功したに違いない。
しかしアナタの選択は正しかったのだろうか。
三人が三人、胸の内にシコリが残る様な形で、いざこざは収束したのだった。
――【※】
――【※】
「それで。二人揃ってどうしたのよ。私の人形劇を見に来た――ってわけじゃないんでしょ?」
アリスはちらりと、アナタの様子を伺った。
何故霊夢ではなく自分なのか、アナタは首を捻る。
そんなアリスの視線を遮るように、霊夢は一歩前に出た。
「別に。○○に里を案内してたのよ」
その通りである。これから幻想郷で生活するというのだ。店の場所、里の地理。覚えなければならない事は尽きない。
「どうして私も誘ってくれないのよっ」
「……どうしてあんたを誘わなきゃならないのよ」
アリスは不満を口にする。対して霊夢の反論は尤も過ぎる。
それ故にアリスは二の矢が継げない。
「だ、だって……!」
言葉に詰まるアリス。
まただ。ちらりちらりと、恐る恐るといった様子でアリスはアナタの反応を伺ってくる。
その頬は赤く、何かを訴えているようだった。
霊夢が小さく舌打ちをする。
「……こんな所で油を売ってる暇なんてなかったわね」
行きましょ○○、と霊夢はアナタが口を開くより早く、腕を取りズンズンと進み始めてしまった。
ついさっきも似たような事があったなぁ、とアナタの脳裏に浮かぶのは先刻のメイド少女。
しかし、先程と違う点が一点。
「ま、待って――!」
数歩踏み出した所で、アリスが呼び止めてきた。
霊夢がぐいぐいと引っ張ってくるが、無視をする訳にもいかない。アナタは足を止め振り返る。
そこにはやけに真剣な表情のアリスがいた。口を開こうとしては閉じ、それを何度か繰り返し、彼女は覚悟を決めたようだ。
「わ、私も一緒に行くわ!」
アリスを加えた一行は、当初の目的通り一路鈴奈庵を目指した。
道々の会話はめっきりと減り、それもこれも二人の少女が互いに牽制し合っているからだ。
張り詰めた空気に疲労が募るアナタは、どうにかして仲を取り成そうと周囲に視線を這わせる。
ふと、その視界に人だかりが目に入った。アナタはこれ幸いと話題を振り、少女らを誘導した。
人垣を掻き分けながら中央を目指す。そうしてやっとこさ最前列にまでやってきて、その中央にいたのは一人の少女だった。その姿を確認した途端、霊夢の表情が嫌そうに曇る。
「奇跡! それは神の御業!」
美しい緑髪を備えた巫女服の少女が、
何だろうか? 少女の堂々たる振る舞いにアナタの興味がそそられる。
しかし霊夢は声を出す事すら警戒して、ひたすら無言でアナタの腕を引っ張っていた。その瞳は、何かを必死で訴えている。
アナタは霊夢と彼女の間に何かしらの関係がある事を察する。緑の巫女の正体も気に掛かるが、ここは霊夢の気持ちを優先してこの場を離れようそうしよう。
しかしアナタの決断は少しばかし遅かった。
ビシィと、少女の大幣がこちらの――正確に言えば霊夢の――鼻先へと突き付けられる。
「そう! 守矢の奇跡であれば、男っ気の無い博麗の巫女にもご覧の通り!」
聴衆の視線が大幣の先へ集まり、一斉にどよめきが奔った。
――おぉ、本当だ。
――あの妖怪巫女に、信じられん。
――ありがたや。ありがたや。
思い思いに勝手なことを云う聴衆。こちらを拝むおじいさんまでいるのだから、訳が解らない。
しかし彼女のパフォーマンスは成功を博したようで、聴衆のボルテージは鰻上りであった。
流石は守矢の巫女だ、と口々に少女を褒めそやす。その少女は正に鼻高々といった様子で胸を張っている。
出汁に使われた霊夢としては、当然面白くない。そうして○○の隣にいるのに、ちっとも自分の話題が上がらないアリスも面白くなかった。
「あのねぇ……。私が男の人と歩いているだけで奇跡ですって? あんたの神様ってのも随分と安っぽいのね」
右の頬をぶたれたら夢想封印をぶちかます事で有名な方の巫女は、努めて平静を装いもう一人の巫女へと向き直る。
それは全く、過程よりも結果を重んじる霊夢らしい行動と言えよう。だが今この場では、非常に良くない。
――早苗様に喧嘩を売るとは。
――おぉ。やはり博麗の巫女は恐ろしいのう。
――ありがたや。ありがたや。
妖怪を退治する、という事であればこれ程心強い味方はいないだろう。一方で霊夢は、他人に無頓着過ぎる。そして常人には一種異常に映る程、超然としている。それが一層、里人の霊夢への無理解、引いては畏れに繋がっていた。
そして何より、この場の聴衆の心は緑の巫女――早苗と云うらしい――の演説によって、とても中道と呼べる状態ではない。
怯えと恐怖の混じった視線が霊夢に注がれる。それすら霊夢は物ともしないのだから、彼らの感情は一層煽られてしまう。
このままでは、アリスの時の焼き直しである。いやさ、周囲の状況を鑑みればより悪い未来しか見えない。
故にアナタは――。
「ちょ、ちょっと○○!?」
「きゃあっ!?」
無言で霊夢とアリスの手を取り、その場を離れた。
「あ、こらっ! 待ちなさい――っ!」
遠くから早苗の声が響く。
「○○っ!」
霊夢の不満に塗れた抗議が聞こえるが、それすらも無視する。絶対に離さない、という意思を篭めて少女らの手を握り、人垣が目に入らなくなるまで足を進める。
そんなアナタの決意を感じたのだろう。霊夢は呆れたように息を吐いた。
「馬鹿ね。そんなに強く握ったら、痛いじゃない」
そう云う割には口元は綻び、霊夢はきゅっと握り返してきた。
そうして自分の行いに自信を持ったアナタは、ようやく霊夢の顔を見ることが出来た。胸の高さ程もない少女は優しげに微笑んでいた。
釣られてアナタも微笑んだ。
アリスは、と言えば。
「○○の手、○○の手――!」
耳まで赤くした顔を、ずぅっと地面へ向けて、ひたすらに繰り返し呟いていた。
その声音が小さかった事に、彼女は救われる。
いやだって、それが彼の耳にでも入っていたら、ドン引かれる事間違いなかったのだから。
好感度状況
霊夢:?
紫:★
魔理沙:☆☆
アリス:★★★(★)
文:☆
咲夜:★★
慧音:★
早苗:
早苗をぶっこんでみました。
unnownさんリクエストありがとうございます!
はてさて、彼女はどう絡んでいくんでせう?(考えなし