規格外
「成程。それは興味深い話だ。」
結婚式の数日後、ライは支部長室でサカキと話していた。
「ゴットイーターの内に宿るアラガミに自我が芽生える。普通ならありえないと一蹴されるだろうが僕たちは“シオ”という存在でそれに似た現象を知っている。故に君のその話はただの笑い話とは断定できない。」
「リンドウ君の件も君の話だとリンドウ君のアラガミに導かれたとも言える。実に興味深い。これも君の持つ感応能力のおかげなのかもしれないね。」
「それで次は君の中のアラガミが“トウキョウ”に行けと言う。勿論何か企みがあるのかもしれないが君は行きたいのだろ?」
「はい。」
「そうか。うん。構わないよ。今すぐには無理だが準備が整い次第、君とリンドウ君、サクヤ君にはトウキョウに行ってもらう。」
「ありがとうございます。」
「まぁいづれは行かなければならない場所なんだけどね。」
「と言いますと?」
「今は君たちゴットイーターがアラガミと戦っているがこれは我々人類の“生存圏”の確保及び拡大を目的としている。」
「生存圏の確保及び拡大。即ち。」
「人類の復興」
「その通り。まぁこれは極東支部だけではなくフェンリル本部含めて行われるべき大義だ。」
「だが安全地帯の確保に始まり食糧問題、治安維持その他諸々含めるとこれは段階的に進めなければならない。それにこれらに必要な技術確立もね。」
「やることがいっぱいあると。」
「ああ。今はリンドウ君とサクヤ君達しかいないがいづれは他のゴットイーター達にも探索に出てもらうことになるだろう。」
「成程。確かに首都は確実に押さえとくべきですね。特にトウキョウには政庁を含め重要なパイプラインが多い。損傷はあるでしょうが直すことができれば今後の重要な拠点になる。」
「……君、首都に詳しいね?記憶が戻ったのかい?」
「知識としては知っているという感じですかね。」
「記憶はないけど知識として知っている状態ということか。うん。君をトウキョウに行ってもらうことは重要なことのようだ。」
サカキはそう言って笑みを浮かべる。だがすぐに真剣の顔に戻り言った。
「だけど気をつけてほしい。」
「博士?」
「トウキョウにはおそらく君の記憶の残滓があるだろう。その残滓は少なからず君の記憶を刺激する。その刺激が君の記憶を呼び起こすかもしれない。」
「だがそれは君の脳に強いショックを与えているようなものだ。それにより君は“君‘でなくなるかもしれない。」
「……どういうことですか。」
「人格の上書き。いや、過去の君に戻ると言うべきか。君の記憶が戻る時、今までの…ゴットイーターとなった君の記憶が失われる可能性がある。それは君にとっては自分を取り戻すことになるが我々にとっては完全な別人となる。」
「だからこれだけは覚えていてくれ。君はゴットイーターの皇ライということ。そして君が帰るべき場所はここだということを。」
「……分かりました。」
「え?リーダー、アナグラから離れるんですか?」
「うん。少しの間リンドウさん達と一緒に行動することになる。」
「えーじゃあ、しばらくは第一部隊としての活動はなくなるってこと?」
サカキとの対話の後、ライはアリサとコウタと共に討伐任務に出ていた。
「ソーマもいるし活動がなくなることはないと思うけど。」
「そのソーマが最近調べ物で任務に出てくれないんですけどね。」
「たまに単独で出てるみたいだけど、言ってくれたら手伝うのに。」
「自分で解決できるなら自分でする。ソーマはそういう奴だから。」
「あ…居ました。ハンニバルです。」
「うへぇ。本当にいたよ。」
「リンドウさんに比べたら大分マシそうだな。」
討伐対象であるハンニバルを見つけ嫌な顔をするアリサとコウタに対して呑気にそんなことを言うライ。
「マシそうって…」
「やっぱリーダーって規格外だな。」
「2人もあのハンニバルを相手すればそう言う感じになるよ。アレに比べたら動きが遅いし。」
「……やっぱリーダーの感覚はわからね〜」
「今はハンニバル討伐に集中しましょう。」
「了解。」
無駄口を止めハンニバル討伐を始める第一部隊。不死のアラガミと称されるハンニバルだがライの的確な指示の下、苦戦することなく討伐を完了した。
ハンニバルの討伐に苦戦しないのはやはりライがリンドウというハンニバルと戦った経験があったからだろう。
ライの強みは一度の戦闘で多くの経験値を得ることができることだ。それを独自に分析して次の戦闘に活かす。そうやってライは自らを強化してきた。
では記憶が戻った場合、ライはどのくらい強くなるだろうか?
記憶とはこれまで蓄積してきた経験値だと捉えることもできる。
蓄積した経験値が多ければ多いほどライは強く成長する。
それを短時間且つ短期間で行うライは言うように規格外な存在と言えるだろう。