神喰らう無色の反逆者   作:COLD

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帰還と邂逅

「っ……」

 

呻き声を上げるとリンドウは目を覚ました。

 

「ここは…」

 

見慣れた天井、若干鼻を刺激する消毒液の匂い。ここがアナグラの医務室であることをリンドウが気づくのに時間はかからなかった。

 

「……。いや、戻ってこれたのか…いや、戻ってきたんだな。」

 

二度と戻れると思っていなかった場所に自分がいるという夢のような現実。だが自身の“腕”を見てリンドウはこれが現実だと理解した。

 

「浸食は止まったとはいえ、流石に戻ることはできないか。」

 

リンドウの片腕はアラガミ化していた。浸食は止まったものの元の腕に戻ることは今の技術では不可能だろう。

 

「リンドウさん。入りますよ。」

 

ふと医療班の人の声が聞こえ、閉まっていたカーテンが開く。

 

「よう。おはよう。」

 

「……リンドウ…さん?」

 

呑気に挨拶をしたリンドウだがこの後、極東支部所属者全員に揉みくちゃにされることになる。まぁ2日も寝てたのだから仕方ないが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、リンドウくん。久しぶりだね。またこうして顔を合わせることになるとは思いもしなかったよ。」

 

「それはこっちも同じですよ。サカキ博士。いや、今は支部長代理でしたか。」

 

一応検査を受け異常なしと太鼓判を押されたリンドウは医務室を出て支部長室でサカキと話していた。

 

「そうだね。君がいなくなってからいろいろあったから。君はさしづめ浦島太郎状態なんじゃないか?」

 

「そうですね。見ない新人も増えてるし前支部長が死んでるしで本当に俺の知るアナグラかと思いますよ。」

 

「だろうね。結局変化というものはどこでも起きているものなのだろう。」

 

「うん。顔を見て思ったけど元気そのものだね。その腕は今の技術では戻すには不可能だろうが。」

 

「構いませんよ。それに戻る技術があっても戻すつもりはありませんし。これは俺にとっての戒めですから。」

 

そう言いながらアラガミ化した片腕を掴むリンドウ。

 

「そうか。でもその腕を覆う籠手みたいなものは作ろう。流石にその腕を晒すのは怖がられるだろうし。」

 

「それはお願いします。」

 

「さて、あとは彼が起きるのを待つしかないか。」

 

「今はゆっくり寝かせてやってください。アイツらから聞きましたがいろいろと抱えていたみたいですから。」

 

リンドウはこの通り目覚めたがもう1人未だに眠る続けている存在がいた。

 

「君の話を聞く限り大活躍だったようだねリーダーくん。まぁ彼も身体異常はなかったから時が経てば目覚めると思うけど。」

 

「ええ。奴のおかげで俺は今ここにいる。とりあえずアイツが起きるまでは俺が奴の代わりをします。あと一つ相談が…」

 

「なんだい?」

 

「第一部隊の隊長職についてですが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンドウさんは起きたのにリーダーはまだ目を覚ましませんね。」

 

「仕方ないよ。リンドウさんも言ってたけどかなり無茶をしたみたいだし。」

 

「命に別状はない。健康状態も良好。そこまで心配する必要はない。時が経てば勝手に起きるだろ。」

 

医務室にはアリサ、コウタ、ソーマが未だに眠り続けるライを見守っていた。

 

「そういう割には心配してるんじゃないの?」

 

「コウタ。あんまりイジメちゃダメですよ。ソーマはえっと…ツンデレ?なんですから。」

 

「アホか。」

 

3人とも心配はしている。でも安心もしている。ライは必ず目覚める。そう信じられるからこそ軽口を叩き合える雰囲気になっているのだろう。

 

「……少し悔しいです。」

 

「アリサ?」

 

「私の感応能力じゃリーダーの意識を呼び起こすことができない。私もリーダーと同じ新型神機の使い手で感応能力も高い筈なのに。リーダーには…ライさんにはできて私にはできない。勿論違いはあるのは理解しているけど…やっぱり悔しい。」

 

アリサはライの手を握っていた。それは以前ライが深い眠りについたアリサの手を取ったとき感応現象が起きたおかげでアリサは意識を取り戻した。

 

だが前と逆の立場になって同じことをしても今回は何も起こらなかった。

 

そもそも感応能力とは何なのか。何故ライには感応現象が起こせてアリサには起こせないのか。感応能力はまだ謎が多いのかもしれない。

 

「うーん。感応能力とかは俺には分かんないけどつまりアリサはリーダーが出来ることが自分にはできないことが悔しいってこと?」

 

「まぁそんなところです。努力すればできるようになるものならともかく感応能力を上げることはどう努力すればいいか分からないというか…」

 

「数をこなすしかねぇんじゃねぇか。」

 

「ソーマ?」

 

「俺はアラガミの気配を察知できる。それがお前のいう感応能力というのなら俺もこの能力を使いこなせていない。使いこなせていれば『死神』とかいう異名もつけられてねぇだろうしな。」

 

「そもそも感応現象とやらも引き起こせたのはリーダーだけなんだろ?他の新型も引き起こせないならむしろお前は正常でリーダーの方が異常だ。」

 

「えっと…慰めようとしてるんですか?」

 

「勘違いするな。仮にお前が感応現象を起こしたとしてリンドウが生きていると知った時、お前はどういう行動をとった?」

 

「それは…」

 

そこでアリサは考える。

 

ライはリンドウが生きてると知った時、最初に話したのはサカキとツバキの2人だった。対してアリサが最初に話すのは誰だったか。そしてどんな行動をとっていたか。

 

「分かりません。でもリーダーのように上手く立ち回ることは出来なかったと思います。」

 

「だろうな。大方混乱を大きくするだけだっただろう。」

 

「……悔しいけど言い返せない。」

 

「なんかリーダーってかなり大人びてるよね。常に冷静で指示も的確。少し抜けてる所もあるけど頭もいいし戦闘能力も高い完璧人間だ。」

 

「確かに。リーダーはなんというか絵に描いたというか理想の人間というか。神機使いになる前は何をしていた人なのでしょう。」

 

「それはコイツ自身が1番知りたいことだろうな。」

 

「え?」

 

「どういうことですか?」

 

「……ああ。お前らは知らされてないのか。いや、知らないのか。」

 

リーダー(コイツ)には過去の記憶がない。記憶喪失なんだ。」

 

極東支部では公然の秘密とされているライの記憶喪失。だがコウタとアリサは衝撃のあまりしばらく声が出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ライは廃墟にいた。

 

廃墟と言っても城のような場所でライの前にはボロボロだが王の玉座らしきものが鎮座している。

 

「ここは…」

 

「ここはお前の深層だ。」

 

ライの小さな呟きにどこからともなく返事が返ってきた。

 

ライは玉座を見据える。すると沢山の白い粒子が現れ密集して形を成していく。

 

「ここはお前の深層。つまり俺は“ライ(お前)だ。」

 

その言葉と共に光は消え声の主が姿を現した。

 

そこには“ライ”がいた。

 

全身が真っ白で服も真っ白。ただ違うのは右目は“真紅”に染まり、その瞳には“鳥を思わせる紋様”が浮かんでいる。

 

左目は金色に染まっている。その目は“アラガミ”の瞳に見えた。

 

全身真っ白で肌や衣服。真紅と黄金のオッドアイ。これだけでも気持ち悪いのに更には狂気的な笑みを浮かべる姿に更に不気味さが増す。

 

「君は…」

 

「言いたいことは分かる。その通りだ。言っただろ。俺はお前だと。お前の考えていること、言おうとしていることは分かるんだよ。」

 

「だが一応はじめましてだ。俺は“お前の中のアラガミ”。リンドウとかいう奴からしたらレンのような存在だ。よろしくな。“宿主様”」

 

 

 


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