「まったくもう!!リーダーはなんでも抱え込んで!!」
「だよなー、つってもリーダーの考えなんて俺にはさっぱり分からないし今までも難しいことはリーダーに任せっきりだったからな。」
アナグラからエイジスに向かう第1部隊。そんな中、アリサは怒り心頭だった。
コウタもアリサの怒りは当然と思っているが今までライに頼りきりだったからかアリサほどの怒りは湧かないようだ。
「……アイツだけだったんだよ。」
「え?」
「ソーマ?」
「アイツだけだ。リンドウがアラガミ化していたときの覚悟を決めていたのは。可能性は捜索が再開された時からあった。アイツ以外誰もリンドウがアラガミ化してないという根拠のない自信を持っていた。」
「……そうね。それはただの願望でしかないのに…私達はリンドウがアラガミ化してないと確信していた。きっとその雰囲気がリーダーを1人で行かせることになったのよ。」
ソーマの言うことに同意したのはサクヤだった。同時にサクヤは昨日のライの問いに答えられなかったことを悔いていた。
“リンドウがアラガミ化していたら殺せるか?”
その問いにサクヤは黙った。それは思考の放棄とも言えた。
そしてライが1人で片をつけると決心した瞬間だろう。
「今は急ごうよ。それでリーダーに会ったら言いたいこと言えばいいし。」
「……そうですね。」
話をしてるうちにエイジスの入り口に到着した。
「リーダー!!」
アリサがエイジスにいるはずのライを探す。だが、すぐに見つかった。
そこには1人の銀髪の人間と一体の地に這いつくばった獣。
その獣に銀髪の人間が振り上げた神機を振り下ろそうとした瞬間だった。
数刻前
「アラガミといってもまだ“堕ちきってない”半端物だよ。お前。」
ハンニバルに言葉をかけながらライは神機を振るう。
振るわれた神機は的確にハンニバルの身体を傷つけ確実に追い詰めていく。
ハンニバルも抵抗はするも今までの動きがまったく違うライに翻弄された。
「まぁ半端物は俺も一緒なんだがな…」
呆れるようにそう呟くライはハンニバルの頭部に神機を振り下ろし地に叩きつけた。
「すまん。やりすぎた。久しぶりだから加減が難しいな。」
「ともあれ、アンタもいい加減楽になりたいだろ。今楽にしてやる。」
再び神機を振り上げたその時だった。
「リーダー!!」
「……時間切れか。」
アリサの声が聞こえライは小さく呟いた。
同時にライは片膝をついた。
「あれ…いつの間に…」
目の前には地に伏せるハンニバル。腹部を貫かれ意識を失ったことを朧げに覚えているライは今の状況に困惑していた。
「倒した…のか?」
地に倒れたハンニバルを見てコウタは呟く。だが相手は“不死”のアラガミ。
当然ながらその不死性を発揮して立ち上がった。
……そしてハンニバルが立ち上がった際、そこに“彼”はいた。
ハンニバルの胸部に磔にされたように一体化した男。
……雨宮リンドウがいた。
「……リン…ドウ……?」
「リンドウさん!!目を覚まして!!」
サクヤの呆然とした声とアリサの悲痛な叫びが響く。
それに呼応したかのようにリンドウは呻いた。
「リンドウ…リンドウなのね…」
「今ですよ。」
「っ…!レン。」
不意にいつのまにかライの隣にレンがいた。
……手には何故かリンドウの神機を持っていたが、
「これを逃すともう倒せないかもしれない。」
「さぁ、この剣をリンドウに突き刺してください。」
そう言ってレンはライにリンドウの神機を渡す。
ライも神機に手を伸ばすが直前で手が止まる。
「まだ躊躇してるのですか?貴方は覚悟を決めたのではないのですか?」
「俺のことは…放っておけ…」
ライがレンと話している中、意識を取り戻したリンドウが第1部隊を諭す。
「今すぐ…立ち去れ…」
「嫌よ…もう…置いていくのも…置いていかれるのも…嫌よ…リンドウ…」
「リンドウさん…力尽くでも貴方を連れ戻します…それが私にできる贖罪だから…」
サクヤとアリサが思いの丈をぶつける。だがリンドウも覚悟を決めていた。
「俺は…覚悟はできている。…自分のケツは…自分で拭くさ…」
「ここから…立ち去れ…!!これは…命令だ!!」
「早く!!この剣でリンドウを刺すんだ!!彼を血生臭い連鎖から解放するために…!!」
ハンニバルの再生が終わりそうなのかレンの語気が強くなる。
「……巫山戯るな。」
「何が命令だ。何が覚悟ができているだ…」
ライは上記の言葉を呟き、自然な動作でリンドウの神機を掴んだ。
「死ぬな。死にそうになったら逃げろ。隠れろ。隙があったらブッ殺せ。」
「自分で言ったんだろ。何を諦めようとしてる…」
新人としてリンドウに教わったことをライは覚えている。その言葉をライは体現してきた。
しかし今のリンドウはその教えを放棄して生から逃避しようとしている。それがライは許せなかった。
「生きたくても生きられない、死にたくても死ねない奴だっている…生が許されているなら最後まで足掻き続けろ…それが滑稽で愚かでも…」
ライは記憶喪失だ。故に覚えていない。だが自分自身が死を望みながら生にしがみつく矛盾した中途半端な存在と自覚している。
それでも覚えてなくても“知っていた”顔も名前も覚えていないが生きたくても生きられない存在と死にたくても死ねないという存在を知っていた。
「生きろ。生にしがみつけ。命ある限り足掻き続けろ……生から逃げるな…」
リンドウのオラクル細胞による拒絶反応で腕は浸食されているライは激痛に耐えリンドウに叫んだ。
「逃げるな!!!生きることから逃げるな!!!」
「これは……命令だぁぁああああああ!!!!」
叫びと共に走りだし、ライはハンニバルの口を裂いた。
そして喉元にあるコアに浸食された手で触れた。
……瞬間
白い光に包まれた。