「皆さん。ご無事でしたか?」
「ああ。例のハンニバルが逃げたおかげでなんとかな。」
「お前らのリーダーが来てくれなかったらどうなってたかわからなかったけどな。」
「とりあえずアンタ達も来てくれて助かったぜ。」
アナグラに戻ると危機を乗り切った3人に心配の声が上がるが3人とも無事をだったことに安堵に包まれる。
「改めてお礼を言わせてくれ。ありがとう。」
「御礼はヒバリさんに言ってください。私達を呼んだのもヒバリさんの指示ですので。」
「それに御礼を言うのはリーダーにしてよ。俺は何もできなかったしアリサとソーマはコア回収に明け暮れてたしね。」
「そうなのか!?さすがヒバリちゃん!!」
「ところでリーダーが何か考え込んでいたようにみえたのですがタツミさんはなにか知ってますか?」
ライはアナグラに着くとさっさとアナグラ内に入っていった。だが神妙な表情をしていたのがアリサは気になったのだろう。
「いや、確かに考え込んでいる素振りだったけど賢い奴の悩みなんて頭悪い俺が分かるはずないからな。まぁ話してくれるまで待つのも隊員の仕事なんじゃないか?俺のとこなんか意思疎通とか考えてることなんかさっぱりわからないし。」
「そうですけど…」
「俺はよくわからないけど。アンタ達のリーダーのやることは結果的に良いことに繋がると思うぞ。」
「だね。その分、無茶するのはアレだけど。」
コウタは諦めてるのかそれとも信用してるから楽観してるのかライの様子が変だったことに気づきつつも今は見守るつもりのようだ。
だが2人はこの選択を少しばかり後悔することになる。
「大変だったみたいね。」
「いえ、そこまで大変ではないでしたね。ハンニバルの変異種とも相対したのは数分も満たなかったですし。」
アナグラに戻ってきたライはサクヤの下を訪れていた。
「そう。とにかく皆が無事に戻ってこれてよかったわ。」
「ええ。サクヤさんの方はリンドウさんの捜索してたそうですが首尾は…」
「……残念だけど見つからなかったわ。本当にどこにいるのかしらね。」
暗い表情でそう言うサクヤ。その表情はライには半ば諦めてるように思えた。
「……サクヤさん。聞きたいことがあるんですが。」
「なにかしら?」
「…もしも、リンドウさんがアラガミ化していたら…サクヤさんは撃てますか?」
「………え…?」
「すみません。でも腕輪が壊れてかなりの日数が経ちました。捜索が再開して痕跡も見つからない。だとしたら…リンドウさんはもう…」
「………」
ライの言いたいことが分かったのかサクヤは俯いた。そしてライはそれがサクヤの答えと判断した。
「すみません。変なことを言いました。今のは僕の思い込みに過ぎませんので。ましてや僕がこんなことを言ったらダメですよね。」
「少し疲れてるのかもしれません。自分の部屋に戻りますね。」
そう言うとライはサクヤの部屋を出て行った。
翌朝、午前5時。ライは神機保管庫にいた。
リンドウの神機を前に立ち尽くすライ。その姿は躊躇っているようにみえる。
だが覚悟を決めたのかライはリンドウの神機に手を伸ばした。
「リッカさんにまた怒られますよ。」
伸ばした手が神機に触れる直前、少年の声が聞こえた。
「……レン。」
「……ここで始めて貴方と会ったんですよね。そんなに日は経ってない筈なのに妙に懐かしいですね。」
声の主であるレンはそんなことを言いながらライの下へ来る。
「……まだ寝てなくていいのか?」
「なんだか胸騒ぎがして目が覚めたんですよ。そしたら…」
「……すまない。」
「こんな朝早くから出撃ですか。」
「そんなところだよ。サカキ博士から極秘任務を与えられてね。」
「僕も手伝いますけど?」
「いや、いい。かわりに伝言を頼めないかな?」
「伝言ですか?」
「うん。第1部隊の皆に。」
「わかりました。」
レンに伝言を託すライ。
「それじゃ行ってくるね。」
「はい。行ってらっしゃい。」
神機保管庫の外でライとレンは別れた。
レンは遠ざかるライの背中に目を向けながら小さく呟いた。
「覚悟を決めたんだな………なら僕も行かないと…」