リンドウの手がかりとなる黒い羽根の回収はアリサ達の協力もあり滞りなく進んだ。
羽根も感応現象で見た鎮魂の廃寺方面だけではなく他の場所でも発見された。これによりライとサカキは一つの予想を立てる。
“リンドウはどこかを目指している”という予想を。
少なくとも黒い羽根が極東地域の広範囲で発見されたということはリンドウは移動していることは確かだろう。
そして本日、
極東支部のゴットイーター達全員が招集された。
「揃ったな。」
遅れてツバキがエントランスに入ってくる。そして皆に告げた。
「本日、1200(ヒトフタマルマル)より雨宮リンドウ大尉の捜索再開する。」
リンドウの捜索再開の報は当然ながらこの場にいる神機使いに衝撃を与えた。
驚かなかったのは知っていたライと難しい顔で考え込んでいるレンあたりだろうか。
「以上の観点及びDNAパターン鑑定の照合結果から対象を雨宮リンドウ大尉と断定した。よって先も言ったとおり本日1200より捜索を再開する。」
「だが腕輪の制御を失って久しいためアラガミ化等の影響が懸念される。接触は注意するように。」
「……いい歳した迷子の愚弟だが…皆、よろしく頼む。」
リンドウ生存の報は周りに活気を与えた。
特にこの報に喜びを隠せないのは第1部隊だろう。
あの日、暗躍があったとはいえリンドウ1人置いて逃げ出した負い目は全員持っていた第1部隊。故に自分達で見つけたい思いは他よりも強い。
「リンドウが…生きてる…!」
「……サクヤさん!!」
特にこの報せに歓喜を隠せないのはサクヤとアリサの2人だ。
サクヤにとってリンドウは大切な存在であり、アリサにとっては操られていたとはいえリンドウを失ったのは自身の責任という負い目を強く持っている。
「フン、さっさと見つけて連れ戻すぞ。」
「ああ!!早く探しに行こうぜリーダー!!」
当然、ソーマもコウタもリンドウを探すのに異論はない。
だが…
「あ、第1部隊はこれまでの通常任務と遊撃的な広域調査を行なってください。」
「え!!?なんで?」
今にでも飛び出しそうな勢いのコウタを止めたのはヒバリだった。
「極東支部主力である第1部隊は強力なアラガミへの対応としてなるべくアナグラから離れないでほしいというツバキさんから指示です。捜索は第2第3部隊で行います。」
「そんな…!!」
「これは仕方ない。」
「ハンニバルの出現やアナグラの襲撃があったから最低でも何人かのゴットイーターはアナグラにいるべきだと考えたらしい。」
「リーダー…」
「……サカキのオッさんからの指示か?」
「まぁね。」
コウタの反論を止めたのは彼等のリーダーであるライだった。
ライはこの件の発表の前に支部長室でサカキにそう言われていた。
「まぁリンドウさんの方はこっちに任せてくれ。リンドウさんのことだしすぐ見つかるだろうしさ。」
「…タツミさん。」
「見つけたらすぐに連絡しますから。ね?ジーナさん。」
「そうね。リンドウさんに会いたいのは貴方達だけじゃないということよ。」
「新人も増えたことだし人手もどうにかなるだろう。」
第2第3部隊の隊員達がそれぞれ意欲を見せる。
彼等もリンドウに会いたい気持ちは同じなのだ。
「あ、先輩。神機の遠近切り替えの離脱タイミングやいろいろ教えてください!!」
「あ、私も!!私にも教えてください!!」
「わかったわかった。じゃあこれから一緒に討伐任務を受けようか。」
「「はい!!」」
とにかくリンドウの生存は公となった。これで多少は肩の荷が下りたことにライは少し安堵した。
アネットとフェデリコを連れてボルグ・カムランとクアトリガの討伐を終えたライ。
任務を終えて少し休んでいるとレンと会った。
「お疲れ様です。ここにいたんですね。」
「ついさっき戻ってきたんだ。君はこれから出撃?」
「いえ、実は貴方に伝えたいことがありまして…」
「……わかった。場所を変えよう。」
少し歯切れの悪い言い方をするレンに気づいたライはそう言い立ち上がり、レンを連れてエレベーターに向かった。
医務室前の休憩所に着いたライとレン。
「それで話したいこととはなんだい?」
「……正直、貴方に話すべきか悩みました。でも貴方はリンドウさんと同じくらい皆に信用されています。だから貴方“だけ”に伝えようと思います。」
「僕がアラガミ化について研究してるのは以前話したと思います。伝えることは“アラガミ化した神機使いの対処法”です。」
「アラガミ化は偏食因子の過剰摂取及び定期的な供給が途絶えたことによって体内のオラクル細胞の暴走し引き起こされる急激な変異現象です。」
「現在の研究ではアラガミ化したら元に戻ることは不可能とされています。また人によって培養されたオラクル細胞は多種多様な変異を遂げる傾向があり、一般的な神機でそのオラクル細胞の機能を停止させることは極めて困難とされています。」
「しかし、アラガミ化した神機使いの神機ならそのオラクル細胞を機能停止させることでき、結果としてアラガミ化した人間を“殺す”ことができます。」
「故に現在分かっているアラガミ化した存在の対処する方法は大きな矛盾を孕んでいますが“アラガミ化した神機使いの神機で殺す”ことです。」
「勿論、今後の研究でアラガミ化しても戻す技術が生まれるかもしれません。ですがリンドウさんがアラガミ化していれば殺すしかないです。」
「リンドウさんの足跡を辿って運良くリンドウさんと出会えたとして、彼がアラガミ化していたら…」
「貴方はそのアラガミを“殺せますか”?」
「……まるで僕にリンドウさんを殺してほしい言い方だね。」
アラガミ化について話しつつなにかライを試すように話すレン。
「そんなつもりはありません。ですがどんな時でも最悪な事態を想定することは大事ですよ。……貴方も“そういう”人ですよね。」
「否定はしない。だけど…」
「この世界は常にわがままで不条理な選択を迫ってくる。そして選んだ選択が現実になりそれは連綿と続いている。善悪問わずに。」
「あの日、あの時、リンドウさんが選んだ選択は正しかったのでしょうか?あの選択は皆幸せだったのでしょうか?」
「そして、貴方はどんな選択をしますか?」
また試すような物言いをするレン。
「すみません。まだ捜索も始まったばかりなのにこんな暗い話をしちゃって…」
「僕は医務室に戻りますね。それじゃ。」
「レン。」
話を切り上げて医務室に戻るレンをライは呼び止めた。
「君の言う通り、この世界は残酷で不条理で理不尽で救いようのない世界だ。」
「じゃあ、なんでこの世界に未だに人類は生き残っていると思う?」
「え?」
「わからないなら君も考えてみてほしい。答えが分かればリンドウさんの選択の意味も分かると思うから。」
言うだけ言うとライは飲み物を買い、エレベーターに乗った。
「人類が生き残っている理由…」
レンはライからの問いの意味が分からずしばらくの間、立ち尽くしていた。