自信と慢心
アーク計画失敗の報は欧州にあるフェンリル本部にも伝えられている。
極東支部から提出された報告書を本部の上層部が読みフェンリルの公式見解として発表するためである。
またリンドウに指示を出してエイジス島を探らせていたのは実は本部の人間だったりする。
とにかく本部の公式見解の発表を以てアーク計画の事後処理はすべて終わりとなる。
その公式見解によると…
アラガミの襲撃により人工島エイジスは半壊。
極東支部支部長だったヨハネス・フォン・シックザールはエイジスの崩落に巻き込まれ死亡。
極東支部長の後任が決まるまで極東支部で技術部長を務めるペイラー・榊が代理として就任する。
その他諸々あったが公式見解は発表され、アーク計画にまつわる事柄は完全に終止符を打った。
……だが彼等は知らない。
公式見解に触れられず、人知れず闇に葬られた者を…
このときはまだ誰も知らなかった。
「お疲れ様です。皆さん。」
「ヘリは?」
「10分後に到着する予定です。」
「了解。」
通信機越しにヒバリと話をしているライ。今回はソーマ、コウタ、アリサという第1部隊の面々とヴァジュラ2頭の討伐に出ていた。
「歯ごたえがねぇな。」
「うん。なんか物足りない。」
「何言ってるんですか。」
ライが連絡をとっている傍らでコウタ達がそのような会話がされていた。
「私達は生きるか死ぬかの戦いの場にいるんですよ。それがもの足りないというのは慢心しすぎじゃないですか?」
「そうは言うけどさ。アリサだって余裕あっただろ?ヴァジュラの相手なんて最初の頃は酷かったのに。」
「それは…そうですけど。」
「自信を持つのはいいことだよ。だからって慢心するのは良くないけどね。」
「リーダー、ヘリは?」
「そろそろ来るって。戻ったら少し休憩してからまた任務につこう。ソーマ達のいうとおり歯ごたえがなかったし。」
「リーダーも何言ってるんですか!?」
アーク計画の阻止の際に戦ったアルダノーヴァ、オオグルマが化けたアラガミとの戦いの経験は確実にライ達の力となっていた。もともと極東支部第1部隊は極東最強の部隊と言われている以上、強くならないといけないのだが。
「あーあ。最近似たのばっかだからテンションが上がらねー、いっそ新種とか出ないかなー」
「何を言ってるんだか…」
コウタの言葉に呆れるアリサ。そんな2人を見ながら苦笑するライ。だが、ふと自分の神機を見ると少し険しい表情になる。
「神機がどうかしたのか?」
「ソーマ。ちょっとね。盾の展開に違和感を覚えてね。そっちの神機には変化はない?」
「まぁな。白くなった以外は対して変わんねーよ。」
ソーマの神機はエイジスでシオの抜け殻を捕食するとその色を純白に塗り替えた。しかしそれ以外に変化はなさそうだ。
そうこうしてるうちに、迎えのヘリがやってきた。
こうしてライ達は彼らの拠点であるアナグラに戻っていった。
「新型…ですか?」
「ああ。情報は皆無だが現れたのは事実らしい。第1部隊は3時間後にヘリ発着所に集合、新型の討伐及びコアの回収を命じる。情報がない以上、対策が取れん。用心するように。」
「了解!!」
アナグラに戻って来ると至急ツバキに呼び出された第1部隊。
呼び出した理由は新型のアラガミのコア回収と討伐の指令だった。
「よっしゃ!!新型だ!!」
「喜ぶところじゃないですよ。情報がない以上、対策が取れませんし」
喜ぶコウタに叱責するアリサ。なんやかんやで仲の良い2人である。
「まぁそれは情報部に任せよう。僕たちが出発する頃にはなにかしら情報が与えられるだろうし。」
アリサを宥めながらそう言うライ。ライ自身コウタ程ではないが自身の強さに過信していた。その新型と対等に渡り合える自信も少なからずあった。
また久々の新型アラガミだ。どんな相手かはわからないが骨のある相手だったらと願っていた。