神喰らう無色の反逆者   作:COLD

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エリナの覚悟

「……その手。痛々しいね。」

 

「痺れるような痛みがするくらいだけどね。」

 

支部長室を出たライはその足で神機保管庫に向かった。

 

そこでリッカと話し込んでいた。

 

「すまない。神機にかなり負担かけた。」

 

「本当だよ〜、簡単に調べただけだけど君の神機があちこちおかしくなってなってるよ。」

 

「特に近接パーツのところはなんというか溶けてると言えばいいのかな。あれはもう使えない。」

 

「壊れたわけではないんだろ?」

 

「そうだけど…まぁ他の皆の神機もそうなんだけどかなり疲弊してる。最近はアラガミが多数出現してるから仕方ないんだけどね。」

 

「直るのか?」

 

「幸い近接パーツのところ以外は使えるからそこだけ直せばすぐに使えるよ。」

 

「そうか。頼む。」

 

とりあえずライの神機は壊れたわけではなく修理も可能のようだ。

 

「でもそれなりのものは貰おうかな?」

 

「なんだ?」

 

「君が貰った任務の報酬数個程と修理費用を貰うよ。」

 

「それくらいなら構わないが。そんなのでいいのか?」

 

「君、前支部長から難しい任務を与えられてたんだよね。なら珍しい素材を持ってるかもしれないからね。」

 

「それくらいなら構わない。早速送金するか?」

 

「うん。そこにターミナルがあるから。」

 

ターミナルを使いリッカが欲しがった素材と費用を払ったのだが。

 

「え!?君、こんなに貯めてたの!?」

 

「もうすぐ8桁になるな。まぁ使うのはパーツの改造くらいだからな。」

 

「これって全部任務で稼いだの?」

 

「いや、これのうち100万近くはカレルさんとシュンと賭博して勝ちとった。」

 

「賭博って意外なことしてるんだね…」

 

「なんか喧嘩売るように言われたから。」

 

「君って結構負けず嫌いなんだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神機保管庫を後にしたライは自らの手の治療をしてもらうため、医務室を訪れていた。

 

「酷い怪我ですよ!!何故すぐに来なかったんですか!!」

 

「たいした痛みはなかったので…」

 

医療班のスタッフに患部を診せると上記の通り責められるライ。だがライが考える以上に両手の火傷は酷いものだった。

 

だが当人としては神機を握れればそれでいいという考えなので包帯を替えてもらえればそれでいいと思っていた。

 

実際そう言うとスタッフは呆れたように溜息を吐いて包帯を替えてくれた。

 

しかしあまり無理はしないようにと釘を刺されたが。

 

「やあ。」

 

「……貴方は。」

 

診察を終えて医務室を出ようとすると、背後から話しかけられる。振り向くとエリナの父親である老紳士がいた。

 

「大変だったようだね。」

 

「いえ、僕が焦ってことを起こしたのでこんなことになったんです。自業自得ですよ。」

 

包帯を巻かれた両手を見ながら心配そうに言う老紳士にライはそう返す。

 

「実はエリナが目を覚まして君に会いたいと言っているのだが。」

 

「大丈夫ですか?腕に注射痕があったはずですが…」

 

「ああ。調べてもらったが薬物の反応は出なかった。おそらく採血の痕らしい。」

 

「そうですか。よかった。」

 

胸を撫で下ろすようにライはそう言う。

 

「それで会っていってもらえないか?」

 

「……わかりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

老紳士により個室に通されたライはベットに座るエリナと対面していた。

 

個室を与えられたのは老紳士はフェンリル傘下にある企業の社長でありエリナが社長令嬢だからだそうだ。要は特権階級だからである。

 

「エリナ。彼を連れてきたぞ。」

 

「熱が下がったみたいだね。よかった。」

 

声をかけるが当のエリナは顔を下に向けたままだ。

 

そして彼女の膝には彼女のトレードマークとも言える白の帽子を強く握っていた。

 

「無事でよかった。安心したよ。」

 

「でも身体が弱いのだからあまり無理したらダメだよ。」

 

「………」

 

ライが優しく語りかけるがエリナは反応せず俯いたまま。

 

会いたい、話がしたいと言って呼んだのに呼んだ張本人がだんまりなのは些か行儀が悪い

 

「エリナ…」

 

「教えてほしいことがあるの。」

 

しばらくだんまりしているエリナに老紳士が何か言おうとしたがそれと同時にようやくエリナが口を開いた。

 

「なんだい?」

 

「………」

 

そこでまただんまり。だがライは怒ることもなく静かに問いを待つ。

 

「…ねぇ。」

 

か細い声でエリナはライに質問する。

 

「貴方がお兄ちゃんを…」

 

「……殺したの?」

 

「………」

 

エリナの問いは彼女を保護した時に聞かれたものと同じだった。

 

熱にうなされていたため覚えてないと思っていたがまさか覚えていたことに驚きと記憶力の良さにライは関心した。

 

「エリナ……誰がそんなことを…」

 

「パパは黙ってて。ねぇ貴方がお兄ちゃんを殺したの!?」

 

「………」

 

エリナの問いの前に次はライの方がだんまりとなった。

 

何度も何度も問いかけるのにライは一切口を開かない。

 

「なんで…答えないの?」

 

「……本当なの」

 

「先生が言ってたの……本当なの?」

 

「貴方が本当に…」

 

「お兄ちゃんを殺したの?」

 

「………」

 

だんまりと黙り込むライ。どんなに問いかけても答えないその姿はエリナからはライが自分の兄を殺したと認めてるようにうつった。

 

「なんで…どうして…」

 

「……信じてたのに…」

 

「貴方のこと…信じてたのに…」

 

「……嘘つき。」

 

「………」

 

罵倒の言葉を受けてもライは一切反論を口にしない。

 

他所からすればエリックの死は仕方ないと捉えられている。

 

だが、エリナにとっては今のライは大好きな兄を殺した嘘つきにみえていることだろう。

 

「エリナ。いい加減にしなさい。」

 

「……パパは悔しくないの!?お兄ちゃんを殺されたのにこの人が悪いのに…パパは悔しくないの!!?」

 

罵倒を止めようと老紳士が口を開く頭に血が上っているエリナに一蹴されてしまう。

 

そして…

 

「返して…返してよ!!私のお兄ちゃんを返してよ!!!」

 

「なんで…お兄ちゃんが…貴方が死んじゃえばよかったのに…!!!!」

 

エリナの感情的で且つ本心の言葉が言い放たれる。

 

「……そうか。」

 

エリナの本心の叫びを聞き、ようやくライは閉ざした口を開いた。

 

「……ゴメンね。嘘をついちゃって…」

 

「……ゴメンね。お兄さんを助けられなくて…」

 

「……ゴメンね。生きてて。」

 

「言い訳はしない。君の言う通り僕は君のお兄さんを殺した。殺してしまった。」

 

静かな口調で語りかけるように言うライ。語るのはすべての非を認める言葉の羅列だった。

 

「許してほしいとは言わない。恨んでくれて構わない。殺しにきても構わない。だけど君のお父さんを悲しませないでくれ。」

 

これが最後の言葉なのかそれを言うとライは踵を返し部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

ライは外部居住区での瓦礫撤去労働に勤しんでいた。

 

これがオオグルマの件の懲罰ということで外部居住区の住人と協力して外部居住区の復興に関わっていた。

 

主に瓦礫の撤去や修繕に必要な材料の費用の出資など重労働や資金等で活躍している。

 

あと、この懲罰はライに関する悪い噂の払拭も狙っていたようでそちらはうまくいき噂は所詮噂ということで露散していった。

 

「リーダー!そっちにまだ材木のあまりある?」

 

「あるよ。」

 

ちなみにこの復興作業はコウタも率先して参加している。家族が住んでいるというのもあるだろうが。

 

それにこのコウタの存在も噂の払拭に一役買っていた。

 

「サンキュー。それにしても少し前まで瓦礫があちこち転がってたし半壊した家が多かったけど今はもう元どおりになりそうだ。」

 

「居住区の人達が手伝ってくれたからだよ。とはいえ、全壊した家屋も多いから少し寂しくなった地域もあるけどね。」

 

「そうなんだけど幸い人が住んでる場所じゃなかったから皆そこまで気にしてないよ。ただ病院がなくなったのがな〜」

 

「診察は真面目にしてたらしいからね。」

 

オオグルマはリフレインを製造したのも彼からすれば患者のためだった。結局彼は腐っても医者だったということだろう。

 

「…病院か。」

 

「あ、病院も建てる資金も出してほしいとかは言ってないからな!!リーダーが結構お金出してるの皆ありがたく思ってるし。」

 

「そうか。でも病院はないと困るよね。今のようにフェンリルに頼ってのは住民も肩身がせまいだろうし。」

 

「でも病院って儲かりそうだな。」

 

「リーダー?」

 

「なんでもない。」

 

こう答えたライだが後日金儲けのためにゴットイーターになったカレルに病院の件を話した。

 

数年後、カレルは同志を集い病院を建てるがそれは先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからもゴットイーターの仕事をしつつ居住区の復興に勤しむライ。

 

復興の手伝いとコウタの紹介もあって居住区の人々とも仲良くなったり、子供たちからも慕われるようになった。

 

そして無事に怪我人も出ることなく復興を遂げた。

 

それで今は復興祝いと称した宴会が開かれていた。

 

ライは宴会に参加する気はなかったが居住区民に捕まって渋々ながら参加していた。

 

今は宴会会場から少し離れた場所で騒いでるコウタや居住区の人達を見ていた。

 

あとコウタが呼び出したのかアナグラの人達も宴会に参加している。

 

「……ねぇ。」

 

ふとライに話しかける少女の声が隣から聞こえた。ライは視線を合わせることなく言葉を返す。

 

「元気になったんだ。よかった。」

 

「……ごめんなさい。」

 

「君が謝ることはないよ。君のお兄さんを救えなかった。それは事実だから。」

 

少女…エリナの謝罪に対しライはそう答える。

 

「違うの。貴方に死んじゃえって言っちゃってごめんなさい。」

 

「気にしないで、いつかは死ぬかもしれない職業に就いてる以上死とはいつもとなり合わせだからね。」

 

「そう…なんだ…」

 

そう言うと俯くエリナ。だが意を決して顔をあげると言った。

 

「私ね。ゴットイーターになりたいの。お兄ちゃんみたいなカッコよくて華麗なゴットイーターに。」

 

「……正気かい?」

 

ここで初めてライは隣のエリナの顔を見た。

 

「うん。危険なのはパパから聞いたから分かってるしアラガミが怖い存在なのは知ってるつもり。」

 

「でも他にも私と同じような思いをしてる人がいるなら少しでも減らしたい。そしてお兄ちゃんの意志を継ぐんだ!!」

 

覚悟を決めた眼でライを見据えて言うエリナ。その眼を見たライは…優しく微笑んだ。

 

「頑張って。君が決めたことなら僕は応援するよ。」

 

「本当?じゃあ時間がある時でいいからゴットイーターになるために必要なことを教えてほしいの。」

 

「いいよ。僕が教えられることは教えるよ。」

 

「約束だからね!」

 

数年後、エリナはゴットイーターとして活躍するのだが、ライの教育が活きたのかは定かではない。

 

 

 


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