神喰らう無色の反逆者   作:COLD

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注射痕

コウタを見送ったあと、改めて屋内を捜索を始めたライ。

 

とはいえ、極東支部の捜索隊が来るまで物に触れるのは良くないと思ったのか目視で目に視える範囲で捜索しかできないが。

 

程なくしてツバキと捜索隊を連れたコウタと合流したライはその場をツバキ達に任せてエリナの捜索を再開した。

 

「ツバキ教官とサカキ博士はなんかこのことを知っていたようだった。」

 

「そうなんだ。それならあっちの方は任せていいんだね。」

 

事態を把握しているのなら説明する必要がないと判断して診療所を出てきたライ。

 

「とにかくツバキ教官には後で話を聞こう。今はエリナちゃんを探そう。」

 

「うん。俺は右の方を探すから。」

 

「わかった。合流場所は診療所にしよう。見つかったら通信機で連絡を。」

 

「了解!!」

 

コウタと別行動を取り単独行動を取るライ。

 

もとより診療所まで案内してもらったら別行動を取るつもりだった。

 

兎にも角にも雨足が強くなってきたため早くエリナを探し出そうと走る速度を上げる。

 

「いた。」

 

しばらく探しまわっていると公園のような広い場所に出た。

 

公園とはいっても遊具というものはなく、端にベンチがあるだけ。

 

そのベンチに座る小さな少女。

 

トレードマークの帽子は膝に置き、顔は下を向いて表情は見えない。

 

「探したよ。」

 

少女の前に立つとライは告げた。

 

少女は声に反応したのか下を向いていた顔を上げる。

 

だが少女の上げた顔を見たライは表情こそ出さなかったが絶句した。

 

少女の目に光はなく焦点も合わず虚空を見ていた。

 

その目はついさっき見た“薬物中毒者”と同じだった。

 

「………が………の」

 

「え?」

 

か細い声で少女エリナが呟いたことに気づいたライ。耳を澄ますとエリナは再度呟いた。

 

「あなたが…お兄ちゃんを…」

 

「……殺したの?」

 

「………」

 

言葉が出なかった。ライ自身聞かれるとは思っていなかったのか不意をつかれた。

 

だが答える必要はなくなった。

 

エリナがいきなり倒れこんだために

 

慌てて支えるライは倒れたエリナの額に手を置いた。

 

「熱い。熱か。」

 

ライはすぐにエリナを抱き上げ通信機でエリナを保護したことを第1部隊のメンバーに伝え急いでアナグラへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナグラに戻るとすぐにエリナは医務室へと運ばれた。

 

ライも一度自分の部屋で着替えた後医務室に訪れた。

 

そこにはエリナの父親である老紳士がいた。

 

「君か。」

 

「エリナちゃんの容体はどうですか?」

 

「熱が出ただけだよ。君のおかげだ。君が見つけてくれたから熱で済んだ。感謝するよ。」

 

「どういたしまして。」

 

そんな会話をしている医務室から医療班の職員とツバキが出てきた。どうやらエリナの処置が終わったようだ。

 

老紳士は職員と共に医務室に入っていった。

 

残されたのはライとツバキの2人。

 

「戻っていたんですか。」

 

「ああ。お前はどうやらあの子を探してようだが。」

 

「はい。少し面識があって。」

 

「そうか。」

 

そこまで話すとしばし沈黙が流れる。

 

「彼女の容体はどうですか?」

 

「安心しろ。安定している。雨に濡れて風邪でも引いたのだろう。」

 

「そうですか。よかった。」

 

そこでまた沈黙。だが意を決したのかライはツバキに問う。

 

「あの…変なことを聞きますがいいですか?」

 

「……なんだ。」

 

「彼女の腕に“注射痕”はありませんでしたか?」

 

「………」

 

沈黙するツバキ。だが一度嘆息すると答えた。

 

「あった。」

 

「……そうですか。」

 

「他に聞きたいことは?もうお前もこの件の関係者とした。なんでも答えるぞ。」

 

「じゃあ1つだけ。」

 

そう言いライはツバキに問う。

 

「あの診療所にいた薬物中毒者ですが全員“リフレイン”を打たれてますか?」

 

「………」

 

再び沈黙するツバキ。だがその内心は驚いていた。

 

まさか中毒者を見ただけで薬物を当てられるとは思いもしなかったのだ。

 

「……やっぱりですか。」

 

「何故分かった。」

 

「……何故でしょうね。」

 

「だけど…知ってるんです。覚えてないけどリフレインを服用して廃人になった人を知っている。涙を流した人を僕は知っている。」

 

「だから僕は僕が分からない。本当に僕は何者なのでしょうね?」

 

自虐的に言うライ。その表情にあったのは“無”だった。

 

「失礼します。」

 

「…どこに行く。」

 

エレベーターに向かうライにツバキはそう言う。いつもなら呼び止めたりしない。

 

だがツバキはライを呼び止めた。

 

何故呼び止めたのはツバキ自身分からない。

 

だが今のライを見て呼び止めなけばならないと直感で思ったのだ。

 

……呼び止めなければ彼は知らないうちに消えてしまうと感じたからだ。

 

「……少し所用を思い出しましたので。」

 

「……そうか。」

 

「では、失礼します。」

 

今度こそライはエレベーターの中へと消えて行く。

 

その後ろ姿をツバキは呼び止めなかった。

 

 

 

 

 


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