ライに関する噂は日に日に広がり、それと同時に悪化していった。
内容としては裏で暴力沙汰を起こしたり金品を無理矢理奪ったり、嫌がる女性に性的行為を強要したりと悪質になっていった。
もちろん、サカキやツバキにより噂は虚偽と伝えられてはいるが信用してくれているのは多くはない。
だがゴットイーター達は誰一人として噂を信じる者がいない。
あくまで噂を信じるのはライを知らない者でありライがどういう人間か知っている者達からすればアホらしく思っている。
「なんですか。皆リーダーを悪く言って!!」
「アリサ。落ち着きなさい。」
アリサとサクヤはエントランスで話し込んでいた。
内容は2人が所属する部隊の隊長の悪い噂。
始めて聞いた時は2人は驚いたものだが所詮は噂だし数日で消えると思っていたが予想に反して悪化していった。
「サカキ博士やツバキさんが否定してくれてはいるけどやはり噂の出所を見つけないと噂は止まらないわよ。」
「でも…なんでリーダーだけ…」
アーク計画を阻止したのは第1部隊全員。だが噂の的にされてるのは隊長であるライのみ。
「怨みを持たれてるからでしょ。」
「あ…リーダー…」
アリサの疑問に答えたのは噂の中心の存在だった。
任務を終えたようで後ろにはコウタとソーマもいる。
「内容はどうあれアーク計画は一部の人が助かるものだった。その一部から怨みを持たれても仕方ない。」
「でもそれなら私たちだって同罪ですし…」
「それがどうやら俺たちは無理矢理リーダーに付き合わされたことになってるみたいでさ。」
アリサの疑問に答えたのはコウタだった。
コウタは外部居住区出身のため、居住区の住民からいろんな情報が得ることができる。
「本当に酷い状態だよ。俺なんか腕や足に傷や痣があったらリーダーに殴られたのか蹴られたのかってよってたかってさ。アラガミに吹っ飛ばされた傷と言っても信じてくれないし。」
「アリサ達は僕が性的暴行した際に撮った写真で脅されたという噂がたってるらしい。」
「ソーマは暴力で服従らしいけどソーマには勝てる気しないんだけどね。」
「所詮は噂だろ。」
「ほんと酷いことになってるわね。いい加減に出どころを突き止めないと大変なことになるわ。」
「とはいえ根も葉もない噂ですから。それに…」
「今はともかく”昔“はどうだったかはわかりませんから。」
そういうライは自虐的な笑みを浮かべていた。その笑みの意味はサクヤとソーマしかわからなかった。コウタとアリサは意味が分からず首を傾げるだけだった。
「き……君!!」
そんな会話をしていると慌てた声が聞こえた。振り向くと…
「エリナ…エリナを知らないか?」
「貴方はエリナちゃんのお父さん。」
振り向くとそこには以前話した老紳士がいた。今までの優雅さはなくかなり焦っていた。
「リーダーのお知り合いですか?」
「うん。サクヤさん達は知ってると思いますがエリックのお父さんです。」
「あ…エリックの…」
「………」
「それでエリナちゃんがどうしたんですか?」
「エリナが外部居住区から帰ってこないんだ。」
「帰ってこない?迷子ですか?」
「ああ。確かに素人じゃ迷子になるかも。意外と居住区って広いし。」
「それは心配ですね。」
コウタがそう言うとアリサが心配そうに呟いた。
「それでエリナちゃんはなんで居住区に?」
「居住区に良い腕の医者が来たらしくて一度診てもらおうしたらエリナが1人で行くと言い出して。」
「それで1人で行かせたと。」
「すまない。エリナは言い出すと聞かなくてね…」
頭垂れる老紳士。その姿に何気なく苦笑したライ。
「わかりました。雨が降りそうだったし急がないと。」
「そういうことなら俺も手伝うよ。居住区なら庭みたいなものだし。」
「私も手伝いします。」
「私も協力するわ。」
「極悪人と一緒に人探しするんですか?」
協力を申し出るアリサとサクヤにそう問うライ。
「所詮噂でしょ?実際そんな事実じゃないのだから別に一緒に行動しても問題ないわよ。」
「というよりリーダーは任務以外だと訓練してるかサカキ博士に呼ばれてなにかやってることは極東支部内じゃ有名ですから。噂の暴力とかしてる暇はないですよ。」
「いや、それだとサカキ博士を殴ることはできるよね?」
「アレは殴ってもいいだろ。というか急ぐんだろ。」
そう言うのはずっと黙ってたソーマ。確かにソーマなら躊躇なくサカキを殴りそうだ。
外部居住区に着く頃には小雨が降り出していた。
「降り出してきたわね。本降りになる前に早く見つけないと。」
「そのエリナちゃんってどんな格好してるんですか?」
「高価そうな服を着てるから多分すぐ気付くと思う。あとは白い帽子を被ってる。」
エリナの容姿を簡潔に説明するとアリサ、ソーマ、サクヤの3人は探しに向かった。
「コウタ。例の医者の診療所の場所を教えてくれないか?」
「わかった。でも迷うだろうから俺も一緒に行くよ。」
ライはコウタと一緒に診療所に向かった。
「母さんから聞いたところはこのあたりなんだけど…」
連れて来られた場所は居住区の中心部から離れた場所。家はあるが空き家だった。
「小さいときここで友達や妹とかくれんぼとかしたんだ。あんときとあまり変わってないなぁ。」
「そうなんだ。…ちょっと羨ましいな。」
何気なく呟いたライ。だがコウタの耳には届かなかった。
「とにかく診療所を探そう。」
「うん。早く見つけなくちゃいけないからね。」
雨足が強くなるのを感じながら一軒一軒確認しながら走り始めた。
「ここだ。」
「え?」
一軒の家の前で立ち止まるライ。どうやらここが診療所らしい。
「人の気配もするし弱いけど薬品臭もする。」
「確かに少し刺激臭がするような…」
「失礼します。」
扉を開ける。
そこには気配を感じた通り人がいた。
だが今でも人と呼んでいいのか分からないが…
「うわ…」
コウタは目の前に光景に吐き気を覚えた。
そこには多くの“廃人”が呻いていた。
目は焦点が合っていない。幻覚を見てるのか下品な笑みを浮かべている。
「…なんだよ。これ。」
「…多分薬物だ。腕に注射痕がある。」
廃人の1人の腕を掴み、そう判断するライ。同時に落ちていた注射器を見つけた。
打ち終わったあとなのか中身が空っぽにみえるが数滴ほど残っていた。
「コウタは極東支部に連絡を入れてくれ。流石にこの場は見過ごすのはよくない。」
「わかった。リーダーは…」
「もう少し調べてみる。エリナちゃんを見つけないといけないし。」
「とはいえこれを見るからにここの医者はろくでもない人だということだけは分かる。」
吐き捨てるように言ったライの目は氷のような冷たい目になっていた。だがそのような目をしていることにライは気づかなかった。