「コウタ。どうかしたの?今日は動きが悪かったけど?」
「あ…えっと…ごめん。」
今回のミッションをライとコウタとサクヤの3人で終わらせた。だがいつもよりコウタの動きが悪かったことにサクヤが注意する。
「最近は外部居住区の諍いを仲裁してるけどそっちでなにかあった?」
「うーん。あったというか…なんというか…」
「歯切れが悪いけど言いにくいこと?」
「いや、俺もまだよくわかってないというか…」
なにかあったのは確かのようだがまだ事態を把握しきれてないようだ。
「でもなんとなくだけど外部居住区の人達が減ってるような気がするんだ。っても気のせいかもしれないけど。」
「減ってる?それって人がいなくなってるってこと?」
「それはないかと。居住区の外は神機使いじゃないと生きていけません。」
「だよなぁ。それが分かってるから実際にいなくなっているとは考えられないんだよ。」
「となると居住区内に溜まり場ができたとか?」
エイジスにまわっていたリソースは外部居住区に大半使われている。そのリソースで新たな遊び場みたいな場所ができていても不思議ではない。
「いや、母さんに聞いたけどそんなのは知らないってさ。でもなんか医者の先生が少し前に来て小さな診療所を開いてるとは聞いたな。」
「医者?」
「うん。小さな怪我や病気では無償で診てくれるおおらかで優しい人だってさ。まぁ母さんも実際に会ったことないから噂でしか知らないらしいけど。。」
「それは居住区の人たちにしたら嬉しいことじゃない。」
「うん。もしかしたら皆その先生のところに集まってるのかもしれないし。やっぱ俺の考えすぎかも。」
「……医者…か。」
コウタの言う医者。その存在に確証はないがライには心当たりがあった。
オオグルマダイゴ
アリサのメンタルケアを務めていた医師でありロシア支部に戻る際にアラガミに襲われ行方不明になったとされた。
しかしそれは虚偽で実際はエイジスに身を潜めていた。これはアリサとサクヤがエイジスに潜入した時に発覚した。
つまりオオグルマはヨハネスとともにアーク計画の黒幕だったのだ。
だがヨハネスは死に、アーク計画は失敗したがオオグルマは行方不明になったまま。
アーク計画に関与していたとされる者たちはフェンリルの公安に位置する組織が今でも探しているらしい。
「考えすぎか…」
軽く頭を振り、1つ溜息をつく。小型や中型とはいえアラガミの数が増えた現状に少し疲れが出たのだろう。
アナグラに戻ったら少し休もうと決めるライだった。
アナグラに戻るといつも通りにエントランスにいるヒバリに報告する。これで任務完了となり晴れて自由の身となったので自身の部屋で一眠りしようと思っていたライだったが…
「あの…おつかれのところ申し訳ありませんがライさんと面会したいという方が…」
「はぁ…」
そう問屋は降りることなくエントランスの休憩所に座り面会相手を待つこと10分。
「すまない。どうやら待たせてしまったようだね。」
そう言いながらライの前に現れたのは高価そうなスーツを着た老紳士だった。
「えっと…」
「何度か見かけたことはあるがこうして話すの始めてだね。」
「取り敢えず自己紹介をしよう。君にわかりやすく説明するなら私は“エリック”の父だ。」
「そうですか。それでエリック“先輩”のお父さんが僕になにを?」
エリックの父という老紳士にそう返すライ。
今更責められてもなにも変わらないがその責めを受ける覚悟がライはあった。
「なに。今更君を責めようとは考えてないよ。エリックの友人だったというソーマ君もね。」
「なによりエリックがそれを望まない。自分の意思でゴットイーターになったアイツも命を失うことへの覚悟ができていたはずだからね。」
「……恐縮です。」
ライはそう答えることしかできなかった。
あの日、自身はまだ新兵だったとはいえエリックを助けることはできたのはライとソーマだけだった。たとえ重傷でも生きていれば…と。
「エリックの死は最初は私もショックだった。受け入れるのも辛かったよ。だがゴットイーターの職務も理解してるつもりだ。だからゴットイーターの君たちを恨むことは出来ない。」
「だがあの娘はまだエリックの死を受け入れてないようでね。無理もないまだ幼いからね。」
「あの娘?」
「エリックの妹という少女が数日前に君に話しかけてきただろ?」
「ああ。あの子ですか。」
「名前はエリナという。あの子はエリックが大好きでね。いつでも口に出すのはエリックの話だ。」
「それを知っているゴットイーターの皆は今のエリナに真実を告げるのができないのか口を紡いでいるんだ。」
「確かに。バツの悪そう顔をしてましたね。」
「そんな中君は嘘とはいえエリナと向き合って話してくれた。エリックと会えなくなってから元気がなかったエリナが君と話してから元気を取り戻した。」
「それにエリナは病弱でね。元気がない時はそれも相まって心配だったんだ。」
「だから君には感謝している。同時に親として恥じる思いだ。」
「単に嘘をついただけですけどね。」
確かにライはエリナという少女に嘘をついたに過ぎない。結局少女が真実を知る時間を引き延ばしたに過ぎない。要は時間稼ぎだ。
「それでもだ。私が仮にエリックが生きていると言ってもエリナは信じない。エリックと同じゴットイーターである君が言えば信憑性があるから信じたんだと思う。」
「いつか真実を伝えることがあるだろう。その役目は父親として責任を持って務めさせてもらう。君には絶対に迷惑をかけないと約束しよう。」
「はぁ…」
「では、私は行くとしよう。話せてよかった。」
そう言ってソファから立ち上がる老紳士。そのまま会釈してエレベーターへと歩いて行った。
「嘘ついて感謝されるとは…結局最後は傷つくだけなのに…」
老紳士がエレベーターに乗ったのを確認したライは呆れた表情でそう呟いた。