神喰らう無色の反逆者   作:COLD

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薬物の影

「すまないね。任務後だというのに。」

 

「いえ。」

 

ライは支部長を訪れていた。そこには当然だが部屋の主がいた。

 

しかし真の支部長であるヨハネス・フォン・シックザールは既に亡くなっている。故に極東支部の支部長は現在空席である。

 

だがさすがに長がいない状況が続くのは問題ということで上層部は代理を立てることにした。

 

それで選ばれたのは…

 

「うーん。はやく後任決めて隠居したいのだがね。」

 

「アーク計画を阻止した責任とってもう少し我慢してくださいよ。サカキ博士。」

 

支部長代理に選ばれたのはサカキだった。

 

サカキはアーク計画の全容を話した後責任をとってフェンリルでの役職をすべて辞職し隠居しようとしたがそれをツバキに諭され支部長代理に任命されたのだ。

 

「大半の責任はこちらが請け負いますから。それでどんな用件ですか?」

 

「うん。実はエイジスに回していたリソースは外部居住区に回せるようになってね。ある程度生活改善されそうなんだ。」

 

「でも半壊したとはいえエイジスという巨大な建造物をほったらかしにしとくのはもったいないと思ってエイジスを使ってなんらかの作業をしようと思ってるんだ。」

 

「その話を前にソーマにしたら彼が自ら参加したいと申し出てくれたのだが一応リーダーの君に許可をもらおうと思ってね。」

 

「ソーマがやりたいなら止めるつもりはありません。構いませんよ。」

 

「そうか。ありがとう。彼にも伝えとくよ。」

 

「話は以上だ。戻っていいよ。」

 

「それでは失礼します。」

 

軽く礼すると出口へと向かうライ。

 

すると同時に出入り口の扉が開いた。

 

「なんだ。お前か。」

 

「ツバキ教官。」

 

「やぁツバキ君。」

 

新たに支部長室に入ってきたのはツバキだった。

 

「支部長代理。例の件について少し…」

 

「…ああ。」

 

「それじゃ失礼しますね。」

 

改めて一言かけてライは支部長室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり外部居住区に出回ってるようです。」

 

「そうか。やっぱり出回ってるのか。」

 

「はい。これが証拠です。」

 

そう言うとツバキが机に置いたのは“空の注射器”。

 

「生活が改善されたとはいえまさか薬物に手を出すとは…」

 

「人々が酒や薬に逃げるのは例外なく絶望したときと決まっている。あのヨハンも妻を失ったときの悲しみにより酒と睡眠薬で自殺しようとしたくらいだ。」

 

「…アーク計画の失敗により起きたということですか。」

 

「憶測だがね。症状はどんなものだい?」

 

「医療班によれば幻覚を見てるような感じですね。薬が効いてるうちは過去の幻覚を見てるのか頰が緩んだように笑っているそうです。ですが薬が切れると薬を求めて暴れるとか。」

 

「なるほど。十中八九“リフレイン”と見ていいようだね。依存度が高いからアラガミが現れる前から禁止薬物指定されているものだ。」

 

「リフレインですか。それを使えば奴は“思い出す”ことができるのですか?」

 

サカキの解答にふとツバキはそう呟いた。

 

その問いにサカキのメガネが怪しく光る。

 

2人が思い浮かべたのはつい先程までここにいた銀髪の青年。

 

青年はフェンリルに保護された時から記憶を失っていた。

 

本人は関心がないようだが周囲の者は記憶を取り戻してほしいと思っているだろう。

 

特にツバキはがリンドウを失ってしまった時からその気持ちが強くなった。

 

リンドウが死んだ時周りには見せなかったがサクヤ以上に悲しみに暮れた。

 

だが立ち直る時に気づいたのだ。

 

自分はリンドウを覚えているからいつでも悲しみにもくれられるし思い出すことができる。

 

だが記憶を失っている彼はそれができない。

 

親兄弟や友達の顔

 

もしかしたらいたかもしれない恋人の顔も

 

彼は覚えていない。いや、思い出せない。

 

今まで自分を作り上げたものがすべてなくなったのが今の彼だ。

 

フェンリルで新しい関係を作ってはいるもののそれでも記憶は取り戻すべきとツバキは考えていた。

 

現にフェンリル本部に向かったツバキはライについて聞いてまわったが成果は出なかった。

 

故に可能性があるならその可能性に賭けたいと思うのがツバキの心情だった。

 

「……確かに。彼の記憶を取り戻せる可能性はある。だけど推奨はしないよ。」

 

「……そうですか。」

 

サカキは冷たく言い放った。リスクが高すぎると。

 

「とにかく出所を探ります。被害を抑える為にも。」

 

「うん。頼むよ。」

 

そう言うとツバキは支部長室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我ながら何を言ったんだか…」

 

エレベーターの中で自虐するようにツバキは呟く。

 

だが彼女の右手は強く握りしめられていた。

 


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