「やっぱ硬いな。」
「グッ…」
アルダノーヴァに乗るヨハネスから苦悶の声が上がる。
シオの兄を名乗るアラガミに乗っ取られたライの猛攻は着実に、そして確実にアルダノーヴァを追い詰めていた。
ゴットイーターとはいえ尋常じゃない瞬発力を発揮するライに翻弄されさらにアラガミの力が加わったのか振り下ろされる神機の一撃が強力になっているのが要因だろうか。
「クッ…だがその動きは彼の肉体に大きく負担をかけているの筈だ。」
「だろうね。多分しばらくは筋肉痛に悩まされるんじゃないか?宿主がだけど。」
「まぁ今更だろ。宿主様はとっくの昔に“壊れ狂って”いるし。」
「なんだと?」
「それより体力は戻っただろ?いい加減戦線復帰してよ。宿主様の仲間達。」
ヨハネスの問いに答えることなくライはソーマ達に問いかける。
「言われなくとも…」
ソーマの返事に呼応するようにアリサ達も各々の神機を構える。
「戦意は上々。これなら大丈夫か。」
歪むような笑みを見せるライ。本来のライが見せることがない表情がこの場にいる者たちに今のライが別人だということを思い知らせる。
「さて、時間もないことだし、手っ取り早く済まそうか。…今ならまだ間に合うし。」
「愚かな。何度も言うがこのアルダノーヴァには君たちでは倒せない。終末捕食もじきに起きる。戦う前からすでに積んでいるのだよ。」
「そうだな。確かに積んでるかもしれない。」
「だがそれは誰が決めた?」
「…なんだと?」
「可能性は確かに低いかもしれない。無駄な努力かもしれない。」
「だが意味がないとは限らない。」
「人は…人類は可能性を求め続ける生き物だ。アンタもその可能性を信じた結果ゴットイーターを生み出した。」
「まぁ愛する妻を失った挙句こんなバケモノに変えてしまったんだけどね。」
「っ…貴様!!」
まるで挑発するようにそして嘲笑うように話すライに頭に血がのぼるヨハネス。
「よそ見してるんじゃないわよ!!」
「グッ…」
突然の銃撃がアルダノーヴァを襲う。
ライが挑発している隙にサクヤとコウタがアルダノーヴァの背後に移動していたのだ。
「小癪な…!!」
すかさず女型がサクヤ達の方に向かうがそれをアリサが立ちはだかる。
「ク…洗脳人形風情が!!」
「確かに私は貴方やオオグルマ先生の操り人形でした。いろんなことを刷り込まれて勘違いした誰よりも弱い子供でした。」
「でも私は変われた。アナグラの人たち。第1部隊の人達と出会えて私は本当の意味でゴットイーターになれました。」
「ゴットイーターは人類最後の守護者。ならば多くの人類を滅ぼすアーク計画を認めるわけにはいきません。だからアーク計画を認めるわけにはいかないんです!」
「俺も一度はアーク計画を認めたけど、今ならこの計画がおかしいのがわかるよ。」
アリサの発言に続くように次はコウタが口を開く。
「俺はバカだし弱いから人類が安心して暮らせる世界もいづれ誰かが作ってくれると思ってた。俺の家族が安心して暮らせる世界が作られるなら俺はどんなことでも手伝おうと思ってた。」
「でも違った。母さんと妹が教えてくれたんだ。母さん達が願ってたのは家族で普通の日常を過ごすことだったんだ。確かにアラガミのいない世界もほしいけど母さん達はそれ以上に家族として普通の日常を過ごしたかったんだって。」
「愚かな。その日常も必ず終わりがくる。この終わった世界では未来も希望もないのだ!!」
アリサとコウタの本心を聞いてもヨハネスはそれを否定する。
「それが貴方の限界ですよ。」
そういうのはライだった。しかし声色はいつもの落ち着いたもの。どうやらいつものライに戻ったようだ。
「人類は未来を求める生き物だ。今日が駄目でも明日、明日よりも明後日、その先の未来にはたくさんの可能性がある。」
「貴方はその可能性を否定し、逃げ出そうとしている。貴方はこの世界の存続を諦めた。だけど貴方が諦めただけで他の人達は諦めてない。」
「ならばこの世界にも多くの可能性を持っている。それを否定することは貴方にもできないはずだ。」
「なにを言おうとアーク計画は始動し終末捕食は発動する。もうなにをしようがもうこの世界はおしまいだ。」
「なら僕は…僕たちはその終わりに反逆する。言ったはずだ。我々はゴットイーター。神に抗う反逆者だと!!」
人類史において神は崇拝する存在。その崇高な存在に仇なすことは反逆に他ならない。
「話にならん。君は利口だと思ったがここまで愚かだったとはな。いいだろう一思いに終わらせてやろう。この私の手で!!」
女型を呼び戻し、二体でライに迫るアルダノーヴァ。だがライは恐れない。
「終わらせるのはこちらだ。バケモノ。」
一瞬、辺り一帯が閃光に包まれた。
「なっ!!?スタングレネードだと!?」
閃光の正体はスタングレネード。アラガミの動きを一時的に封じるアイテムだ。
そしてその一瞬は極東最強のゴットイーターたちには十分だった。
「アリサ!!」
「はい!!」
サクヤとコウタが弾幕を張りアリサはアルダノーヴァの真下から撃ちまくる。
「この程度の攻撃が効くわけが…!!」
「いいや。終わりだ。」
ライの言葉の後、女型の断末魔の叫びが響いた。
閃光が晴れる。女型は肩から斬り裂かれていた。
「アイーシャ!!」
「余所見してんじゃねぇよ」
ヨハネスの乗る男神の目の前にはソーマが大剣を振り上げていた。
「終わりだ。クソ親父!!」
力強く勢いよく振り下ろされた大剣の一撃はアルダノーヴァの強固の防御を突破し、その肉を切り裂いた。
次回で無印が終わる…予定?