「これがアーク計画の全容よ。」
ターミナル越しに映るサクヤとアリサからエイジス潜入で得た情報を聞くライ。
ターミナルはライの部屋のものでその部屋内にはコウタとソーマの2人もいた。
「チッ…あの野郎が考えそうなことだな。」
「そんな…エイジス計画は元から存在しなかったなんて…」
異なる反応を見せるコウタとソーマ。
「なるほどあのリストはその箱舟に選ばれた人の一覧だったんですね。」
「ええ。本来なら私達も貴方達も助かる側の人間だったってことね。でもおそらくだけど私とアリサはリストから外されたと思うけど。」
「そうでしょうね。それで2人はこれからはどうするつもりです?」
「私達はもう一度エイジスに潜入できないか経路を探すつもりです。」
「ええ。全容を知った以上、このままなにもしないわけにはいかないわ。貴方達は貴方達で決断しなさい。これは誰かに決めてもらうのではなく自分で決めるべき選択だろうから。」
アーク計画の遂行と阻止。この二択の結末は大きく異なる。
故に簡単に決めてはならない。無論長考する時間もあまりないのかもしれないが。
「俺はお前らと違って産まれながらにしてのアラガミだ。そんな俺が新たな世界で生きていけると思うか?」
「…それでも貴方のお父様は箱舟の一員に貴方を組み込んだわ。」
アーク計画というより父親に反抗しているソーマは既に否定派に回っている。しかしヨハネスはアーク計画のリストにソーマの名を入れたのは父の思いなのかそれとも…
「とにかく貴方達がどんな選択をしても私達は恨んだりしないわ。」
「もしも私達の邪魔をしに来たらその時は全力で相手をしますけどね。」
「アリサ!!」
「じゃあその時はこちらも遠慮なく相手してあげるよ。」
「じょ…冗談ですよ。さすがにリーダーを敵にまわすのは怖いですし…」
ライの布告に狼狽するアリサ。確かに特殊な力を秘めたライを敵にまわすのは末恐ろしいだろうが。
「多分通信はもうできないと思うわ。それじゃあね。」
通信が切れる。同時にソーマはライの部屋を出て行く。
「ソーマ。」
「俺はあの野郎が造った箱舟に乗るつもりはない。」
ライが呼び止めるもソーマはそう一言言い出て行った。
残されたのはライとコウタだけ。
「俺は…」
暫しの沈黙のあと、コウタは口を開く。
「俺は…アーク計画にのるよ。」
「コウタ。」
「俺ってバカだからさ。難しいことはよくわからないけどアーク計画が正しい計画じゃないことは分かってるつもりだよ。」
「でもこの計画に乗れば俺の母ちゃんと妹が助かるんだろ?」
「俺がゴットイーターになったのも母ちゃんと妹が安心して暮らせる場所を作りたいからだったからでさ。だからエイジス計画の話を聞いた時はどんなことも頑張ろうと思ったんだ。」
「そのエイジス計画が最初からなかったのはショックだけどアーク計画に乗ればアラガミもいなくなるし母ちゃんと妹も安心して暮らせる世界になるんだろ?」
「だったら…俺…アーク計画に乗るよ。」
コウタは自分が言うほど頭が悪くはない。
自分の力量と他人の力量を把握できると言うことは自分の出来ることとできないことを正確に判別できると言うことでもある。
少しばかり自分の力量を過小評価しているところがあるが…
「そうか。」
「…止めないのかよ?」
「君が決めたことに僕が口出しする義理はないよ。それがコウタの道と言うのならその道を行く進むといい。」
コウタも部屋を出て行き1人になったライ。
ライ自身はまだ答えを見出してはいなかった。
アーク計画…アラガミが食い合うことで最後に到達するとされるアラガミ『ノヴァ』が特異点を得た時に起こる『終末捕食』により地球上の全てを無(リセット)しその後特異点の情報を元に生命の再分配が成される。
その際一定数の人類を宇宙へ逃がし終末捕食による生命の再分配が終了した時に地球に帰還させるという壮大な計画。
終末捕食が起きれば当然人類もアラガミも例外なく無に戻るだろう。それは多大な犠牲ともいえる。
しかし宇宙に逃げた人類はアラガミもいない理想郷を手に入る可能性がある。
多大な犠牲を払って少人数の人を救うのは善か悪か…
しばらく部屋にいたライだがとある人物に呼ばれた。
その人物が指定したのは“支部長室”。
「失礼します。」
「やぁ待っていたよ。」
支部長室に入るとこの部屋の“主”がいた。
「足を運んでもらってすまない。」
「気にしないでください。任務も終えて暇を持て余していましたので。」
「…なにか考え事かな?いつもより表情が険しく見えるが。」
「そんなところです。それで僕を呼び出した案件は?」
「なに君にアーク計画に“協力”してほしいと頼むつもりだったがことの事情は既に聞いてるのだろう?」
「ええ。アーク計画の全容も発動の際の多大な犠牲もなにもかも聞いています。」
「そうか。なら話は早い。君にアーク計画に協力してほしい。既に箱舟には君の席は用意されている。」
「エイジス計画には限界がある。だがアーク計画にはその問題はない。どちらが最適かは明白だと思うが?」
「そうですね。貴方の言う通りエイジス計画には未来は“ない”。それには賛同します。」
アラガミは日に日にその種を増やしている。それは新たな偏食因子が生まれているともいえる。
仮にエイジスが完成してもいずれ新種のアラガミによって“壁”を破られる。それは完成して10年後か100年後かはたまた1週間後か。
「やはり君も気づいていたか。ならばアーク計画も…」
「しかしアーク計画も問題は山積みですよ。正確には終末捕食後ですが。」
「仮に多大な犠牲を払ってリセットした地球には生き残った人類が生活できるでしょうか?酸素や水がなければ人類は生きていけない。さらに生まれ変わった大地に食物は育つのか。」
新たに生まれた世界での問題を上げていくライ。それを聞くヨハネスは口角を釣り上げる。
「やはり君は賢い。その先のことを見据えているとはね。」
「だがそれは人類が“神”から授かった叡智がある。その叡智を結集すればきっと君の言った問題を解決できると信じている。アラガミを倒すためにゴットイーターを生み出したようにね。」
「だがそれには多くの叡智…知恵が必要だ。君はその知恵を持っている優秀な存在だ。だからこそ君は私と共に新世界に向かうべきだ。」
「十分身勝手な言い分ですね。選ばれし人類とは言いかえれば貴方にとって“都合がいい”もしくは操るための“人質”のように聞こえますが。」
「そうかもしれないな。だが君のその客観的にかつ俯瞰して物事をみる君の思考力。それは失ってはいけないものだ。」
ライは別にアーク計画を否定しているわけではない。ただ単に俯瞰して物事を見てそれで気づいたことを口にしている。
「この壁画を見てごらん。」
ヨハネスはそう言い飾っている壁画を指差す。
絵は嵐のような大洪水に一枚の板が描かれていた。
「これは『カルネアデスの板』と言うものでね。ギリシャの哲学者であるカルネアデスがある問いを生んだ。」
「この板に捕まれるのは1人だけ、だがその板を見つけたのは2人。2人が掴まれば板は沈没してしまう。」
「簡単に言えば自分の命のために他人を蹴落とすのは悪か?君はどう思う?」
問われ暫し考えるライ。
「逆なのかもしれません」
「なに?」
「要はどちらが助かるかと考えるのではなくどちらが“苦しむ”かですね。」
「死ぬために短い苦しみを味わうか、生きるために長い苦しみを味わうか。」
「ほう。」
一見的外れに見えるライの返しにヨハネスは理にかなっているとも思えた。
死んでしまえば明日はないが短い苦しみですむが生きればこれからも苦しむことが訪れる。
助かる側のことしか考えていなかったヨハネスにとってライの返答は目から鱗ものだった。
「失礼します。」
支部長室を出るライ。アーク計画の参加は保留とした。
「死んで楽になるか、生きて苦しみ続けるか…」
カルネアデスの板について思想した時、ライの脳裏にある“光景”が映った。
一見焼け野原のように見え、その地に横たわった人の山。
そして自身の手にも“血に染まった少女”がいた。
「っ……!!」
気づくといつもの廊下に戻っていた。
「今のは…一体…」
脳裏の光景がなんなのか今のライには分からない。だがライの手には“誰か”を抱えた感触が確かにあった。
今のライは知らない。
かつての自分がカルネアデスの板に掴まったことを…
ゴットイーターと人類の違いって身体強化とアラガミ化以外にありますかね?
ゲームで思ったけどクアドリガのミサイルをモロに食らったら普通に肉片も残らない気が…
やっぱ耐久力が高いのかな?というか耐久力関係あるのか?
それとも突っ込んじゃいけないことか?