フェンリル極東支部医務室
そこでライは目を覚ました。
『……」
まだぼんやりとしているのか身体を動かさない。
「なんか数日に1回ペースでここで寝てる気がするな…」
ようやく意識がハッキリとして頭が回り始めたのか、そう呟く。
「さてと…」
ベットから起き上がり降りるライだが足に力が入らないのかうまく立ち上がることができずそこでヘタリ込む。
「あれ?」
何度立ち上がろうとするも足が震えうまく立てない。まるで生まれたての子鹿のようだ。
何度挑戦してもうまく立ち上がれないライ。仕方ないので足の力が戻るまで床にへたり込んだままでいることにした。
「リーダー?起きてますか?」
そうしていると遮られたカーテン外からアリサの声が。
開けますよ。と一言断りを入れるとカーテンが開く。
当然開けた本人はアリサで彼女の目先には床にへたり込むライの姿。
「リーダー!!?」
「えっと…おはようアリサ。」
「あ、おはようございます。…じゃなくて!!」
「なんでベットから下りてるんですか!!?」
ライの状態に驚いたアリサだが当人であるライは的外れに挨拶をする。あまりに普段すぎたのでアリサも普通に返事を返してしまった。
「いやね。なんか足に力が入らなくてね。」
「当然ですよ。丸一日身動ぎすることなく眠ってたんですから。」
「でもよかったです。見たところ“リーダー”みたいで。」
心配と安堵を入り交えながらそう言うアリサ。
「とにかく今日までは医務室で大人しくしててください。脇腹の怪我がまだ治ってないですし。」
『脇腹?」
アリサに言われ脇腹に手を当てるライ。確かに包帯が巻かれている感触があった。
「全然気づかなかった。」
「気づかなかったってかなりの大怪我ですよ!?…私のせいだけど。」
「?まぁ痛みがないならたいしたことないだろ。」
「ダメです。肩を貸しますから今日は医務室にいてください。医療班とサクヤさん達には私が伝えますから。」
「………」
「納得してませんね。ちゃんと医療班から太鼓判をもらわないと任務に出れませんよ?というか私が許しません。」
「……わかった。」
「わかってくれたらいいです。」
結局アリサの肩を借りて再びベットに横になったライ。横になったらまた眠気が出てきたのかそのまま眠りについた。
「本当によかった。」
眠りにつくライの顔を見ながらアリサは優しく微笑んだ。
「オニイチャン!!」
「おっと。」
翌日、医療班から太鼓判をもらって退院したライはサカキの研究室を訪れていた。
そして入室早々シオに抱きつかれて少しよろめくライ。しかしシオは気にすることなくライの胸に耳を当てるように抱きついている。
「やぁ元気そうで何よりだよ。なんか刺されたとは聞いてたけどたいしたことではなさそうだね。」
「どうでしょうね。痛みがないから大丈夫なのか感覚がなくなっているだけなのか。」
2人の様子を見ていたサカキがそう言うがライは肩を竦めながらそう言う。
「痛覚が鈍っているということかい?」
「そこまではわかりません。医療班に採血されたのですが痛みは感じなかったので。」
「ふむ。」
なにやら考えこむサカキ。ライはそんなサカキを気にすることなく、未だ抱きつくシオに目を向ける。
シオは相変わらずライの胸に耳を当てまるで鼓動の音を聞いているように見える。
だがそんなシオを見るライの口角が歪んだ。
「美味ソウダナ…」
「……!!」
ライが小さく呟くとシオは突然まるで弾かれるようにライから離れた。
「ん?どうしたんだい?」
「イマ…オカンガハシッタ。」
物思いに耽っていたサカキがシオに問いかけるとそう返すシオ。
「悪寒?」
「シオ?」
少しばかりライを警戒するシオ。アナグラに来るまで1人で生きてきた彼女の危機管理能力は侮れない。
「ちょっといいかしら?」
サカキの研究室を出てエントランスに向かっていたライだがちょうどライを探していたのかサクヤと出くわした。
そしてそのままサクヤの部屋に連れてこられたライだがサクヤの部屋には先客がいた。
「あ、リーダー。」
「アリサ?君もサクヤさんに?」
「いえ、私は…」
「アリサは少し私の調べ物に協力してもらったの。」
「そういえば何か調べてましたね。もしかしてリンドウさんの?」
「よくわかったわね。まぁとにかくこれを見て。」
そう言うとサクヤはターミナルを開いた。
「これはレポートですか?その他にもいろんなファイルがあるようですが。」
「ええ。どうやらリンドウは誰かの密命でエイジスについて調べていたようなの。その際に“アーク計画“というのを知ったみたい。」
「アーク計画?エイジス計画ではなく?」
レポートを読み進めていくとこのレポートには”アーク計画“と”エイジス島潜入”について書かれていた。
「アーク計画…方舟の計画か。」
「次にリストファイル。このリストが何を意味するかはわからないけど私たちも入ってるわ。それとエンジニアや医師にその親族など。」
「それはアーク計画の協力者もしくはアーク計画に必要な人材。それかブラックリストといったところでしょうか?」
「そうね。断言はできないけど。」
「そうですね。でも断言するにはエイジス島潜入しかないでしょう。でもこれだけは言えます。」
「エイジス計画はアーク計画の隠れ蓑に使われている。」
そもそもエイジス計画は存在しないとは決して言わないライ。これもエイジス島に潜入しなければわからないからだ。
「さて、これからどうするか?それは2人で決めてください。」
「リーダー?」
「あいにく僕は上層部…特に支部長に気に入られている。迂闊には動けない。」
「そうね。貴方はアナグラに残るべきよ。ただ貴方にもリンドウが何をしようとしていたのか知ってほしかったからここに呼んだの。」
「そうですか。じゃあ行くなら僕はこれしか言えないですね。」
「死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そして必ず生きて帰ってこい。」
リーダーらしくそう命じるライ。だが自身の“終わり”を望んでいる当人が“生”の言葉を使って激励することがあまりに滑稽に思えたライであった。
ゴットイーターの終わりってどんな感じなんだろうと最近になって思う。
レイジバーストで聖域ができたおかげで終末捕食が緩やかになったとかいってましたから終末捕食の心配はないのかな?
なら聖域が広がれば万事解決?なのか?