「呼び出してすまない。昨日は大変だったようだね。」
プリティヴィー・マータ戦の翌日、ライとアリサを除く第1部隊のメンバーはサカキの研究室に呼び出された。
「リーダー君はともかくアリサ君もいないけど、どうしたんだい?」
「それがいくら呼んでも部屋から出てこなくて…」
「そうか。まぁいい。君たちを呼んだのは昨日のアラガミ討伐についてだ。君たちが討伐しているときにシオが不思議なことを言いだしてね。それにヒバリ君とリッカ君からもおかしな報告が入っているんだ。」
「そういえばそのシオはどこに?」
「シオは今は就寝中だよ。昨日リーダー君が会いに来るのをずっと待ってたんだけどね。」
「話を進めるが昨日リーダー君におかしなところとかなかったかい?」
「おかしなところですか?」
「なんでそんなことを聞く?アイツに何か疑いでもかけられてるのか?」
サカキの問いにソーマがそう問い返す。確かにサカキの問い方はライを疑うような言動にも聞こえる。
「疑いね。君たちの返答によってはそうなるかもしれないね。」
「え!?」
「……どういうことですか?」
サカキの肯定ともとれる返答にコウタは驚きを隠せず、サクヤは静かに怒りを露わにしていた。
ソーマに至っては鋭い眼光でサカキを睨みつけている。
「待ちたまえ。私としてもまだ疑う以前の問題だ。ただ不可解な報告が上がっているのもまた事実。だから君たちを呼んだんだ。」
「…分かりました。昨日の彼の様子はいつもと変わりませんでした。ただ討伐終盤から…」
「うん。プリティヴィーマータを倒す時はいつもと違ったと思う。アラガミを一撃で真っ二つにするなんてスゲーと思ったけどリーダーがそんな芸当できたことに驚いたし。」
「……真っ二つだって?」
サカキが耳を疑うのも無理はない。
アラガミは複数のオラクル細胞が結合することで形成される。しかもオラクル結合はそう簡単には解けないし結合崩壊も何度も攻撃を与え続けてようやくできる。
それがたった一撃で強固のオラクル結合を突破するとはアラガミ討伐の常識ではありえない。
「ああ、リーダーが勢いよくアラガミに突っ込んだ時、奴の神機の刀身が赤く染まっていた。その神機を居合いだったか?そんな構えで一閃したらアラガミは見事に両断された。」
しかしサカキがそう考えつつもソーマがさらに詳細を伝えることで納得せざるを得ない。実際にそれは起きたことでもあるし自身の前に実際その瞬間を見た3人がいる。
「そうか。いやーすまない。まさか予想を遥かに超える返答で驚いたよ。」
「御託はいいからなんでリーダーのことを聞いた?」
「実はヒバリ君からの報告でアラガミを倒す寸前、君たちのすぐ近くに新たなアラガミの反応が出たと連絡が入ってね。同時にリーダー君の腕輪から偏食因子の大量投与も確認された。」
「最初こそ誤作動だろうと思ってたけど君たちの話を聞く限り、おそらくだけどリーダー君は一時的にアラガミ化したと考えられる。」
「アラガミ化…」
「完全なるアラガミ化ではない。半アラガミ化といった方が正しいかもね。これがヒバリ君からの報告だ。次はリッカ君からの報告なんだけど、リーダー君の神機の近接パーツがかなり損傷していたらしい。多分、アラガミを両断するときに彼の神機もかなり無茶したということだろう。」
「そしてシオから“おにーちゃんオキタ”と言われてね。」
「へ?どういうこと?」
「おにーちゃんが起きた?」
「………」
シオのナゾの言葉の羅列に首を傾げるサクヤとコウタ。だがソーマだけはお兄ちゃんがライを指してないことを知っていたため困惑も驚きもなかった。
「事情は分かった。聴きたいことはこれだけだ。ありがとう。」
「待ってください。リーダーが仮にアラガミ化したというのならなんでリーダーは人のままを維持してるんですか?」
「サクヤ君。これはあくまで推論だ。だけどリーダー君はアラガミ化したことによる消耗で今も昏睡状態にあるのならある程度納得がいく。」
サカキが言う通り現在ライは医務室で眠り続けている。帰投ヘリに乗って眠りについてから一度も目を覚ませていない。念のため医療班がライの体調を調べたが低体温症以外は異常は見られなかった。
「健康面は落ち着いてるからしばらくしたら目を覚ますと思うが君たちもリーダー君を気に掛けてくれ。」
「………」
ゆっくりと瞼を開ける。視界はまだ焦点が定まらない。
嗅覚は正常に機能してるのか薬品の刺激臭がすることでここが医務室であることがわかる。
それでも身体の怠さが取れないのか未だにライは起き上がることができずにいた。
10分かけ、ようやく身体を起こしたライ。だが視線は未だに虚空に向けられていた。
「あ…リーダー…」
「……アリサ?」
しばらくするとアリサが医務室に入ってきたその表情は何故か暗い。
「よかった。帰投ヘリから一度も起きなかったから心配してたんです。」
「ああ、ごめん。あの時は寒気とダルさと意識が朦朧としてたから帰投ヘリに乗ったら安心してね…」
「…大丈夫ですか?」
「少なくとも今のアリサよりは動けると思うよ?」
「………」
「とりあえず座りなよ。」
とりあえずアリサを椅子に座らせる。アリサが此処に来たのも恐らく自分に相談があるからだろう。
「あの…リーダー、前に私に復讐心に囚われるなと言ったこと覚えてますか?」
「似たようなことを言ったことがある気はする。」
「そうですか。私もそう思ってました。アラガミを何度倒しても結局は形を変えて復活する。終わりのない復讐に意味なんてないとリーダーに言われて気付きました。」
「でもあのヴァジュラが姿を見せた時、私の中からドス黒いものを感じたんです。両親の仇と遭遇して怒りと恐怖心を感じました。もし体力の消耗がなければきっと飛びかかっていたと思います。」
独白するアリサの話に耳を傾けるライ。いづれは対峙しなければならないと思っていたアラガミと遂に対峙することになったアリサの心情は計り知れない。
「私がゴットイーターになったのは少なくとも両親に仇をとる為ではありました。でもいざ対峙して戦った時、私は正気でいられるか分からないんです。」
「その点は大丈夫だろう。いや、だと思う。」
「え?」
「前のアリサは1人で全て片付けようとしてたけど今は周りとうまく連携を取ろうとしてる。多分あのヴァジュラも皆で協力すれば倒せないことはないと思う。」
まぁどんな能力も持っているかは知らないけどね。と付け足すライ。だがライには自信があるのかまったくネガティブな様子はなかった。
「それに仮にアリサが暴走しても僕はバックアップに入るし、サクヤさんがきっと止めてくれる。コウタもそうだろうしソーマも悪態をつきながらも協力してくれる。」
「だから安心して暴走してくれとは言わないけど積極的に動いてくれて構わない。」
多少冗談にも聞こえる発言を交えながらアリサを慰めるライ。効果は覿面のようでアリサから暗い表情が消えた。
「なんですかそれ。まるでいつも私が暴走してるように聞こえますが。」
「でもそうですね。私には頼れる仲間がいる。そのことを忘れてました。」
「でもそれはリーダーにも言えることです。あとソーマも。なんでも1人で決着をつけようとしないでください。昨日のあの技はすごかったけど。」
「昨日の技?」
「え?覚えてないんですか?アラガミを両断したアレですよ?本当に凄かったのでできるなら教えてほしいくらいです。」
「そんなことしたかな?あの時のことはあまり覚えてないんだ。でも一時的だけど力が漲る感覚はあったけど。」
昨日の戦闘の終盤は覚えてないというライ。だがアラガミ討伐後には意識が朦朧としていたのなら無理もないのかもしれない。
「でもきっとその力は危険な力だと思う。アリサは覚えたいと言ったけど覚えない方がいいよ。確証はないけどね。」
例の一撃を危険な力と分析するライ。一撃必殺の攻撃の代償としてライの体力の大半を失った。今回は体力で済んだが次回同じ力を使った場合次は何が代償となるのか。それをライは危険視していた。
しかし既にライはその”禁忌“と呼べる力を有してしまった。きっとこの力がライを蝕むことは避けられぬ現実だろう。
思ったのですが新型神機と旧型神機の偏食因子に違いがあるのでしょうか?
ブラットの偏食因子はラケルが感応現象が発生させやすくしたのかわかりませんが手を加えたことで血の力を生み出しました。
感応現象は単に記憶や過去を見る力でしかないのに戦闘に役立つ力に昇華させたラケルはやはり天才なのでしょうね。まあp73偏食因子のおかげで頭のネジが10本ほど外れてますが。
うーん。ブラットとクレイドルならやっぱクレイドルの方が強いですよね。
経験の差が大きいし、連携においても差がありそう。
やっぱ極東最強のチームはブラット込みでもクレイドルかな?