「やぁヨハン。」
「来客とは君だったか。ペイラー。」
ライが支部長室を出てから入れ替わりに入ってきたサカキ。ヨハネスも旧友を迎え入れる。
「さっき新型の彼とすれ違ったけど、……彼も“そちら側”に引き入れようとしていたのかい?」
「何のことかな?それより君に頼んでいる“例の件”の報告が届いてないがそちらはどうなっている?」
「ああ、『特異点』のことかい。これといって成果はないね。」
「そうか。引き続きよろしく頼む。」
旧友のはずなのにお互い探りを入れるように話す2人。その関係はどうにも敵対者にも映る。
「君も君で探してるようだけどそちらこそ首尾はどうなんだい?」
「同じようなものさ。やはりソーマだけでは“ままならない”ようだ。」
「……だから彼を“手駒”として引き入れようとしたというわけかい?」
「言い方には気をつけてほしいな。『スターゲイザー』。君は今までどおり“観察”に徹していればいい。いままでもそしてこれからも。」
明確な拒絶を見せるヨハネス。やはりこの2人には大きな隔たりがあるようだ。
「分かっているさ。私は観察者。この世界における森羅万象全てのものが私の観察対象だ。」
「故に興味深い“観察対象”を無碍に扱ってほしくないだけさ。」
「忠告感謝する。肝に銘じるとしよう。しかし差異はあれど君の思考は“アスプルンド博士”に似てきたな。」
「私は博士の論文や研究内容はすべて読みあさったからね。それは褒め言葉と受け取ろう。」
「それでは今後も『我々』のなす計画を観察者として見守ってくれたまえ。」
一時的に友人のような会話が入ったがそれはすぐに終わり、サカキは支部長室を後にする。
支部長室に出てサカキは小さく呟く。
「さて、君はどちらにつくのかな?“新米リーダー”君?」
ヨハネスとペイラーが話している頃…
彼等が共に味方につけたいと思っている“新米リーダー”はというと……
「これでいい…んだよな?動画を観るとかしたことなかったから分かりにくい。」
自身の部屋のターミナルの前に立ち、拾ったディスクの動画を観る準備をしていた。
「これで再生を押せば…」
多少の四苦八苦しながらも再生ボタンを押すライ。
同時に動画は再生された。
最初に映ったのはアラガミ…オウガテイルの解剖の実験映像だった。
しかしアラガミから黒煙のようなものが出てきて解剖していた科学者が苦しみだした。
そこで慌てふためく科学者が出てきて映像が止まる。実験が失敗したのは誰が見ても明白だった。
次に次に映った映像は支部長室で話あう3人の科学者だった。
1人はフェンリル極東支部支部長を務めるヨハネス・フォン・シックザール。
1人はフェンリル極東支部でアラガミ技術開発統括責任者を務めるペイラー・榊
そしてもう1人は黒髪で褐色肌の眼鏡を掛けた女性。
「やはり成体への偏食因子組み込みは難度が高いわね。」
「投与してもアポトーシスが誘導されにくいようだね。やはり胎児段階での投与がより確実じゃないかな。少なくともラットでは成功している。」
先の実験失敗で改善案を話あっているのだろうか。少なくともライにはその程度しか理解できなかった。
「…どちらにせよ。人間による臨床試験は必要だろう。」
「原理を分からないものを分からないまま、使うアプローチすべてを否定するつもりはないけどそれは時期尚早じゃないかな?」
「P−73偏食因子の解明は始まったばかり。もっと研究してある程度謎を解いてからでも遅くはないと思うけど。」
「1日約10万人がアラガミに捕食されている状況だ。悠長なことを言ってられない。」
共に意見をぶつけ合うヨハネスとサカキ。頭を抱えるように考える女性。
「……もう少し早くP−73偏食因子が発見されていれば“博士達”の意見も聞けたのかしら?」
「アイーシャ。今更“行方不明”になった博士達のことを言っても意味がないだろ。私もできることなら博士達の研究資料を得たいところだが研究施設も既にアラガミに破壊されている。恐らく何も残ってないだろう。」
「……そうね。ごめんなさい。」
ヨハネスからアイーシャと呼ばれた女性は一言謝り、覚悟を決めたように言う。
「ヨハネス。私の…私たちの子供に投与しましょう。」
「本気か?いくら発案者が君とはいえ、私たちの子供を…」
「誰かが渡らなければならない橋よ。それなら私たちが‥」
『しかし…」
「合理的ではあるけど…賛同しかねるね。」
アイーシャの提案に難色を示すヨハネスとペイラー。当然だろう。やろうとしていることは何が起こるか誰にも分からない未知の実験なのだから。
「今後生まれてくる子ども達に滅びゆく世界を見せるつもりはないわ。」
「私は支持しよう。」
しばしの沈黙のあと、ヨハネスはアイーシャの提案を支持した。
「ヨハネス…」
『両親共に賛同か。…説得の余地はないようだね。」
そう言うと立ち上がるサカキ。
『ならば私は降ろさせてもらうよ。私と君たちでは方法論が違いすぎる。」
「サカキ‥」
「私はどんな時でも“スターゲイザー”星の観察者なんだ。君たちの重大な選択に介入するつもりはないよ。」
「私は私なりのやり方で偏食因子の研究を続けていくよ。またどこかでが交じり合うことがあるだろう。それじゃあ失礼。」
そこで映像が途切れる。しかしサカキとシックザール夫妻が決別した瞬間だった。
また映像が映し出される。次に映ったのは病床にいるアイーシャだった。
『気分はどうだ?」
「うん。体調もいいし…早く産まれてきてね。」
そう言い自身の大きくなったお腹を撫でるアイーシャ。この撮影はどうやら出産前日に行われたらしい。
「サカキは?」
「安産の御守りが届いたが音信不通のままだ。」
「そう…やっぱり私たちが計画を強行したのを怒って…」
「今はそんなことを考えるな。身体に障る。」
『ええ。御守りは貴方が持ってて。」
『わかった。」
そこで映像が途切れる。
次に映ったのはヨハネスだった。
『久しぶりだね。ペイラー。」
『君も知っていると思うが『マーナガルム計画』は完全に凍結された。」
『あの忌まわしい事故で生き残ったのは生まれながらに偏食因子を持った“ソーマ”と君の“作った”安産の御守りにより護られた私だけだ。」
「君の作った御守りの技術が今や人類を守るアラガミ装甲壁となるとは…科学者として私は君に敵わないと痛感したよ。」
「このメールを送ったのは他でもない。君の力を借りたいからだ。」
「私は近々フェンリル極東支部の支部長に任命される。君には極東支部のアラガミ技術開発統括の主任を任せたい。」
「勿論。報酬も用意する。君の研究の研究資金と神機使い、ゴットイーターの開発統括といったところだ。無論、他に要望があるならできる限り応えよう。」
「そういえば君に息子を紹介していなかった。近いうちにソーマを連れて君に会いに行こう。それじゃあまた。」
そこで映像が途切れる。そしてサカキからのメッセージらしきものが出た後再生が完全に終わったのか停止した。
「支部長とサカキ博士の確執、ソーマの『特別』の正体…か。」
映像を見終わったあと、ライは映像で得た情報を思い出していた。
「言うならソーマはゴットイーターの試作体(プロトタイプ)といったところだな。そして他とは違う能力を持っていると…」
オラクル細胞を投与したゴットイーターは高い身体能力を得る。しかしソーマはそれだけじゃなく範囲はどの程度かは不明だがアラガミを感知する能力を持っている。
実際エリックが食われる直前だが慌てて「エリック!!上だ!!」と言ったのをライは覚えている。
「死神、化け物、ソーマの悪名はよく聞くけど蓋を開ければそんなことか。」
周囲からは死神と呼ばれ恐れられ、自身は化け物と呼ぶソーマ。しかしライはなぜか未熟者という言葉が思い浮かんだ。
能力を生かしきれないからこそ守れるものも守れない。それは能力者が未熟だからだ。
「悪名か…吸血鬼に虐殺皇女、悪逆皇帝、裏切りの騎士…狂王」
なんとなく悪名を思い浮かべたライ。そして最後に呟いた狂王という単語に何故か愛着が湧いた。
マーナガルム計画の一環である偏食因子転写実験ってアラガミに捕食されない人体を作るそうですが実際にできていたらアラガミと共存できたのでしょうか?
下手したら人類すべてがラケル博士のようになるんじゃ…
なんかそっちの方が恐ろしい気がする。
ついでにオラクル細胞の大量発生はいきなり世界中に発生したのでしょうか?確か欧州から発生が広がっていったんだったかな?
それなら旧EUが秘密裏に生産していた細菌兵器が長い時間をかけて変異してオラクル細胞になったというのはありでしょうか?
というかフェンリル本部は欧州にあるそうですが本部の神機使いと極東の神機使いはどっちが強いのでしょう?
ブラットは元は本部直轄のフェンリル極致開発局所属ですので本部もそれなりの使い手はいるのか?
極東支部は言うなら実戦重視の叩き上げで本部はエリートとか?