Cross Ballade 2nd mov.(けいおん!×School Daysシリーズ) 作:SPIRIT
「とりあえず、原巳浜(はらみはま)駅まで送っていくよ」
夜の街灯が届かず、どこを向いても黒々とした海沿いの中。
浜辺からテトラポットを通過し、歩道近くに戻ってきた唯と誠。誠のほうが声をかけた。
「ありがとう、マコちゃん」
「こんなところにいたんですね」
急に2人に、冷たい声がかかった。
そちらを向くと、桂言葉と妹の心が立っていた。言葉は白を基調としたシックなロングスカートのスタイル。妹の心は、Tシャツに厚手のズボンというボーイッシュな格好。
「桂さん……」
「言葉……なんで……」
「考えてみたら、また心といたるちゃんを遊ばせればいいと思って、誠君の家へ向かったんですけど……いたるちゃんから、誠君が平沢さんと散歩に出かけたと聞いて、もしやと思って来たんです」
「べ、別にいかがわしいことしてないよ、桂さん。マコちゃんのお気に入りの場所ということでついていったというだけで」そのあと唯は、余計なことを言ってしまう。「桂さん、ここが気に入らなかったって、マコちゃん感じてたようだけど」
それを聞いて、言葉は眉の片方を上げた。
「あ……」
「……あのころは私、誠君に心を開いてませんでしたから。でも、こうしてみると、やっぱり海っていいですよね」
言葉は海岸沿いを向いた。夜は更けて、オニキスのような波が寄せては返している。先ほどまで人が歩いていなかったと思えるぐらいだ。
「そうやっていちゃいちゃして……」
「あ、あのね!」唯は耐え切れずにぶちまけてしまう。「私、マコちゃんとえっちしてないから!! 確かに駅のトイレで無理やり2人きりになるよう誘ったけど、断られちゃった」
「え……」
「あの時は西園寺さんにあおられて黙ってたけど、本当はトイレでマコちゃんにはっきり断られちゃったんだ! ごめん……今まで黙ってて……」
「……」
言葉は、注意深く表情を消す。やがて前に進むと、唯の耳元で囁くように言った。
「信じてはいませんが、自分からそう言ってきた勇気は評価します」
「え……」
「と、とにかく言葉」緊張の高まる2人を、誠はなだめてくる。「もう夜だから、とりあえず平沢さんを駅までは送るという形でいいかな」
「それならば構いません」
唯が絡むと、声が妙に低くなる言葉。どうにかならないものか。
とりあえず、誠が先導する形で4人で歩く。彼の後ろをすぐ唯がついていく。
「ねえ、お姉ちゃん」
「心?」
「いつまでこんないがみ合いを続けているわけ? こうやっていつまでも渋い顔をしてるの、誰よりお姉ちゃん自身が耐えられないはずだよ」
唯と誠の後ろで妹に切り出され、言葉も少し思案顔でうつむいた。何でここまで身構えなければいけないのか。
「……」
「学校で孤立していたお姉ちゃんが幸せを手にして、それを何としても守りたいというのはわかるけど」
「……。私が、欲しかったのは……」
彼の寝床で、再び2人きりになった言葉と誠。心といたるはリビングで遊んでいる。
「本当、またすまなかったな」
正直あのようなところにひょっこり飛び出たのがびっくりだったが、それでも誤解を与えてしまったのは、申し訳なさげに感じた。
「いえ……こちらこそ、急に来てしまいましたね」
言葉は小さく頭を下げる。
誠の母は看護師を務めているそうだが、これだけ格差社会と叫ばれている割には中流の生活を維持している気がする。青いカーペットは鮮やかだし、黒いテレビの下の棚にあるゲーム機は小ぢんまりとまとめられている。冬が近づいたこともあって、白い布で包まれた分厚い布団もふかふかだ。
「あれ、誠君?」
言葉がゲーム機の隣の、ワンピースやらるろうに剣心やら漫画がびっしり詰められた棚の左下に、小さなビニール袋が入っていることに気づく。白いがわずかに透け、大学関連の書物だということが彼女にも分かった。
「あ! それは!!」
誠が声を上げる前に、言葉は白い袋から書物を取り出す。どれもこれも大学のパンフレットだ。大方オープンキャンパスに行って手に入れたんだろう。
しかも、どれもこれも薬科大学か薬学部のものだ。
「誠君、薬学に興味があるんですか?」
誠は頬はおろか耳元まで、リンゴのように紅潮してしまい、
「変だろ、俺みたいなやつが……。大体俺が将来に向けて進路を決めるなんて、らしくないだろ……」
「ま、うちの学校はいい子ぶるとたたかれることが多いですしね。確かにそれだと『私はコレで学校を辞めました』となるわけにもいかないか」
プークスクスwwwと表現せんばかりに言葉は笑いながらも、榊野学祭直前、誠が進路指導室で熱心に職業関連の本を読んでいたのを思い出した。
(私も……。誠君のパートナー以外に、何になりたいんだろう)
ふいと思いつつ、さりげなく時候の挨拶でもするかのように切り出す。
「平沢さんとは、相変わらず仲いいんですね」
「やっぱり、話しやすいっていうのかな。いい笑顔だし。最近、ちょっと影が入っちゃったような気がするけど」
『あのこと』は、切り出さないほうがいいのか。
言葉はそう思う。別方向を向くと、真っ白な壁の中で、男性の拳が通せるほどの黒い穴が一つある。
「ほんと、すまないな」
誠がそう言ってきた。
少し無表情で俯く言葉。誠も複雑な気持ちになった。
が、5分ほどたって、言葉は穏やかな表情で彼と向き合った。目だけは非常に真剣であることに気づく。そらすことは許されない。
「誠君」穏やかだが、真摯な声を誠は受け止める。「『ニーバーの祈り』って知ってますか?」
「ニーバーの……祈り……?」
「アメリカの神学者ニーバーが作った祈りなんですけど、アルコール依存症克服の団体にも採用されてるんですよ」
「アルコール依存症、か……。彼らも、お酒をやめたいけど、なかなかやめられないんだろうな……俺と同じかもな……」
「だから、今の誠君にはいいと思ったんです。きっと、自分の弱さに悩んでいるだろうから……」
「俺だけじゃないよ。唯ちゃ……平沢さんは、もっと悩んでいるかもしれない」
「だからこそ、この祈りを教えるんです」
そこまで言うと、言葉は両手を組んで、目を閉じ、俯いて一節を口ずさんだ。
「『神よ、私にお与えください。
変えられないものを受け入れられる落ち着きを。
変えられるものは変えていく勇気を。
そして、2つのものを見分けられる賢さを』」
「変えられないもの、変えられるもの、か……」
誠は天井をにらんだ。
その様子を、きちんと見ている者がいた。
浮かない気持ちで、自分の部屋に入った唯。夜が更けているため、ピンク色のカーテンはすべて閉まってある。榊野生徒の常連となっていた清浦刹那も転校するという。梓から聞いた。
「お姉ちゃん」
唯に声がかかる。妹の平沢憂だ。姉によく似た茶髪ショートボブを、後頭部で黄色いリボンで一本に束ねてある。すでに紺色ブレザーの学生服から着替えて、桃色の部屋着に白いエプロンをかけた姿になっていた。
「憂?」
「榊野の清浦さんが、転校するみたいよね。梓ちゃんから聞いたよ」
妙に情報が早い。
「うん……」唯は少しうなだれ、「せっかく一緒に軽音部とのお茶会を楽しんで、せっかく仲良くなれたのになあ……」
「梓ちゃん、なかなか榊野の人達になじめないみたいだけど、清浦さんとはそこそこだったみたいだから」
憂の様子が気になった。榊野学祭のことがある。切り出そうとするより早く、憂が低い声で問いかけた。
「お姉ちゃん、やっぱりまだ、伊藤君のことが好き?」
唯には唐突に聞こえた。
「え? どうしてそんなことを?」
「いいから答えて」
「……。好きだよ」
何をいまさら、という思いがした。恋は破れているが、それでも付き合えるだけでうれしい。そういう思いと、そうあきらめてよいものだろうか、運は自分に味方してる気が。という思いが半々であった。
憂はしばらく黙る。少し空気が詰まった。
「そうか……そうよね……」
反芻しながらつぶやくように言った。
「憂……?」
何かあるのではと思う間もなく、憂は急に明るい声で、
「ちょっとお姉ちゃん、私のレシピ見てくれる? 放課後ティータイムで清浦さんのお別れ会を開くそうだから、何か手料理できないかと律さんに頼まれて、いろいろレシピを考えてみたの」
強引に手を引っ張られて下の台所につれられると、赤いA4サイズのノートがあることに気づく。開いてみると、インターネットで調べてプリントアウトしたと思しき、ローストチキンやチーズケーキの作り方が書かれてあった。
「憂、料理は上手いし、作ってくれるのはありがたいんだけど、お別れ会まで間に合うかなあ」
「大丈夫、なんだかんだでお姉ちゃんや梓ちゃんがお世話になってるし、しっかり恩返ししなければいけないと思うの」
少し声が棒読み気味な気もしたが、
「ほんと、ありがとう!!」思わず唯は妹の首に抱き着く。癖である。「憂の手料理と、マコちゃんの手料理とどっちがおいしいかなあ」
憂の体がわずかにこわばった気がしたが、すぐに力が抜け、
「いつか料理勝負するのもいいかもね。結ばれる運命だし」
「運命?」
「あ、いや、何でもない」
翌朝、誠と言葉が榊野学園の白い校門にたどり着くと、スーツに似た学生服、赤いネクタイを着た泰介と出くわした。あからさまに彼の表情が半泣きになる。
「結局、誠君に縫ってもらったんですよね、制服のズボン」言葉は苦笑いしながら、「山中先生が手縫いできないのはちょっと驚きでした。コスプレ好きなのに」
「ほんとよう、なんでなんだろうなあ……」
「ま、持つべきものは友と思いな」
誠は冗談半分にそう言ってすましてみる。
「にしても、清浦さんが転校ですか……。ほんと、寂しくなりますね。西園寺さんにはどれだけショックなことか」
すると、泰介は怪訝な目で彼女を見た。
「澤永さん?」
「いや……。桂さん西園寺と、誠を取り合った仲じゃないか。もう少しあの子のことを嫌ってると思ってたんだけど」
「いえ……。私にとっては、誠君を引き合わせてくれた大切な人なんです。もう少しお互い、素直な気持ちになれればと思ってるんですが……」
「……かも、しれねえなあ……。さわちゃんも桜ケ丘のほうの教師だから、あまり深入りはできないって言ってたし」ここで泰介は話題を変えて、「お別れ会を放課後ティータイムで開くことにはなったけど、俺たちが清浦にできることって、あるかな」
「私はレモネード以外、料理には自信がないけど」
「ほんとは俺もなんだよ、言葉」誠が口をはさんできた。「放課後ティータイムではそこそこ受けがいいんで、よかったとは思ってるんだけど」
「おめーが言うと嫌味だっつーの。それ以外にいっつも手製の弁当を自前で作って持参してるくせに」
「節約の一環だ。高校卒業したら一人暮らしする可能性高いんだから」
誠は往なす。
「とりあえず、私達ができることってありますかね」
「俺はとりあえず、マイペースでいくかな」誠はすぐに返した。「また手製の料理作って、持っていくか」
「私も一品料理、作れないけど選んで持っていきますよ。誠君と澤永さんは何がいいですか? フォアグラ、キャビア、ツバメの巣――」
「……いや……レモネードでいいよ。以前飲んだ時、とてもおいしかったし」
「……俺もそれがいい……というか、桂さんちってどれだけ金持ち?」
誠も泰介も唖然として言うしかなかった。
秋が深まった寒空の中の校庭を抜け、年季の入った白い下駄箱を見る。寒さはようやく衰えた。
「ねえ、ちょっといいですか?」切り出した言葉に、誠と泰介は顔を向けた。「私にも何か手伝えることがあるといいんですけど。例えば、装飾係とか」
「はあ……」
誠は妙に気になった。ずいぶん積極的だ。それでも、
「それならば、秋山さんあたりにメールで相談したほうがいいんじゃないかな」
「なんだったら俺も、メールでさわちゃんに連絡を送っとくけどよ」
泰介も同調してきた。
「じゃ、山中先生と秋山さんたちを中心に聞いてみます」
「……なんだけど、言葉はただでさえ学級委員任されてるんだ。無理しないほうがいいんじゃあ」
「大丈夫です」
彼女は驚くべきことにウインク。誠も泰介も思わず頬を染めてしまう。
「俺はゆ……平沢さんにも相談してみるけど」
「そうしなくて、いいです」
言葉の声が、急にぶっきらぼうになる。同じ自分を取り合った間柄としては、世界もそうだが、世界に比べてなんで唯にはこうも冷淡になるのか。なんで信じるべき相手を信じないのか。
誠は再び、ため息をつくしかなかった。
「……こうやってあんた達(榊野生徒達)の人間関係のぐちゃぐちゃっぷりを見てると、私達(放課後ティータイム)もそうなるんじゃないかと不安になるよ」
「前々から分かってたよ。あなたがそう考えているのは」その日の夜に、梓と刹那は再び世界のアパートの前で顔を突き合わせた。彼女にばれないようにである。「あなたは真面目だからね」
梓の詰りを、刹那は落ち着いた声で受け入れていた。寒空の中詰まった空気は、出口のあてもなく彷徨っていた。
「律先輩は『慣れっておもしれえよ。こうして軽音部で顔を突き合わせてるうち、違う学校の生徒どころかダチ(友達)とも思えなくなってきたしよ。世界に限らず』と言ってたけど。
確かに桂までもが、自ら進んであなたのお別れ会の装飾係になりたいとか言い出してきたけど……。
例え桂が私たちのところに慣れたとしても、『私は』決してあなた達に慣れはしない」
「そうなんだ……そうかな……」
「純は能天気だからあっさりなじんだけど、憂は何かを感じ取ってる。だから榊野学祭前後で、ああなったんだと思う」
「……」
低い厳かな梓の声に、少し刹那は黙りこくった。ようやくささやかな秋風が吹き、詰まった空気を一方向に統率し始めた。
「……あのさ、中野。なぜ諸外国に比べて遅れていた江戸時代の日本が、明治になってから急速に外国に追いつき始めたか知ってる?」
唐突な質問だが、梓はにべもなく返す。
「それは、外国の銃火器とかの武力とか実力を知って、自分たちがどれだけ遅れていたかを知ったからでしょ?」
「でもそれは、日本が外国の実力を知ったから。逆を言えば、外国が武力と技術で日本に圧力をかけなかったら、日本はずっと鎖国されたままだった。ずっと視野が内向きのまま、何も変わらなかった」
「『太平の眠りを覚ます上喜撰(蒸気船)』ってね……。私も正直貴方達と出会って、黒船が来た時の江戸人の気分になってるよ」
「それは私達も同じ」
皮肉で返す梓に、普段無表情な刹那が、なぜかにっこりと笑う。思わず梓は、きょとんとしてしまった。
「珍しいね、あなたの笑顔。それに『達』って」
「私一人だけじゃなくて、世界も七海も光も、あなた達のなんとなく穏やかに通じ合える、それも良心だけでぶつかれる雰囲気に、表には出さないけど驚いてるんだよ。たぶん伊藤も、そして桂さんも」
「そんな……」
「まあもっとも、中国の清や江戸日本に触れ合った西洋でも、本土でオリエンタルブーム(東洋文化と芸術のブーム)が起きたからね。
私達はお互いの違った文化に触れて、何かが変わろうとしてる。お互いに閉ざされた社会がつながり、詰まった空気が開かれようとしてる」
「清浦……」
「私たちの学校や社会がすごい殺伐としたものだと思うなら、中野自身で変えてほしいと思うんだ」
「え……」
「平沢さん達のようにね」
決意の籠ったかのような刹那の言葉に、今度は梓が黙ってしまった。
刹那はちらりと背後の、世界の住むマンションの白い壁を見る。誰も出る気配がない。
「確かに、私1人だけ、貴方達と付き合うことに消極的だったもんな……。今でも放課後ティータイムの中で、私1人だけ取り残された気分になることが多々ある……」
「私自身は去っちゃうけど、貴方自身で向き合えば、今からでも間に合うと思う」
「そんな……」
「だって私たち、まだ子供じゃない」
「……確かに、高校生も未成年の範疇だしね……」
「人生百年時代と言われてるんだから、いくらでも時間があると思う。どうか、私達と本気で向き合ってほしい。私たちの悪い空気の流れを変えてほしい」
刹那が小指だけ立てた右手を差し伸べてきた。それを見て、下手に約束していいのかどうかと考えてから、梓は言った。
「約束は、できないよ」
「それでもいい」
すこし呆気にとられてから、梓は口を引き結んでうなずき、やはり右手を小指だけ立て、刹那の右手に近づけた。
お互いの小指が絡む。
「ゆ―びーきーりげーんまーん、うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーーます! ゆびきった!!」
刹那のお別れ会の日。
事務員に許可をもらって、言葉と誠は会場の音楽室へ急いでいた。言葉の左肩には、たすき掛けにした2リットルぐらいにはなる緑色の水筒がある。間違いなくレモネードを持ってきたのであろう。誠も手提げで、自作のサラミピザとちらし寿司を白いプラスチック袋に入れてある。
「言葉が室内のセッティングをしたそうだけど、どのようなものなんだ?」
「秘密です」
茶色い階段を足をそろえて、速足で上る。妙にワクワクしている言葉である。
考えてみれば、学級委員は乙女達に強制的に指名されて行っているわけで、引っ込み思案だった彼女が自分から積極的に役割を背負うことは珍しい。
言葉が持ってきた緑色のクーラーボックスの黒いひもを、誠はたすき掛けにかけているが、少し重い。落ち合ったときに言葉が重そうに担いでいたのを、誠が運んでいるのである。
「にしても言葉、一品料理なら別にレモネードだけでも良かったと思うんだけど、このクーラーボックスには何が入ってるんだ?」
「それも秘密です。あ、あまり揺らさないでくださいよ」
「秘密ばっかだなあ。ケーキでも入っているのかい?」
階段を登りきって向こうを見ると、澪、律、梓が、音楽室のドアを開けたまま、口を半開きにして、さながら一時停止中のビデオのように固まっていた。
「おはようござい……って、どうしたんですか?」
「……これ……」
覗いてみると、誠の口もあんぐりと開いてしまった。
音楽室の壁という壁、天井という天井、床という床に、純金の金箔が張り巡らされて黄色い輝きを放っている。ネズミもはい出せないほどに貼り付くされていて、黄色い光を無作為に全方向に反射しまくっており、どこを向いてもちょっと目が痛い。その金箔の壁や窓に、つながれた七色のダイヤモンドが折り紙の輪つなぎのように、波上につるされていた。
言葉に会場のセッティングを任せた結果がこれか。
梓は頭をぐるぐる回している。目を伏せても床に純金の金箔が張り巡らされ、目を痛めてしまうからだ。
「あのさ……言葉……」
口を半開きにする澪に対し、言葉はにっこりと笑って、
「徹夜で業者さん頼んで、金箔をはってもらったんですよ。もちろん桜ケ丘の校長には許可を取っていますし、元にも戻せます」
同行した誠は、純金の金張から放たれる光から目を背けつつ、
「どこもかしこも金。黄金の茶室ならぬ黄金の音楽室といったところか……。とはいえ、目が痛いからもう少しはがしてくれないか?」
「確かに、これじゃあ清浦も落ち着かないと思うし……というか、秀吉じゃないんだからさあ」
澪にまで同調された言葉。あれ? と思いながら
「じゃあ、半分くらいはがしますね。業者さんに頼んで調整できるようには、なっていますし」
「……君の業者って、技術すげえなあ……」
誠はもう、感心したようなあきれたような声を漏らすしかなかった。さらに考えてみれば、自分と付き合いなおしてから、言葉はいつも配達が必要なほど大量の買い物をすることが多いが。
とりあえず脚立を使って皆で剥がし終え、金箔の部分がタイル状になるようにした。これならば折り紙にありがちな金色の折り紙を貼ったとみられて、違和感はあるまい。やはり白地でところどころ黒ずみ、年季の入ったコンクリートの壁に、ところどころタイル式に金箔が張り付けられている形だ。だいぶ目が痛くなくなった。
「しかしよ、桂。このダイヤモンドの飾りはもう少し下にしたほうがよくね?」
「え、あ……いいですけど」
口をはさんできた律に対し、言葉はちょっと口ごもりながら答えた。
「ちょっと待て、律……この飾りにも突っ込まないのか?」
「やだなあ、秋山さん」誠は律と同じで笑いながら、「見た目はダイヤモンドっぽいけど、本当はガラス玉でしょ。もちろん折り紙の輪つなぎよりはきれいだし、凝っていると思うけど」
脚立にのぼり、飾りのつなぎの端っこをつかむ。そこをムギがやってきた。
「みんな、おはよう。……って、このセッティング……」
「私がやったんですよ、ムギさん。結構お金かけましたけど」
にこやかに言う言葉。
「とりあえず、これくらいでいいですかね、田井中さん」
誠は反対方向の飾りをつかむ律に問いかけた。
「うんにゃ、いいよ」
うなずく律の一方、ムギははっとなり、白く太い足がもつれそうなほど速足で動き、飾りの一部のダイヤモンドをとって眺めてから、
「……桂さん……わざわざこの時のために、これだけのセッティングをしたの!?」
「ええ、そうですけど……」
「あれ、ムギ?」律はぽかんとしつつ、「ガラス玉の安物じゃねえのか?」
「何言ってんの!?」
ムギは多少詰まっている声を返しながら、続けた。
「……これ一つだけでも30万円を下らない、正真正銘のダイヤモンドよ。ほかの物も……」
えーーーーーーーーーーーっ、と皆々声を上げてしまった。ムギと言葉以外の口が、再びあんぐり空いてしまった。
「おーい、みんな何やってる!? って、ええっ!!?」
「おはよーさんどすー!! って、ああっ!?」
腕を組んでやってきた泰介とさわ子。もっともあからさまに言葉のセッティングに目玉が飛びかけた。
「桂が装飾したはいいんだけど……」梓がぼやきながら、言葉に顔を向ける。そういえば、この2人が会話したのは初めてだ。「ちょっと力入れすぎてない? 2つの意味で」
「ごめんなさい……。お金かければいいかな、と思ったんですが」
何億ぐらいかけたんだ、と誠は思った。これが榊野の4組でのお別れ会だったら、さらに彼女は浮いていじめが加速してしまうだろう。相手が良心的で寛容な放課後ティータイムでよかった。もっとも言葉も秋山さんをはじめ、放課後ティータイムには信頼している人間が多いから、こうやってずれてても心を開けると思うのだが。
だが、それを口にするのは控え、
「言葉、別に一般庶民ができる装飾でいいんだってば。盆と正月が一緒に来たのではなくて、三連休程度でいいんだってば」
「おはよう!! あっ、マコちゃん、来てたの!?」
「おはようございます。 ……いいのかな、私も来ちゃって」
そこをやってきたのは、平沢姉妹である。憂の両手には、自身でこしらえたチーズケーキが入った袋がある。
誠は憂の顔を見て、胸がちくりと痛んだ。榊野学祭のことがある。
「あ、マコちゃん?」
「おはよう唯ちゃ……平沢さん。憂さんも来てくれたんだ」
「……ええ……」
やはり憂も、誠の顔を見て表情を曇らせた。
「でも憂さん、清浦のためにチーズケーキ作ってくれるなんてありがたいよ」
あいさつ代わりと心からとで半々に誠が言うと、
「憂の料理はすごいおいしいんだよ! というか、結構煌びやかだね!」
唯が2人の間に入り込んで、ぱっと輝いた顔で誠に向き合った。彼も表情が緩む。
「装飾係の言葉が、奮発して綺麗に装飾したんだ。純金金箔使ったり輪飾りでない飾りだったりで、やりすぎだとは思うけど」
「でも私、見たかったなあ。純金の金箔が至る所に張りめぐらされた、『黄金の音楽室』!」
「いや、俺はじかに見たけど、目が痛かったよ……」
「そっかー、残念。にしても、和ちゃんも来ればよかったのに。期末試験に集中したいって……」
「接点ないからしょうがないのかもな。この点は加藤も同じか」
2人が和と乙女のことをそれぞれ思っていると、最後の一団がやってきた。
世界一派。世界に、七海に、光。なぜか純もいる。
そして、今回の主役の刹那。
少し微笑を浮かべながら、4人とも頭を下げた。集団の端っこで純は、当初からにこにこしながらリンゴパンをかじっているが。
言葉は長身で青い短髪の七海を見て、少し体をこわばらせた。澪も少し後ずさっている。世界も言葉の顔を見て、少し表情がこわばった。
「やめよう……って、私が言うのもあれか」
先に声を上げたのは、七海だ。
「え?」
「今日は刹那に気の毒だから」
小声で七海は、言葉に言ってくる。とはいっても言葉は、最近の七海が世界とは違う状態で情緒不安定気味になっていることが気になった。
「ま、まあよ。とりあえず休戦状態ってことで」律が両サイドの間に割って入りながら「今日は清浦の送別会なんだからよ。世界であろうと桂であろうと、世話になった人間が送り出せればそれでいいじゃねえか」
手をパタパタ振りながら必死に懇願する律に対し、ようやく両サイドは緊張感を緩めた。
「にしても、金の折り紙貼ったり、ガラス玉をつないだ飾りで、なかなか派手でお金かけてるわね」
続いて口を開いたのは光。とはいえ言い方が、ほめているのかけなしているのかわからない。
「「いやあ、わざわざ本物のダイ――」」
唯と言葉が言いかけたところで、唯の後ろから澪が、言葉の後ろから誠が2人の口をふさぎ、
「いやあ、言葉が、金が混ざった折り紙を購入してくれてさ」
「それからガラス玉の飾りを注文してくれたんだよ。そこまでしなくてもよかったのに」
苦笑いしながら言った。前にいる2人に困惑の視線をちらちら向けつつ。
2人に解放されると、言葉が唯のところへ行ってきて、そっと耳打ち。
「平沢さん、なんでわかったんですか……?」
「いやあ、だって、100円ショップでよく売ってるガラス玉の類とは、光の反射がなんか違う気がして……」
近くのダイヤモンドの飾りを見てみると、本当に唯にはそう思えた。とはいえ見ただけで本物のダイヤモンドと看破してしまった唯に、言葉は目を丸くせざるを得なかった。
「とゆーわけで、清浦のお別れ会を始めるぜー!!」
皆が座った中で、第一声を上げたのは律だが、幼馴染が遠くへ行ってしまう境遇に置かれた世界の表情は暗い。刹那もそう。律以外、複雑な思いでそんな2人を見る。
「あ……」律は一人だけはしゃいだような気持になっていたことに気づき、「じゃ、贈る言葉は割愛したほうがいいか」
「贈る言葉か……。実際そんな歌あるし、練習したほうがよかったかな」
「とりあえず、みんなご飯持ち寄ってきたんだから、そっち食べようよ!!」
澪が少し後悔気味の音をはくと、唯が明るい声をかけてくる。
茶色い机はよくある旧式の木でできたものだが、できる限り用意して一か所に固め、それを取り囲むように椅子を設置した。刹那の席は、音楽室入口から一番遠い上座だが、固めた机の向こう側にはドラム、ベース、キーボード、2つのギターと用意されており、お別れ会で演奏するのがすぐに分かった。
(確かに、食べれば悲しみも少しはいやせるか)
と誠が思う間もなく、唯と律が素早い動きで、皆が持ち寄ってきた一品料理を配置していく。如才がない。
「ご飯はすごいよ♪ なんでも合うよ♪」
と鼻歌を歌う唯が妙に気になったが。誠も自前の料理を、一か所に固めた茶色い机の中央に置く。サラミピザとピンク色の彩りをしたちらし寿司。ムギは例によって、高貴な模様が施された純白のティーカップを配っていく。
「ムギさん」言葉が例のポットを用意し、「私もレモネード持ってきましたけど、ムギさんのお茶のほうがいいですか?」
「大丈夫よ、桂さん。みんなめいめい選ぶでしょうし」
「あ、あの……」
変に梓がもじもじした様子で口を開いてきた。
「中野?」
「……これでもいろんなスーパーに行って、いろいろと考えた末に選んだんだけど……。こんな出来合いのお粗末なものじゃあだめかなあ、清浦」
梓が恥ずかしげに出したのは、スーパーで買ったと思しきプラスチックに入ったパーティー用の総菜だ。鶏のから揚げやらフライドチキンやらが、誠の持ってきたピザ並みの大きさの容器に入っている。
「私は構わないよ」
穏やかな声で刹那は言った。
「じゃ、私も」「俺も」と、続いてさわ子と泰介が机の中央部に、スーパーで買ってきたと思しき春巻とアンマンを置く。
世界はババロア、七海はせんべい、光は家のケーキ屋で用意したムースを机に置く。
「さわ子先生も澤永も出来合いのもの?」
緑色のアップルゼリーを用意した澪が唖然となってしまう。
「べつにいーじゃんかよ」
律は意に介さない。当の彼女はゆで卵を輪切りにしたサラダを持参したが。
「私はこれかな」
と言って、唯は袋で小分けにしたチョコ菓子を用意する。真っ先に誠に渡したかったが、唯の右隣に憂、誠の左隣に言葉、つまり2人は憂と言葉を挟んだ形で座っている。バケツリレー式に渡すほかはなくなった。
「あ、皆さん」言葉が間に入ってきた。「実はこれ、時間がたつと溶けちゃうんで、先に食べてほしいんですけど」
言葉が持ってきた緑色のクーラーボックスを、机の上で開けると、皆瞬きせざるをえなかった。コーンに乗せられる形で、人数分のソフトクリームがある。
勿論よくここまで溶かさずに持ち運んできたのも驚きだが、唖然とせざるを得なかったのは、ソフトクリームが純金と思しき金色であるということだ。全部金でできたソフトであるかのよう。
「な、なんで金粉なんだよ……」
「あ、これあたし見たことある」
また呆然とする誠に対し、はす向かいの席で体を伸ばし、あっけらかんと口をはさんできたのは光だった。
「家族で金沢に行ったことがあるんだけど、ひがし茶屋街で売ってるよね、これ」
「そうなのか?」
「金色のソフトクリームのほかに、バニラソフトに金箔をかぶせたようなソフトもあるんだけど、どちらも金を口に入れると溶けて食べられるのよ。ザラメのような味」
「へえー」
目を丸くして手を伸ばす唯だが、真っ先にソフトのコーンをつかんだのは純だ。光のしょっぱい顔を無視してむしゃむしゃ食べる。
「食えりゃー、何でもいいよー。うまいうまい。幼稚園の頃の綿あめのよう」
無頓着に純は、一見本物の金箔で作ったかのようなソフトクリームをむしゃむしゃ食べていく。
そんな彼女に光は例のしょっぱい顔で一瞥しながらも、ぽかんとしている言葉に向き合う。
「刹那のためにわざわざここまでしてくれたのは本当にありがたいけど、あなた、世界に何やったの?」
「何やったって、それは――」
「セイセイセイセイ!!」大声で泰介が2人の間に入った。「こんな時に修羅場ンなくてもよ。今日は清浦を笑顔で送り出すのに、いちいちこちらの事情を蒸し返さない! とにかく楽しむ!!」
好意を抱いていた泰介に言われたのと、左肩に後ろから七海の手を添えられたのとで、光はこれ以上の追及をやめにして引っ込んだ。
ややうつむき加減に言葉はなる。誠は少しほっとしたが、どんな思いか気になった。すると唯が金箔ソフトをもって、席を回って彼女に近づこうとするも、純の足取りのほうが早かった。さりげなく言葉に金箔ソフトを渡す。
「あ、ありがとうございます。ええと……誰でしたっけ……」
「私のこと覚えてない……って、ちゃんと顔を合わせたこともないからしょうがないか。
私は鈴木純。あんたが桂言葉でしょう。黒田や西園寺たちの間で結構話題になってる」
「え、ええ……これから、お見知りおきを……」
すぐに純はその場を去り、「あ―この金箔ソフトサイコー」と自分の席でコーンをむしゃぶりはじめた。
唯も誠も、金箔ソフトにかじりついてみた。なるほど、確かに綿あめのような、ザラメのような味だ。
「うん、おいしい!」
「そういえば幼稚園の頃、綿あめ食べるの嫌がってたな。食べられないと思って」
「そうですか?」
と、言葉。
「実際に口に入れてみたら綿がさっと溶けて、砂糖より甘い味で驚いて、それから好きになっちゃった」
誠の言に、唯は笑顔でうなずき、
「私が縁日で初めて食べたときは雨が降っていて、綿あめがすぐ溶けちゃって焦っちゃったよー」
「確かに、水に入れるとすぐ溶けるよね」
誠は笑顔で、唯に返した。
妹の憂は、そんな2人を少し暗い表情で見つめる。机に固まった料理を紙皿に盛る律と澪はそれに感づいて、傍からは遠い皿を狙うように見せかけて席を回る。憂の背後から小声で、
「まあよ、とりあえず唯と伊藤は、ダチ(友達)程度の仲なんだからいいじゃねえか」
「そうだな、伊藤は言葉の恋人。曲折が今まであったけど、これからも唯と伊藤は友達同士、それ以上でもそれ以下でもない。それじゃ憂ちゃんはダメか?」
律と澪の言葉を聞いて、憂の顔があからさまにこわばった。
「!?」
「あ……ううん……」憂は何事もなかったかのように首を振って、屈託の笑顔になり「じゃ、いただくね」
白い紙皿に盛られた茶色いから揚げにかじりついた。
その時、憂は何かを感じたような表情になる。
「憂?」
「あ、ごめん。私トイレに行きたくなったんで、先にみんな食べてて」
憂は速足で音楽室を出てしまう。
それを見届けてから、梓はスマホをちらりと見ると、純からメールが来ていた。びっくりした。
『桂は黒田や西園寺たちの間ではいいうわさを聞かないけど、なかなか頑張ってるじゃん。
何とかあの子と私とサシ(一対一)で話し合う機会設けて、詳しい話を知りたいんだけど、梓どうにかできね?』
駆け足で憂は音楽室を飛び出し、廊下を通って音楽室と反対側にある女子トイレの入口に急いだ。無理して作っていた穏やかな笑みが消えていた。
休日で薄暗く、くたびれた白い壁と色あせたタイルに囲まれた入口には、誰もいない。
そう思っていると、背後から愛らしい声がした。
「わかっただろう、『ヴェルダンディ』。伊藤誠はお前にしこりを抱えているが、平沢唯の妹であるお前を完全に拒むつもりはないってことに」
反射的に憂の喉の奥から、絞るような声が出た。
「……ノルン……!」
振り返って向き合うと、目の前に体長20㎝ほど、カービィに似ているが白い体に青い足、銀縁の伊達メガネをした生き物がいた。手には青と赤のUSBメモリと、黄金色のチェスのビショップの駒がある。頭にはビッグワンのマスクをあしらったかのような模様を付けた白いパナマ帽。仏像の半跏思惟像(はんかしすいぞう)のように片足だけ伸ばし、右手で頬杖をつくような形で、トイレの出っ張りの壁に座っている。
憂はノルンの駒に気づくと、懐から大切なものを取り出した。やはり黄金色に輝く駒であるが、とげとげの王冠で、ティアラをあしらったかのような駒。
チェスのクイーンの駒だ。
「それでも、私は……。お姉ちゃんと伊藤君が結ばれることを望んでない……」
「分かってないなあ」名無しは切り捨てるように言ってから、「お前の意思は関係ない。平沢唯は伊藤誠のことを意識しているし、伊藤誠もまんざらでもない。こういうことは本人自身の意思が大事ゆえ、結ばせたいところなのさ」
憂は俯いて、両拳を握る。
「こんなことをするのは……私が榊野学祭で勝手なことをしたから……? ウルドもそうだけど……」
「お前の場合は、それだけじゃない、ヴェルダンディ。もっとも、平沢唯と伊藤誠を結ばせるというのですら、僕にとっては『手段』でしかないが」
「それで、これからの首尾は……」
「少なくとも、平沢唯と伊藤誠の仲に干渉しないならば、思いっきり楽しんで構わない。清浦刹那にも気の毒だ。お前の料理だって、自分でおいしいと思えるほうがいいだろう」
「……他の人間だったらいいよ……。でも、榊野の人間とは何か楽しめない……」
「慣れてもらうしかないさ、お前も。スクルドのこともある」
「どっちにしても、伊藤君は桂さん……だっけ……と付き合っているはず。お姉ちゃんでも入り込みにくいと思うけど」
「それはこれからだ。少しずつ絡まった間柄を解きほぐしていくまで」
名無しはそう言うと、
「西園寺世界が気の毒だな……。不安定になってる彼女、どうするか……」
とつぶやきながら、姿を掻き消してしまった。
1人取り残された憂、いやヴェルダンディは、拳を握って歯を食いしばっていた。
(結局あいつは、お姉ちゃん……いや、私たち全員を種馬にしか考えてないんだ……)
「あちゃー。冷めちゃった」
誠の作ったピザは皆がありつくのが遅く、プラスチックパックの中ですっかり冷めきってしまっていた。明らかに硬くなっているのが想像できる。言葉だけがパーティー開始直後に真っ先にとって食べている。
「ほんとは最後に食べるつもりだったんだよ、マコちゃん」
唯がねぎらいの言葉をかける。なるほど、ちらし寿司のほうはみんな取って空になっていた。
「いや、別にいいんだけど。とはいえ冷めたピザほどまずいものはないな。レンジもいいけど、ガスコンロってないかな? 炒める形で温めるとよりおいしくなるし」
「私が用意するよ、伊藤。フライパンもあるし」
冗談半分で言ったつもりだが、澪が携帯用のガスコンロを取りに行こうと、向こう側の音楽準備室に急いだ。気が付くと、いつの間にやら憂が戻ってきている。
「ごめんごめん、みんな待ったよね」
「待っちゃいねーよ。つーかみんな勝手気ままに食ってたからよ、憂ちゃんの分残しておいたぜ」
律はあっけらかんと言い、あらかじめ憂のために盛っておいた皿を用意した。誠手製のピザやちらしずし、自分でこしらえたチーズケーキ一切れがある。ほかのものも程よく皿に盛ってあった。
やがて澪がフライパンとガスコンロを持って戻ってくる。誠はフライパンを、火をつけた携帯用のガスコンロの上にかけた。
「あーあ、冷めたピザ……昔の総理大臣じゃないんだから……」
「だからなんでそんな古いの知ってんのよ……伊藤君」
あきれるさわ子をしり目に、油を敷いて、素早い手さばきでフライパンに油を広げた後、冷めたピザを炒め始めた。
「じゃあよ、送る演奏をしよーぜ、野郎共!!」
「野郎って、私たちは女だけどさ。海賊団じゃないんだから……」
気勢を上げる律に対し、澪があきれたように突っ込んだ。
「ああ、そういえば、ここって軽音部だったの忘れてました。いつもお菓子とお茶ばかりで練習しないんで」
言葉がさりげなく言ってしまう。
「あ、そういえばそうだね」
唯も彼女の言にぼんやり返したが、誠は、ここで言うか、と思いながら、温まったピザにかからないよう水を入れていく。
放課後ティータイムのメンバーが椅子から立って、入り口付近の楽器が置かれた壁に行き、めいめいの準備を始める。
唯と梓はギター、澪はベース、律はドラム、ムギはキーボード。
「では、清浦さんのために、演奏したいと思いまーす!」
5人の真ん中で、唯が大音声を挙げた。
「『天使に触れ』――」
突然唯の頭に、ノイズのようなものがかかった。思いついたメロディーも、すべて消えた。
なぜだろう。
誠への失恋が、すべてを消してしまったような気がする。
「唯!?」
「あ……ごめん……じゃあ、『翼をください』から……」
こうして次々と演奏を繰り返していく。走り気味な律のドラム、唯のギターもまだ未熟。
それでも次々と曲目を演奏していく。
誠は一仕事終えて、言葉の隣の席に戻った。ほかほかになった手製のピザを机の中央に置きつつ。
「あ……それと……清浦さん……」
一通り終えると、唯は刹那に声をかけた。
「平沢さん?」
「りっちゃんから聞いたよ。清浦さん『kill the fight』が好きだって」
「え……?」
普段無口で無表情な刹那が、刮目して唯を見てしまう。
「猛練習してきたんだ。清浦さんを送れるように」
「「平沢さん……」」
心のこもった声で、刹那と世界がつぶやく。
「あの、誠君……『kill the fight』って?」
「確か、北斗の拳の挿入歌だったと聞いたけど……」
言葉と誠が小声で話す。
「お……おいおい、聞いてないぞ!」
「おねえちゃん最近徹夜気味だったけど、それが原因だったんだ」
澪と憂が心配するのを、唯は意にも介さず、
「みんなは大丈夫だよ。私一人で練習してきたから、私一人で演奏する」
呆然とした。もちろん言葉も。
普段ポーっとしてる彼女が、こんなに鍛錬を積む人間だとは。
そう思う間もなく、ギターだけの唯の独演が始まった。
I kill the fight
何かが命じる
I kill the fight
俺の内側で
I kill the fight
心なき心 俺は今倒す
迫力や音の感情はともかく、つっかえることもなくギターを弾きこなし、そして弾き切った。
「ありがとう、平沢さん!」
刹那は席を飛び出して駆け出し、弾き終えたギターから離した唯の両手を、両手で包むかのように目の真ん前でぎゅっと握る。
「え……清浦さん……?」
「すっごいドキドキしたよ! よかった!!」
「そ、そんな……大したものじゃないよ……」
「確かに、私もいいと思いました」唯にもう1人、芯のこもった声をかけたのは言葉だ。席に座ったままだが、「まさか短期間でこなしてしまうなんて」
「桂さんも頑張ったじゃない。部屋の装飾だけでなくて、黄金のソフトやレモネードまで用意して」
「私は、あくまで業者さんにセッティングを頼んだだけですから。金色のソフトも金沢に注文しただけだし」
「それでもすごいよ!」
机に戻ってきた唯は、憂を通り過ぎてぎゅうっと言葉の首に抱き着いた。言葉は呆れながらも
「……そうやってくっつくのは癖ですかね……」
「まあねー」
一品料理をすべて食べ終え、澪の手品等かくし芸も披露。いさかいもなくお別れ会は終わりに近づいた。
さりげなく刹那の席の横に、言葉がやってきた。
「ずっと言いたかった。ありがとう、って言いたかったんです」
「桂さん?」
「清浦さんが、『誰かに頼ったほうがいい』と言ったから、私は澪さんに、そして放課後ティータイムに助けを求められて、親しくなれたから」
え……。
世界一派、つまり世界、七海、光が目を見開く。
それを刹那だけが感じて少し考え込んだが、ほほえみの表情となり、
「『友情のシルシ』って知ってる?」
「え……」
「物のヒーローが、相手と友達になったと認識したときに行う動作。『この学校全員の同級生と友達になること』を目標としてたからね」
相変わらず刹那は無表情だが、口元に笑みがあり、声は優しかった。
傍らで見た世界の肩にやや力が入った。隣の七海はそれに気づいたのか、
「今日はやめよう、世界」
「……え……?」
「刹那に気の毒だから……」
「……」
世界は刹那をじっと見つめた。刹那は目の前で言葉に、軽く開いた右手を出し、
「まず、握手をする」
「はい」
流されるままに言葉も右手を差し伸べ、刹那の小さい手を握りしめる。同時に刹那の手から急激な力を受けた。
(あたたかい……きついけど)
刹那は手を離し、
「次いで、お互いの拳を2度軽くぶつけ合う」
「はい」
言葉もぎゅっと右拳を握り締めると、刹那と拳をぶつけ合った。タンタンと、2回。
「これで、私とあなたは友達になれたんだよ、桂さん」
「え……」
「忘れないで、桂さん。あなたは1人じゃないから」
「……」
言葉は何も言えなかった。感慨かはわからなかったが。
それを傍らに見ていた澪は「その台詞、私に言わせてほしかったんだけど……」と、ぼそりと呟く。
世界は、少し後ろめたかった。
「世界」
声がかかる。
「律さん?」
「……なんか、不安なんだ……」律は周りに聞こえないよう、小声で言う。「最近、なんかあんた、安定してねえみてえだから」
「……それは……」
自分でわかる。
「会ったろ、聡に。聡もあんたのことを心配してるんだ。友人がいなくなって、きっと寂しくなるだろうって」
「……わかっています、でも……」
どうしても、落ち着かない。誠が他の女の子とくっついているのが、どうしても許せない。妙なしこりが離れない。平沢さんをあおったのも、2人の仲に揺さぶりをかけるため。
だけど……。
落ち込んで部屋にいたときの、あの子の――聡の目の輝きが、妙に気になっていた。どぎまぎしながらも手土産のババロアを手渡した彼。自分が食べた時、「おいしい」といったときにぱっと顔を輝かした彼。
「……聡、お菓子に関して見る目がありますよね、律さん」
「まあよ、あたしの足元にも及ばねえけどな」
「自分で言いますか」
「聡の野郎、あのために小遣い全部はたいて三越行って、あの菓子買ったんだよなあ」
「え……」
信じられなかった。
なんで知り合って間もない自分に、そこまで気遣うんだろう。
少し考えて、世界は――心の内ではっとなった。まさかとは思うが。
その様子を見て、七海も刹那と言葉から離れ、
「……あの……ムギさん……」
ムギに顔を向け、ややうつむきながら力ない声で言った。
「……え……何ですか……?」
「……何でもないです……」
再び七海は目をそむけた。何でもないことはないが、ことばが見つからないのだ。
「うー……ぐすぐす……」
「清浦さーん……元気でねー……」
刹那に次いで後方の席にいた泰介とさわ子は、すっかり涙と鼻水とよだれでくしゃくしゃな顔になっていた。
「な……何もそこまで泣かなくても……」
刹那は両手をパタパタとふった。
複雑な思いで、梓はその様子を見つめるしかなかった。
(……関係ぐちゃぐちゃでも、これからずっと付き合うしかないのかな……)
「さて、清浦君はパリでどれだけの成果を上げるかな」
母子家庭である清浦家の上司である人事部長は、個室で期待感を上げながらつぶやく。はげかけた頭をさすりながら、薄い黒いパソコンのディスプレイに向かい合った。サービス残業である。
「ミスマッチじゃないのか?」
人事部長一人と思しき部屋の中で、愛らしい声が聞こえた。
「誰だ!?」
人事部長はそちらを向く。奇妙な生き物がいた。
カシャッ、カシャッ。
彼の突起のような丸っこい左腕で音を立てている、赤と青の2つのUSBメモリ。右腕にある黄金色のチェスのビショップの駒。ビッグワンのマスクをあしらった模様の白いパナマ帽。
白い体に青い足のカービィといったいでたちだ。
「誰だお前は、不法侵入で訴えるぞ!」
人事部長は声を荒げて、机の受話器を取るが、やがてはっと息をのむ。
電話が機能しないからだ。
慌てて懐のスマホもとるが、これもディスプレイが真っ黒になっており、ボタンを押しても反応しない。ご丁寧にデスクトップパソコンのディスプレイもそうだ。先ほどまで起動したと思ってたのに真っ黒になっている。
「わかってないなあ」名無しは前置きをすると、「僕のことは気にする必要はない。すぐお前のもとを去るから。
それより、清浦舞(刹那の母)はまだフランス語がたどたどしいだろう。大岡由美子ならば留学の経験もあるし、パリ支部の司令官としては十分なはずだ」
何が何だかわからなかったが、とりあえず反射的に人事部長は応対してしまっていた。
「たどたどしいからこそ、今回パリに行って経験を積ませようと思ったんだがね。大岡君は経験豊富だから、それでは意味がない」
「それでパリ支部が赤字になってもか?」
「一時的にはそうなっても仕方がない。長い目で見る必要があるんだ」
「……たとえ大岡由美子が司令塔になれば、利益が数期最高益を更新してもか……?」
すると、人事部長の言が止まってしまった。
「……さっきから、なんなんだお前は?」
恐る恐る人事部長は言うが、名無しはそれに答えない。
「……光彩点滅催眠」
名無しがつぶやくように唱えると、彼の眼がぱっと赤くなり、断続的に赤い光が部屋全体に点滅を繰り返す。
強い光をまともに浴びた人事部長は、ことばもなくその場に昏倒した――
「へ……?」
唖然となる世界。
「パリ行きが中止?」
他の友人たちも目が点。
「あまりにも唐突で、訳が分からないんだけど……。お母さんが急に上司から言われたらしくって。
というわけで私、榊野に残ることになったから」
それを聞いた瞬間、世界の顔が崩れ、涙と鼻水を流しつつ、再び刹那に抱きついた。
「うわあああん!!! 良かったよおおお!!! 刹那ああああああああああああああああああ!!!」
あまりにも強く抱き着いたため、刹那は体が折れそうなぐらいに痛い。
「せ、世界……痛いよ……」
「あ……ご、ごめんね……刹那……」
「ほんと、うれしい」
「よかったね、刹那」
七海と光も、激励の言葉をかけてくれた。
「なぜ急に中止になったのかわかんないけど、久々に刹那とあれ、やってみたいな」
「うん、でもうまくなったと思ってよ」
授業が始まる前、皆が立ち話をしている中で、刹那はでたらめに両手を開いて拳法の構えを取り、
「北斗ォ! 懺悔跡歩拳!!」
世界は鼻水をハンカチで吹きつつ、涙目のまま、がに股のポーズとなり、
「あぐぁ!足が勝手に!!」
「秘孔膝限を突いた! 貴様の足は意志と無関係に後ろに進む! 地獄まで自分の足で歩いて行け!」
「と…とめてくれぇ! 足を…止めてくれぇ!! 俺がいなくなるとトキの居場所がわからなくなるぞ! いいのかよー!!」
「安心しろ、貴様ごときに殺されるトキではない!」
「うくく!! わああ!! い…いやだ たすけてくれえ!! な……なぜおれがこんな目に!! 天才のこのおれがなずぇ~!! うっ、うわあああ!! うわらばっ!!!」
おどけてひっくり返った世界を見て、七海は涙をにじませて手をたたき、光は腹を抱えて笑い転げながら、
「久々に『セツシロウとセミバ』見たけど、ホンっと、似てないよねー、刹那!!」
「うるさいな、少しはましになったでしょうが。『お前はもう死んでいる』!」
「あーはいはい、『た、たすけてくれー。たわばー!』」
その騒ぎ立てる4人を、誠は学校の教室の端っこで、動かないままじっと見ている。
「なんだって?」
「清浦さんのパリ行きが中止?」
先回りして放課後ティータイムの音楽室に行き、誠は澪と唯に直接打ち明けた。
「……なんか、ずいぶんとまた唐突な……」
「ちょっと、私も信じられないんですけど……」誠と同行した言葉も、信じられない表情。「どうやら、本当らしくって……」
「おいおい、私たちはお別れ会までした体だろ!? まして清浦の家はパリ行きの準備をしてるはずだ! なんで急に!?」
澪は全く信じられないといった塩梅だ。
「分かりません……。パリ行きの手配の費用とか、ばかにならないはずなのに……」
「桂さん、よくわかるね」
「言葉は世界をまたにかける企業の重役の家の子なんだ。このあたりの事情に関しては詳しいと思う」
間延びした声で言う唯に対し、誠はフォローをかけてきた。
「でもまあ、世界と言えば」唯がさっと言ってくる。「いいんじゃないかな。西園寺さんにとって、清浦さんはとても大切な人みたいだし。そばにいれるに越したことはないよ」
少し複雑な表情の視線を、言葉は唯に向けた。
「え……」
「いえ……私も……そう思ってましたから……」
どうも自分の言に、桂さん敏感だな。唯は思った。
「とはいえ、やっぱおかしいな、なんで急に」
澪が腕組みをして考え込む。と、誠は思うたままを口にしていた。
「ひょっとしたら、俺達の周りには、なにか大きな力が働いているのかもしれない。
俺と平沢さんや、言葉と秋山さん、世界と田井中さん、泰介と山中先生が出会ったことに関しても……。宿命というのか、運命というのか……」
「宿命……運命……大きな力……」
言葉は喉の奥で繰り返す。聞いていた唯が、急に思いついたように、
「『運命の潮流』って物じゃないかなあ。『絆と潮流』って英語の教科書にあったけど」
そういう例えを言ってきた。
「何を唐突な。というか教科書は『tie and tide』だっただろ。運命の潮流なんてごろ合わせにもなってやしない」
澪は呆れるが、
「確かに……そういうものがあるのかもしれませんね……」
言葉はうなずいた。
4人は、再びうーんとうなって考えた。その時だ。
唯と誠の中に、再び神経を引き裂くような頭痛が押し寄せたのだ。再び2人は頭を抱えて伏せる。
「唯!?」
「誠君!?」
唯と誠の頭の中に、再び黄金色の4つのチェスの駒のイメージが浮かび上がる。すると、再び痛みが治まった。
「く……」
痛みが治まった後、「唯」「誠君」という、澪と言葉の声が重なった。
「ご、ごめん……急に頭が痛くなっちゃって……」
苦笑いしながら顔を上げて、唯は2人に謝った。が、やがて眼を見開いて誠と向き合うと、
「やっぱりマコちゃん、おかしいよ! 今回のことといい、運命の四使徒(アポストル・フォー)のことといい」
「な、何言ってんだよゆ……平沢さん。アポストル・フォーなんて、厨二臭くてばかばかしくて。誰が言ったのかも覚えてないのに」
否定しつつも、誠自身もまた4つの黄金色のチェスの駒と『運命の四使徒』というフレーズが変に鮮明に頭の中に残っていることが気になった。
「「運命の……四使徒……!?」」
澪はあまり相手にしなかったが、言葉には妙にそのフレーズが頭に残った。澪も、
(『覚えてない』)か……)
この言が変に気になった。
「この力を使ったのは、桜ケ丘高校と榊野学園の理事長会談が決裂しかけた時以来だったな……」
また1人になった名無しの生物は独り言ちる。
「いや、『あいつら』を入れると、久しぶりでもないか。
とにかく清浦刹那、お前にはもうしばらく西園寺世界のそばにいてもらうぞ」
虚空をにらむ。そこには黒い空間の中、七色の光が飛び散っている。
「『運命の潮流』とは、平沢唯、面白いことを言うじゃないか。そんなところだな。
運命の潮流を動かし、今回はお前達の運命を握るのが、僕達四使徒といったところさ」
少し歩んで、また呟いた。
「『ニーバーの祈り』か。いいものを知っているものだな、桂言葉。できれば、あいつとは対決したくないんだが……」
続く
あとがき
長くなってしまった。
今回誠が薬剤師を目指しているという設定にしましたが、もちろん今作品のオリジナル。とはいえ母も看護師だし、原作ゲームもルートによっては看護師になるわけで、違和感はそれほどとも思いますね。
(僕自身も高1時代は漂流してたけど、高2の時に薬科大に行ったらオープンキャンパスでの出し物が面白くて、それで一気に薬学に興味を持って受験モードに入ったわけです)
前作『1st mov』における伏線をつなげようという意図もありましたし、僕自身薬局薬剤師だった頃もあるのですが挫折したので、この小説の誠に託そうという思いもあったりします。
考えてみればあの父親も、医師と海の家の経営を兼任していたわけで(医師と参院議員を兼任している人が現実にいる)、経済的にも社会的にもかなり成功した人間とみていいのですが……英雄色を好むといっても、ひどすぎる気が。
刹那のお別れ会の装飾係を任された言葉がかなりはじけましたが、ここは『やっとできた』という感じです。
誠、言葉、泰介、刹那は放課後ティータイムとの付き合いに慣れて『だいぶ体の力が抜けている』という裏設定があるのですが、誠が古臭い言い回しを多用することや(未完に終わった『SOS団VSスケット団』の朝比奈みくるの設定の流用)、特別編3で泰介と刹那が北斗の拳ごっこをやったというのがその象徴。
言葉にもようやくそれをさせることができました。その点世界一派はなじめているようでなじめてないのですが、(放課後ティータイムと接点のなかった乙女はともかく)これからどうなるか。
それにしても金箔がはがせなかったら、これ以降桜ケ丘生徒も放課後ティータイムも『黄金の音楽室』で活動せざるを得なかったんでしょうが……それはそれで面白かったかも。
最終的に刹那のパリ行は中止という結末にしましたが、これは『クレヨンしんちゃん』で風間くんのアメリカ行きが中止になった(父親の仕事の都合で行くことになるかと思いきや、とん挫したらしい)を真似たつもりです。
今更だけど結構強引かな。
この話の刹那にも結構ネタを詰め込んじゃったけど、よりおっとりした部分を強くしたい感じでしたかね。
『kill the fight』はご存知、子門真人が歌う北斗の拳の挿入歌。
ラオウ戦の後の北斗の拳2において、ファルコの最期のシーンや、ハンとの戦いで流れる挿入歌ですが、なかなかかっこいいです。(https://www.youtube.com/watch?v=i2JF4EW_X68&t=22s)
北斗ファンには大好評のようですが、刹那にも当てはめたつもり。
ニーバーの祈りは、僕自身が発達障害の集いで学んだ言葉でした。
確かに発達障害に限らず、誰にも『変えられないものと変えれるもの』があるわけで、それを見分ける力が、『自分の弱さを知る』ことにもつながるのでしょうね。
その中でいかに周りと折り合いをつけるか。これが社会でやっていけるかのカギとなりましょう。
使徒たちが見守る中、世界一派と言葉たちは緊張感がなかなか解けないですが、純が言葉に興味を持ち―?