1話
「あぁ〜、疲れた……」
英語話すとかだるすぎだろ……。
会社近いのはポイント高いけどよ。
あれ、何階だったっけ?
あぁ、最上階か……。
あぁ、小町の手料理食いてぇ…。
《すみません》
あ?どっかで聞いたことあるような声だな……。
そういえば、雪ノ下達元気かねぇ。
「はぁ、だる……」
《貴方、日本人ですか?》
「あ?あぁ」
やっぱりどっかで聞いたことあるような声なんだよなぁ。凛々しくて鈴のような綺麗な声。
俺の少ない、むしろ零に等しい友人……知り合い関係から推測すると雪ノ下しかいないんだよなぁ。でもこんなところに雪ノ下がいる訳ないだろうし、偽物……似たような声の持ち主だろう。
「こんなところで何をしているのかしら?比企谷君」
「は?雪ノ下?」
下に向けていた視線を上げる。
確かに雪ノ下に似ている。というよりとある部分を除いてあの頃のまま成長した雪ノ下と言った方がいいだろう。
「人の顔も忘れたのかしら?それよりこんなところで何をしているのかしら?比企谷君。2回目よ」
「こっちで金融会社の主任やることになったんだよ……。あぁ、日本に帰りたい」
帰って小町の手料理食べて食っちゃ寝したい。
「あなた、本当に比企谷君?私が知っている比企谷君は専業主夫志望で主任なんてできる人ではなかったと思うのだけれど」
この毒舌も久しぶりだな……。
「うっせ。色々あったんだよ。にしても、久しぶりだな、雪ノ下」
「えぇ、久しぶりね、比企谷君」
「で、雪ノ下は何故ここにいる。ここには誰もいないと思ってたのに、ぼっちを謳歌しようと思ってたのに」
俺は熱を持つのを感じ、狭いエレベーターの中で顔を逸らす。
「あなたらしいわね」
ぼっちを謳歌しようと思ってたなんて嘘だ。
寂しいとも思っていた。
「あなた、料理はしてるの?」
「美味しく感じないけどしてるよ」
「なら今日は久しぶりにあなたに作って貰おうかしら」
いやなんでだよ。
「なんでそうなるんだよ……」
「なんとなくよ」
なんとなくか。ならしょうがないな。
「和風と洋風と中華。どれがいい?」
「なんでもいいわ。それにしても意外ね。あなたなら色々言い訳をするかと思っていたのだけれど」
「なら洋風にするか。まぁ、こっちに来てからは寂しかったから、な」
こっちに来てから仕事仲間すらできず、ただの上司と部下の関係。飲み会は誘われても行かない。行ったとしても楽しくない。楽しめない。
「あなたがそんな弱みをだすなんて」
「弱ってる自覚はあるからな」
「ふふ、なら今日から私が一緒に食べてあげるわ」
ガラス張りのエレベーターを昇り、最上階に着いた。
雪ノ下も最上階なのかよ……。
「俺は残業ばっかでこんな時間に帰れるのは希だぞ」
「仕方ないから待っててあげるわ。あとで鍵頂戴?」
柔らかく微笑む。その表情に、俺は、俺の凍りついていた心は少し、溶けた気がした。
「お前、いつからそんな冗談を言えるようになったんだ?」
「あら、本気よ?」
「ふっ、本気なら俺の部屋から勝手に持ってけ。玄関にあんだろ」
たぶん玄関にあったはず。部屋には誰も呼ばないから鍵を放置してても問題ない。たぶん。
「そう。ではあと20分したら行くわ」
「鍵開けて待ってる」
最上階まで同じはまだ良かったが、まさか部屋が隣だとはな。
よく気付かなかったものだ。
まぁ、うちの会社がブラックすぎるのが悪いだろうが。
朝は7時には部屋を出て、7時半には会社につき、すぐに仕事を始める。夜は8時9時なんて当たり前。休みはないに等しく、体調を崩しても無理してでも会社に行き、仕事をする。
だから風邪とかめっちゃ長引くんだよなぁ。
さて、着替えてさっさとシャワー浴びて飯作るか。
雪乃√です……。
各√別作品にした方がいいですかね?