第1話
ーーしかと目を開けてご覧なさい。あなた方の輝かしい父祖が一体なんという跡継ぎを残したことか。ーー
目を開けると、そこには死があった。右にも左にもおびただしいほどの死があった。
直(じき)に自分も同じ結末を辿る。
当然の結果だ。自分には欠陥があった。それゆえに、分解され次に造られる素体の材料になる。悲観することはない。この結末も自分の運命なのだから。
声が聞こえた。どうやらその声の主は自分に語りかけているらしい。目を開けるが声の主の姿を捉えることができない。なにか黒い靄(もや)のようなモノに覆われている。
「やぁ、やっとお目覚めかい」
声の主は退屈そうに語りかけてくる。どのくらい時間が経ったのだろう。まだ自分は死んでいないことに少し驚きつつも身体を声の主に向ける。
「あぁ、まだ死んでいないことに驚いているのか。ここの魔術師どもを私が残らず殺し尽くしてね、その際にここの工房も潰したんだ。この処理槽の機能も停止している。このままここにいてもいずれ衰弱死するだろうがすぐには死なないよ」
ここの魔術師ということは自分の製造者達だろう。
彼らを殺し尽くした? たった一人で? いや、そもそもなぜそんなことを?
「ここの魔術師どもが消えた今、キミは晴れて自由の身になった。次の素体の材料になる必要もない」
自由の身。もう死ぬ必要がないということだろう。だが今の自分には仕えるべき存在もいなければ生きる理由がない。
「そこでどうだろう、一つ私の暇潰しの種になってくれないかい? 君は死なずにすむし、私は私でこの退屈な時間を少しは楽しめる。悪い話ではないだろう? 」
淡々と話を進めていく声の主に思考がついていけず、声を発することができないがお互いに利害は一致しているということだろう。
「君もこんな薄暗い場所なんかより、外の世界を見てみたいと思わないかい? 」
外の世界。そんなこと考えたこともなかった。自分の生はここで終わると、そう受け入れていたから。
「さぁ、答えを聞かせてくれ」
気づくと自分は声の主に手を向けていた。
相変わらず思考がついてきていないが一つだけ自分の中に‘‘生きたい’’という感情があるのは確かだ。
「交渉成立だ、私を楽しませてくれ」
そう言い終わるのと同時に、意識が闇の底へと遠退いていった。
目を開けると、眩むほどの光が差し込んできた。目に映るものも、耳に入る喧騒も全てが新しく輝いているように見える。
不意に右腕に痛みが走る。が、その痛みもすぐに引いた。
一歩、また一歩と足を前に出す。目の前にある無数の輝きに触れるために。無数の輝きを知るために。右腕に刻まれた刻印に気付かぬまま、私は喧騒の波に紛れていった。