幻想白徒録   作:カンゲン

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前半の幽香さんキャラ崩壊してますw


第八話 風見幽香は頑張り屋

 花畑に戻るころには月や星が見えるほど空が暗くなってきた。紫と幽香と別れてから大分時間が経ったが、二人の特訓は終わったのだろうか。

 紫の力をもとに二人を探していると、一軒の家を見つけた。幽香の妖力も感じるからこの家は幽香の家だろうか。とりあえず俺は家の扉をノックしてみた。

 

「は、はい…。誰でしょう…?」

「ハクだ。紫と一緒にいた人間の」

「あ、ハクさんですか。今開けますね」

 

 やはり幽香の家だったみたいだな。トタトタという足音が聞こえて扉が開かれる。出てきた幽香は最初に見たときよりも大分お疲れのご様子だ。

 

「どうぞ。おかえりなさい」

「えぇ~と…、ただいま?」

「……ふふっ」

 

 ここは俺の家ではないのだが、『おかえり』には『ただいま』でかえすものだよな。そう思い答えると、幽香は何がうれしいのやら、クスリと笑った。

 それにしても紫の妖力も感じるのにあいつは出てこないんだな。別にいいけれど。

 俺は幽香に案内されて居間に通してもらった。椅子に座っていると幽香がお茶を持ってきてくれた。

 

「どうぞ、熱いですから気を付けてくださいね」

「ありがとう。……うん、美味い」

「えへへ、よかったです」

「紫はどうした? ここにいるとは思うんだが」

「今は眠っています。この家に連れてきたらまっすぐベッドに行ってそのまま…」

「……幽香のほうが疲れてるだろうに…」

「あはは…」

 

 紫よ、お父さんお前をそんな風に育てた覚えはないぞ。俺お父さんじゃないけど。

 

「どれ、ちょっと手を出してみろ」

「え? はい…」

「ちょっと失礼」

「わっ、わっ…」

 

 幽香の手を両手で包むように握る。幽香が顔を赤くしてあわあわしているが、構わずに集中して自分の力を幽香に譲渡し、ついでに力の流れを整える。これで多少は疲労感も消えるだろう。

 さっきまで慌てていた幽香だが、自分の体調が良くなっているのに気付いたのか驚いた表情に変わった。子供は表情がコロコロ変わるから面白い。あとかわいい。

 

「よし、少しは楽になっただろう?」

「す、すごい…! さっきまでクタクタだったのに…!」

「力の使い方を覚えればこういうこともできるんだ。というか紫はなんでやってやらなかったんだ…」

「すごいすごい! ありがとうございます!」

「はいよ」

 

 幽香が興奮気味に礼を言ってくる。少し力の使い方を覚えることに興味が湧いたかな。だったら一石二鳥だな。

 

「ところで、少し話があるんだ」

「なんですか?」

「実はさっきまで、花を取っていた人達の村に行ってたんだ」

「え…」

 

 はしゃいでいた幽香の表情が一気に冷め、無表情になる。悪いとは思うが、これは話しておくべきことだからな。

 

「花を持って行っていた理由だが、村の人間が病気になってしまっていてな。その病気を治すのにあの花が必要だったということなんだ」

「……てことは、その病気が治るまで花を取りに来るってことですか…」

「いや、大丈夫だ。病は治しておいた」

「え…?」

「俺は医者みたいなこともしているからな。だから村まで行って病気を治してきた。そのときにこの花畑の花を取らないように注意しておいたから、もう取って行ったりはしないだろう」

 

 俺が説明すると幽香はぽかんとしたまま動かなくなってしまった。どうやら俺が言ったことを理解するのに相当の時間がかかっているようだ。

 しばらくすると、幽香はハッとして俺の目をじっと見つめてきた。その瞳には希望の光が灯っているように見えた。

 

「……ほ、本当? もう花を取って行ったりしないの?」

「ああ、大丈夫だ。花を取りにくる必要がなくなったからな」

「……あ、あはは……。ああ、本当によかった…」

 

 前々から思っていたが、この少女の花を愛する心は本当にすごい。まるで自分のことのように、いや、自分のこと以上に花のことを考えている。今も心底安堵した表情で涙を流している。

 

「今までよくたった一人でここを守ったな。これからは俺も紫も手伝うから、だから安心しろ」

「はい……はい……。…ありがとう、ありがとうございます……」

 

 静かに涙を流す幽香の頭を優しくなでる。これまでの頑張りの労りと、これからのことを少しでも安心させられるように。幽香は俺にされるまま、頭をなでられている。

 しばらくそのまま、二人とも何も言わずに時間だけが過ぎていった。だがこの雰囲気は嫌いじゃない。だからもう少しくらい、このままでもいいだろう。

 

「…………いい雰囲気のところ悪いんだけど」

「!」

 

 そう思っていた矢先、紫の登場によってさっきの雰囲気は何処ぞへ行ってしまった。空気読め、紫。

 紫の声が聞こえた瞬間に、幽香が離れてしまった。ものすごい勢いで部屋の隅に飛んで行き、丸まって震えている。ついでに言うと髪の隙間から出ている耳が真っ赤だ。かわいい。

 

「おはよう、っていう時間ではないか」

「おはよう、っていう時間ではないわね」

「お、おはようございます……っていう時間ではないですね…」

 

 ならば『おそよう』とかだろうか。

 

「紫…。慣れない特訓をした後なんだから、幽香は疲れるに決まっているだろう。せめて疲労を取り除くことくらいしてやれよ」

「ハク…。簡単に言うようだけど、妖力を渡すだけならまだしも、相手の力の流れを整えるのって難しいのよ?」

「お前なら簡単だろ?」

「評価してくれるのはうれしいけど、あいにく私には難しいわ。天魔なら少しはできるかもしれないけれど。そもそも相手の力に干渉するのが難しいのよ」

「そうなのか? 俺はできるぞ?」

「私はできないの!」

 

 あれ? 紫のことだから簡単にできるものなのかと思ったんだが…。もしかして、俺のほうがおかしいのか? 訓練しすぎたのかなぁ…。

 

「まぁいいや。それよりも、花畑の花を取って行っていた村人のことだが……」

「聞いていたわ」

「なんだ、起きていたのか。だけどどこで聞いていたんだ?」

「どこにいてもスキマを使えば話を聞くくらい簡単よ」

「お前の能力は便利だな」

「ふふふ……。壁に耳あり障子に目あり、スキマに紫、ってね」

「……………………せやな」

「……………………ご飯作りましょうか」

 

 紫は頭がいいはずなのだが、たまにそこに疑問を持つときがある。今がまさにそのときなのだが…。紫も若干だが顔が赤いようだ。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。

 とりあえず、赤面したままわたわたと弁解を始めている紫は放っておいて、俺も夕飯作りを手伝うとしよう。

 

 

 

「…美味しい! ハクさん料理得意なんですね!」

「まあね。というか連れが全然料理しないからね…」

「ああ…」

「ちょっと! 私だって料理くらいできるわよ!」

「じゃあこれからは自分でやってくれ。そもそも俺は食べる必要がないんだから」

「う……でもハクの料理美味しいし…」

「わかったわかった。今度教えてやるからやってみよう、な?」

「むぅ~ん……、わかったわ」

「そのときは私にも教えてください!」

 

 俺と幽香の合作料理を食べながら、がやがやと賑やかな夕飯となっている。幽香も料理の腕はなかなかのもので、少しでいいからその技術を紫に分けてやってほしいと思ったほどだ。

 

「そうだ。幽香、訓練はどうするんだ?」

「え?」

「村人たちとは話し合ってここの花を取って行かないようにしてもらったから、追い返すために力をつけるのが目的なら、もうその必要はない」

「あ…そうですね」

「まぁ俺としては訓練してほしいが。器が大きいのに力を制御できないとなるとお前自身もこの花畑も危ないからな」

「え! そうなんですか!?」

「そりゃそうだ。うっかり暴走でもしたら、花畑は更地になるしお前は木っ端みじんかもな」

「…………」

「どうする?」

「どうするって……訓練するしかないじゃないですか……」

 

 そうだよな。ちなみに言ったことは冗談じゃない。幽香の器はそれほどまでに大きいのだ。『どうする』なんて聞いたが、拒否したとしても無理矢理訓練させてたな。

 

「もともと訓練はするつもりでしたし…」

「あれ? そうなの?」

「はい。今回はハクさんに助けてもらいましたが、私一人でも花たちを守れるように強くなりたいんです。ご迷惑おかけするかと思いますが…」

「………」

「…ハクさん?」

 

 なんだこの子。めちゃくちゃいい子でした。俺は今、猛烈に感動している。

 今日の幽香の様子を見るに、今回の訓練は相当にキツイものだったということはわかる。だから訓練するつもりにしても、渋々といった感じだろうと思っていたのだが…。

 俺は感極まってついつい幽香を無言で抱きしめてしまった。

 

「わっ、へっ? ど、どうしましたぁ…?」

「ちょっとハク!? 何しているのよ!」

「…………なぁ、紫」

「な、なによ…?」

「この子、うちの子にしよう」

「ホントに何言ってるの!?」

 

 ホントに何言ってるんだろう。自分でもよくわからないが、要するに子供はこういう子が欲しいな~っていう……。俺は何言ってるんだ。

 

「え? え? う、うちの子…?」

「すまんすまん。幽香がいい子すぎてな、つい感動して抱きしめてしまった」

「いえ、大丈夫ですけど…」

 

 抱きしてめいた腕を解いて謝る。いきなり抱きしめられたらびっくりするよな。むしろ叫ばれなくてよかった…。

 幽香は怒ってはいないようだが、何やら顔を赤くしてもじもじとしている。どうしたのかと疑問に思っていると幽香が赤面したままこう言った。

 

「あの…、私ハクさんの子供になら…なってみたいです…」

 

 抱きしめた。刹那で抱きしめた。

 

「…………なぁ、紫」

「なによ?」

「この子、うちの子にしよう」

「いいんじゃない?」

 

 うむ。紫も幽香のかわいさにやられてしまったようで、あっさりと承諾してくれた。

 …お? 抱きしめていた幽香が抱きしめ返してくれた。なんだこの子、かわいすぎる。

 

「ってことは私はハクのお嫁さんかしら~?」

「いや、お前も子供だろ」

「何でよ!?」

「六百年近く歳の離れている夫婦がいてたまるか」

「それを言うなら子供だとしてもありえないわよ!」

 

 む、確かに。だが俺は紫の小さいころを知っている。だから子供としか見れないのだ。

 

「ろ、六百年!? ハクさんって人間でしたよね?」

「あれ? 言ってなかったっけ……って、そういえば本当に簡単な自己紹介しかしてなかったな。よし、じゃあ今からお互いのことを話そう。少し遅めで少し長めの自己紹介だ」

「いいわね。多分これから長い付き合いになると思うしね」

「わかりました!」

 

 そう。これから長い付き合いになるのだ。お互いのことをよく知っていたほうがいいだろう。俺は幽香を放し、三人とも椅子に座った。

 さてと、誰からどこからいつから話そうか。今夜は眠れなさそうだなと、はしゃいでいる紫と幽香をみて思った。

 

 

 

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 この花畑で幽香と暮らし始めて百年くらい経った。だが楽しい時間というのはあっという間だ。感覚的にはまだ数年しかたっていないような気もする。

 この百年、ずっと幽香は特訓していたかというとそれは違う。彼女は思った通り才能があったようで、五年くらいでそこらの妖怪を上回る力を手に入れた。今は訓練というより、遊びのような感覚で力を操っている。元々大きかった器もさらに大きくなっているものだから、近いうちに大妖怪として名を知られるかもしれないな。

 ただ、優しい性格はそのままなのでむやみに人間を攻撃したりもしない。花に手を出した場合は例外だが。

 

 さて、ここには大分長居した。そろそろ他の場所に向かいたい。幽香ももう一人で問題ないだろう。本当はもっと早く出て行ってもよかったのだが、幽香に引き止められた。まぁ俺も幽香とは別れたくなかったしな。

 

「じゃ、そろそろ出るよ。長い間世話になったな」

「それはこっちのセリフよ」

 

 長い時間一緒にいる間に敬語もなくなって、なんだか本当に親子みたいな感覚だ。反抗期とか来なくてよかったなぁ…。

 

「紫はどうする? 一緒に来るか?」

「……考えていたけど、私はここに残るわ。まだ幽香の世話をしなきゃいけないしね」

「あら、あなたに世話された覚えはないわよ」

「なによぅ! 訓練を手伝ってあげたじゃない!」

「最初の一年ね。ハクに教わったほうがわかりやすいことにもっと早く気付くべきだったわ」

「ぐぬぬ~!」

 

 仲がいいな、こいつら。これならついて来ないといっても不思議じゃない。要するに別れたくないのだろう。紫は能力でいつでも会えるっていうのにな。

 

「そうか。じゃあまた一人旅だな。何百年ぶりかな…」

「あ、まって。行く前に封印を解いてあげるわよ」

「封印って、確かハクの力を抑え込んでるっていう?」

「そう。前に解いたときより私も強くなったからね。できる限りでやってみるわ」

「……私も手伝うわ。少し興味あるし」

「そうだな。頼むわ」

 

 力は強くなったとはいえ一人旅は危険だ。少しでも封印を解いてもらって力の底上げをしたほうがいいだろう。

 紫と幽香がしばし話し合い、二人で俺に手のひらを向けて目を閉じた。その瞬間、前に封印を解いたときと同じ感覚が体を駆け巡った。

 紫と幽香の様子を見ると、やはり二人とも険しい表情をしている。二人がかりでも難しいのか。

 

「「ふぅ……」」

 

 しばらくすると、二人同時に大きく息を吐いた。力の流れから、かなり疲れていることがわかる。

 

「お疲れ。二人とも手を貸して。力を回復させるよ」

「…今解いた封印から出た力で回復するってなんか変な感じ…」

「お願いするわ、ハク」

 

 二人の手を取り、生命力を譲渡する。最大値が増えているだろうから、加減して慎重にゆっくりと。時間をかけて二人の妖力を元に戻した。

 

「はぁ…。なんなのよ、あの封印は。私と紫の二人がかりでもほとんど解けなかったじゃない」

「予想以上ね…。強力なのは前回で知っていたつもりだったけど、ここまでとは……」

「まぁ、なんだ。ありがとう、二人とも」

「どういたしまして。さて、どれくらい力を出せるようになったのかしら?」

「どれくらいって…。ほとんど解けなかったじゃない」

「前回もほとんど解けなかったわ。それなのに、あのとき普通の人間より少し強い程度の力しか持っていなかったハクが、私に匹敵するほどの力を出せるようになったのよ?」

「そ、そうなの?」

「ああ。あのときはびっくりしたな」

 

 さて、では一回外に……というより空中のほうがいいな。そこで力を出してみよう。地上で力を出して、花畑をめちゃくちゃにはしたくない。そう二人に伝えて、三人で空高くまで飛び上がる。

 ある程度の高さで停止した俺は、半分ほどの力を出してみた。

 

 結果。紫に匹敵する量の力が放出された。

 

「………」

「あら? 思ったより増えていないわね?」

「そうなの? かなり強くなったように感じるけど」

「……………」

「? どうしたの、ハク?」

「……まだ半分しか出してない……」

「「……は?」」

 

 まだ半分しか出していないのに紫に匹敵する量。ということは全力でやれば紫の倍ってことか?

 三人とも空中で停止したまま放心している。周りから見ればさぞおかしな光景だったことだろう。とりあえず現実に戻ってきた俺は出していた力を抑えた。

 

「……なんていうか、さすがハクね」

「そ、それほどでも…?」

「人間って何だったかしら…」

「何だったかなぁ…」

 

 なんにせよ、封印はまた少し解けた。一応目的は達成してくれたのだ。感謝の意を込めて二人の頭をなでる。

 

「なんにせよ、ありがとう」

「んふふ~。このなでなでも、しばらく味わえなくなるわね~」

「そうね」

「また戻ってくるさ。そのときまたなでてやるよ」

「約束よ」

「約束だ」

 

 紫と幽香と指切りをして、また会うことを誓う。

 そうだな…。定番の挨拶と再会の約束を同時にして、出発するとしよう。

 

「行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」

 

 

 

 再び始まった一人旅。約四百年ぶりだろうか。独りぼっちというのは少し寂しいな。今まで隣にいた紫がいなくなるだけで、ここまで心境に変化が起こるのか。

 それとも、俺が寂しがり屋なだけなのだろうか。…いや、こんなことを考えても仕方がないか。

 別れあれば出会いもある。また新しい出会いがあることを楽しみにして旅をするとしますか。

 そのためには…。

 

 迷子にならないようにしないとな。

 

 

 




主人公が着実に強くなってきてます……ということでチート要素タグつけましたw

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