幻想白徒録   作:カンゲン

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風見幽香は優しいかわいい。
とりあえずロリ幽香描いてみました。右足は上手いこと隠れてますw

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第七話 花を愛する優しき少女

 

 勇儀が酒を飲み始めたことで再開した宴会は三日三晩続いた。つまり合計で六日六晩だ。そんなこと言わないか…。

 この山に滞在している間にいろいろなことがあった。萃香や勇儀と模擬戦をしたり、天魔と力の操作の訓練をしたり、他の鬼や天狗たちと語らったり。

 萃香と勇儀に連れられて人里まで行ったこともあった。もちろん俺は人間と戦ったりはしなかったが。むしろやりすぎな二人を止める立場だった。人里の人たちから見たら俺はどういう立場なんだろうか。鬼と一緒に来たが戦いはせず、逆に止めている人間ってわけわからんな。

 まぁなんにせよ、とても充実した日々が続いた。今ここにいる中で人間は自分一人だけなのだが、孤独感なんてものを感じないほど、みんな対等に接してくれた。

 

 だからつい、居心地がよくて百年近く居続けた俺を誰が責められよう。

 ここでの生活は楽しい。離れがたいものなのだが、そろそろ旅を再開しようと思っている。まだまだいろいろなところに行ってみたいのだ。

 きっかり百年目で旅を再開しようと思っていることを少し前にみんなに言っておいた。紫はここに残るかついてくるか考えているようだ。まだ答えは聞いていないが当日までには答えを出してくれるだろう。

 そして、きっかり百年目の日がやってきた。

 

「今日が出発の日か~。あっという間だったねぇ」

「寂しくなっちゃうね」

「悪いな。ここは居心地がいいから俺も離れるのは少し寂しいよ」

「紫さんはどうするんですか?」

「…私もハクについていくわ。旅をするのも悪くないものね。でも、たまにはここに寄らせて頂戴ね」

「もっちろん! いつだって歓迎するよ、友達だもん!」

「ふふふ、ありがとう、萃香」

 

 本当に仲良くなったものだ。

 ふらりふらりと旅をしてきた俺たちは、一つ所に長い間留まっていたことがない。だからこそ、この山が故郷のようにも感じるのだ。紫にとってはここは帰る場所なんだろうな。

 

「ハクも! いつだって帰ってきていいんだからね!」

「ああ。気が向いたら立ち寄ったりするよ。今度は必ずな」

「今度? ってなんのこと?」

「いや、こっちの話だ」

 

 俺が最初に滞在したあの人里。これが最後じゃない、気が向いたら立ち寄ると言ったが、結局あいつらが生きている間に行くことはなかった。寿命のことを知らなかったということもあるのだが、それでも約束を破ったことに変わりはない。

 だから今度こそ約束は違わない。必ずまた来ると誓おう。俺は一人そんなことを考えていた。

 

「…ハク、変な顔してるわよ?」

「気にするな。少し昔のことを思い出していただけだ」

「へぇ…。ねぇ、私ハクの昔のことってあまり聞いたことがないんだけれど?」

「ん~。話すことでもないしな。まぁ旅路の暇つぶしぐらいにはなるか」

「話してくれるの? 楽しみだわ」

 

 大したことはないかもしれないが、そうだな…。俺が最初に滞在した人里の連中のことでも話してやるか。

 

「それじゃあ、またな」

「またね!」

「また会おう!」

「また会いましょう」

「また今度ね」

 

 手を振って送ってくれているみんなに背を向けて歩き出す。次はどこに行こうか、どんな出会いがあるのか。わからないから楽しいのだ。

 

 

 

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 旅を再開して数ヶ月。今は森の中を歩いているが、まだ人里は見つからない。飛んで上から探せばすぐ見つかるのだが、その後すんなりと人里に入れてくれなくなるだろう。

 最初に見つけた人里でのことを思い出していると、ふと甘い香りがした。だが、食べ物の匂いとは違うようだ。

 気になった俺たちはその匂いのする方向に向かうことにした。もし妖怪の罠だったとしても紫と今の俺ならば問題はないだろう。

 

 力の最大値が上がったわけだが、制御するのは思いのほか簡単だった。続けていた訓練がよかったのだろうか。普段は天魔ほど完璧にではないが、力が漏れ出ないように制御して歩いている。

 それと、前は一切増減しなかった力が、封印の一部を解いてからは少しずつ上昇するようになった。おかげで術の効果も高くなった。ありがたい。

 

 紫と歩いていると、森を抜けたようで太陽の光が目に入ってきた。昼とはいえ、今まで暗い森の中にいた俺たちにとってはかなりまぶしく、思わず目を閉じ手で太陽を遮った。

 しばらくして慣れてきた目を開けると、色とりどりの世界が目に飛び込んできた。

 

「おお…!」

「わぁ…!」

 

 紫と共に眼前の光景を見て、思わず感嘆の息を漏らしてしまった。

 そこにあったのは一面の花畑。赤、青、黄と様々な色の花が咲き誇っていた。照りつける太陽の光も相まって息をのむほど美しい。

 これはすごいな。これほどたくさんの花が咲いているのは初めて見る。隣にいる紫も感動しているようで、花たちに負けないほど笑顔がキラキラとしている。

 

「に、人間…!? また花を取りに来たの…!?」

 

 しばらく花畑に見とれていると、誰かの声が聞こえた。周りを見てみると、花畑の中から一人の少女が出てきた。癖のある緑色の髪に赤色の瞳。そして瞳と同じく赤いスカートをはいている。幼いながらも整っている顔からは、今は敵意を感じる。

 若干だが妖力を感じる。となると妖怪か。最近は人型の妖怪によく会うな。

 

「えっと……なんで怒っているのかわからないけど、俺たちはたまたまここを通りかかっただけだよ」

「森を歩いていたら、いい香りがしたものだから、ついつられてしまってね」

「え、あ…そうだったんですか。すみません…」

 

 正直に事情を説明すると、緑の髪の少女は警戒を解いてくれた。妖怪にしては臆病な感じがするな。生まれてからあまり経っていないのだろうか。

 

「いや、気にするな。それにしても、この花畑はすごいな。見惚れてしまったよ」

「ほんとほんと! こんなきれいなものを見るのは初めてだわ!」

「ほ、本当ですか! え、えへへ……ありがとうございます」

 

 緑の髪の少女はさっきまでのおどおどした様子から一変、心底嬉しそうな表情をして礼を言ってきた。礼を言うということは…。

 

「もしかして、ここは君の花畑なのか?」

「え? えっと、はい。ここで花たちのお世話をしてます」

「あなたがこの花畑を? すごいわね!」

 

 紫のテンションがさっきから高い。この花畑に相当感動しているようだ。かく言う俺も結構上機嫌だ。

 緑の髪の少女は褒められてうれしいのか、顔を赤くしている。

 

「えと……お二人は…その、恋人さんか何かでしょうか?」

「恋人?」

「俺と紫が?」

 

 緑の髪の少女からの質問に俺と紫は顔を見合わせる。俺と紫が恋人…。傍から見るとそう見えるのだろうか?

 

「ち、違うわよ? 一緒に旅をしている友人―――」

「恋人ってのもいいかもしれんな、紫」

「なんだから…ってええええぇぇぇぇぇ!?」

 

 紫が顔を真っ赤にして、口をパクパクしている。紫の反応は面白いな。ついついからかってしまうのも仕方がないことだろう。

 緑の髪の少女は赤面しながら瞳をキラキラとさせている。この子の反応もなかなか面白いな。

 

「なぁ紫。俺はお前といると楽しいよ。お前がよければこれからもずっと一緒にいてくれないか?」

「え、えっと……あぅぁぅ……」

「…………くく」

「! ハクぅ~! あなた私をからかっているでしょう!」

「ばれたか……くくく……」

「もうっ。人をからかうのも大概にしてよね」

「言ったことは本心なんだがな…」

「くぅ…! だ、騙されないわよ!」

 

 残念。さすがに連続では引っかからないか。まぁ十分かわいい姿をみせてくれたから満足だ。後でなでなでしてやろう。

 

「とっても仲がいいんですね。羨ましいです」

「そ、それはどうも。そういえば自己紹介がまだだったわね。私は八雲紫。妖怪よ」

「ハクだ。白いって書いてハク。少し変わってるけど人間だよ」

「紫さんにハクさんですね。私は風見幽香(かざみゆうか)って言います。よろしくお願いします」

「ええ。ところでさっき、『また花を取りに来たの』と言っていたけど、どういう意味?」

「え、えっと……それは……」

 

 紫の問いに風見幽香と名乗った少女の表情が曇る。確かに最初に会った時、幽香は俺たちに対して敵意を向けながらそう言った。

 

「…最近、人間がここの花を勝手に取ってしまうんです。それもたくさん……」

「へぇ。まぁこれだけきれいな花を見たら持って帰りたくもなるわな」

「そうかもしれないですけど…。でも、ホントにいっぱい取っていくんです。私も何とかしようとしてるんですが、力不足で…」

「確かに幽香はあまり強そうな妖怪ではないものね」

「そもそもこんな広い花畑を一人で守れるはずがないな。妖力も大した量はないし………!」

 

 幽香の妖力を探り、そう言いかけた俺は少女の異常性に気付き驚愕した。

 

「紫。幽香の力を探ってみろ」

「探ってるわよ。だからあまり強そうではないと…」

「妖力の量じゃない。力の器の大きさだ」

「……これは…!」

 

 紫も気付いたようでかなり驚いている。幽香は何を言っているのかわからないという顔をしているが…。

 妖力の量は大したことない、というよりかなり少ない。問題なのは器の大きさだ。

 力の器とは、要するに霊力や妖力をためておける入れ物のことだ。大きさには個人差があり、妖怪などは長く生きるにつれてこの器も大きくなっていく。そして重要なのは今現在持っている力の量と、力の器の大きさはイコールではないということだ。力は使えば当然減るが、器が小さくなるようなことは基本的にない。

 この少女は妖力の量こそ少ないが、器の大きさは紫に匹敵する。

 

「どうかしたんですか…?」

「…いや。弱い妖怪かと思ったが、幽香にはなかなか才能があるみたいだぞ」

「え?」

「今の時点で私とそう変わらない器の大きさね。そこそこ強い自信があったのに~」

「え? え?」

「まあまあ落ち着け。そうだ、この子に力の使い方を教えてやってみてはどうだ、紫?」

「いいかもね。上手くいけば花を取りに来た人間を追い払うなんて簡単よ? ど~する?」

「……」

 

 幽香に力の使い方を教えるという提案をする。危険な妖怪ならこんなことはしないが、幽香は心優しい妖怪のようなので問題ないだろう。それに、大量の力を持っているのに制御できないというほうが危険だ。

 紫も力の使い方は上手いから、ちゃんと教えられると思う。さぁ、どうする幽香。

 

「…はい、お願いします。私が強くなることで花たちを守れるのなら」

「いい返事ね。任せておいて、幽香」

「はい!」

「ハクはどうするの? 一緒に教える?」

「いや、俺は少し気になることがあるから少し時間をもらいたい」

「わかったわ。幽香、ここら辺で思いっきり暴れても大丈夫な開けた場所とかないかしら?」

「えぇと、確かあっちのほうに何もない広い場所が……どうしてそんなこと聞くんですか…?」

「決まってるじゃない。思いっきり暴れるからよ」

「ええええぇぇぇぇぇ!?」

 

 紫、ちゃんと教えられるかなぁ。悲鳴を上げ、顔を青ざめている幽香を引きずっている紫を見ながら、心配になる俺であった。

 

 さて、少しばかり気になることがある。

 花を取りに来たという人間。弱いとはいえ妖怪である幽香がいるのは知っているはずなのに、なぜ何度も取りに来ているのか。きれいだからという理由だけでは軽すぎる気がする。考えられるとすれば…。

 俺は集中して、力が集まっている場所を探す。…っと、ちょうどよくこちらに向かって来ている力を見つけた。数は八。おそらく花を取りに来た人間だな。

 彼らがここに到着するのを少し待つとしよう。

 

 

 

 数十分後、向かって来ていた人間が到着したようだ。今は近くに木の陰から様子をうかがっている。

 俺は彼らがいる場所に向かって歩き出す。当然気づいた彼らはすぐに警戒したようだ。

 

「そこに隠れている人達。俺は妖怪じゃない、人間だ。少し話をしたいんだがいいか?」

「……」

 

 返答はない。が、いろいろと話し合っているようでボソボソと声が聞こえる。相談しているのなら俺は後は何も言わないほうがいいな。

 そのまましばらく待っていると、警戒はしているようだが八人とも出てきてくれた。助かる。

 

「初めまして。俺はたまたまここを通りがかった旅人だ」

「…旅人? 白髪なんて珍しいな…」

「まぁな。ついでに言うと妖怪退治の専門家でもある」

「妖怪退治の!?」

 

 妖怪退治の専門家を名乗ると、相手の反応が警戒したものから驚いたものに変わった。それと何人かは少し喜んでいるようにも見える。

 

「それならちょうどいい! この花畑に咲いているとある花を取ってきてもらいたい」

「どうして妖怪退治の専門家にそんなことを頼むんだ? 自分で取ってきたらいいじゃないか」

「この花畑には妖怪がいるんだ。あまり強くはないみたいなんだが、私たちの村には妖怪に対することのできる人がいない。だから、こうして多人数で来ているんだ」

「なるほど。じゃあ、どうしてそうまでして花を取る必要があるんだ?」

「…その花は薬になるからだ。私たちの村は今、ある病が流行っていてな。明確な治療法はわからないんだが、その花から作れる薬で症状を緩和できるんだ」

 

 予想通りだ。危険を冒して取りに来るにはこれくらいの理由があると思ったが、ドンピシャだったな。

 

「なるほど、わかった」

「ってことは取りに行ってくれるのか?」

「いや、悪いがここの妖怪とは知り合いでね。この花畑はそいつにとって大切なものなんだ。だから花を取ったりはしない」

「なっ!? お前さっき妖怪退治の専門家だと…!」

「専門家だ。だが退治する妖怪は選ぶ。悪い妖怪なら退治するが、いい妖怪なら友人にもなる」

「騙したな!」

「嘘は言っていないんだけどね…」

 

 人間たちが、持ってきていた刀やら鎌やらを構える。

 幽香とはさっき知り合ったばかりだが、悪い妖怪でないことはわかる。そんな妖怪が大切にしているものを壊したりはしたくない。

 だが、だからと言ってこの人間たちを見捨てていいのかというと、そんなわけがない。わがままかもしれないが、助けられるなら助けたい。

 

「まぁ落ち着け。花を取ってくることはできないが、病人を診ることぐらいはできる」

「なんだと…?」

「妖怪退治の専門家を名乗ったが、医者みたいなこともしているんだ。治せるのならば治したい。村に案内してくれないか?」

「……本当か? 本当に助けてくれるのか?」

「最善を尽くすよ」

 

 俺がそう答えると構えていた武器を下ろしてくれた。今ここで戦ってもどうしようもないからな。話の通じる相手で助かった。

 村人たちは俺に一言謝罪をすると、村へと案内をしてくれた。

 

 

 

「…………これでどうだ?」

「……! 熱が下がってる!」

「ああ…よかった……!」

 

 村に着いた俺は、早速病になっているという人達の診察を始めた。とはいえ、せいぜい力の流れを見ることぐらいしかできないわけだが。見た感じ、死ぬような病ではないと思うが、力の流れがかなり悪い。本人にとっては辛いだろうから、すぐに治療することにした。

 俺の血液を飲ませ、力の流れを整えると全快とはいかないがかなり回復したようだ。封印が解けたせいか、血液の効果も高くなっていたのが幸いしたな。

 

「本当にありがとうございます! おかげで助かりました!」

「まだ完全に治ったわけではないと思うから、しばらくは安静にしていてね」

「はい、わかりました。本当にありがとうございます」

「うん。これで病になった人は全員か?」

「そうです。それにしても本当に治してしまうとは…。私からも礼を言います。本当にありがとう」

「ああ、気にするな」

 

 数時間かかったが、村にいた病の人を全員治療することができた。そんなに大きな村じゃなかったから思ったより時間はかからなかったな。

 さて、治療は終えたわけだが俺から彼らに頼みたいことがあるのだ。

 

「ところで頼みがあるんだが」

「なんでしょう。私たちにできることなら」

「これからはあの花畑の花を取らないでほしいんだ。この村の病が治ったことであの花畑に行く必要はなくなったと思うんだが…」

「そうですね…。確かにもう行く必要はありません。あそこにいる妖怪もこの村を襲ったりすることはないですし、退治しようとは思いません」

「よかった。それから、俺もしばらくあの花畑の近くにいると思うんだが、たまにこの村に来ても大丈夫か?」

「それはもちろん! 歓迎しますよ、仙人様!」

「……俺は仙人じゃないんだがなぁ」

 

 これで村人があの花畑を荒らすようなことはなくなるだろう。あの花畑を見れないのは気の毒かもしれないが、幽香もただ見に行くぐらいなら許してくれるだろう。そこらへんは幽香と村人が話し合ってルールを決めればいい。

 それにしても、病人を治療しているうちにまた仙人と呼ばれるようになった。俺はそんなに仙人っぽいのだろうか。

 そもそも仙人を見たことがない俺は、まだ見ぬ仙人の姿を想像しながら紫と幽香のいる花畑に戻ることにした。

 

 

 




怪我・病気を治せるのっていいですよね~
羨ましい~

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