幻想白徒録   作:カンゲン

5 / 36
少し長くなってしまいました。文字数調整するのって難しいね~


第五話 鬼と天狗の住まう山

 伊吹萃香と出会い、少し話した後。俺たちは彼女たちの住む山へとお邪魔させてもらうことにした。俺たちを山へ入れてくれるのはいいのだが、萃香の一存で決めていいのかと疑問に思った。それを伝えると彼女曰く、「山を治めている一人である私が大丈夫というから大丈夫」だそうだ。

 ない胸を張り、ドヤ顔しながら語る萃香は非常にかわいい。なでなでしたい。というかした。

 

「むぅ~。私はハクより年下かもしれないけど、子供じゃないんだよ」

「年下で見た目はそれだろう。子供にしか見えないぞ、よかったな」

「全然うれしくない!」

「まぁそう言うな。なかなか上手いだろう」

「確かに結構気持ちいいけど……」

 

 頬をふくらませながら文句を言う。そういうところが子供っぽいのだ。ちなみに俺は誰かをなでるのが結構好きだ。何というか、親密になった気がするから。

 萃香の頭をなでながら歩いていると、隣で浮いている紫が脇腹を突っついてきた。

 

「うわっ。なんだ急に」

「ハクは出会ったばかりの子の頭はなでるのに、最近私の頭はなでてくれないじゃない?」

「いや、お前自分の容姿と歳を考えてみろ。どうみても頭をなでられるような感じじゃないだろう?」

「ちょっと、どういうことよ。外見は人間で言うと十五、六くらいだし、年齢だってハクと比べたら全然子供じゃない」

「お前のような頭の切れる子供がいるか。歳も俺じゃなくて人間と比べろ」

「ハクだって人間じゃない」

「いや……まぁそうだけど……」

 

 紫のやつ、どれだけ頭をなでてほしいんだ。俺ってそんなに頭をなでるのが上手いのか。今度自分の頭をなでてみよう。

 …やっぱやめよう。気持ち悪い。

 

「イチャついているところ悪いけど、もうすぐ到着だよ」

「だ、そうだ。悪いがまた今度な」

「また今度ね。約束よ」

 

 紫との会話を終了し、前方に意識を集中する。強力な妖怪がたくさんいる場所に行くというのはかなり緊張する。

 しばらくすると森の中の割には開けている場所に着いた。周りから妖力は感じるのだが、肝心の妖怪の姿が見えない。

 すると、前を歩いていた萃香が立ち止まった。

 

「やあ、戻ったよ」

 

 萃香がそう声を上げる。瞬間、周りから感じる妖力の一つひとつが大きくなった。いつでも戦闘に入れるような力の出しかただ。

 だが問題はない、はず。山を治めているはずの萃香が連れてきた人間と妖怪だ。普通は客人か何かと判断するだろう。

 

「戻ったか、萃香」

「おかえりなさい、萃香さん」

 

 念のため警戒していると、真正面から声が聞こえた。見ると二人の女性がこちらに向かって歩いてきている。

 一人は金髪の大人っぽい女性だ。人里ではまったく見ない不思議な服装に、手足に枷がついている。そして何より目を引くのが額から生えている真っ赤な角だ。先程から感じていた強大な妖力はこの人から発せられている。おそらく鬼だろう。

 もう一人は少し派手な着物を来た黒髪の女性だ。角はないようだが、代わりに髪と同じく真っ黒い翼を持っている。だが、それよりも妙なことがある。この人からは妖力も霊力も生命力も感じない。俺の知らない種類の力を持っているわけではなく、何も感じないのだ。まるで、そこに何もいないかのように。

 萃香と金髪の女性は確かに強力な力を持っているが、最も警戒すべきは黒髪の女性である気がする。

 

「ん? こっちに来ていた妖力の元凶も一緒か」

「本当ですね。ですがもう一人の男性からは妖力を感じない……」

「? どうした、天魔(てんま)

 

 黒髪の女性を観察していると、彼女と目が合った。すると彼女も今の俺と同じように眉をひそめた。金髪の女性が俺たちを交互に見ている。

 おそらく、この人は自分の力をコントロールして体外に放出しないようにしているのだろう。紫もできないことはないが、『完璧に』というのは難しいと思う。そんなことができるやつを見るのは自分以外ではこの女性が初めてだ。

 だが、この女性が俺を見て怪訝な表情を浮かべている理由がわからない。俺は普段から力をコントロールしているわけではない。だいたい、そんなことをする必要がない。

 

「……俺も結構長く生きてきたが、そこまで完璧に力をコントロールしている人に会うのは初めてだ。いや、妖怪かな?」

「……私もそれなりに長生きではありますが、あなたのような力は見たことがありませんね。あなた、人間ですか?」

「さぁな。あんたから見たら俺の力、どう見える?」

「人間の持つ生命力によく似ていますね。でも、何かが違う。こんな違和感を感じたのは初めてです。あなた自身は普通の人間に見えるのですが…」

「なるほど……」

 

 彼女はどうやら俺の力に違和感を感じていたようだ。さすが力のコントロールが完璧なだけはある。相手の力を読み取るぐらいお手の物といったところか。

 しかし、そんな彼女でも俺の力がどういうものかわからないようだ。もしかしたらと思ったが、そう上手くはいかんか。

 

「いや、失礼した。俺はハク。こっちは連れの妖怪の八雲紫だ。強大な妖力を感じたから興味があって来たんだ。別に退治しに来たわけじゃない」

「初めまして、八雲紫よ。あなたずいぶんと力の操作が上手いのね」

「ありがとうございます。私は天魔といいます。この山に住む天狗の長をしている者です」

星熊勇儀(ほしぐまゆうぎ)だ。ただの人間かと思ったが違うようだな。こういうのは天魔がいないと気付かないもんだな~」

「たまたまですよ」

 

 初対面の割には緊張感のある会話を終了して自己紹介をする。天魔と名乗った彼女によると、ここには鬼以外に天狗も住んでいるらしい。その天狗の長ということは、天魔はおそらくかなりの実力者ということだろう。

 もう一人の金髪の女性、星熊勇儀は俺たちが最初に感じた妖力の一つだ。紫や萃香と同じぐらい強力だが、力の操作はあまり得意ではないらしい。

 

「この山に客が来るのは久しぶりだ。退治人ならよく来るんだがな」

「そういえば、萃香も最初俺たちを妖怪退治に来たと誤解してたな」

「うっ…しょうがないじゃないか」

「そんなにしょっちゅう退治人が来るほど悪さしているってことかしら?」

「鬼の皆さんはたまに人間に勝負を挑みに行っていますからね。なんでも、正々堂々と戦いたいとか」

「人間が鬼相手に正々堂々と戦えるわけないだろ…」

 

 ただでさえ、人間と妖怪の間には絶対的な力の差が存在する。人間に恐れられなければ妖怪ではないからだ。しかも、その中でも特に力の強い鬼と真正面から戦うなどできるはずがない。そんなことができるのは一部の天才だけだ。

 そういうと鬼の二人はあきらかに不満げな顔をした。

 

「人間にそんな力はない。だから頭を使って妖怪を退治するんだ。正々堂々となんて言語道断。退治するためなら寝込みだって襲うだろう」

「なんだそれは。ひどい話だ。戦いっていうのはもっと純粋なものだろ? 真正面からでないのなら、それは戦いじゃない」

「お前は妖怪だからそう言えるんだ。人間が妖怪退治できるほど強くなるのは難しい。圧倒的な才能や、驚異的な努力でもしないとな」

「じゃあ、どうしてお前はそこまで力の操作ができるんだ。お前だって人間だろ」

「俺は努力したからだ。少なくとも萃香が生まれるずっと前から練習しているから、多少マシになっている」

「私が生まれる…っていうと三百年以上!?」

「七百年近い。だがそれでも萃香や勇儀、天魔どころか周りにいる鬼相手でも勝つのは難しい。人間と妖怪の力の差はこれほどなんだ」

「……」

 

 鬼の二人が閉口する。きつく言いすぎたかもしれないが、事実なんだ。

 人間は弱い。だから頭を使う。だというのに正々堂々勝負しろなんて厄介極まりない。だから鬼は厄介と言われる。ま、こんなところか。

 

「……でも、それじゃあ楽しくないじゃないか」

「そうだな。人間は楽しむために戦うんじゃなくて、死にたくないから戦うんだ。そこに楽しさなんてないよ」

「ハクもそうなの?」

「俺もそうだな」

「そう、なんだ……」

「ただ……」

「?」

 

 俺だって死にたくない。まだやりたいことが残っている。知りたいことが残っている。

 だから練習した。妖怪に襲われても戦えるように力の操作の訓練をした。そこに楽しく戦いたいからなんて思いはなかった。ただ必死だった。

 だが、いつからかそんな思いが変わったのだ。

 

「紫と一緒に行動し始めてからは、戦いの意味を少し考え直したことがあった。紫と模擬戦をすることが増えたからだな。確かに死なないようにする訓練ではあったけど、正直楽しかった。言葉を交わしているわけでもないのに相手と分かり合えるような感覚があったんだ」

「!」

「俺みたいに考える人間もいるかもしれない。俺はこう考えるのに五百年以上かかったが、妖怪退治を生業にしている人間なら案外すぐにそう考えるかもしれないな」

「うん……!」

「だが、専門家でも鬼と戦うのは難しいだろう。だったらルールを決めるか、ハンデをつけるかしてやればいい。俺と紫の模擬戦ではいつもそうしてるよ」

「ルール? ハンデ?」

「そう。たとえば、人間側は一撃でも攻撃を当てたら勝ちとか、鬼は妖力を使わないとか。正々堂々かと言われると微妙だが、ないよりマシだろ」

「なるほど! そうすれば少しはまともに戦えるかもしれないね」

 

 ……てことはやっぱり今までまともに戦えなかったんだな。俺は今まで勝負を挑まれた人間に同情した。

 

 

 

----------------------------------------

 

 

 

「どうしてこうなった…」

 

 今、俺の十メートル先には萃香がいる。さっきまで周りにいて警戒していた鬼や天狗たちも、今は俺と萃香の周りを取り囲んでいて賑やかだ。

 別にそれはどうでもいいことなのだが、問題は今の状況だ。

 

「よし! じゃあさっきハクが言ったルールでやってみよう!」

 

 そう。要するに萃香と戦うことになった。この子、さっき俺が言ってたこと忘れてしまったのか。俺じゃ絶対勝てないって言ったじゃん。

 あ、そういえば解決法も提示してたわ。

 

「くっ! 自分が人間であることが恨めしい!」

「なーに変なこと言ってんのさ! ハクは私に一撃でも当てたら勝ちで、私は妖力は使わないよ。あ、飛ぶのはアリね」

「……ちなみに、萃香の勝利条件は?」

「ハクを再起不能にしたら」

「紫! 代わってくれ!」

「私じゃルールとハンデをつける意味がないでしょう」

「……絶対なでなでしてやらない」

「ちょっと!? 人質なんて卑怯よ!」

 

 人じゃないんだが。まぁ紫以外と訓練できるいい機会としておこう。訓練相手がずっと同じだとパターンがわかってきてしまうからな。

 それにもし、重傷を負っても紫がなんとかしてくれるだろう。…と信じたい。

 

「……ふ~」

「お、諦めた?」

「案を考えたのは俺だからな。付き合うよ」

「うん! そうこなくちゃ! さあ、来な!」

 

 やるからには全力で。俺は生命力を足に集中して思い切り地面を蹴り、萃香に接近する。まさか肉弾戦を挑むとは思わなかったのか、すこし驚いたようだがそれも一瞬。すぐに顔を引き締め構えた。

 力を腕に集中して速度を上げ、思いっきり殴りつけた。

 だが、そんな全力の一撃も鬼相手には役に立たない。殴りつけた右腕をいとも簡単に逸らされた。

 

「!」

「さっすが! 今までの人間とは一味違う……ねっ!」

「ガハッ!?」

 

 萃香に攻撃を逸らされ、無防備になったところにカウンターをもらった。萃香の足が左脇腹に食い込み、吹き飛ばされる。激痛が走るも何とか空中で体勢を立て直し、着地する。生命力で防御してなかったら危なかった。

 予想通りだが、ハンデがあるとはいえ鬼に接近戦は無理だな。短刀も直刀も使いづらい。だったら術を使わせてもらう。

 

「すごいね! 今の一撃で失神してもおかしくないのに!」

「褒められてんのかわからないな……っと!」

「! なにこれ!?」

 

 萃香の周りに結界を張る。移動制限用の結界で、外に出るのは難しい。だが、力を使った弾などは普通に通すから接近戦しかできない妖怪には相性がいい。

 …もう一度言うが外に出るのは難しいはずだ。

 

「面白いことするね! それ!」

「んなっ!?」

 

 萃香が右腕を一振りすると、それだけで結界が破壊される。冗談だろ…。力だけで攻略しやがった。

 妖力を使えないならもしかしたらと思ったが、その状態でも予想以上に強い。俺の使える力だけでは足止めすらできない。

 

「だったら!」

「おおっ!?」

 

 俺は空中に飛び上がり、生命力を大量の弾にして萃香に向けて放つ。威力は必要ない。一撃でも与えれば勝ちなのだ。こちらが攻められる前に決着をつける!

 

「わあぁ……! きれいな弾幕だ……」

「余裕だな、萃香」

「そりゃ、楽しいからね!」

 

 楽しんでいただけて光栄だ。さて、どうするんだ、萃香。

 

「こんなきれいな弾幕を殴って消すのは惜しいねぇ…。ということで全部避ける!」

「くっ!」

 

 萃香も空中に飛ぶと、素早い動きで弾幕を避ける。ここまで簡単に避けられるとは。このままだと弾幕の間を縫って接近されるのも時間の問題だ。

 

「あっははは! こんなに楽しい戦いは久しぶりだよ、ハク!」

「そりゃよかった。こっちは冷や汗が出っぱなしだ」

「さて、そろそろ私の番だね!」

 

 萃香はそういうと最初の俺以上の速度で接近してきた。スピードも彼女のほうが上だ。今からじゃ逃げきれない。

 俺は生命力を全身に纏わせて防御に集中する。

 

「それ!」

「っ!」

 

 萃香の一撃。そのたった一撃で防御した右腕が折れた。だが治している暇がない。真正面から受けるのではなく、さっき萃香がやったように逸らさないと大ダメージだ。

 

「おっ? 接近戦もなかなかやるね!」

「今までただ生きていたわけじゃないんでね」

 

 右腕は折られたが、他の攻撃は今までの経験からくる勘で対処している。こっちはこれで精一杯だというのに、萃香はまだまだ余裕そうだ。いや、実際余裕なんだろう。さっきからずっと笑顔のままだ。

 俺は萃香の周りにもう一度移動制限用の結界を張る。萃香の動きが一瞬止まり、その隙に萃香と距離を取る。

 

「やっぱり接近戦じゃ鬼には敵わないかな。右腕も折れちゃったみたいだし、降参するかい?」

「いや、右腕なら後で再生できる。降参もまだしない」

「そうこなくちゃ。でも、そんな様子で私に通じる攻撃ができるとは思えないけど」

「確かに」

 

 さすがは鬼。ただの人間風情が勝てる相手じゃない。しかもハンデをつけてもらってこれである。

 じゃあ勝てないということで降参しますか、というとそれは違う気がする。勝てなかったとしても最後まで全力でやりたい。そのほうが楽しいだろう。

 だから最後まで全力でやるとしよう。

 

「……だからこれが最後だ!」

「!?」

 

 集中。ひたすらに集中する。力の操作に全神経を使う。

 しばらくすると、膨大な量の力が俺を纏い始めた。俺が一度に使える量よりも遥かに膨大な量の力。俺の力を百倍、二百倍しても足元にも及ばないほどの量だ。

 いかにして集めたか。答えは単純。周りから寄せ集めた。

 ここには強力な妖怪が多い。だが、天魔のように力を全く放出しない妖怪は珍しい。結果、この山には凄まじい量の妖力が漂っている。

 それをすべて支配下に置いた。こんなことは初めてやるが、どうやら上手くいったようだ。

 目の前の萃香を見ると、さすがに度肝を抜かれたようで唖然としていた。だがすぐにハッとして距離を取った。今までの余裕の表情が崩れ、冷や汗を流している。

 周りの鬼や紫や勇儀、天魔も驚いているようで皆一様に先程の萃香と同じように唖然としていた。なんだかおもしろい。

 

 俺は集めた力を使い、折れた右腕の修復と同時に先ほどと同じように萃香の周りに移動制限用の結界を張る。

 

「む、また同じ結界か。何度やっても無駄だよ……!? なっ……壊せない!?」

 

 残念。その結界は今までのとは力の密度が違いすぎる。いくら鬼でも妖力がなけりゃ破壊はできない。萃香は結界を殴り続けているが、結界には傷一つつかない。

 残った力を使い、萃香の周囲に無数の弾幕を展開する。そしてすべての弾幕を萃香のもとへ放った。

 

「いっけえぇ!」

「!」

 

 すべての弾幕が萃香のもとへ着弾した。凄まじい衝撃が起こり、土煙が舞う。

 力が乱れて萃香がどうなっているかがわからない。一つひとつの威力は抑えたから生きているはずだが…。

 

 そう思った瞬間、とてつもない勢いで何かが土煙を突破してきた。とっさに俺は残った生命力を左手に集めて防御した。

 

「……はぁっ!」

「!」

 

 土煙を突破してきた何か―――萃香は俺に渾身の一撃を叩き込んだ。いつもより多い力で防御したにもかかわらず、左腕が切断された。まだこんな力があったのか。

 

「はぁ……はぁ……。あ、やっば!」

「~~~! …紫! 修復を頼む…!」

「言われなくても!」

 

 左肩から流れ出る血を力を使って空中に留める。その間に紫が境界を操り、吹き飛んだ左腕を接合した。

 ふぅ……、危なかった。思わずその場で倒れてしまった。

 

「た、助かったよ紫。ありがとう…」

「全く無茶をして…」

「だ、大丈夫かい!?」

 

 近くにいた萃香が不安そうな声を出す。周りで見ていた勇儀と天魔もやってきた。他の鬼たちはまだ放心している。

 紫に右腕を切断されたことを思い出した。俺の出会う妖怪の間では腕を吹き飛ばすことが流行っているのだろうか。やめてくれ。

 

「大丈夫だ、ほとんど出血もしていない。紫がいなかったら危なかったけど」

「……萃香。私はこの人間がすごく気に入っているの。わざとではないとしても、殺したりしたら殺すわよ」

「わ、悪かったよ。つい熱が入っちゃって……。ごめんね、ハク」

「結果的に大丈夫だったから心配するな。紫も、そういってくれるのはうれしいがあんまり怒るなよ」

「どうやら、本当に問題ないようですね。安心しました」

 

 反省もしているようだし、なにより大丈夫だったのだから俺は全然怒っていない。だが、紫は違うらしく萃香に向かって殺気を放っている。自分のために怒ってくれているのはうれしいが、むやみに怯えさせることもないだろう。まず紫を落ち着かせることにしよう。

 とりあえず一段落したな。すると天魔が正面に来てしゃがみ込み、俺と目線を合わせた。

 

「お聞きしたいのですが、先ほどの攻撃をする際の膨大な量の力は何ですか? あなたからあれほどまでの力は感じなかったのですが…」

「あれは俺の力じゃない。この辺りに漂っていた妖力だ。俺はそれを集めて使っただけだ」

「周りの妖力に干渉して操作し、自身の力として利用したということですか!?」

「あ、ああ。そうだが……」

 

 天魔がやたらと興奮しながら話してくる。何かまずいことをしただろうか。

 

「私でもそんなことできません。目的もなく放出されているだけの力を再利用するなんて……」

「俺もやったことはなかったから、一か八かの賭けだったんだ。でも結局、力の操作はできたけど萃香には通じなかったな……」

「え、えぇっと…ごめん! 私あの時、妖力を使って結界を破壊したんだ。 妖力なしじゃあの弾幕は避けられなかったよ……」

「ふむ。じゃあこの勝負はハクの勝ちだね。いやぁ~。鬼が人間に負けるなんてな~。この勝負の仕方はなかなか良さそうじゃないか!」

「そうだな。だけど、もう少しハンデをつけてもいいだろう。俺もギリギリだったんだから」

 

 ハンデ有りのこの勝負は萃香の反則負けという形で終了した。一応勝ったわけだが実感がわかない。相手は手加減している上に、俺は自分以外の力を使った。適当に考えたルールでの勝負だから仕方ないかもしれないが、それでもしっくりこなかった。

 でも、鬼たちが満足しているようならよかった。まぁ萃香はいまだに申し訳なさそうな顔をしているから満足しているのかわからないが、戦闘中は楽しそうだったからな。大丈夫だろう。

 

「さて、催し物も終わったし、客人もいるんだ。今日は盛大に宴会をしようじゃないか!」

『おおおぉぉぉぉ!』

 

 おうおう、鬼も天狗も元気だな。それに、どうやら俺たちを客人として扱ってくれるようだ。

 

「あら、楽しそうね。私たちも一緒にいいのかしら?」

「もちろんです。ようこそ、私たちの山へ。歓迎しますよ」

「ほれ、萃香も。いつまでもそんな顔するな。宴会は楽しむもんだろう?」

「うん…そうだね。ありがとう、ハク」

 

 萃香の頭をなでて、一緒に立ち上がる。こんなたくさんの妖怪と宴会をするなんて初めてだ。人間以上に騒がしそうだな。でも楽しそうだ。それは紫も同じようで、さっきまでの殺気はどこへやら。笑顔を浮かべながら妖怪たちの輪に入っていく。

 いそいそと準備を始める妖怪たちを見ながら、少しここに滞在してみたいと思った。

 

 

 

 

 

 

「ヤロー共! 酒だ! 酒を持ってこーい!」

 

 勇儀……。お前今一番輝いているよ……。

 

 

 




勇儀さん…影が薄かったっすね…
そしてやたらと腕がなくなる主人公。ご愁傷さまですw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。