幻想白徒録   作:カンゲン

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一話丸々聖視点です。


第二十話 かつての師と変化する関係

 

 ハクさんは私を立ち上がらせると、一つ息を吐きながら自分の服についた土や埃を払い落とした。かく言う私も服が大分汚れている。

 だが私はそれを払い落とすことも忘れて、目の前にいるかつての師をじっと見つめていた。そんな私を見たハクさんは不思議そうな顔をして首を傾げている。

 

「……そんなに見つめてどうした? 俺の顔に何か付いてるか?」

「……あ、えーと、土とかが……」

「まぁ大分暴れたからな。お前の顔にも付いてるぞ、これで拭いておけ」

 

 ハクさんはそう言うとどこからか手拭を取り出して渡してくれた。見た感じ、こんなものを持っているようには見えなかったけれど……。

 

「それにしても、懐かしい感覚がしたからもしやと思ったが、こんなところで会うとは奇遇だな」

 

 貸してもらった手拭で顔を拭いていると、ハクさんが目を閉じて感慨深いといった感じで話し始めた。

 

「諏訪の国で別れてから結構経ったからな。お前はしっかりしているから大丈夫だと頭ではわかっていたんだが、やっぱり心配でな」

 

 しかし、本当に懐かしい。数十年前に別れるときは、もう再会することはないだろうと思っていたのだが、世界は狭いということだろうか。

 しばらくそんなことをぼんやりと考えながら顔を拭いていたのだが、ふと今の状況を思い出して我に返った。

 

「……はっ!」

「こうしてお互い無事に会えたことが……どうした急に?」

「あ、あの……彼女たちの結界を解いてもらってもいいでしょうか……?」

 

 そう。未だに星たちの周りには結界が張ってあり、身動きが取れない状態なのだ。さすがにこれ以上動きを止めたままなのはかわいそうだ。

 

「彼女たち? ……ああ、忘れてた」

「わ、忘れて……」

 

 ついさっきまで自分に敵意を持っていた相手のことを忘れるとは、相変わらず緊張感がないというかマイペースというか。

 その雰囲気にのまれてか、結界内の彼女たちも少し落ち着いてきているように見えた。

 だが、次の彼の一言でその雰囲気は緊張の糸が張り詰めるものとなった。

 

「……妖怪、ねぇ……」

「!」

 

 星たちの顔が強張る。それも当然だ、人間は基本的に妖怪に対して良いイメージは持っていない。この状況で結界を解くような人間は普通はいないのだ。

 

「聖。俺はお前と別れるとき、力の使い方を間違えるなと言ったはずだが……」

 

 何の感情も込めずに淡々と話すハクさんを見て、星たちが息をのむ。今の彼女たちにとって、彼ほど恐ろしい存在はないだろう。ムラサやナズーリンに至っては涙目になってきている。

 だがはっきりいって私には―――。

 

 

 

「しっかりと守っているようで何よりだ。いい妖怪たちだな」

 

 

 

 いつも通りの温和なハクさんに見える。

 

 ハクさんはそう言うと、パンと手を鳴らして結界を解除した。ようやく動けるようになった彼女たちは皆一様にその場にへたり込んだ。

 私もとりあえず一段落したと安心していると、一足先に歩けるようになった星が近くまでかけつけてきた。

 

「ひ、聖。怪我はありませんか?」

「ええ、多分」

「大丈夫だろ。怪我はそもそもないだろうし、体力や魔力も戻っているはずだ」

「あ、貴方が何故わかるんですか……?」

「……あ、もしかして治してくれたんですか?」

「ああ、さっき手を取ったときに」

 

 あれだけ緊迫した戦いをしていたというのにやけに疲労が少ないと思ったら、すでにハクさんに治療されていたようだ。

 彼にそういう能力があるのは知っていたが、気付かぬ間にそれが行われていたことに少し驚いてしまった。

 みんなには何のことかわからないはずなので、彼に傷を治す力があるということを説明する。

 

「そ、そんな能力が……。でも怪我がないって、さっき聖を吹き飛ばすほど威力のある弾を使ったじゃないですか」

「あれはあくまで吹き飛ばすだけの効力しか持たない弾だ。受けた側からすれば少し押された程度にしか感じないよ」

「確かに、あれは不思議に思うほど痛くなかったですね……。どちらかというと、後ろに引っ張られたような感じでした」

「だろ? お前よりも俺のほうがよっぽど重傷だった」

 

 ハクさんはそう言って自分の両腕を伸ばして見せた。そこには他の部分と同様、傷一つない白い肌がある。

 

「……どこにも傷があるようには見えませんが……?」

「あのな、俺は今、袖をまくりもしないで両腕を見せてるんだぞ?」

「言われてみれば……」

 

 星も傷があるようには見えないというが、そもそも肩から先が丸見えなことがおかしい。とはいえその理由は実に単純で、そこに袖がないから見えるのだ。

 だがハクさんの服装は元々袖がないようなものではないし、実際最初に会ったときは袖があった。ついでにいうと、肩の部分の布は黒く焦げているように見える。

 あれ? ということは……。

 

「も、もしかして……あのレーザーで両腕が黒焦げになったのでは……」

「えっ!?」

「正解。さすがに治すのに時間がかかったぞ」

 

 あのレーザーの爆発のあと、すぐに反撃してこないと思ったら腕の治療をしていたからということらしい。

 そのレーザーを撃った本人は青ざめた表情で震えており、それを見たナズーリンは少し呆れているようだ。

 

「あれを撃ったのはお前だろ? 普通の人間だったらちょっと危なかったぞ」

「も、ももも申し訳ありませんっ!」

「別に怒っちゃいないけど、次は気を付けろよ。特に人間には滅多なことがない限り撃たないようにな?」

 

 勢いよく頭を下げる星。確かに両腕が黒焦げになるような威力の攻撃を何度も使ってほしくはない。

 ハクさんは星の頭をポンポンと叩くと、両手で顔を上げさせた。

 

「気にするな。今回は俺も誤解されるようにしたからな、悪かった」

「誤解されるように? もしかしてわざとだったんですか?」

「少しな」

 

 彼の言葉に引っ掛かる部分があったので聞いてみると微妙な返答をされた。少しわざと、とはどういう意味だろうか。

 ちなみにハクさんはまだ星の顔に両手を当てている。何をしているんだろうか。

 

「最初はそんなつもりはなかったんだが、お前がやる気満々だったから、ついでにどれくらい強くなったか確認しようと思ってな」

「す、すみません……」

「まぁ普通はあんな言葉は信用しないからな、それも気にするな」

 

 確かにハクさんは最初「退治しに来たわけじゃない。興味本位で来ただけ」と言っていた。そんな人間はほとんどいないとはいえ、もう少し真剣に聞くべきだったかもしれない。

 ハクさんが星の頬をいじり始めた。星は抵抗せずされるがままだ。困惑しているんだろう。

 

「それにしてもさすがだったぞ、聖。全部の攻撃が相手の意識を奪う程度の威力に抑えられていた。力の調整が上手くなってるな」

「あはは、ありがとうございます……。ですが、貴方も手加減して戦っていたでしょう?」

「そりゃ当然だ。同程度の力で戦わないと、どれだけ成長したかわからないだろ」

 

 ハクさんが何でもないことのように説明する。それは同程度の力で戦ってなお圧倒的な戦力差がないとわからないことだというのに……。

 さすがと言われるのは彼のほうだと思う。

 その尊敬すべき師は、星の頬を横に伸ばしている。彼女の頬が気に入ったのだろうか。

 

「説明することはそれくらいだろ、というわけで次は自己紹介といこう。俺はハク、白いって書いてハクだ」

「は、はふ? ほほはふぇひーはふぉーあ……」

 

 ハクさんの名前を聞いて星が反応するが、頬を引っ張られているため何を言っているのかわからない。

 

「そう? 名前のほうを聞いたことがあるっていうのは珍しいかもしれないな」

 

 どうしてわかるんでしょう……。

 今の会話の流れからして、多分「は、ハク? どこかで聞いたような……」と言ったのだろうか。

 

「……ああ! ひひりはふはふぃほははふぃほふるほひひ、ほふいっへいふぁははえは!」

「いや、何言ってるかわかりませんよ」

 

 何だか少し興奮気味で星が話しているが、相変わらず頬を伸ばされているので何を言っているのかわからない。

 

「マジで? 聖が俺のことをどう話していたかは結構気になるな」

 

 本当にどうしてわかるんでしょうか……?

 多分「ああ! 聖が昔の話をするときに、よく言っていた名前だ!」と言ったんだろうか。

 ……って! その話は少しマズい!

 

「どんなふうに話してた?」

「ええと……初めて会ったときは普通の人だと思ったけど、自分と似た考えを持ってることを知ってからは……」

「し、星! その話は!」

 

 私が今まで話していたことをハクさんに伝えようとしている星。ハクさんは何故こんなときに限って頬をいじるのを止めてしまうんだ。

 これまでの話を本人に聞かれたら私は―――!

 

 

 

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 私は今、両手で顔を覆うことで忙しい。

 私の抵抗むなしく今までみんなに話していたハクさんへの評価を本人に聞かれたことで、鏡を見なくとも顔が真っ赤なことがよくわかる。何故あんな場面で私に移動制限用の結界まで使ったんですかハクさん……。

 ちなみに話の内容は、悪いイメージは持っていないというもの、とだけ言っておこう。

 

「何だよかわいいやつだな聖は、そこまで好かれているとは嬉しいね~」

 

 ハクさんが私を抱きしめたり頭をなでたりしているせいで、余計に顔が熱くなる。

 

「と、とりあえずこんなところで立ち話も何ですから、寺の中へ行きましょう……」

「ああ、頼む。服も取り替えたいしな。お邪魔します」

 

 この状況から抜け出すために、案内役という逃げ道に向かい寺の中に入る。自然な流れで一番先頭になることで、これ以上顔を見られるのを阻止するという策だ。

 咄嗟に考えた策だが上手くいったようで、ハクさんは私から離れて他のみんなと話をしている。

 

「さっきは悪かったな、頬をいじって」

「い、いえ大丈夫です。私は寅丸星(とらまるしょう)と言います。よろしくお願いします」

「私はナズーリン。ご主人が迷惑をかけたね」

「さっきも言ったが気にするな。ご主人っていうのは星のことか?」

「うん、そうだよ」

「面白い関係だな」

「星は毘沙門天として祀られていまして、ナズは彼女のサポートをしているんです」

「ああ、妖力と神力を感じると思ったらそういう事か」

 

 星とナズの会話に補足して説明する。ハクさんはどうやら星がどういう存在なのかをなんとなく察していたらしい。相変わらず感覚がずば抜けて鋭い人だ。

 

「私は雲居一輪(くもいいちりん)と言います。こっちが雲山。よろしくお願いしますね」

「ああ、よろしく一輪、雲山」

「…………」

「あれ? もしかして雲山には嫌われてるのか?」

「いえいえ、雲山は元々あまり喋らないのです。ハク様だから、というわけではありません。むしろハク様のことを評価してると言っていますよ」

「そうなの? そりゃよかった」

 

 雲山は滅多に話さない上、話したとしても声が小さいので直接会話できるのは一輪だけだ。性格は紳士的なのでハクさんのことも嫌ったりはしないだろう。

 一輪は元人間であるところや妖怪に対する考え方など、私と似ている部分がある。

 

「えっと、村紗水蜜(むらさみなみつ)です。よろしく」

「ああよろしく」

「彼女は舟幽霊です。昔彼女がやんちゃしていたときに会いました」

「へえ、ここ山の中だけど大丈夫?」

「はい。昔と違ってもう水難事故を起こしたりはしていませんよ。………………あんまり」

 

 最後がよく聞こえなかったが、彼女自身の言う通り、ムラサはもう人間に迷惑をかけていない。

 昔の彼女は退治の依頼が来るくらいには人間に迷惑をかけていたので、今の状態まで落ち着いて本当に良かった。人間にとっても、もちろん彼女自身にとっても。

 

「ああ、俺に敬語は使わなくていいぞ。別に偉い人間じゃないから」

「うーん……、聖が敬語で話しているので私も同じほうがしっくりきますね」

「あ、そう? まぁ好きにしていいよ」

 

 ハクさんが話し方の提案をするが、星はこのままのほうがいいと言う。このやり取りは、私とハクさんの昔の会話にそっくりだ。まぁ彼女の場合、まだ緊張が解けていないというのもあるのだろう。

 星とハクさんの会話はそこで終わったのだが、そのあとも二人とも無言で見つめ合っている。

 

「? どうしました?」

「……なんとなく、親近感がわく、というか……」

「あ、ハクさんもですか? 私も何だかハクさんには親近感みたいなのを感じます」

「どこかで会ったことがある、とかですか?」

「いえ、ないと思いますが」

「同じく。会ってたら憶えてると思うし」

「……不思議ですね、何故でしょう?」

「うーん……、まぁ悪い印象を持っているわけじゃないからいいか」

「ふむ、それもそうですね」

 

 お互いに首を傾げていたが、悪いことではないからということで考えることを止めたようだ。

 しかし、妖怪と人間で親近感を持つというのは珍しいことだ。これは妖怪側が星で、人間側がハクさんだからこそだろう。他の妖怪、他の人間ならこんなことは起こらないはずだ。

 そう考えていると、目をキラキラと輝かせたムラサがハクさんの隣に位置取った。

 

「聖以外で妖怪に敵対していない人間って初めて会いました!」

「ああ、確かにあんまりいないかもしれないな」

「聖とはどこで会ったんですか?」

「諏訪の国でだ。あそこで退治人の修行に付き合っていたときがあったんだが、しばらくしてから聖が来て一緒に修行するようになったんだ」

「へぇ~、だからハクさんのことを師匠って言ってたんですね。それって何年くらい前のことなんですか?」

「もう数十年は前の話だな」

「え?」

 

 ムラサが私とハクさんが会ったときのことを聞いているのだが、いつの話かを聞いた途端フリーズした。

 そういえば、ハクさんの体質については話していなかった。

 

「数十年? 数年とか十数年とかじゃなくて?」

「ああ、数十年前、だ。もう少し詳しく言うと七十年くらい前だ」

「ハクさんって人間じゃないんですか?」

「人間だよ。普通のではないけど」

「……ハクさんって何歳なんですか?」

「あー……五百歳以上かな」

「ぴぇ!?」

 

 ハクさんの年齢を聞いたムラサがおかしな声を出す。他のみんなも相当驚いているようで一様に目を見開いている。

 かく言う私も、まさかそこまでとは思っておらず少し驚いている。

 

「え? え? もしかして大妖怪!?」

「いや、人間だ」

「じゃ、じゃあ魔法使いとか!?」

「いや人間だけど」

「まさか幽霊!?」

「人間だって。幽霊はむしろお前だろ」

「せ、仙人とか!?」

「そうも呼ばれているけど人間だ」

「か、かかか神様!?」

「もうそれでいいでーす」

 

 ムラサがハクさんの話が聞こえない程度のパニックになってまくし立てているせいで、ハクさんが少し疲労して自分を神様で妥協しようとしている。

 こんなことを思うのはどうかと思うが、自分以上にパニックになっている人を見ると少し落ち着く。それは他のみんなも同じようで、ムラサ以外は比較的落ち着いていた。

 

 

 

 とりあえず、ムラサを落ち着かせながら客間に案内する。ハクさんは自分の着替えを持っていたようで、先に部屋に入って着替えてもらった。手ぶらに見えたけど。

 着替えが終わり、ムラサも落ち着いたところでみんなで座卓を囲んで座る。

 

「改めまして。お久しぶりです、ハクさん。妖怪寺と呼ばれている場所ですがゆっくりしていってください」

「ああ、ありがとう。さっきは混乱させて悪かったな、ムラサ」

「あ、いえ、こちらこそお見苦しいところをお見せしました……」

「最初よりガチガチになってるぞ……って雲山が言ってますよ」

 

 呆れているらしい雲山の言葉を一輪が翻訳する。確かにさっきのムラサはもう少しフレンドリーな感じだったと思うけど。

 だがそれも仕方のないことで、今日はいろいろとありすぎて頭の整理がついていないのだろう。ハクさんの年齢が止めを刺したようだ。

 

「ところで、ここには興味本位で来たということですが、いつまで居られるんでしょう?」

「うーん……、最初は聖がいるとは思わなかったから、少し寄ったらまた違う場所に行こうと思ってたんだが……」

「ほ、本当に少しだけ立ち寄るつもりだったんですね……」

 

 妖怪寺と呼ばれるこの場所に退治人と呼ばれる人間が興味本位で少し立ち寄っただけ、という現状を改めて考えたムラサが肩を落としている。

 まぁおかげで少し緊張がほぐれたみたいだ。無意識ではあるだろうけど内心でハクさんに感謝する。

 

「それでは少しの間、ここに泊まってはどうでしょうか?」

「いいのか?」

「ええ、もちろん。ですがみんなの意見も聞かないといけないですが……」

 

 私一人で決めていいことではないので、他のみんなにも確認を取らなければならない。そう考えて周りを見ると、みんなこちらを見て頷いてくれた。

 

「私はいいですよ、聖。ハクさんとは気が合いそうです」

「ご主人がそういうなら、私もいいよ」

「私も雲山もいいですよ、歓迎します」

「私も。いろいろとハクさんの話、聞いてみたいです」

「……ありがとう、みんな。どうでしょう、ハクさん?」

 

 最後に本人に確認を取ろうと彼を見ると、少し照れくさそうにしながら頬をかいていた。

 諏訪の国で修行していたときはあまり見なかった表情だ。まぁあのときは修行のために会うことが多かったから当たり前なのだが、だからこそこうして見れたのは何だか得した気分だ。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて邪魔させてもらうよ、ありがとう」

「いえいえ。これからもそういう表情が見れると思うと楽しみです」

「……お前みたいな美人の提案を却下するやつはいないよ」

「うぁ……あ、ありがとう、ございます……」

 

 レアな表情を見れて気分がよくなった私は少しばかりハクさんをからかおうとしたのだが、一瞬で反撃されてしまった。なんていうか、いろんな意味でこの人には勝てないなぁ。

 またも赤面してしまった私が縮こまっていると、ハクさんが隣までやってきて先程と同じように抱きしめてきた。

 

「あーもう、かわいい愛弟子だな。よしよし」

「あ、あの、ハクさん……私が悪かったので勘弁してください、恥ずかしいです……」

 

 周りでみんなが見ているというのにベタベタするのはやめてほしい……いや、人がいなければいいというわけではないのだが……。

 

「スキンシップが好きな人なのかな。ご主人の頬もいじくり回してたし」

「星は抵抗しなかったけど、気持ちよかったの?」

「い、いえ、あのときは何が何だがわからなくて……不快ではありませんでしたが」

「私にも触らせてー」

「わひゃ、いひりん!?」

 

 最初は警戒していた相手とはいえ、今のこんな状態を見ればそれがバカバカしく思えてしまうのは当たり前のことで、もうすでにみんな思い思いに話している。

 だがそんな話をする前に私を助けてほしいのだが。

 

「あの……誰かハクさんを引き離してもらえません?」

「ふふ、そんな顔で言われてもやる気になれませんよ、聖様」

「え?」

 

 星の頬をいじっている一輪に言われてハクさんの拘束から抜け出した手で自分の顔を触ってみると、口元が緩んでいるようだった。というか早い話、ニヤけていた。

 ……恥ずかしい。

 

「ハクさんがいる生活、何だか楽しみになってきたかも」

「私も同意見。……あら、雲山も?」

「出会って数時間も経っていないのに、不思議な方ですね」

 

 星の言う通り、ハクさんは不思議な人だ。ほとんど初対面でもすぐに気を許せる雰囲気を持っている。

 本人は警戒されてばかりだというけれど、そんなことは…………あっ。

 

 今日ハクさんと会ったときの自分の対応を思い出し、今なお私の頭をなでているかつての師に……いや、新しい同居人に心の中で謝るのであった。

 

 

 




ハクとは初対面ということで、ハクに対して敬語の人が多いです。
おかげで誰が話しているのかわからんw

次回から少しは区別できるよう頑張ります。

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