幻想白徒録   作:カンゲン

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初めまして、カンゲンというものです。
申し訳ありませんが、東方キャラは三話くらいから出す予定です~。

深刻すぎる話は書かない予定ですw


第一話 始まりの森の中

 目が覚めた。

 

 周りの景色には見覚えがなく、ここがどこだかわからない。とはいえどういう場所なのかははわかる。

 ここは森の中だ。時間はどうやら昼頃らしく、寝起きな上に仰向けに倒れている俺としては日の光が大変まぶしい。

 体を起こそうとするがうまく力が入らない。睡眠が長すぎたのだろうか。一体いつから寝ていたんだっけ、と思い出そうとしたときに違和感を感じた。

 

 思い出せない。

 

 疲れ果てて気絶するように眠ったというのなら、もしくは眠ったように気絶したというのなら憶えていないことも納得できる。

 だが、ここに来る以前何をしていたのか、どこから来たのか、そも自分は誰なのかということすら思い出せないとなると異常だ。

 思い出そうと必死に頭を回転させるが、ほんの少しの記憶の欠片すら見当たらない。まさに空回りである。

 

 記憶喪失。

 

 少しの間呆然とした。だがそれは本当に少しの間だけだった。どうやら俺はこういう時でもある程度冷静になれる人間だったようだ。

 過去のことは思い出せない。ならば問題はこれからの、未来のことだ。記憶を取り戻すにしても今できることは何もない。まずは行動しなければならないのだ。

 そう考えてから、ふと脳裏をよぎったことがあった。

 

 あれ?俺って人間だよね?

 

 ほんの一瞬考えてすぐに別の考えをしようとしたが、その一瞬の考えに思考停止して他の考え事ができなくなった。

 自分では自分を人間だと思う。だがあいにく記憶がない。

 

「確かめないと…」

 

 何気に声を出したのはこれが初めてだったが、今はそんなことを気にする余裕もない。

 周りの様子をうかがうとサラサラと川の流れる音がする。力の入らない体に鞭を打って川があると思われる方向に向かう。一歩進むだけでもかなりキツイ。案の定、途中で転んでしまい腕を擦りむいてしまった。鈍い痛みを感じ、傷ついた皮膚から血がにじみ出る。

 それでも確認しなくてはならない。立ち上がり、慎重に少しずつ歩く。

 

「着いた…。やっぱり川が流れていたな」

 

 予想通り、川が流れていた。木々の隙間から通り抜けた太陽の光が反射し、なんとも幻想的だ。これだけ綺麗な水ならば今の自分の姿を映すくらい、訳はないだろう。

 意を決して川をのぞき込む。

 

「これが俺か…」

 

 そこには真っ白な髪と黒い瞳を持った男性が映っていた。服装は髪と同じく白の着物だが、ところどころ破れていたり焦げ跡がある。

 

「どうやら普通の人間のようだな。ふぅ…」

 

 思わず安堵のため息をつく。安堵した理由はよくわからないが、おそらく記憶を失う前の俺も人間だったからだろう。「目覚めたら人外でした」はさすがに受け止めるのに時間がかかるからな。

 その場に腰を下ろし、再度ため息をつく。ふと先ほど怪我してしまった部分を洗っておこうと思い、擦りむいた腕を見た。

 

「あれ…?」

 

 だがそこに怪我などなく、他と同じ白い肌があるだけだった。違うのは土で汚れていることと血液が付着していることだ。

 どういうことだと考えていると、その血液が煙を上げ、消えてしまった。さながら蒸発でもしたように。

 

「人間…だよな…?」

 

 零れ落ちた疑問の声に答えるものはなく、ただ風に揺られた木々が音を立てるだけだった。

 

 

 

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 それからしばらくは体に力が入らないままだったが、数時間後には普通に歩けるようになった。

 だが先程までは一歩歩くだけでもヘロヘロになったのだ。いくらなんでも回復が早すぎる。いつの間にか無くなった傷といい、こういう体質なのだろうか。

 少し気味が悪いがありがたい。いつまでもここにいるわけにもいかないだろう。

 とりあえずの目標は「人を見つけること」と「記憶を取り戻すこと」だな。というか森の中で夜になったら本当に真っ暗になる。

 怖いのは勘弁。人を見つけることを最優先にしようそうしよう。

 

 ここで目覚めたときは空腹などはなかった。つまり、そう長い間森の中にいたわけではないと思う。まぁ森の中にある食物を食べながらここまで来ていたら違うのだが、今は近くに町、もしくは村があると仮定して動こう。

 もしかしたら誰かが探しに来てくれていたりするかもしれない。だが大声は出せない。獣や妖怪にでも見つかったら面倒だ。

 それでもこれは予想なのだが、人に会うのにそんなに時間がかかるとは思えない。早速移動するとしよう。

 

 

 

 そんなふうに考えていた時期が私にもありました。移動開始してから一年。いまだに人に会わない。獣やら妖怪には会うのだが人には会わないのだ。

 最初の三ヶ月は倒れていた場所の周りを歩き回った。結果は惨敗。人に会うどころか村の痕跡すら見つけられなかった。

 次の三ヶ月は最初の場所から離れ、ひたすら一方向に向かって歩いた。結果は森すら抜けられなかった。

 その次の三ヶ月は高いところに上って周りを見渡したり、襲われることを覚悟して叫んでみたりした。結果は落ちたり襲われたりで怪我が増えた。

 最後の三ヶ月は色々実験しながら無心で歩いていた。正直目的を忘れかけていたと思う。

 

 だが、この一年も無駄ではなかった。正確には「後半の六ヶ月は」だが。

 まず怪我について。結論から言うと擦り傷程度なら数秒で治った。骨折は完治に一日かかったがこれでも早すぎる。

 おまけにこの一年、空腹を感じなかった。最初は一応木の実など食べていたのだが、食物が見当たらない場所に来た時に仕方なく数日飲まず食わずでいたが、体に異常は見られなかった。こっちのほうが異常な気がするが。

 睡眠についても同様で必要ないらしく、今の時点で三ヶ月寝ていない。ただ眠れないわけではなく、横になってしばらくすれば普通に眠れる。

 

 これらの状態は俺の持つ生命力に関わっているらしく、怪我をしたときにそれを修復するのに生命力を利用するようだ。

 空腹や睡眠についても同様。食べなかったり眠らなかったりした時は、体調を整えるために生命力を使っているらしい。

 

 記憶喪失とはいえ、全部のことを忘れているわけではない。これは目覚めたときに森の中にいることや、川の音がわかったりしたことからもわかる。

 いわゆる『常識』については忘れてはいないようだ。そして俺の場合、この常識の中に力の使い方についてもあった。

 

 集中して自分の中の力を見てみると俺はどうやら二種類の力を持っているようだ。

 一つは『生命力』。もう一つは『霊力』。

 霊力とは主に人間や霊体が持つ力だったか。俺も持ってはいるが大した量はなく、少し使えばすぐ空っぽになってしまう。

 問題は生命力のほうだ。こちらもそこまで大量にはないのだが、使いまくって少なくなってもすぐに満タンになるのだ。

 一度に出せる量は少ないが、ずっと使っていられる。

 

 これはどういうことだ?

 まるで生命力の出る蛇口だ。バルブさえ開けていればいくらでも出てくる。どこからこんな大量の生命力が出てくるのかさっぱりだ。

 

 だが一度に使える量は決して多くは無いのだ。調子に乗って妖怪に戦いを挑んだりするようなことはしない。一応対策はしておいてあるが。

 元々持っていた知識を使って簡単な術は使えるようになった。それと生命力をそのまま放出して離れた場所の物を動かすことなどもできる。自分の手足の延長のように考えればやりやすい。

 これらを使えば弱い妖怪は対処できるし、手に負えないと判断した場合は飛んで逃げることもできるようになった。

 

 

 

 今は適当な方向に向かって飛んでいる。それほど速度は出ないが、道の悪い森の中を歩くよりは全然マシだ。

 色々とわからないことも多いが、今は当初の予定通り人を探すとしよう。

 妖怪がいるのだから人はいるはず。もう一年以上も誰とも会っていない。いい加減寂しいのだ。

 

 この際、妖怪でもいいから話し相手が欲しいなんて、身も蓋もないことを考えながら旅を続けている今日この頃です。

 

 

 




ほとんど設定の説明だけでした。
そして常識を忘れていないわりに、色々憶えていることがおかしい主人公。
一応理由はありますが、語られるのは少し後です。

文章書くのって難しいね。でも楽しいからいいやw

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