幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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ちょっとゲーセンではしゃいだら腕が筋肉痛になりました。


第54話 紙装甲幸運幸村

「ふふ、やり、ました」

 

 物理的にも精神的にもキラキラというか、ツヤツヤとしている藜さんが満足気にそう呟いた。だがそれとは対照的に、俺はぐったりと砂浜に倒れ込んでいる。何せ半分くらいは予想通りだったとはいえ、ハンドクリームを塗る範囲が絡みつかれていた場所全て……つまり、右腕全域だったのだ。

 ほんとね、やってる最中に理性を飛ばさなかった俺を褒めてほしい。こちとら思春期真っ只中なのだ、簡潔に言って死ぬかと思った。だって思ってたより手とか小さいし、柔らかいし、手とは別に良い香りがするし、時たま変な声は出されるし……何考えてんだろう俺、変態か。

 

「よし、自爆しよう」

 

 小声で呟き、【無尽火薬】の効果で額に当てた手から火薬を精製。エンチャントを暴発させて爆発させた。

 

「大丈夫、ですか?」

「ちょっとした気つけですので」

 

 驚いてビクッとした藜さんにそう返答しつつ、砂浜にめり込んだ頭を抜く。そして、口の中に入ってしまった砂をペッペと吐き出す。もうHPが1割くらいしか残ってないけど、その程度の代償で理性を取り戻せるのなら安いものだ。念のために1度大きく頬を叩いた俺の目の前に、空気を読まず新たに1枚のウィンドウが出現した。

 

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 【鎮魂の儀式Ⅳ】単独推奨Lv 65

         PT推奨Lv 55

 封印の起点に侵入した敵は排除された。しかし、彼らは1つの儀式に成功していた。彼らが召喚した邪悪な竜が迫っている。これを討滅し、安全を確保しよう!

 

 廃泥竜 0/1

 

 報酬金 100,000D

 経験値 90,000

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 予想通り、それは例の連続クエストの続きだった。しかも恐らく、これはボスモンスター級の相手だ。推奨Lvを見るとかなり怖いが、当たって砕ければ大抵の事は何とかなるのだ。まあ今回は? 羞恥心とかそういうのをぶつけるから、一撃で蒸発させるけど。

 そう決めて、首を傾げながらも満足気な藜さんに話しかける。

 

「ちょっとこれから、さっきのクエストの続きをやろうと思ってるんですけど……藜はどうします? 敵は廃泥竜とかいうボスモンスター1体だけみたいですけど」

「んー……折角、です。私も行き、ます」

 

 少し悩んだようだったが、藜さんは快い返事をしてくれた。

 今ふと思ったのだが、誰かが同行している状態で奥の手を使うのは初めてだ。つまり、藜さんは誰よりも先に俺の切り札を見る人になると。まあこれを使える様になったきっかけが、藜さんと出会った第2回のイベントだし……いいか!

 セナの影が脳裏をチラついたが自分を納得させ、何故か存在するクエストの開始ボタンを押す。するとすぐ近くの開けた珊瑚の隙間に、青い光を立ち昇らせる魔法陣が出現した。見た感じ、大きさは新しい街への移動時倒すボスと同型の様に見える。

 

「あ、そういえば。ボス戦に行く前に、1つだけお願いがあるんですけど……いいですか?」

「別にいいです、けど……?」

「これから見ることは、出来れば他言無用でお願いします」

 

 指でしーっとやるジェスチャーをして俺は言う。出来ればこれは、あまり広めてほしくはないものだから。……こんなのが使えるってバレたら、セナみたいにひっきりなしに挑戦されるかもしれないし。

 

「いい、ですよ」

「ありがとうございます」

 

 そうお礼を言って、俺は装備をあのデメリット装備に切り替える。手の中に現れたあの禍々しい杖も、ボロボロの装備も、何1つ変わらない。ついでに俺の強化された脆弱性も。

 

「《骸ノ鴉》」

 

 武器のスキル名を呟きながら、骨で組まれた禍々しいデザインの杖を放り投げる。すると杖は空中でバラバラになり、5体の骨で形作られた鴉へと姿を変えた。ギャアギャアと騒がしい声で合唱しながら上空を旋回するそれらによって、藜さんとのPT状態が解除された。代わりにPTの欄には、骸ノ鴉ABCDEの文字が出現する。

 実はこれ、PT枠を消費するのにPTを組んでいる事にはならないとか、この鴉の状態になると判定が副装備……つまりいつもは魔導書が装備されている場所に押しのけられたりするという、超謎の設定がされていたりする。因みにこの仕様は、運営に問い合わせたところ『試作モデルの為正常』と返ってきたのでセーフである。

 

 更に言えば、これのお陰で俺は最大火力を出すことが出来るようになったから感謝しかない。そんな事を考えながら、空いた手に新しく取り出した【偃月】を装備する。

 

「《フルカース》《フルディクリーズ》【ドリームキャッチャー】」

 

 興味津々といった様子の藜さんに見られながら、鴉達に最大限のデバフをかけてそれを自分で回収する。デメリット装備のお陰でデバフの効果は反転し、かつ15種のデバフを5体から回収したことによって、Lukがデバフ(バフ)の分も合わせて435%上昇する。5.35倍……素晴らしいネ。

 同時に装備によって体表面に展開された【死界】が反転し、急速にHP・MPを回復させ満タンにする。これで1番時間のかかる装填も終わったし、後は戦闘が始まってからバフを積めばロマン砲の発射準備は整う。

 

「それじゃあ、行きますか」

「は、はい!」

 

 スキル欄に【常世ノ呪イ】がセットされている事を確認し、魔法陣へ足を踏み入れた。一瞬の暗転と浮遊感が訪れ、次の瞬間には転移は終了した。そうして転送された場所は、激しい波の打ち寄せる夜の岩礁だった。

 しかし、ここはどう見ても尋常な場所ではなかった。中天に輝く月は血のように赤く、星は奇妙な配列で輝き、空気には磯臭さと鉄臭さが同居している。そしてどこからか、宇宙的と言えそうな恐怖を呼び起こす詠唱が、朗々と響いてきていた。

 

「ユキさん、私ここ、なんだか嫌、です」

「同感です。早く倒さないとですね」

 

 そんな風に答えた瞬間、ピタリと詠唱が止まった。そしてゴゴゴゴという地鳴りが響き渡る。そうして、海を割って1体の異形が姿を現した。

 

 屈強な四肢にはそれぞれ鋭い三振りの鉤爪があり、首の先に存在する鋭い牙の群れを持つ頭部には小さな角が9つ生えている。その灰色の体表は鱗が覆い、爛々と光る紅の眼は敵意を持ってこちらを見つめている。その至って基本的な西洋式ドラゴンには、異常な点が数点見受けられた。

 頭部で存在を主張する鯰の様な髭。鬣の様な多数の突起の間に膜のある背びれ。首筋に空いたサメの様な8つのエラからは、ゼラチン状の緑がかった液体をバチャバチャと吐き出している。そして尻尾には尾ひれが存在し、全体的に水棲生物感が醸し出されている。

 

 表示された名前は【廃泥竜】、あれで討伐対象は間違いない様だ。彼我の距離は目測50m。遠距離攻撃の気配はない為、安心してロマン砲を撃つ準備ができる。

 

「《明鏡止水》」

 

 仕込み杖を腰だめに構えて、【抜刀術】を習得して熟練度が一定に達すると解放されるスキルを発動させる。効果は、HPを20%減少(回復)させ、次の攻撃の与ダメを50%増加させるというもの。

 後名前が、気分的に集中力を上げてくれる。

 

磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)

 

 そう言った途端、仕込み杖がバチバチとしたスパークを纏う。いつか絶対、【偃月】に変形機構と肩部にマウント出来る機能を搭載してやる……

 

蒐窮開闢(終わりを始める)

 

 そんな言葉と共に発動させるのは、同様の専用スキル《外鎧一触》。自分のHPを最低1%から支払い、その支払った分自分が次に行う攻撃の与ダメを増加させるスキルだ。だが今回俺が使うのは、もう1つの方の効果。HPが80%以上の場合、残りHPを1になるまで支払って、自分が次に行う攻撃の威力を2.5倍にする方の効果である。戦闘中1回しか使えないが、どうせ一撃で死ぬのだから問題ない。

 

 簡単に纏めると、HPが1になったけど次の攻撃の与ダメが2.5倍になった。

 

終焉執行(死を行う)

 

 続いて発動させたスキルは《死々奮刃(ししふんじん)》。さっきの《外鎧一触》のMP版だ。追加で2.5倍である。

 デメリットが装備のお陰であってない様なものなのだから、最大限に活用していくしかない。

 

虚無発現(空を表す)

 

 最後に発動させるスキルは《殉教(まるちり)》。自身のVit・Min・Int・Aglの値を0にして、次の一撃の与ダメを3倍にしかつ防御貫通効果を付与させる。代わりに、その攻撃の後即死することになるのだが。

 

「ユキさん、どう、します?」

 

 槍を構え、戦闘態勢に入った藜さんが聞いてくる。そういえば、まだ何も説明してなかったっけ。

 

「藜さんはゆっくりしてて下さい。これ、実はただの八つ当たりですから」

 

 そう言って全力で踏み切り、竜に向かってジャンプする。減ったHPを横目に、俺は加速の紋章で作ったレールを高速で飛翔し始めた。久しぶりに、【空間認識能力】のスキルが上限まで働いているのを感じる。

 なんか藜さんが呼んだ気がしたけど、もうその声も耳に入らない。あるのは自分と敵の姿のみ!

 

「GAAAaaa!!」

 

 そう液体を散らしながら吠える竜を見て、抑えていた感情が戻ってくる。ああもう恥ずかしいったらありゃしない、ついでにクエストは進まないわ急に来るわでクッソタイミング悪いし、ああもうイライラする。

 

「吉野御流合戦礼法“迅雷”が崩し」

 

 勿論大嘘である。

 でもここまでやったからには、必殺技は最後まで叫びたい。電磁誘導とかそういう系統のはまだ開発中の為、加速の紋章のつなりで剣身の速度は補う。魔剣には遠く及ばないが、速度と威力は十二分!

 ついで言えば、使う技も《抜刀・孤狼》というものなのだが気にしてはいけない。

 

電磁抜刀(レールガン)ーー(まがつ)!」

 

 ドラゴンとの衝突寸前、自分でも認識不可な速度で抜刀術が行使された。気がついたら手が振り抜かれており、鋼の煌めきを示す白刃とそれが通り抜けた空間にはバチバチと帯電の名残が光っている。

 

「Ga──」

 

 そして肝心のボスのHPは0へと落ちていた。それも当然だ。何せこの必殺技は物理ダメージ約3300万、属性ダメージ約3000万のキチガイ技なのだから。細かいダメージボーナス分は知らない。

 しかしその代償は、自分に丸ごと帰ってくる。

 

 チンッと音を立て刃が納刀されると同時に、

 

 竜は逆袈裟から真っ二つに両断され、

 

 俺は盛大な爆発を引き起こして砕け散った。

 




竜「儂のHP、200万しかないんねん」
刈り「数万ですね」
鹿「1万ないです」
忌狩「1000万」
伊邪那美「1億よ」
!?

《抜刀・孤狼》
 抜刀術専用技
 消費MP1+任意のHP
 消費したHPの%×2、基礎与ダメ上昇
 射程は威力に、属性は武器に依存する
 自身がPTを組んでいない場合、威力を2倍にする

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