幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第53話 役得

 ヒュン、という小気味好い風切り音と共に槍が閃く。その先端では刺突や斬撃の後爆発が生じ、その軌跡でも小規模ながら爆発が発生する。その爆発は地形オブジェクトである珊瑚を破壊するには満たないが、モンスターのHPを削るには十分足りている。

 爆発する刺突や斬撃が敵の三叉槍を弾き、盾持ちには槍を押し当てた後杭打ち(パイルバンク)の機構で穿ち貫き粉砕する。爆破の軌跡は回避し損ねた敵を怯ませ、閃光とそれに続く高速の3連撃がHPを0に落としていく。時折ある物理や魔法での反撃も、俺が《障壁》で完全にカットして遮断しているから問題ない。

 

「ユキさん、この槍、おもし、ろい、です!」

「それは重畳!」

 

 その結果、生まれるのはある種の無双状態。俺自身の為に使い続けている【儀式魔法】のお陰で《障壁》による防御が途切れる事はなく、同時に藜さんのMPもほぼ無尽蔵となっている。敵の数は合計41とかなり多いが、負ける気が一切しない。まあ、俺が儀式魔法を使い続けることが出来ればの話ではあるのだが。

 

「やぁっ!!」

 

 そんな可愛らしい気合の声と共に、支援行動を続ける俺の前で、敵の数がみるみるうちに減っていく。インスマス面の尖兵が砕け散り、呪い師と思われるローブ姿は無残に千切れて掻き消えていく。

 

 装備を置いてきてしまったということで藜さんは水着のまま戦闘を行なっており、その姿が酷く眩しく見える。ヒラヒラと舞う鮮やかな布と肌色、襲いくる醜い(APP 3)化け物、序でにその周囲に舞う砕けた障壁の破片が日光を浴びてキラキラ光り、呪い師の残留物を吹き払っていく。実に場違いな考えであるが、綺麗だなと思ってしまった。ネットであるから確実に本物という事はないかもしれないが、見ている限り殆ど違和感を感じない為、9割方藜さんはリアルそのままだと思う。

 

 そんなことを考えているうちに、30体もいた《邪神の尖兵》とそれを支援していた10体の《呪い師》は、物の見事に殲滅されてしまっていた。残したかった珊瑚も、戦闘の余波を受け大きく揺れてはいたが、1つも折れることなく残っている。残りに文字化けした司祭がいた筈だが、一先ずは理想的な勝利と言えよう。

 

「……あれ? 何処に、行ったんです、かね?」

「確かに、何処に行ったんでしょう」

 

 藜さんの疑問に改めて周囲を確認してみると、残っていた筈の司祭の姿は消えてしまっていた。俺の探知圏内である半径6.5m内に反応はなく、目視で確認出来る範囲にも不思議と見当たらない。

 もしかして、逃げたのだろうか? そんな考えが頭を過ぎったが、それをすぐに否定する。普段の戦闘ならばそういう事もあると聞いた記憶があるが、今回はイベント戦闘だ。しかも、あの司祭は討伐対象となっている。であれば、余程特殊な場合でない限り逃走するという事はあり得ないだろう。

 

「なら、どうしてだ……?」

「はい?」

「いえ、ちょっと司祭が見つからないなって……あ」

 

 ふと、自分の言葉に天啓を得た気がした。見つからないには、逃げた以外の選択肢もある。もしかしたら司祭は『いない』のではなく、見つけられない……つまり『見えない』という事ではないか? 思い返せば、戦闘中も呪い師の姿は見たが司祭の姿は見つけることが出来なかった。何か大きな反応はあったというのに。単純に俺が目で見ていないというだけかもしれないが、これが正解な気がする。

 

「気をつけて下さい。多分あの司祭、ステルスか何かで姿を消してます!」

「えっ?」

 

 藜さんが驚いたように振り返った瞬間、探知に突然反応があった。藜さんを狙って、未だに視覚では確認できない細長い何かが計10本発射された。出現場所は俺から見て3.7m前方の空中、見えないが感じられるソレは恐らく触手だろう。

 

「《障壁》《減退》」

 

 長杖を振るい、約束に従いいつも通りの防御を展開した。が、その時異変が起こった。放たれた10本の触手のうち2本が、ピンポイントで展開される俺の障壁をすり抜けた。他8本と比べ一際長いその2本は空中でうねって軌道を変え、見事に妨害を回避したのだった。

 

「くっそ」

 

 追い障壁を以って意地でもう一本は止めることが出来たが、最後の1つは間に合わない。ギリギリ速度を落とすことには成功したか、そこまでだ。そして止めきれなかった触手は、透明故に藜さんは迎撃できずに直撃してしまった。

 

「ひゃん!」

 

 目では見えないが、スキルによる知覚が藜さんの右腕に触手が巻きついた事を知らせた。俺はこれで手が出しにくいし、本人による抵抗も片腕を塞いだことで難しくしている。こいつ、出来る。

 

「やっ、ヌルヌルで、んっ、気持ち、悪い」

 

 そんな妙に艶めかしい声と表情に平常心を大いに乱されつつ、これはマズイと唇を噛んでそれを押し殺す。1度頭を振って考えをリセットし、透明な触手めがけて【三日月】の鎖付き半月刃を振り抜いて投擲した。無論俺のステータスではロクなダメージを与える事には出来ないが、武具の効果は十全に発揮される。

 

 伸び蠢き藜さんの腕に絡みつく触手から、他の触手に始まり透明な胴体にまで、《拘束》の状態異常を示す鎖が巻きつき雁字搦めに束縛した。その鎖の色は本来の鈍色とは違い、黒一色で染められている。

 あまり使いたくない方法だし、恐らく珊瑚の枝が1つ折れてしまうが、背に腹はかえられない。

 

「爆導鎖!!」

 

 そんな掛け声と共に《エンチャントファイア》を暴発させ、最近増設してもらった【三日月】の新機構を解放した。先端から伸び半月刃に繋がり、更にそこから状態異常エフェクトとして相手を拘束している黒色の鎖。それが、一斉に爆発を起こした。藜さんの腕に巻きついている触手にはエフェクトが無かった為爆破は免れたが、他の部分はそうはいかない。

 巻きついた鎖によって全方位から襲いかかった爆圧が、藜さんに絡みついていた触手を木っ端微塵に粉砕する。それは他の触手についても同様で、一本の例外もなく全てが千切れ飛んでいた。加えて胴体のダメージも中々に深刻だったようで、全身を黒く焦がしてステルスも解除された様だった。

 ……それにしても、なんでタコ系じゃなくてイカ系列だったんだろう。

 

「うぇぇ……ネバネバ、汚い、です」

 

 涙目の藜さんが、触手に巻きつかれていた右腕をブンブン振っている。けれど付着した粘度の高い、透明に近いその液体は取れないようだ。ぬめりとてかりを持ったその粘液は、地味に臭うようで臭いを嗅いだ藜さんは顔をしかめている。

 

 申し訳ないなぁと思いつつ、手に持った杖を【三日月】から【新月】へと変更する。そして魔導書を使い支えて狙いを定め、回復したMP全てを使い全弾を加速し打ち込んだ。その全てが司祭に命中し、しかし弾が貫通することなく、撃ち込んだ6箇所が内側から爆発し粉微塵になった。

 自作だから心配だったけど、徹甲榴弾は上手く動作してくれた。1発大体3,000D程度と消耗品にしては地味に高価だが、無性に腹が立ったのでマーイーカ。Dなら使いきれないほどあるんだし。

 

「うぅ……ユキさん」

「油断しました、すみません」

 

 そう謝りながら、どうにか出来ないかと【ドリームキャッチャー】のスキルを発動させる。実際にできるかは不明だったが、結果として藜さんの右腕から粘液は消滅し、俺の右足元にべちゃりという汚らしい音を立てて出現した。うわ、これ何気にデバフ3種も持ってるじゃん。

 

「……折角案内してもらったのに、こんな事に巻き込んでしまって、なんか本当にごめんなさい」

 

 居た堪れなくて、キッチリと頭を下げた。

 防御を担当すると言いながら、それを全う出来ないとかいう失態もおかしてしまったし。

 

「い、いえ。タイミングが、悪かっただけ、ですから」

 

 藜さんはそう言ってくれたが、右腕をさすっているのを見ると、本当に自分は不甲斐ないと思う。防御(笑)と言える様な弱点も見つけてしまったし、駄目駄目じゃないですかやだー。

 クエストクリアのCongratulations! という文字と上がったレベルを見ながらそう自虐する。そしてため息を吐きかけたとき、カランと足に当たるものがあった。何かと思い拾ってみれば、それは折れた珊瑚の枝。優しい感じのピンク色だと思っていると、手に持った枝が突然光り輝き始めた。

 随分と久しぶりだと思う俺の手の中で、拾った珊瑚の枝が形を変えていく。それを目を丸くして見つめる藜さんの目の前で変化は終了し、手元には珊瑚色の掌サイズの容器が残った。円筒状のそれは、何時ぞやの木の枝と違って既に完成品となっているらしい。

 

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 【珊瑚軟膏】

 珊瑚で形作られた容器に入れられたハンドクリーム

 素晴らしい保湿能力を持ち、花の良い香りがする

 

 Vit・Min上昇 10%/10分

 水属性耐性上昇 50%/5分

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 とりあえず危険物ではない様なので、蓋を開けて匂いを嗅ぐため手で扇いで見る。乳白色の中身は、確かに何かの良い香りがした。まあ、フレーバーテキスト的にも純粋な効果的にも俺には無用の長物である。今回ばかりは、かなり役に立ってくれるだろうが。

 幸運にもこんなアイテムが手に入る辺り、だからLukは好きなんだ。後ついでに、色々と意味不明な配置をしてくれている運営にも感謝しておかないと。

 

「無害なものっぽいですし、どうか使ってください。俺には必要のない物ですから」

 

 俺はそう言って、蓋を閉め直したハンドクリームを手渡した。

 これで万事解決と、そう思った時の事だった。

 

「受け取れ、ません」

 

 そう言って藜さんはハンドクリームを返してきた。……もしかして、何かデリカシーのない事でもしてしまっただろうか? そんな想像が頭に思い浮かんだが、それは藜さんの次の言葉で即座に否定された。

 

「私はもう、ユキさんから、いっぱい、いっぱい、貰って、ます。そのお礼もできてない、のに、これ以上、貰えま、せん!」

 

 その理由に成る程と合点がいった。確かにその理由なら、押しつけになってしまうし俺がどうこう言うことは出来ない。

 

「でも、それは、使わせて欲しい、です」

 

 未だに臭うらしい右腕を見ながら、藜さんはそう言った。大っぴらに匂いを嗅ぐのはただの変態行為だから出来ないが、恐らく相当不快な臭いなのだろうと推測はできる。どうにかしたいと思うのは必然だろう。というか、そもそもその為に渡したのだから断る理由がある筈もない。

 

 そうして心の内で頷いている俺に、意を決した様にして藜さんは言った。

 

「だから、ユキさんに、塗ってほしい、です」

「えっ」

 

 今何か、とんでもない発言が聞こえた様な気がした。

 

「今、なんて?」

「ユキさんに、塗ってほしい、です。屁理屈かも、ですけど」

 

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。確かにそれなら、俺が使ったと言う事になるし……まあ、そんな事はどうでも良いのだ。ぶっちゃけて言うと、セナ以外の女子を相手に何かをすると言うのは非常に気恥ずかしい。ハンドクリームを塗るとか、本当もうヤバイとしか言いようがない。

 

「だめ、ですか?」

 

 じっと見上げてくるその目は、何処と無く捨てられた子犬を連想させるものだった。馬鹿な……犬(のイメージ)を持っているのはセナのはず。まあそんな冗談は置いておくとして、そんな目で見られたら断れるものも断れない。

 

 そうして、意を決して俺は口を開いた。

 




(´・ω・`)そんなフェチいシーンはカットよー
(´・ω・`)そんなー

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