最近、爆破が足りない
テストを控えている中UPOにログインし続けている俺の頭には、ここ最近ずっとそんな考えが渦巻いていた。新装備の開発と慣らしで満足な爆破が出来ず、ギルドの皆とのボス戦でも爆破が出来ず、最後に満足の出来る爆破が出来たのは、かなり前のイベント時が最後だ。
故に、二徹の頭で実行した。
「つまりこれは、精神衛生上仕方のない事だったんですよ!」
「そんな理由で、ビルを爆破解体するんじゃない! 大騒ぎだったんだぞ!」
そう、第3の街にある高層ビルの1つを盛大にケリィった(動詞)結果、俺は即座に犯人を特定したザイルさんにより確保されたのだった。まあ、ケリィほど上手くはないから他のビルにもかなりの被害を出したけどね! そして現状、【極天】のギルド内で両手を後ろで縛られた状態で拘束されている。……何故かにゃしぃさんと一緒に。
「まあまあ、いいじゃないですかザイル。逆に、今までのユッキーが何もなさ過ぎたんです……これで彼も、名実ともに我々の同類ですよ!」
「そうですよ。春先のつくしんぼみたいに大量に生えてるやつを、たった1本爆破する事の何が悪いんですか」
「全部だ阿呆が!」
目の前で肩で息をするザイルさんは無視し隣のにゃしぃさんに目で訴えて見たが、何の問題もないと帰ってきた。流石ににゃしぃさんの様にフィールドを消しとばす様な事はまずいと思うが、こちらはたかがビル1本程度である。被害も規模も下なのに、何故怒られるのか全く意味不明である。
「はぁ……ザイルさん、それにこれは完全犯罪なんですよ? あらかじめ雷管付きC4を“設置”するんじゃなくて“置いて”きて、周りにちょーっと導火線を敷いてきて、1つにまとめたところにフィリピン爆竹を配置。そして起爆して、ビルも発破……それら一連の出来事にかなりの時間をかける事で落としてきた全てのアイテムから所有権を消した事によって俺は、幸運にもNPCからのヘイトを稼ぐ事なく世紀の大・爆・破に成功したんですよ! ついでに買ったキープアウトのテープで周囲を囲っていたので、プレイヤーへの被害もゼロなのです!」
笑みを浮かべながら、俺は高らかに犯行を謳い上げる。隣のにゃしぃさんを見れば、素晴らしい事を聞いたと目を輝かせていた。
「そんな阿呆らしい事に、無駄な労力を使うな!」
「へぼッ!?」
スパァンと、勢いよく巨大ハリセンで頭を叩かれた。余りにも綺麗に頭頂部に直撃させる辺り、流石はDex極振りと言ったところか。おぉう……痛くはないけど、徹夜頭にこの衝撃は響く……響く……
「大丈夫ですかユッキー? 一緒に爆裂しますか?」
「お前もお前だにゃしぃ!」
「イイッ↑タァイ↓アタマガァ……」
にゃしぃさんはハリセンの衝撃で倒れ、あぁ……あぁ……と痙攣している。あ、また頭打った。
「ゴッフゥ!?」
「で、さっきからソワソワしてるそっちもこうなりたいのか?」
「手を出してから、言わないで下さい。ゴツンって鳴りましたよゴツンって」
吹き飛ばされて頭を打ちながら俺は愚痴る。実際の痛みはないけど、頭に響くなぁ……これ。ははは、ログアウトして眠りたくなるじゃないか。
だが、まだだぁッ!!
「まあそれはいいんです。それよりも、ここのギルドの皆様って大体β版からやってる人達ですよね?」
「まあ、そうだ。元々は、全員その道の最先端を行く先駆者だったぞ。今ではまあ、ほぼ全員こんなざまだが」
ザイルさんが冷ややかな目で見つめる先には、ユカキモティ…とうねうね蠢くにゃしぃさんがいた。先駆者が、ここまで拗らせちゃったかー。
「ならちょっと、この前取得したスキルについて聞きたいことがあるんですけどいいですか? 魔法系のスキル「私にお任せをッ!!」
フラフラと身体を起こしながら言うと、すぐ隣で一本釣りされたマグロの様ににゃしぃさんが飛び跳ねた。両手を縛られたまま、器用にテーブルの上に着地し、腰をエビの様に曲げてこちらの顔を覗き込んで聞いてくる。顔近い近い。
「なんですかなんですかそのスキルというのはレアスキルですよねそうですよね私に聞くということは勿論そうなのですよね私としては大規模破壊する系統の魔法ならより嬉しくてそうじゃなくてもそれはそれでとーっても教えてもらいたいので──」
「ぬんッ!」
「イイッ↑タイ↓メガァァァッ↑」
にゃしぃさんがテーブルから転げ落ちて、凄い音を立ててテーブルを巻き込んで飛んで行った。顔面にハリセンとか、絶対痛いよなぁ……
「それで? そのスキルってのはなんだ?」
「《儀式魔法》ってスキルなんですけど──」
「儀・式・魔・法ッ!!」
跳躍し何回転もしながら、再びにゃしぃさんが戻ってきた。未だ両手を縛られたままなのに。この人の身体は、一体全体どんな構造をしてるのだろうか。
「MP消費なしで大規模な魔法を発動できる代わりに発動条件が陣の設置や舞などを行わなければいけないという地味にレ ア ス キ ル ゥ ッ!!」
聞きにきたのは、にゃしぃさんが全て説明してしまったがそのスキルについてだった。ここ2日、寝ずに色々と試してみたのだが残念なところが見えてきたのだ。MP消費なしで魔法を発動できる点は素晴らしい。発動条件が見本と寸分の狂いもなく陣を描いたり、魔力で紋様を作ったり、舞やダンスを行わないといけない点も、まあ妥協しよう。けれど、相変わらず攻撃だけが上手くいかないのは妥協出来ない。
「説明ありがとうございますにゃしぃさん。で、ぶっちゃけこれって発動には問題なくても、攻撃威力ってInt依存であってます?」
「ええ勿論! 私は面倒なので使いませんが、最低値を超えるダメージは出なかったと記憶しています!」
はぁ……と大きな溜息を吐き項垂れる。なるほど、何度も発動させて見たけれど、広範囲ではあるがフィリピン爆竹1つ分程度の威力しかなかったのはそれが原因らしい。
「でも確かユッキーは、Intの値は0ですよね? なのに範囲攻撃魔法を取って、何が楽しいんですか?」
「いえ、俺にとっての本命は回復と補助系統の方ですから」
「ああ、そんなのもありましたね!」
にゃしぃさんにとって、攻撃以外はそんなのという認識らしかった。いやぁ、考え方が非常に分かりやすくてグッドだね。
「でもユッキーユッキー、あれって発動難易度が相当高くありませんでしたか? だから、強くてもβ時代から嫌われてたスキルだったと記憶しているのですけれど?」
「あー、確かに俺も最初は凄いイライラしましたよ。完全な手書きで真円なんて描けないし、魔力を操るとか知りませんし、舞もダンスも出来ませんモン!」
鮭延(走狗)気分で話すと気が楽でいい。
スキルの練習を始めた1日目は、大体正攻法の事を試し続けて終わった。それではやはりまともに発動せず、効果もヘボく、なんだこのゴミスキルと思っていた。けれど、2日目に入った深夜帯に気がついたとある方法でそれは解決した。
「でもほら、俺にはこれがありますモン《加速》」
そう言ってコートの下から魔導書を1冊呼び出し、加速させて小さめの紋章を描き終えた。するとその紋章が淡く輝き、同様にギルド内を優しい緑の粒子が漂い始めた。
誰もHPもMPも減ってないから効果のほどは分からないが、一応これが1番簡単な大規模回復である。この範囲と出来ならば、毎秒50回復で継続時間は5秒程度だろうか。因みにこれは、さりげなく発動例1と2の複合技術だったりする。この2日間、寝ずに検証に検証を重ねて練習をした訳ではないのだ。まあ、まだ舞とダンスはロクに検証してないが。
「おおっ!」
「まさか俺の改造した魔導書が、筆みたいに扱われるとはな……ショドウフォンにでもするか?」
「遠慮しておきます。まあ、練度が足りないのか使える魔法は6つだけなんですけどね」
ランさんに聞いてみたところ、2日もぶっ通しで同じスキルを使っていたら、本当はもっと使える術技は増えるものらしい。多分これ、練度も上がりづらいスキルなんだろうなぁとは思う。
「っと。話が逸れてしまいましたね。それでユッキーは、私に何を聞きたいのでしょうか?」
首を傾げるにゃしぃさんを見て、聞こうと思っていた事を思い出した。いかん……楽しくなって、完全に忘れてしまっていた。
「ほら、中国に『春節』ってお祭りがあるじゃないですか」
「はい」
「あれって、爆竹を大量に鳴らしますけど、そも爆竹って厄祓いとかめでたい時に鳴らすやつじゃないですか」
「らしいですね」
「で、爆竹は神を迎えるって意味で使用される事もあるって、どこかで聞いたことがあるんですよ」
「なるほど、つまりはそう言うことですね!」
概要を説明していると、得心がいったのかにゃしぃさんはポンと手を打った。やはり同類……非常に理解が早くて助かる。
「おい待てコラ。お前ら狂人2人で勝手に納得してないで、こっちにもちゃんと説明しろ」
「全くもー、察しが悪いですねザイルは! つまりユッキーは、爆破で儀式魔法を使えないかと言ってるんですよ!」
「そう言うことです」
趣味と実益を兼ねた、最良の発動方法である。爆竹鳴らすのは1種の儀式って言えなくもないからね、仕方ないね。例え鳴らすのが通常の爆竹じゃなくて、火薬たっぷりのフィリピン爆竹だろうと変わらないに決まってる。
「それで、隠れて練習出来る場所知らないかなと思いまして。最前線じゃセンタさんに巻き込まれるし、ダンジョンじゃアキさんに巻き込まれるし、森だとにゃしぃさんが吹き飛ばすでしょう?」
「そうだな……ほぼ全員、ある種縄張りみたいな物を持ってるしな」
「私みたく、1日1回は最大火力をブッパしないと、ストレスでおかしくなっちゃう人種ですからねぇ」
やはりそう言うことだったか。というか、縄張り持ってるとかどこの野生動物なんだろうか……野生の狂人か。俺も同類じゃないと言えなくなって来てるので、あんまり貶すのはやめておこう。
「放浪してる奴らは翡翠以外放置で良いとして、どうだろうな? 心当たりはあるか?」
「そうですね……広さはダンジョンと同等で最前線ですが、ルリエーの地下迷宮とかどうでしょう? 練習序でに、何かレアアイテムや未発見クエストを見つけられるかもしれませんよ? それに、まだ誰の根城でもないはずです。センタは最近、水の中ですし」
「おお! ありがとうございますにゃしぃさん!」
最前線と言うことで、未処理のクエストがあり、未発見の敵がいて、未発見の宝箱やアイテムも山積している。今までの攻略済みの場所を探検する事と違って、本当に冒険すると言う感じがする。そう、そんな事で憧れは止められないってやつだ。
「また狂人の根城が増えるのか……」
「さっきから狂人狂人言ってますけど、銃を持ったザイルだって似たようなものじゃないですか」
お礼をして帰ろうと思った瞬間、そんな爆弾発言によって空気が凍りついた。あ、これとっとと帰った方が良いやつだ。
「あ、じゃあここにお礼の品は置いていくのでありがとうございましたー!」
フードを被りステルス、序でに足音も殺して出口へと向かう。手は縛られたままだが、この程度ならなんの問題もない。逃げ出すけれど、アストからのレア泥置いていくから許してほしい。
「今、なんて言ったにゃしぃ」
「あ、これヤバイスイッチ入っちゃってます。今のは言葉の綾です! それにどうせ私達の同類なんだから大人しくそれを受け入れギャーー!!」
全速力で逃走しドアノブに手をかけた辺りで、前方から恐ろしい密度の銃撃音が聞こえ始めた。見たくないので目を瞑る。見ない、見ないぞ俺は……
「野郎、ブッ殺してやるぁぁぁ!!」
「あー! ごめんなさい撃たないでください! 痛、ちょっ、やめっ…ヤメロォー!!」
「お邪魔しましたー」
後ろの状況がいよいよ激しくなって来たので、勢いよく扉から脱出する。これで漸く安心して行動ができ──
「やってやりますよ《エクス・プロージョン》ッ!!」
ギルドが、内側から盛大に爆発した。建物の外観は無事だが、内側は滅茶苦茶だろう。
「俺はしーらない」
……俺、もしかしたら連続爆破犯扱いされるかも? まあ気の所為だよね!
爆発オチなんてサイテー