幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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後数回でリザルト回は終わり……


第40話 異次元コミュニケーション③

 今の俺が出来る全開の速度で飛行する事10分程だろうか、HPをギリギリまで減らした俺はどうにか第2の街に墜落する事が出来た。周りにいた人から物凄い変な目で見られたけど、まあ気にする事じゃないよネ!

 

「ただいまーっと」

「ん」

 

 出迎えてくれたれーちゃんが、一瞬でムッとした顔に変わった。そりゃ、見慣れない装備を追加してたらそうなるか。

 

「ん!」

「いや、俺としてもれーちゃんに頼みたかったんだよ? けど、これは流石に極振り仕様だから頼めなくて……」

「んー!」

「本当にごめんって」

 

 ポカポカ叩いてくるれーちゃんを甘んじて受け入れる。悪いのは俺だしね。因みにフィールドで受けた場合、俺のHPは軽く吹っ飛んでいた事は間違いない。

 

「ん」

「だったら何か作らせてって? それなら何個か頼みたいものがあるんだけどいいかな?」

「ん?」

「素材は持って帰ってきたやつはなんでも使っていいから、ちょっと仕込み杖を3つ。全部使うし、お願いしたいかな」

「ん!」

「それじゃあ、後で案とかは纏めて送るからー!」

 

 話を聞き終わったれーちゃんは、嬉しそうな顔のまま来店したお客さんの方に向かって行った。今接客されてる人、確実に幸せだろうね。

 やる事が山積みだと小さく呟き、個人ルームに戻ろうと振り返るとそこには目を丸くした藜さんが立っていた。和服とメイド服が合体した様な服装を着てる辺り、れーちゃんを手伝ってくれてるのだろう。俺? 俺とランさんは基本裏方ですが何か。不快な事をしたお客様には、ちょっと鉛玉と爆弾が待ってるぜ……

 

「今ので、意味、分かってるん、ですか?」

「表情とジェスチャーで、まあ大体分かりますね。流石に兄……ランさんには勝てませんけど」

 

 一言「ん」とれーちゃんが言えば全てを察して行動してるし、れーちゃんに対する変質者には容赦無く即死弾を撃ち込んでるし。しかもあれ、恐ろしい事に追尾してくる上防御貫通ダメージなんだよね……流石ウチのメインアタッカー。

 

 それはそれとして注文は聞こえていたので、魔導書を2冊飛ばしてお茶と団子を準備しておく。物も掴めない事はないし、ほんと便利だなこれ。

 

「そういえば、その、本は?」

「藜と倒したボスのドロップ品を、知り合いに魔改造してきてもらいました。使っててすごく楽しいですよ?」

 

 指輪の力を移譲した4つを目の前に持ってきてクルクル回転させてみる。これ、普段は邪魔だしコートの裾にでも隠しておかないとなぁ。

 

「私も、ドロップして、ました。でも、そんなに上手く、使えません」

「多分、戦い方の違いじゃないですかね?」

 

 前線で回避しながら戦うのと、現実で鼻血出すレベルまで脳を酷使してる後衛との違いとかだろう。だってほら、前衛とか、後衛より頭使わないで済むじゃん?

 

「むぅ、納得、行かないです」

「俺も感覚でやってますから……アドバイス的な事、出来る気がしないんですよね」

「うぅ……」

 

 戻ってきた魔導書をコートの裾に隠したのは良いものの、項垂れる藜さんになんて声をかけていいのか分からない。頑張れとかじゃ無責任だし。もしかしたらって事は言っておくか。

 

「多分【空間認識能力】ってスキルのお陰だとは思うんですけど……あんまりオススメは出来ないんですよね。いや、寧ろ絶対お勧めしません」

「どうして、です?」

「あのスキルって、プレイヤーによって効果が出すぎる事があるっぽくて。普通はないみたいですけど、俺は無茶した後に鼻血出しましたし」

 

 ボス戦か脱出か。どっちかは定かではないが、確実にそれが原因で枕カバーを漂白する羽目になったのだ。血涙こそなかったが、自分以外があんな絶唱顔になる必要は感じない。

 

「大丈夫、だったんですか?」

「ちょっと染み抜きが大変だったくらいですね。だから、もし取るにしても気をつけてくださいね? 1人暮らしの俺なら兎も角、心配されちゃうと思いますから……いや、やっぱり取らない方が良いかもです」

 

 前衛にとっても有用なスキルではあるだろうし、取る事自体は良いんじゃないかと思う。用途用法を守って……というアレだ。守らないと俺みたいな事になる。

 

「むぅ。……あ」

 

 そう思っている俺の前で、藜さんは頬を膨らませる。やっぱり勧めないってのは良くなかったか。そんな考えが浮かんだ頃、思い出した様に声を洩らし、藜さんはとあるアイテムを取り出した。

 

「忘れて、ました。借りたままだった、ので」

 

 それは【太陽の指輪】俺の持ってた指輪の最後の1つにして、藜さんに渡したままにしていた物だった。

 

「んー……正直、俺は要らないんですよねそれ。快晴の効果って、被ダメカット15%だから致命的に合わないですし」

 

 もし魔導書に組み込んでも、どうせ即死するから枠を無駄にするだけなのだ。だったら、ギルドの倉庫に突っ込んでおくか誰かにあげた方が良い。

 

「使うなら持ってて良いですし、使わないならギルドの倉庫にでも」

「便利、ですけど、悪いです」

 

 俺としては貰ってくれて良いのだが、引いてくれる気はなさそうだ。でも返して貰っても扱いに困るし……

 

「あー、じゃあアレです。もし使うなら上げるので、いつか幸運系のレアアイテムを手に入れたら交換って事で」

 

 微妙に不服だが、落とし所としてはここら辺で良いだろう。別にお金は要らないので、レアアイテム同士でトレードという事で。

 

「むぅ、でも」

「じゃあ、それまでは預けておきますので。それじゃあまた!」

 

 そう俺は会話を切る。今まで色々あった分、これくらいの我儘は許してくれるよね?

 

 ・

 ・

 ・

 

 そんな疑問を浮かべながら戻ってきた個人ルーム。俺はそこにあるベットに腰掛け、今の今まで放置していたイベントの報酬ページを開いた。魔導書は適当に頭の上で旋回させている。

 

「今回の合計ポイントは、859,920か。また多い」

 

 前回の様に森を焼いていないのに、10万もポイントは前回を上回っている。しかも今回はスキルをあまり必要としないし、前回と比べて確実にポイントは余る事になるだろう。

 

 まず最初に75,000ptの【スキル合成釜】を回収。【消費MP軽減】も10万ptで回収しておく。【マネーパワー】は、惜しいけど邪魔になるし取らなくて良いだろう。

 

「これでもうスキルは要らな──いや、あれだけ取っておこう」

 

 これからの予定の為に【狙撃】スキルを20万ptで回収する。回収したのは良いのだが、その後何か操作をするよりも早くメッセージが現れた。

 

 ====================

《お知らせ》

【狙撃】は【投擲】の上位互換スキルです

【レンジャー】内の投擲を更新しますか?

 Yes/No

 ====================

 

「勿論Yesで」

 

 元々使うつもりだったのだ。スキル枠を勝手に使わない様にしてくれるなら、断る理由は何もない。変化した部分以外【レンジャー】に変わったところのないことを確認してから操作を続ける。

 

 残りのポイントの使い道といったら、もう装備はアイテムしかない。けれど特に欲しい物もない。そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「折角だし、買いだぁぁ!」

 

 それが、俺が現在異様なハイテンションになっている理由だ。前回第3の街に到達してなかった所為で選択出来なかった、銃アイテムのバリエーション。その中に1種類だけ、非常に欲しい物があった。

 

 種別は対物狙撃(アンチマテリアル)ライフル。あまり種類はない中の、更に装備制限がない物を探し出して交換した。30万とかいうバカみたいなポイントを使ってしまったけど、一切後悔はしていない。追加で命中率を上げるオプションを上限(10万pt)まで交換しておく。

 だってゲーム内でしかあり得ないけど、アンチマテリアル仕込み杖って死ぬ程面白そうじゃん。隠れてない? 細けぇ事はいいんだよ!

 

「残り84,920……何に使おうかな」

 

 折角作ってもらうから最高の素材を。そう思ってアイテムを少々確保してみたけれど、それでも消費したポイントは1万。うんうんと唸っていると、そういえばと思い出した事があった。

 なし崩し的にではあるが、【太陽の指輪】は俺が藜さんにプレゼントした事になっている。なのに現状、セナに何も渡してないのは如何なものか。

 

「よし、これだな」

 

 選んだのは、小さな吠える狼の装飾が付いたペンダント。残りのポイントほぼ全部を使ったが個人的なセナのイメージにピッタリだし、効果も与ダメ上昇と被状態異常確率減少でなかなか良い。シルバーのチェーンに、狼のメタリックな青色が更に良い。

 後でというか、ログインしたら渡しに行こう。

 

「後は釜でスキルを合成処理してっと」

 

 残った微妙なポイントはMPポーションに変えて、前回と同様に【スキル合成釜(どうみてもカマエル)】を取り出す。今回もこのアイテムがあって本当に良かった。スキルを圧縮出来るから、交換必須アイテムなんじゃないんだろうか、これ。必要ポイントは高いけど。

 

「ソイヤ!」

 

 前回を思い出し天頂を叩いてみると、今回も目論見通りアイテムを起動する事に成功した。そして開かれたあの画面、俺はそこに、【生命転換】【オーバーチャージ】【消費MP軽減】の反発しそうにないスキルをセットする。そうやって起動された釜は、相も変わらず壊れたテレビの様な音を出し稼働を続け──爆発を起こして新たなスキルが生成された。

 

「名前は【魔力の泉】か。効果は混ぜたもの全部がちゃんと乗っているし、変なデメリットも出ていないと。間違いなく成功だな、うん」

 

 納得して頷いていると、バンといきなり扉が開け放たれた。ギルメンしか開けられない扉を、こんな乱暴に開け放つとなれば、あり得る人物は1人しかいない。

 

「そんなに慌てて、どうかしたのか? セナ」

 

 予想通り、扉を開いたのはセナだった。ぜぇぜぇと肩で息をして、酷く焦った様子でこちらを指差し聞いてくる。

 

「さっき藜ちゃんから、イベントの時ユキくんのサポートが凄かったって自慢された! ずるい! っていうか、何その本凄い!」

「どうどう」

 

 どったんバッタン大騒ぎなセナを優しく宥める。セナは自慢って言ってたけど、多分主観が混じった意見である事は容易に推測できる。藜さん、そういう事をする性格じゃないだろうし。魔導書に関しては……うん、後で適当に説明しよう。

 

「それで、何を相手にしに行くんだ?」

「この前ユキくんと行ったけど、倒してないダンジョンのボス!」

 

 思い出したくもない廃人基準の張り付き狩りに付き合わされた場所のボスが、今回の討伐対象らしい。でも、藜さんの時のサポートって1回1回が全力だった所為で、現実にまで影響出すんだよなぁ……また鼻血出すのは嫌だし、サポートのレベルは少し落とす他ないだろう。

 

「ああそうだ、その前に」

 

 忘れる事のない内に、先ほど思っていた事をやっておこう。兵は神速を尊ぶ……は意味が違うか。何にしろ、速いことは良い事だ。

 

「ちょっとしゃがんで」

「ほぇ?」

 

 何が何だか分からないといった様子のセナに、先程取得したばかりのネックレスを付ける。その時、顔の距離が近くなるのは許してもらうしかない。まだ装備としての効果はないだろうけど、結構似合ってる似合ってる。俺の見立ては間違ってなかった。

 

「ふぇ、これって?」

「プレゼントだけど?」

 

 セナの顔が赤く染まっていき、動揺が手に取るように分かる。あれ? この言い方、なんだか悪役にしか感じない。取り消しておこう。ネックレスの意味って……とか聞こえたけど、そこまで考えてはない。どんな意味だろうか?

 

あり、がとう

 

 消え入りそうな声で呟くセナの頭を撫でる。やってしまった感はあるけど、誤魔化せそうだし、今までと比べて特に何かが変わる事もなさそうだしセーフラインだろう。

 

「それじゃあ行きますか! バイクは乗る?」

「乗る」

 

 そのまま借りてきた猫の様な大人しさのセナを連れて、俺は例のダンジョンまでバイクを運転していくのだった。

 因みにダンジョンのボスだが……ハッキリ言ってしまえば【The Sealed criminal】より弱かったので、俺のサポートを受けたセナが数分で軽く撃滅してしまった。南無。




【魔力の泉】
 溢れ出る魔力の泉、その代償は己の命
 PS/AS
①MPを100%余分にチャージ可能になる
 Str -65% Vit -65%
②MPが100%以上の場合
 Int +20% Min +20%
③毎秒自身のHPを1%消費しMPを1.5%ずつ回復する。途中停止不可。この効果でもHPは0になる
 冷却時間 : 10秒 効果時間 : 30秒
④消費MPを15%減少する

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