幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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進路って、怖いね……(胃痛ヤバイ)


第29話 第2回イベント2日目①

 結局一睡もせず迎えた翌日。翻訳表を見ながら入口やこの部屋の扉に書いてあった文字を読んでいたら、いつの間にか朝の6時になっていた。まさか隠し扉の文字が『にんじやのかくしとびら』だとは思わなかったけど。

 

「すぅ…すぅ…んっ」

「それにしても、よくこんなに安心して寝てられるよなぁこの人」

 

 俺のコートを毛布代わりに包まって、藜さんはとても気持ちよさそうに眠っている。今更ながら、アレ着るの恥ずかしいな……

 

「とりあえず、徹夜の成果を纏めておかないと」

 

 起きて何も分からないままでしたじゃ、失望ものだしね。新しいメモ欄を作り、大体の情報を纏めていく。

 

 先ずは第1階層の文字群について。

 あれは簡単に解読すれば、この(フィールド)について書かれていた。小難しい言葉を変換するとこうなる。

 曰く、旧暦の時代この島は、罪を犯した罪人を閉じ込めておく場であった。

 曰く、新暦の時代この島は、人が様々な環境に適応する為に数多の環境を作り上げ、先ずは人ではなく動物を用いて実験を行っていた研究施設であった。

 曰く、魔歴の時代この島は、魔獣の跋扈する危険地帯となった。

 そして現在は、魔物達が独自の進化を遂げたガラパゴス的な魔境と化している。

 

 なんのこっちゃと思ったけれど、要するに人が原因で出来た最悪の島という事で納得した。

 

 次に、今俺たちがいるダンジョンについて。

 なんでも、ここは元はそういう系の研究所だったらしい。けれど生み出してしまった禁断の生物によって研究員は殺し尽くされ、残った数名の魔法師が100年の封印に成功したとのこと。決して封印を解く可らずとも書いてあった。

 ついでにあの鬼火は、研究所を守る為に放った遺伝子操作した生物で守護プログラム的なものらしい。階層毎に結界が貼ってあるから、魔物はその階層にしか居られないらしいけど。

 そして在りし日の研究所の説明も書いてあった。この島には同様の研究所が点在し、それぞれで何かを競っていたらしい。そんでもって、今こそ地下だけど元は地上に研究所はあったらしい。施設の形状は1階と思っていた場所は屋上、今いるここは円形の1階、これから進むのは正方形の地下らしい。

 

 要するにそいつがボスで、生み出したやつらは自業自得で滅んだという事で納得した。余計な事しやがってとも思ったが、情報残してくれたのはナイス。

 

 最後に、あのボス【The Sealed criminal】について。

 姐御こと、ザイルさんが調べてくれた以上の事はあまりない。本体の人型には光属性特効、周囲に浮かぶ猟銃ファンネルには打撃と火属性特効、ファンネルは1度撃墜したら補充されない程度だ。

 

 調べた情報をまとめ終え、時間を見てみれば6:30。焚き火に火を入れ直し、朝ご飯として串を火に掛けていると藜さんが目を覚ました。

 

「んぅ……おはよう、ございましゅ…」

「おはようございます」

「ふわ……ぁふ」

 

 寝惚けた藜さんが焚き火に突っ込み掛けたのを止める時に、抱きとめるとかいう、このラノベ主人公!(cv藤○ 茜)な事が起きたけれど割愛しておく。

 

 ・

 ・

 ・

 

「という感じで、正直勝ち目はかなり薄いと思います。それでも行きますか?」

 

 朝ご飯を食べながら俺が話した内容に、うーんと藜さんは悩むように動きを止める。俺はどっちを選んでも同行する予定だ、今更一人旅とか寂しいしね。因みに、コートは未だに藜さんが羽織ったままだ。

 

「そのボスって、あの鹿とか、浮いてるのとかと、同じか少し強いくらい、なんです…よね?」 

「多分、ですけどね。もし俺の考えてる通りならそうかと。ストーリー的にも、封印が解けた場合に時間稼ぎをするとかの役割を果たす為にはそんな気がします」

「それに、防御力も移動速度も、さほどでもないん、ですよね?」

「ここにあった文献によればそうですね」

 

 信用はできないけれど、書いてある通りならそういう事になる。まあ今回に関しては、俺1人じゃないから使える策もあるし、やれない事はないと思う。

 

「ん、多分ユキさんとなら、倒せると思います」

「策がないわけじゃないですし、藜さんがそれでいいなら行きますよ」

「ありがとう、ユキさん」

 

 謎の信頼が重い。運が良いだけで、俺って全く強いわけじゃないんだけどなぁ……それでも、なんだか嬉しそうにしてるのを見ると応えたくなる。

 

「なんにしろ、下の階への階段を見つけないとですね」

「そう、でした……それに、ここからの脱出も」

「あ、それは問題ないです。ちょっと絶叫マシーンみたいな事にはなりますけど」

 

 廻廊状になってるらしい研究所だから、壁を全開の速度で走れば振り切るのは造作もない。ただ、その場合単車状態前提だし、階段が見つからないと絶望的な事になるけど。

 

「準備が整ったら言って下さいね」

 

 俺はそう言って、食事に使用してた諸々をアイテム欄に仕舞い変わりに単車状態のバイクを取り出す。女子の準備には時間がかかるとつい最近沙織が言っていたし、整備して適当に時間を潰そう。

 

「う、大丈夫、です。それと、これ…」

 

 そう思いバイクに向かいしゃがんだ俺に、即座にそんな声がかけられた。振り返った俺の視界には、こちらにコートを差し出す藜さんの姿が。ず、随分決めるの早いっすね。

 

「まあ、羽織ってもらったままでもよかったんですけどね。ありがとうございます」

 

 そう言って受け取ったコートを羽織り直したけれど、なんか仄かに暖かいし良い匂いがして落ち着かない。思春期男子には辛いぞこれ……鉄の意志と鋼の強さで耐えるけど。

 なおその数秒後。当然のタンデムからのこっちの腰に腕を回すというコンボで、思いっきり覚悟がぐらついたのは心の内に秘めておく。

 

「振り落とされない様に、気をつけて下さいね!」

「はい!」

 

 返事を確認してから、山川と暗号を唱え隠し扉を開く。エンジンを吹かせ、ライトも点灯させる。どうせ見つかるの前提だし、もうなにも怖くない。

 アクセルを少し解放し、ブレーキを使いドリフト。あの鬼火がいる広間に続く細道に出る。

 

「行きます!」

 

 直線が確保出来たので、掴まる力が強くなったのを確認しアクセルを全開にする。瞬間、世界が加速した。鬼火の脇を通り過ぎ、通路を壁すれすれで走り抜け、かなり大きな広い道に到達した。

 解読した情報を信じるなら、ここが研究所の外苑部。つまりは研究所を一周できる道という事になる。

 

「《障壁》!」

 

 かと言って素直に床を走っていたら、何かトラップ的なサムシングにやられかねない。なので障壁で坂道を作り、壁に着地してそのまま走行する。壁面走行様々です。

 

「階段探し、お願いします!」

「はい!」

 

 壁と垂直に走行しながら、鬼火の火球を防ぎ、階段を探すのは流石に無理だ。脳が震えるどころじゃない。なので、階段を探す事だけは藜さんにパスする。

 左右に蛇行して火球を回避し、間に合わないものは障壁で防御する。すでにトレインしてる鬼火の数は6……やりますねぇ!(絶望)

 

「もってけ全部だ!」

 

 腰の簡易ポーチの蓋を開き、ヒャア我慢出来ねえとフィリピン爆竹をばら撒いていく。ああ、久しぶりに聴くこの爆音が気持ちいい。1日の禁爆明けの心が、いい感じに燃え上がる。C4を1回とフィリピン爆竹数個じゃ満足できる訳がなかったんだ。ついでに鬼火にもダメージ入ってるし、完璧じゃないか!

 

「あり、ました! 前!」

 

 全力での壁面走行を開始してから大体5分程経った頃だろうか、ようやく後ろからその声が聞こえた。確かに注視してみれば、ライトの照らす範囲よりも先ではあるが、黒い大穴が壁に空いている。床部分に段差が見えるし、確実に階段だろう。

 

「了解です! 舌噛まないでくださいね!」

 

 背後に迫る鬼火達にスタングレネードを2つ投擲し、耳をダメにしつつ、登った時と同様の下り道を形成して床に降りる。そのまま後輪を滑らせながら方向転換、階段に向かって突撃する。ついでに背後に爆竹を投げつけるのも忘れない。

 

 耐久値任せの乱雑な運転で、ガタンガタンと車体を揺らしながら階段をそのまま下っていく。なんで障壁を使ってないのか? バッテリー(MP)切れです……走行中にポーションなんて使える訳ないだろマヌケェ……

 

「って、ここは……」

 

 どうにか階段を下りきり、着地に成功したそこには薄暗いが驚くことに光があった。足下が見えるか見えないか程度のものではあるが。

 そして謎の液体で満たされたガラスっぽい円筒が、無数に、延々と規則正しく並び淡い光に照らされている。そこから床に向かいコートが伸びており、未だにその何かが稼働してることが分かる。まさに研究所という感じだ。

 

「ひどい、です」

 

 事前情報もあり、この時点で俺は何があるのか察せていたが、藜さんはそうではなかった様だ。液体の中に浮かぶ、妙にグロテスクなモンスターのパーツを見てとても嫌そうな顔をしている。脳髄、眼、心臓、腕や脚に血管などなど……こんな物を浮かべて喜ぶか変態どもめと言いたくなる。人の業は深い……特に日本人は。色々な方面に。

 冷静に考えればプレイヤーも……特に俺はレアドロップの関係上、そういう系のアイテムは多々獲得している。だけどこういう風にディスプレイするのは気に入らないあたり、人って傲慢だと思う(謎の悟り)

 

「壊しますか」

 

 無言で頷きが返ってきた。これでもう何も遠慮する必要はないので、全力で錫杖を振り抜いて円筒を壊していく。壊す度に経験値と中に浮かべられていたレア素材が手に入るけど、とても微妙な気分だ。

 

「これで全部、ですかね?」

「多分、そう…かと」

 

 ガラスが散らばった部屋の中を見渡して、2人して納得する。もうこの部屋に、壊れてないガラスの円筒はありはしない。持ち主がいないんだから、何かを言われるいわれもない。

 休憩を挟み、少しだけスッキリした気分で次の部屋に繋がっているであろう扉を開き……そこに広がっている光景に絶句した。

 

「っ!」

「爆破しましょう。幸い爆弾なら腐る程もってます」

 

 先程の部屋と同様に、立ち並ぶ円筒円筒円筒円筒円筒。いやはや、よくもまあここまでやるよね。やっぱりマッドな科学者にはロクな人物がいない。そんな奴でもあれだし一言謝っておく。

 勿論ウソだ、本当に申し訳ない。いい的を置いといてくれてありがとうマッドな博士。お詫びにボムをくれてやろう。

 

 と言うことで、スタイリッシュに部屋を爆破していくこと9つ。ようやくマトモと言える部屋に到着した。

 

「宿直室……みたいな場所かな?」

「宿直、室?」

「学校とかで、先生とか警備員さんが仮眠したり待機したりする場所ですね」

 

 部屋の端に朽ちたベッド、床には破れたり千切れた紙が散乱し、部屋は嵐が過ぎ去った後のような崩壊具合だ。今までと違うその原因と思しきものは、恐らくボロボロになってもまだ付いている金属扉の向こう側にいるのだろう。

 扉の向こうからは背筋がゾワゾワとする気配がし、すっごくヤバイ感じもする。コイツはヤバイクマ!

 

「ここからが、正念場ですね」

「です、ね」

 

 だけど挑む前に、俺にいい考えがある!

 いい感じに戦いが進められそうな策がね!




こっちでポワポワした話を書いてる反動で、真逆の性質のオリジナル小説を執筆中(1万文字程度)……寝る時間ががが。

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