1話の適切な文量ってどれくらいなんでしょうね?
ああいう相手には大体スーパーアーマーとかいう俺殺しの能力が備わっているので、ステータス欄を弄り【ノックバック強化(大)】のスキルを外して【ドリームキャッチャー】のスキルをセットする。
そして漸く陽の目を見る【ドリームキャッチャー】さんを活かすには、もう1つ乗り越えないといけない壁がある。
「藜さん、一時的にパーティー組みません?」
「それが、良さそうですね」
パーティーを申請、即座に承認された。そのうえで藜さんの表示を見れば、確かに3つの状態異常が表示されていた。確率武装解除・転倒確率上昇・属性効果低下(炎)……なるほどこれじゃマトモに戦えないだろう。
そんなことを考えてしまっていた間に、俺たちに向かって例の鹿は突進してきた。藜さんも減ったHPを回復しきれてないし、ああもう時間が足りない!
「それっ!」
俺はフィリピン爆竹3つを鹿の進路上に投擲し、まとめて爆発させる。結果、そこにできるのは普段より小さいがそこそこ深い大穴。けれど突進で下を向いてるし、これであわよくば……
ギュオオォォ!?
俺の企みは上手くいったようで、突進中の前脚をその大穴に突っ込み鹿は地響きを立てて転倒した。足を思いっきり挫いたはずだから、かなり辛いだろう。これで時間が稼げた。
「《フルカース》《フルエンハンス》《フルエンチャント》【ドリームキャッチャー】! どうぞ!」
「はい!」
鹿のステータスを全て下げ、藜さんのステータスを全て上げ、全ての属性を付与して、藜さんの受けていた状態異常を全部引き受けた。かなり久しぶりにマトモなPTプレイというか、
「《オールディクリーズ》《ラックエンハンス》【潜伏】!」
加えて鹿の全属性耐性を下げ、自分のLuk値を底上げし、自分のヘイトを低下させる。MPがゴッソリ減ったのでMPポーションを1つ踏み砕く。これで準備は万端だ。そして、俺が補助を撒き終わったタイミングで鹿が起き上がった。早いなこいつ。
誰かに戦闘を任せてるのは情けないけれど、ここから俺ができることはもうあまりないだろう。バフデバフの維持と、障壁での支援と、必要があれば隙を見ての回復、全属性でのゴリ押しじゃなくてちゃんとした弱点の解明……ってあれ? 前言撤回、思ったよりかなりある。
「《障壁》!」
身の丈を超える槍を振るう藜さんに振り下ろされようとしていた蹄を、展開時間を1秒直径を20cmまで削り耐久性を爆上げした障壁でどうにか防ぐ。そこまでした障壁も一瞬で砕けてしまったが、回避する時間が稼げたので良しとする。
次に俺がやるべき事は弱点の解明。けれどとりあえず、この天候効果のせいで炎の選択肢は除外、同じ理由で風・水も弱点とは言えないだろう。ならば残るのは、地・雷・氷・光・闇の5つ。
「《エンチャントアース》!」
勿論暴発させ、鹿の頭に土煙色の爆発が起こる。HPバーは全く減ったように見えず、鹿もどこかこちらを馬鹿にした目で見ているような気がする。二文字目なくせして生意気な。
そんなことを考えてる間に、藜さんの突き出した槍の3連撃が鹿に直撃した。光ってたから何らかのスキルだろうか? 俺の暴発魔法とは違い、ハッキリとHPバーが削れる。
「《パニッシュレイ》《ストライクスタブ》!」
「《障壁》」
そして鎖分銅→槍から魔法のような光が発射される→3連続の突きのコンボが放たれた。何アレカッコいい……じゃなくて、障壁を展開して振り下ろされようとした鹿の頭を妨害する。
「《エンチャントサンダー》!」
そして、続けざまに鹿の頭部に雷風味の爆発が起こる。HPが目で見てギリギリ分かる程度は減り、けれどまだヘイトは低いのか目の前の藜さんに攻撃を再開した。障壁でサポートしつつ残り3つも撃ってみたけれど、結局一番効果があったのは雷だった。
ギュオオォォォォォォ!!
「きゃっ」
突如、鹿が天に向かって咆哮し、それによって藜さんの動きが強制的に中断させられたように見えた。なんかデバフが全部剥がされてるし、貯め技のモーションっぽいし、退避も防御も間に合いそうにないし、これは実際とてもマズイ。パーティ即hage案件である。
「《フィジカルエンハンス》、届け!」
そんな狙いやすい弱点に、雷管を突き刺したC4を、強化された身体能力を以って全力で投擲する。スキルの後押しもあり、咆哮に押されながらもC4は鹿の口に易々と侵入した。そしてそのまま見えなくなったため、恐らく飲み込んだと思われる。有害だけど甘いって見たことがあるし、きっと食べやすかったんだろう。とっておきだ、存分に食らうと良い。
「起爆!」
そのことを確認した俺は、音声認識なので投げきったフォームのまま叫んだ。瞬間、鹿の喉元が内側から爆発した。内から弾けて血がドバーなんてグロい演出はなかったけれど、角の光も霧散し今までと違いHPバーがゴッソリと削れた。
それでも鹿の残りHPはまだ7割もあるが、こういう弱点狙いの戦い方なら、もしかしたらいけるしれない。そう思った矢先、俺に鹿が怒りに狂った目を向けてきた。た、食べないでください!(懇願)
「フッ」
いいや、まだだ!(自棄)
実際まだやれることはある。バフデバフ、それに妨害だけは幾らでもできる自信があるのだ。だったら勝機はいつか巡ってきてくれるはず! 一先ず初めに鹿に《フルカース》そして次は藜さんへ《フルエンハンス》&《エンチャントサンダー》、そして最後に!
「《ディクリーズサンダー》!」
鹿の雷属性耐性を低下させたとき、それは起こった。
突然発生した爆音と閃光によって、視界が真っ白に塗りつぶされた。《スタングレネード》で慣れてなかったら即死だった……
「いった!?」
ギュオオォォッ!?
すわ新種の爆弾かと思い警戒した俺だったが、3割ほど消えた自分のHPバーと鹿の叫び声、そして僅かに耳に届いたゴロゴロゴロという低い音を聞いて何が起きたのかを確信する。そう、雷が落ちたのだ。それも、恐らくすぐ目の前にいるあの鹿に対して。
眩んだ視界と探知が元に戻ると、そこには全身から煙を上げ所々焦げている鹿が起立していた。鹿の残りHPバーは4割、けれど未だに此方に怒りに狂った目は向けられており、少々…いやかなりマズイ。死神の鎌が首にかけられている気分である。リスポンは3回できるとは言え、ここでリスポンは早すぎるのでしたくない。
「《障壁》!」
嫌な感じがして障壁を展開すると、鹿に再び
「《ストライクスタブ》!」
俺と対面している鹿の背後から、3連続の突きが再び放たれた。その攻撃で残り1割を削りきることはできなかったけれど、一瞬だけでも動きが止まってくれたのならやりようはある。
「とどめ!」
両手で瞬時に持てる最大数、8つの爆竹を鹿の顔面に投げつけた。チェインダメージによって火力の上がった爆発は、幸運にも近くにいた俺をすり抜けながら炸裂した。
ギュゴ、ォォ、オォ……
「倒……せた?」
「みたい、ですね」
ドスンと地響きを立てて倒れ伏した鹿は、間も無く光の欠片となって散っていった。恐らく戦ったらいけない系の敵だったはずなのに、勝ててしまった。実質ダメージソースがほぼ雷とか言っちゃいけない。俺が1割弱、雷が6割、藜さんが2割強、とかいうダメージの割合だけど、言っちゃいけないったらいけないのだ。
安心する前に、忘れてはいけないのが周囲の索敵。最悪の場合、今の音を聞きつけて新たなモンスターが現れるかもしれない。森の中、見える範囲に敵影なし。空、見える範囲になし。地面、分からないけど反応なしとしておく。……よし、多分大丈夫だろう。
「イェーイ」
「い、いえーい」
感極まってハイタッチ気味に手を出してみたら、若干遠慮気味ではあったけれど返してくれた。ハイライト無いからヤバイ人かと思ってたけど、普通に良い人なのかもしれない。
「《障壁》」
「あ、ありがとうございます」
自分はともかく女の子を雨にうたれるままにする気はないので、障壁を傘がわりに展開しておく。そのままじゃ、話だってし辛いしね。後流石に、天候を変えるパワーを持ってる人なんて………1人心当たりがあったわなんでもない。
「あー、一先ずの危機は脱しましたけど、これからどうします?」
固まってしまった会話をどうにかするために、俺から話題を振ってみる。いや、流石に初対面の人とレアドロの話題とかし辛いしね? 因みにドロップ品は『鹿肉』『冥府駆ける蹄』『紋章の毛皮』『嵐天乱す双角』となっていた。強そう(小並感)
「えっと、私は、森の奥にあった遺跡を、探索してみたいんですけど……もうちょっと、一緒に冒険してくれますか?」
なんだか申し訳なさそうな感じのする表情で、そんなことを提案してきた。まあ、ソロよりはPT組んだ方が楽だしね。1人より2人、
それより遺跡って多分、結構な閉鎖空間だよな……爆弾使って崩れないかな? まあ、心配点こそ多々あれ断る理由はない。
「俺じゃ足手纏いになるかもしれませんけど、こちらこそよろしくお願いします」
「はい!」
ということで、俺は暫くのあいだ藜さんとパーティを組むことに相成ったのだった。それにしても森の奥か……俺の素の機動力じゃ、確実に足手纏いだ。そんなことを思いながらポケットから……もとい、アイテム欄からサイドカー付きでバイクを実体化させる。障壁で舗装する分のMPより、転倒しない安全を取るのが良さ気だからね。
そうやってバイクに乗った俺を、藜さんはなんだか……くっ、目から感情が読めないせいでボンヤリとしか意思が分からない。驚いた感じな気はするけど分からないし……何だこれ地味に悔しい。当てずっぽうは嫌だけど、話が進まないから仕方ない。とりあえず聞いてみる。
「……乗りますか?」
「あ、はい」
若干の逡巡の後言った言葉は、どうやら的外れではなかったらしい。普通に返事をして、藜さんはサイドカーに乗り込んだ。
大体創作物ではペットやら彼女やらを乗せてるサイドカーだけど、俺の場合初めて乗ったのはれーちゃんだしなぁ……因みに2番手がセナである。それに、普段はアイテム欄から溢れたドロップ品を詰め込む場所だし正直そういう有り難みは一切感じない。
「それじゃあ、出発と行きますか!」
操縦士保護の能力のお陰で、デバフこそ受けはすれこの豪雨でも濡れることはないのだ。これはアレだ、普通にサイドカーに招待したのは正解だったかもしれない。
なんてことを考えながら、俺たちは森の奥の遺跡に向かうべく、あの鹿が壊した道を進んでいくのだった。
常時バフをかけ、デバフは回復し、敵には状態異常&デバフをプレゼントし、非常時には1度は確実に防御してくれ、敵の攻撃を妨害し、爆弾のお陰で火力も無いわけじゃないという、字面だけ見たらネタ成分のない主人公。
なお実際は(※今回の戦闘中も実は数歩しか動いていません)