ギルドランキング報酬1位
・500,000 D
・記念トロフィー(金)
ギルド維持費軽減《大》
ちょっとした慢心を一瞬で消滅させられた翌日。気を取り直してログインした俺は、2通の通知が届いていることに気が付いた。
ひとつはギルドランキングの報酬が配布されましたというもの。結構内容がしょぼい気がしたけど、今回は素材やらポイントやらで交換が大量にあるからだろう。というかギルドに銀行システムなんてあったんだね。
そしてもうひとつは……
「イベント『灰の魔物と失われた王冠』における、仕様変更について……?」
長くなりそうなので、座って胡座をかく。で、えっとなになに?
この度は、イベント『灰の魔物と失われた王冠』開催中における、一部の仕様変更(一部オブジェクトの耐久設定の変更・一部フィールドへの不壊オブジェクトの設置)に伴う緊急メンテナンスについてお詫びします?
「そんでもって、
課金アイテムはあるにはあるけど、おいそれと全員に配布なんてできない物だしそうするしかないだろう。
そんなことを考えつつスクロールしていった先に【重要】PN ユキ 様へ と書かれた文が続いていた。どうやらここからは、俺へのメッセージだけに追記された部分らしい。
「ええと、イベント中に行った運営の都合によるポイントの操作、誠に申し訳ありませんでした。お詫びとして、操作したポイントと同等分のアイテムを贈らせていただきます。と」
そしてその下に書かれていたアイテム名は、アイテム枠拡張チケット×5とスキル控え枠拡張チケット×5……ちょっと待ってこれ、おいそれと配れない方のアイテムじゃないですかやだー。
「つまりアイテム枠が5スタック増えて、控えスキルも同様と」
……森マジやばくね? 控えスキルの奴は今のところ必要ないと思うけど、アイテム枠5スタックは爆弾が約500個増えるに等しい。つまりはやりたい放題ということだ。
でもそうなると、アイテム枠が35スタックという微妙に気持ちの悪い数になる。どうせなら40まで増やしてしまいたいが、このアイテムは今回みたいな事がない限り課金限定品だ。値段は1枚300円。ラノベ等にも手を出してる身で1,500円もの大金を払っても良いのだろうか?
「……引っ越しとかそういう単発系のバイト、探してどうにかするか」
僅かな逡巡の後そう決めてウィンドウを操作、自分の中の悪魔の囁きにのって課金のボタンをポチッと押す。……形容し難い背徳感とか後ろめたさとかが相まった何かで、なんだか背筋がゾックゾクするなこれ。なるほど、これが廃課金に繋がるはじめの一歩か。間違ってもそっちに走らないように、電子なマネーは空っぽにしておこうそうしよう。
そんな風に一人百面相をかましていると、コンコンと自室のドアがノックされた。今考えるとドアって……どこ行った和風。
「どうぞー」
「ん」
「えっと、もしかしてもう終わったとか?」
「ん」
どうやらその通りだったらしく、俺の装備を持ってない方の手がサムズアップの形になる。そして、そのままズイと両手で装備を差し出してくる。
「ありがとう」
「ん!」
若干気恥ずかしいけどお礼をいい、つい癖で頭を撫でると満面の笑顔を浮かべてれーちゃんは去っていった。守りたいこの笑顔。俺のステータスじゃ守れないよこの笑顔。誰か守ってあげてこの笑顔。
「さて、何が変わったんだろなっと」
一度に装備し直し、【空間認識能力】も併用して自分の姿を確認してみるけど、見た目は全く変わっていない。各装備の使い込まれた感やコートの草臥れた感じもそのままだ。流石れーちゃん、分かってる。
ステータス面での変更点は、名前が全て【トリニティ〜〜】に変わっており能力値が僅かに変化していた。今まで奇数だった数値が全部偶数になっており、とても綺麗に纏まっている。そして驚くことに、どの装備にも新たにスキルが追加されていた。
「全環境適応、特殊地形効果無効、落下ダメージ軽減に、簡易ポーチ?」
前からコート、ブーツ、グローブ、パンツ(下着に非ず)といった並びでの変化で、中々頼もしそうだ。因みにこの簡易ポーチは、ズボンの両サイドに5スタックずつの計10スタック分設置されているようだ。
そうかそうか、こんなに作為的と思えるくらいタイミングが重なるってことは、
「区切りもいいし、ボスに挑戦するのもありか? 早く3つ目の街には行きたいし」
到着すれば機械類が手に入るとのことから、環境が色々ガラリと変わるだろうし、
「……先ずは情報収集からだな」
よし、やろう。
そして決めたからには思い立ったが吉日。今日1日で情報を集めて、明日ゆっくり吹き飛ばしに行こう。
◇
振り下ろされた巨大なハサミが、5枚重ねの障壁をぶち抜いて俺を押しつぶした。
口から吐き出された泡が弾け、HPを10割削り取っていった。
避けた突進の余波でHPが消し飛んだ。
ウォーターカッター的なブレスに三枚におろされた。
ムシャア…と捕食された。
ハサミでイオク様みたいに潰された。
突進を避けきれずに綺麗に轢かれた。
ブレスに輪切りにされた。
障壁を突き破った尻尾に、サッカーボールのように吹き飛ばされた。
「さて、これで……何回目だっけ、死んだの」
その他様々なやられ方を繰り返し味わった俺は、日が落ちてしまったためギルドで一人今日のことを思い返していた。いやぁ強いね【ヘイル・ロブスター】とかいう、あの青と白のでかいザリガニ。強いとは聞いていたけど、それ以上にストレスフルな相手だった。
殺傷力の高い巨大なハサミによる打ち下ろし&それによる振動で微妙な移動妨害、口から吐き出す泡による移動速度デバフ、ビグ・ザム宜しく横に薙ぎ払う遠距離用の水ゲロビ、中距離用の大波、対バックアタック用の尻尾、高めの耐久と物理耐性。しかもそれに加えて、降っている霰によって集中が乱される。本来ならここに、霰による固定ダメージが継続で入るっていうんだから、バランス調整がおかしいとかそういうレベルだと思う。あと全部俺にとっては即死ダメージだし。
ちゃんとPT組んで役割分担すれば余裕とか、魔法耐性は低いんだからそっちで攻めろとか、そもそもソロでボスに挑むのが自殺行為だとか、極振りじゃなきゃ問題ねーよとか、そんな本当のことを言っちゃいけない(戒め)
「プライドを捨てて協力を頼むか、意地でどうにか倒すか……」
暴発させた《エンチャント》は微妙にダメージが通るし、属性耐性を下げる《ウィーク》を使えば更にダメージが通る。爆弾系統のアイテムも普段通りのダメージは通ってくれたし、ダメージを与える手段は十分に揃っている。けれど、圧倒的に耐久力が足りない。流石極振り、命が羽毛レベルで軽いだけはある。
どうにかして回避できれば良いんだけど、ちょこまかしてると余波で死ぬ。イヤッッホォォォオオォオウ!してもゲロビでやられる。背後に回っても尻尾にやられる。どうにも八方ふさが……
「いや、んん? もしかしたら、できないこともない…か?」
死に続けてるときは思いつかなかったけれど、もしかしたら行けるかもしれない方法を思いついた。
障壁の展開半径と展開時間をできる限り減らしてMP消費を激減させて、ついでに色々とやっておけば消費MPを1〜20内に収められる。そんでもって俺の実質的なMPは1750だから、発動回数と発動時間はそこそこ稼げるはず。MP回復アイテムも多数持っていくので、更に活動限界に+補正を入れて修正。となると、問題はその制限時間内にボスを削りきれるかだけとなる。
「爆竹500発もあれば、多分十分に削りきれるだろ。うん」
馬鹿につけるなんちゃらはないって言うし、爆竹の大バーゲンでドンパチしてお祭り騒ぎをしてればいけそうだ。アイテムとお金が消し飛ぶけど、まだ楽に補充できる範囲内だからセーフだ……って、ああ忘れてた。地対空攻撃があった場合、この作戦は全くの無意味となる。
「確認してくるとしますか!」
折角差し込んできた一筋の光明を逃す理由はない。今日だけで飽きるほど死んでるし、今更1キルされたところでなんの問題もないよネ!
ボスのイメージは、某ゲームのギロスター
Name : ユキ
称号 : 詐欺師 ▽
Lv 18
HP 900/900
MP 1600/875(1750)
Str : 0(13) Dex : 0(10)
Vit : 0(14) Agl : 0(10)
Int : 0(57)Luk : 370(1716)
Min :0(32)
《スキル》
【幸運強化(大)】【長杖術(大)】
【紋章術】【愚者の幸運】【激運】
【レンジャー】【生命転換】
【ノックバック強化(大)】
【空間認識能力】【オーバーチャージ】
-控え-
【ドリームキャッチャー】
( )内は、装備・スキルを含めた数値
小数点以下は切り捨て
比較として称号補正なしの、れーちゃんの暫定ステを
Name : れー
称号 : 呪術師▽
Lv 31
HP 1704/1704
MP 1771/1771
Str : 30(50) Dex : 145(284)
Vit : 50(122) Agl : 55(83)
Int : 110(216)Luk : 50(50)
Min : 60(83)