幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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切り所さんが此処にしかないんですよね。
書く気になれば無限に書けちゃうので、本編ストーリーとしてはここで完結ということで。あくまで本編ストーリーは!


エピローグ

 あれから1週間と少しの時間が経ち、日付けは既に12月25日。

 しかしあれから何かが変わったかと言えば、関係性自体は何も変わってないと言えるだろう。

 というのも、元々俺と沙織の距離が近すぎたことが原因だ。手を繋ぐとか家にお邪魔するとかデートとか、そもそも普段からしてたから特別感はない。かと言ってキスをどうこう言うのは、何か"違う"から嫌だ。3回くらい俺が寝てる間にされたらしいけど。解せぬ。

 同じように藜さんとの関係も、特段変わったところはない。前と比べて視線の質が変わった気がするけど、沙織のように行動のリミッターが振り切れたりはしてない。何故だか凄く嫌な予感はするけれど。

 

 しかしそれでも、昨日UPO内でやっていたワンタイムならぬ1dayイベント*1を、普通にギルドのメンバー全員で楽しむことができた。それくらいには普段通りで、平凡な毎日だった。

 

「それにしても……どうしよう、これ」

 

 ただしそんな変わらない日常の中で、1つだけ重大事件が起きていた。それは、この前解説をしていた時に貰ったスパチャ*2のお返しに全力でしらゆきちゃんを演じて、我ながら可愛らしく配信をしてしまった時に起きたこと。

 端的に言ってバズった。大神さんが何故か反応してしまい配信にコメントをくれたことで、SNSのトレンド4位くらいまで跳ね上がる勢いで情報が拡散。チャンネル登録数が何故か爆伸びして5万人とかいう異次元の数値に届き、冒頭で『前回貰ったスーパーチャットの分だけ配信しますね』などと言ってしまったものだからヒートアップ。集団圧力に負けてスパチャをONにした瞬間、3回くらい虹が流れた。*3

 結果として、最後はもうやめてと泣きながら懇願するハメになったし次の配信は確定させられて、手元には電子マネー27万円が残った。配信サイトに3割は取られてるのに。そしてそれは、大神さんとの単独コラボとかいう謎過ぎる企画を一般人として乗り越えられなくなった瞬間だった。

 

「アァアアア外堀がァ!! 外堀が埋められている!!」

 

 枕に向けて全力で叫ぶが何も変わらない。具体的に言うと、大神さんの所属事務所からやんわりとしたお誘いが届いた。コワイ! 更に言うと、UPO運営から『もっと配信してUPOの宣伝してくれると嬉しいな♡(意訳)』というメッセージも届いた。アイエエエ!? 確かにこのVR全盛の時代、職業の1つとして認知されるようになってはきたけど! けど!! ハイシンシャナンデ!?

 

 ともあれ、今日はクリスマス当日。街は正月の雰囲気も出しているがクリスマス一色であり、高校も中学校も丁度終業式。長いようで短い冬休みの始まる日でもあった。

 

「さて、落ち着いたしもう準備しなきゃ」

 

 でもって、沙織(セナ)()さんと出かける予定の日でもあった。因みに空さんの提案で、全員制服で集合して出かけることになっている。終業式が午前中で終わってなければ、微妙に補導される危険性が高かっただろう。とはいえ、相変わらず男物のファッションセンスは壊滅してるのでありがたい。

 

「財布携帯その他諸々準備ヨシッ!」

 

 取り敢えず使いそうな物を鞄に突っ込み、戸締りをして家から出る。今日も親父と母さんは帰ってこないらしい。この前親父の後に帰ってきた母さんが気を遣ってくれたのかもしれないけど、今日は別に沙織が泊まりに来たりしないんだよなぁ……未成年だし。未成年だし!

 

「ごめん、待った?」

「ううん、全然待ってないよとーくん」

 

 そして家から出れば、当然のように沙織が待ってくれていた。マイルームの防音はしっかりしてるから、あのなっさけない叫び声を聞かれなかったのは幸いか。

 

「それじゃ、空ちゃんを迎えに行こっか!」

「……俺が言うのもなんだけど、沙織はいいの? こんな二股みたいな状態で」

「別に私も空ちゃんも気にしてないし……とーくんは嫌?」

「嫌じゃ、ないけど」

「ならヨシッ! ってことでレッツゴー!」

 

 なんて言いながら、これまでとは違って堂々と手を繋ぐ。人の温かみがどうこうと言うつもりはないが、これはやっぱり安心出来──あのちょっと待って下さい沙織さんや。速い。速いって。手を繋いだままそんなハイペースで走られたらこっちも走ることになるからぁ!

 

 脳裏に過ぎる、喜びはしゃぐ大型犬に引き摺られる飼い主のイメージ。何処までも引っ張っていってくれそうなそのイメージに、有難いような嬉しいような温かい気持ちが湧いてきて。仕方がないかとため息が出──あ、駄目これ、ため息吐いてる暇なんてない。

 

「♪」

「はっ、はぁ──ひゅッ……げほっ」

 

 運動部所属と帰宅部所属、その体力とスタミナの差が露骨に現れていて。鼻歌を歌いながら走る沙織と、息も絶え絶えな俺。最近走るなんてことしてなかったせいで更に辛い。

 ……タオルと制汗スプレー、ちゃんと持ってきておいてよかった。本当に。あと、今度からちゃんと筋トレとランニング、頑張ろう。足りない酸素から脳が削り出したそんな言葉と誓いが、冬晴れの空に溶けていった。

 

 

 そんな午前中と夕方を過ごし、UPOにログインしたゴールデンタイムアワー。晩御飯も雑に済ませた午後7時過ぎ。第3の街ギアーズ、UPOでも2つしかない近代的な機械化した街の暗闇に、無数の蠢く影があった。

 

『こちら作戦本部。こちら作戦本部。全班、作戦の進行状況を報告せよ』

『こちらA班。作戦準備完了』

『こちらB班。作戦準備は完了している』

『こちらC班。NPCの避難がまだ終わっていない、1分待って欲しい』

『こちらD班。ミッションコンプリート』

『作戦本部了解。では作戦開始時刻は19:30(ヒトキュウサンマル)へ変更とする。繰り返す、作戦開始時刻は19:30(ヒトキュウサンマル)。作戦開始時刻は19:30(ヒトキュウサンマル)

 

 その通信を最後に、手元のトランシーバー型アイテムから光が消えた。眼下に広がる第3の街の夜景。近代的な光に満ちた街の闇に、無数の嫉妬マスクを被ったプレイヤーが暗躍していると思えば、なんだか心が荒むがやろうとしていることにワクワクを隠せない。

 

 そう、(おれ)現在地は第3の街ギアーズ上空。

 ザイル先輩から入った『(おれ)以外のプレイヤーが花火ルを打ち上げようとしている』という一報を受けて、指名手配されない姿(しらゆきちゃんフォーム)でおっとり刀で現場に急行。そのままザイル先輩から無線傍受のアイテムを受け取り、色々と仕込んでから上空へ向け飛翔。雲に紛れて展開した紋章の上に立ちながら、ステルスで身を隠しながらその時を待っていた。

 

「ザイル先輩、もし撃ち漏らした時は頼むって言ってましたけど。大丈夫なんですか? ざっと見て20個くらいのビルが、花火になるみたいなんですけど」

『ああ、問題ない。元々やる気になれば出来る上、今回はお前が使ってるのと同じビット装備を仕入れてきた。だが……』

「それでも、もし撃ち漏らした場合は頼むってことですよね。分かってます」

 

 普段自分が打ち上げる時であれば、最大級に紋章を展開して落下する破片を弾くことに集中する。だが今回は、トランシーバー型アイテムと一緒に頼んでいたブツを受け取って、完全にサポート役として(おれ)はここにいた。

 

『だが、いいのか? 折角のクリスマスの夜だというのに、嫁2人と過ごさなくて』

「昼間にデートしてきたので」

『結構なご身分でいらっしゃれる』

「それ程でも」

 

 嫌味を打ち返してカウンターする。実際セナも藜さんも、俺には勿体無いくらい美人だし可愛い。だからザイル先輩の言う"結構なご身分"であることは間違いない。

 

『チッ、新婚には嫌味も効かないか』

「はっはっは……っと、もうそろそろ時間ですね」

 

 そんな話をしている間に、メニュー画面の時計が映し出す時刻は19:29に。花火ル発射1分前。ここから見て分かる限りの発射地点は先輩と共有しておいたけれど、流石に街1つ全てを探知出来るわけではないので集中する。

 こちとら毎日安全確認と防御策をしっかりとってやっているのに、便乗されて変に評判を落とされては堪らないのだ。気持ちよく爆破できなくなったらどうしてくれる。

 

「10秒前。9、8、7、6、5、4──」

『この爆破卿ASMR、やれば人気出そうだな』

「3、2、1、0、ゼロ、ぜ〜ろ」

『ちくしょう、コイツ無敵かッ!?』

 

 御所望だったからやったまでよ。既に配信を1回は経験したこの身、投げつけられたマシュマロでその程度の羞恥心なぞ吹き飛んでおるわ!

 なんて心中で高笑いをしながら見下ろす街の中。一角にあるビル群の内、合計24箇所の地点から一斉に火が上がった。轟音、爆炎、夜空に向けて射出される摩天楼。(おれ)1人では絶対に実現不可能な絶景に、思わず心が躍る。

 

「……えっ?」

 

 そのままならば『ブラボー! おお……ブラボー!!』と両手をあげて拍手するところだった。だというのに、直後その期待は裏切られた。

 俺がいつも打ち上げる高度の2/3程度の位置で失速し、重量に引かれて静止するビル群。そうして発生した、花火と称するにはあまりにも拙く、音も半端に小さく、ビルを爆破解体する程度のショボい爆発。今まで見たことある中でも、1、2を争う程中途半端でつまらない爆発が眼前では起きていた。

 

『お前以外のプレイヤーがやったところで、せいぜいこの程度だ爆破卿。精々がお前の猿真似で、一部のホンモノを除いて情熱も資金を使う気力もない。クリスマスの夜にしでかすような奴らは特にな』

 

 そんな言葉と共に、無数に散乱したビル群の瓦礫に銃弾の雨が殺到した。曳航弾が時折混じることではっきりと分かるその弾壁は、一切合切の容赦なく、撃ち漏らしもなくビルを砕いていく。……確か、俺も貰ったハイエンドマシン。極振り全員に配られているんだったか。うーむ、まずい。これ、(おれ)より強くない?

 

「はぁ……がっかり。がっかりもがっかりです」

 

 だがそれよりも先に、落胆の感情が胸に響いた。折角人数がいてあれだけのことが出来るのなら、もうちょっと練度をどうにかできなかったのか。

 

『さて、つまらないものを見せて悪かったな爆破卿。結果的に1人で問題なかったが、来てくれて感謝する』

「へただなあ名も知らない爆破班……へたっぴさ……!」

『爆破卿?』

 

 だからこそ、思わずそんな言葉が口から溢れ出た。爆破をする時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 。楽しく、激しく、そして良心の呵責なく!

 

「欲望の解放のさせ方がへた。それに、仲間はずれはよくないなぁ。(おれ)も入れてくれないと」

 

 特に何も考えず、脊髄で喋りながら簡易ポーチの中を弄る。そうして取り出したアイテムは、右手に持っているものとは違うトランシーバー。そして実態は、ついさっき仕掛けた花火ルの起爆・発射装置のスイッチ。

 

『爆破卿!? 貴様、何をする気だ!』

「いやいや、ちょっとお手伝いをね!」

 

 やめろと言われてももう遅い。やめろと言われてももう遅い。大切なことなので心中で2回言葉を繰り返し──限界だ、ボタンを押し込んだ。

 

『やりやがった! くそッ、やっぱりやりやがった!』

「邪魔はさせませんよザイル先輩!」

 

 先程の不甲斐ないへにゃへにゃビルと違い、しっかりとした爆破も紋章の重ね合わせにより射出される摩天楼。それに向けてザイル先輩が射撃をしようとするけど、その動きはさっき見た。致命的な部分に対する射撃だけは、例え90度弾が弧を描いて迫ろうと弾き返す。

 そうして加速したビルは遂にその速度の頂点へ。今俺がいる高度のすぐ近くにまで至り、大規模な火焔と爆音を轟かせるアニメ調の大爆発を引き起こした。

 

「よし、ここまでは成功した!」

『おまっ、爆破卿! おまっ!!??』

 

 いつもであればここで終わり。あとは破片を全て障壁で弾く作業になるのだが、今回だけは違う。この前のイベントで獲得して、持ち帰ることができたたった1つのアイテム。それをザイル先輩と共同で複製することで完成した、新たな俺の切り札!

 花火ルを第1ブースターとして、さらに上方へ向けて射出された1つの爆弾。それは高く高く、夜空に届くほど天へと昇っていく。

 

「花開け、スターマイン!!」

 

 星の地雷と花火のフィナーレを重ねたダブルミーニングの名前を叫ぶと共に、予定通りにそれは起爆した。

 

「Fooooooo〜ッ!!!」

 

 キュガッ! という意味不明な起爆音と、真っ白な光の中に咲く花のような青い光。ついでにこれまでの軌道をなぞる緑色の光も伴って、クリスマスの夜空に大輪の花が咲く。その光景を見た直後、街の遥か上空という安全コード圏外にいた俺は即死した。

 いやぁ……こっちのフィールドで核、使うものじゃないね。せめてもう少し何か、収束させないと使い物にならない。後日、第3の街全体がちょっとマップに沈み込んでいる話を聞いて、深く心にそう誓ったのだった。

 

Fin

*1
番外編:クリスマス参照

*2
スーパーチャット。投げ銭

*3
投げ銭をすると金額によってコメントに色が付く。それを全種類投げると虹色に見える現象のこと。へんたいふしんしゃさんの所業。




 感想評価&コメ
 これまでありがとうございました!

 5分後にあとがきを更新します

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