幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第181話 ヒロインズ・コンバット

 ユニーク称号エキシビジョンマッチ、午前の部最終戦。そこに勝ち上がってきたのは、奇しくも同じギルド【すてら☆あーく】のメンバーであるセナと藜さん。つまりウチのサブアタッカー兼回避タンクとメインアタッカーである。故に何か、ブーイングや不平不満が凄いことになると予想はしていたが……

 

「爆破卿、どうかしたのか?」

「いえちょっと、やっぱりネットの方が荒れてるなと思いまして」

 

 配信の方をミュートしながら呟いた。スタジアムの方、己の目で戦いを見ていた人達はそうでもない。だがネット上、特に配信上では結構暴言や根拠もない憶測を言う人が増えてきていた。『八百長』だの『つまんな』だの……ちょっと、消し炭にしたくなる。同じくらいの数『正 妻 戦 争 開 幕』やら『万能の願望器(火薬入り)』とかのコメントが流れてるのが……複雑だけど幸いか。

 

「あまりそういうのは気にしない方が良いぞ? 気が滅入るだけだからな。それにそういうコメントは、視聴者側からしても取り上げない方がいい。楽しい配信に水を差される形になるからな」

「でも、頑張ってる2人が悪く言われてるのは良い気分がしませんね。自分が悪く言われたり炎上するならともかく」

 

 乾きの状態異常が出ないように両手で持ったコップ一杯の水を飲み干して、ステージ上のコンディションを確認する。異常は取り敢えず一切なしのフラット状態。特殊天候の天候制圧の名残も消えて、そろそろ完全に大丈夫そうだ。

 

「まあ、そういうもんだ、配信業は」

「中々難しいものですね、と。そろそろ実況に戻りましょう」

「ああ、折角の決勝戦何だ。盛り上げていこう!」

 

 会話の区切りとしてもちょうど良いので、配信のミュートも解除。手元のマイクも起動し直して、景気付けに天使の輪っかと翼も出現させる。

 

「あー、あー、マイクテス。よし、オッケーですね」

 

 自分(TS)の声がちゃんとスタジアムに響くことを確認してから、一度深呼吸。背筋に走る何だか嫌な予感も押し殺して、一気にテンションを上げて笑顔を浮かべる。観客席で約1名、知り合いが鼻血を噴いて倒れた気がするけど見なかったことにする。俺は大天使どころか天使ですらないんだぞ、おい。まあそんな約1名は無視して、言った。

 

「さあさあ、長いようで短かった午前の部も遂に最終戦! スタジアムの修復も終わりましたし、やっていきましょー!」

「勝ち上がってきたのはどちらも同じ、ギルド【すてら☆あーく】のメンバーな訳だが。爆破卿は何かコメントあるか?」

「どっちを応援しても、燃えるか刺されちゃいそうなのでノーコメントで……」

 

 荒れてる以外のコメントでは、祝☆正妻戦争開幕とか百合の間に挟まるなとか、逆に挟まれとかそういうやつか多いのだ。あと単純に、さっきから寒気がすごい。しかし折角大神さんが用意してくれた機会、察していない訳ではないし無駄にはしない。

 

「でも、圧倒的な実力差で勝ち抜けたセナと、ギリギリの勝負に勝った藜さん。どっちが勝っても不思議じゃないようには思います」

「そうだな。超長距離以外の全距離戦闘ができる《舞姫》か、近距離戦が主だが縦軸を自在に動けて速度も十二分な《オーバーロード》か。相性的には、回避スキルガン済みの《舞姫》の方が若干有利か?」

「ですね。藜さんがそこをどう潰して攻略するか、そこが肝になると思います」

 

 そう、スキル構成という意味では今回の戦い、間違いなく藜さんが不利なのだ。何せセナは兼業ではあるがPTのメイン回避盾、ただの通常攻撃はたとえセナが棒立ちしていてもヒットしない。素の回避率上昇値100%、瞬間回避率300%弱とはそんな領域の話だ。そこに加えて完全回避スキルに加えて、幻影や隠密、デバフばら撒きまで混じってくるのだから手に負えない。

 近距離戦であれば、リーチと威力、ヒット数増加や槍の浄化属性による確率ディスペルもあり、藜さんに分があるが……それは当然セナも知っている情報だ。当然、距離を詰めることができないようにしてくると予想できる。故にそれをどう突破するか、否、突破できるか。そこが恐らく最大の問題だ。

 

「前置きはここまで、午前の部決勝! メンバーのエントリーで……す?」

 

 ただ、そろそろ前置きも長くなってきた。少し早めだが入場コールをして始めて貰おうと、口を開いたその時だった。

 

 スタジアムの両端から、風を切って飛び込んでくる2つの影。一方はジグザグに屈折しながら、また一方は曲がることなき一直線で、お互いを目指して加速。ステージの中央で、まだPvPが始まってもいないのに激突した。

 炸裂するのは甲高い金属音。双銃剣と槍がぶつかり合いギチギチと噛み合う、渾身の力が込められていることが分かる鍔迫り合い。重圧(プレッシャー)すら感じられるセナと藜さんの迫力に、開いた口をそのままに固まってしまった。そうして(おれ)が呆けている間に、物理的にも心理的にも大きな火花を散らして弾き合い、2人はステージの両端に着地する。

 

『よかったよかった。藜ちゃんならこれくらい、ちゃんと対応してくれると思ってたんだ』

『当然、です。皆さん、よりは、短い、ですけど。これでも、すっと、隣で、見てきました、から』

 

 そして、そんな数瞬前のことなどなかったかのようにセナが話しかけた。流れているのは和やかに見える空気、けれど(おれ)の目には、威嚇し合う狼に似た大型犬と鷹のような猛禽の姿が幻視されていた。

 

『そだね。もうお互いの手札は殆ど全部知っているし、前衛も張ってる頼もしい仲間だと思ってる。だからこそ、1回ちゃんと藜ちゃんとは決着をつけておきたかったんだよね』

『それは、こっちの台詞、です。いい加減、白黒、つけましょう。色々と!』

 

 バチバチと火花を散らす気迫と幻影に気圧されぽかんと固まっていると、隣から肘でつつかれるような刺激。そちらを見れば、しっかりしろと言わんばかりの表情を大神さんはしていた。……こういう時に、動じずしっかりとペースを作ってリードしてくれるのは本当にありがたい。マイクに拾われない程度の音量でお礼を言えば、何故かネットが炎上していた。解せぬ。

 

『さあ、それじゃあ始めよっか! どっちが上かを決める為だけの、マウント取り合い合戦を!』

『上等、です!』

 

 だが、今はそれは一旦置いておく。何せユニークエキシビジョンの最終戦。ちょっと身内贔屓になるが、2人とも揃ってトップの実力者であるし、どちらが勝ってもおかしくない。そして当人達が今にも戦い始めそうなのだから、止めてはいけないのだ。落ち着くために一度深呼吸を入れつつ、目配せをしつつ呼吸を合わせ──

 

「「いざ、尋常に。始め!!」」

 

 勝負の火蓋を切った。

 

『コン、憑依(ポゼッション)!』

『ニクス、融合!』

 

 セナと藜さん、両者の初手は同じペットとの融合だった。

 セナはいつの間にか周囲に出現した数匹の狐が、身体に溶け込むようにして憑依していく。そうして生まれるのは白銀の耳と、いつか見た時とは違う9本の尾。プレイヤー自体のスペックを跳ね上げつつ、その身に怪異の証が宿り始める。

 対する藜さんは、前試合と同じように……けれど、全く別の装備にペットの鷹を融合させた。前試合では火力を最優先して槍に合一していたペットだが、今回は恐らく身体装備。今の(おれ)と同じように、羽根1枚1枚が刃となっている猛禽の翼を宿していた。

 

『《ミーティア》!』

『【水月】!』

 

 そうして1秒も経たずに双方の準備が整った瞬間、藜さんの姿が消滅し、セナが7人に分身する最中に半分を削り取られた。

 奇しくもそれは、セナにとっては前試合と同じ展開。分身やバフの重ね掛けが始まる前に、速攻をかけて仕留めるという単純明快な答え。ただ、藜さんの槍はイオ君なんて霞んで見えるほどに速く、そして正確だった。何せ回避スキルを発動させているセナの分身を4/7消滅させているのだ、最早言うに及ばずであろう。

 

『やっぱり、こうでなくちゃね』

 

 瞬間、セナの分身が最大数まで再展開された。これこそが、ユニーク称号《舞姫》の最大の強さ。Agl極振りという狂った例外を除いて唯一、速度が一定以上であるという条件のみで分身を作り出せる。カオルさんの使った魔法による分身とも、藜さんの使う残像とも、もっと言えば先輩方の使う技術のみの分身とも違う、自己意識を7分割してフル手動で操作可能な超分身。それが、今度は一網打尽にされないよう瞬時に散開した。

 

『まだ、まだ!!』

 

 そしてそのうち、3体の分身が続け様に消滅した。それこそが大技を決め()()()()()、姿の見えない藜さんが今どこにいるかの証左である。空間認識を最大で使わなければ目に捉えられない、Agl換算にして数百万に達している超高速。恐らくは速度重視の合体と、槍系アーツ最速の技を組み合わせることで到達した極振りの速度*1で、時折制御に失敗しながらも的確にセナの分身を穿ち本体を暴いていく。

 

『凄いなぁ、藜ちゃんは。私には出来ないことを、こんなに簡単にやって』

 

 分身の消滅と再生を繰り返しながら、まるでそんなことはどうでも良いかのようにセナが呟く。そして何度か手をぐーぱーとして、言う。

 

『タイマー設定1分、【空間認識能力・深】全開!』

 

 初めて見る自分と極振りの先輩方を除いた、()()()()()()()()()()()()()空間認識能力。間違いなくそれは使ったことのある動きで、それでも一瞬だけセナの顔が苦しそうに歪む。そんな表情に心臓を握り潰されるような感覚を覚えたと同時、セナの動きがまるで別のものへと変貌した。

 

 当たらない。

 当たらない。

 当たらない。

 

 これまでの10秒弱、セナの分身を穿ち続けていた槍が掠りもしない。その全てがいつも通り、ジャスト回避で躱されている。爆破や薙ぎ払いのフェイントを織り込もうとも関係なし。その全てに適応して、セナは攻撃を捌き切っていた。

 

「爆破卿、まさかこれは」

「ええ、そのまさかです。藜さんは極振りの速度で動いてますし、セナはその速度に対応してます」

「だが、こんな俺には見えない速度で動けるなら、《オーバーロード》はなんで前試合で使わなかったんだ?」

「多分、ペットとの合体位置が関係してると思います。融合先が槍か、背中か。前回がパワー型なら、今回はスピード型なのかと」

 

 何とか絞り出した解説の最中、ステージ上のセナが動いた。両の手に握った銃剣を空に向け、その全てから色とりどりの弾丸がフルオート連射で放たれた。そして──

 

『本気で行くけど、すぐに負けるなんて興醒めなことはしないでね?』

『ッ、その挑戦、受けて、やり、ます!!』

 

 藜さんがそう吼えた瞬間だった。

 

『天候、限定制圧。《神火幻明・稲荷火》!』

 

 スタジアムの空が、一部の隙もなく紅蓮の色に塗り潰された。それは本来セナと藜さんの戦いであれば見ることが叶わないはずの光景。極大の範囲と火力によって通常の天候ならば掻き消してしまう、爆裂やつららさんの魔法と同じ()()()()()がそこには展開されていた。

 

『くっ……』

 

 当然、そんなものを受けては堪らないと藜さんが地上へと降りてくる。飛翔は継続しているがそれは限りなく低空飛行であり、先程までのとは違い制空権を確保しているなんて言えない状態だ。それに加えて、HPも2割ほどゴッソリと削られてしまっている。

 

『舞姫!』

 

 不利を押し付けられたそんな状況を畳み掛けるように、セナが最も得意とする攻撃が藜に向けて放たれる。分身7人全員を手動操作することによる完璧な連携攻撃。7×2の銃口と短剣が迫り──

 

『芸がない、です、よ? 対策済み、です!』

 

 この瞬間まで藜さんの背後に隠れていた、何故か杭が射出された状態のビット6機が分身に向けて突撃した。本来ならばそれは当たるはずもないヤケクソの反撃にしかならない。しかし今そのビットは【十六夜の衣】によるバフがかかり、酷い乱視の人が見るようにぶれている。

 セナとビットの相対速度は既に相当なもの、互いに回避やスキルの発動すらままならずに激突する。そしてその全てが、通常攻撃が当たらないはずのセナに直撃していた。

 

『ッ、このくらい!』

『BANG!』

 

 ダメージは1撃が1/8、ヒット数が16に分割されていることで大したことはない。これは足止めに過ぎず、本命が待っていると判断したのだろう。杭打ち機の突進(チャージ)を受け減速しながらもセナは突撃を敢行し、直後に全てを巻き込む16×6回という素晴らしい爆破の大合唱が巻き起こった。

 

「ぶらぼー! 爆破が気持ちいい、60点!!」

「爆破卿……」

 

 私情は一切挟まないつもりだったがダメだった。ちゃんと途切れずに続けていた実況にインターセプトして、思わず口が滑った。いや、仕方ないのではないだろうか、あんなに綺麗に重なった爆破を見せられて黙ってなどいられるだろうか? 無理に決まっている。

 

 正直(おれ)は大興奮だが、戦況はあまり良くないと言える。何せ《舞姫》の分身はすぐ再生されるのだ。これだけ苦労して倒しても、まるで幻を掴むようで意味がない。が、分身の再展開まで時間があるのもまた事実。故に、今が藜さんにとって最高の攻め時だった。

 

 ならば、今無防備を晒しているセナに対して打ち込むべき(アーツ)は何か?

 判定回数が多く多段ヒットする《クロノス・ドライブ》?

 普段使いで最も安定している《レイ・ストライク》?

 否、どちらも否だ。そんなものでは本体のみになり、警戒を厳にしたセナには当たらない。確実に有効打を残す為には、非公式に必中系と呼ばれる(アーツ)が大前提となる。

 幸いにして藜さんのメインスキルである【旋風槍】を含め、槍系のスキルには、そういうタイプの神話や伝承が多いからか必中系のアーツに事欠かない。そしてこの瞬間に限り、極めて最適な(アーツ)がつい最近実装されている。

 それはこのイベントが始まる直前に実装されたばかりの技。抜刀術における奥義抜刀と同位置に存在し、使用条件が4つも設定されている。そして基本的には使えないこれは、とあるプレイヤー……正確にはそのRP元の、ある種代名詞と言っても過言ではない技。

 

 その使用条件は

・Strのステータスが2000を超えていること

・上方向からの打ち下ろしか、下方向からの突き上げに軌道を限定すること

・自身のステータスの総合値より、相手のステータスの総合値が高い状態であること

・近場に海(雲海や炎の海でも可らしい)が存在すること

 という、計4つかなり状況を限定したキツい縛り。しかしだからこそ性能は破格だったと、()()()()()()()教えてもらった。その槍の名は──

 

「《ゲイボルグ》!」

 

 藜さんの槍に纏わりつき、蠢動する紅黒のオーラ。神聖なはずの槍を瞬く間に呪いが侵し尽くし、雷の速度で藜さんの槍はセナの胸を貫いていた。

 

*1
あくまで極振りの通常速。戦闘速ではない




お互い胸なんてな(ry

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