幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第173話 蛮族の狂宴 翡翠 vs 黄金②

 不思議なことにアキさんと翡翠さんの戦闘は、奇妙な様相を呈しながらもまだ戦闘という形を保って続いていた。

 

「なるほど、無敵ですね?」

「ああ、そうだ。本来は速攻で勝負を決めにくるレンやザイードに対する切り札だったが、まさか翡翠に使うことになるとはな」

 

 爆砕しながら吹き荒ぶ床、荒れ狂う焔、煌めく焔光刃。

 世界を塗り替えんとするノイズ、六角形の障壁、広がるダメージフィールド。

 後者のみが一方的に粉砕されているにも関わらず、未だ翡翠さんのHPは8割程度の量をキープしていた。だがそれも、ある意味当然だろう。この戦闘は、噛み合っているように見えて噛み合っていないのだから。

 

「そちらこそ、おかしなバフの量をしている。ユキもそうだったが、極振りの枠を逸脱している。虹色の鮭が原因だと推察しているが」

「こいこいと言います。アイテムを捕食して、性質とステータスを溜め込んでくれる子です。他2人と比べて少しうるさいですが、いい子ですよ」

 

 翡翠さんが繰り出す見えない口による攻撃は、アキさんに何度も何度も直撃して翡翠さん本人にバフを供給。逆にアキさんの放つ必殺撃も、木の葉のように揺れる翡翠さんに掠りもしない。繰り返せど繰り返せど激突しない攻撃に、圧倒的な破壊の余波だけがスタジアムに撒き散らされていく。

 

「シャケェッ⁉︎」

 

 こんがりと焼け、いい匂いを漂わせる鮭が叫んだ。あの攻撃が吹き荒ぶ中、ペットなのにまだ生きてるのか……晩御飯はムニエルにしようかなぁ。シャケの。

 

『どうやらアキが切り札を使ったようですが、運営から何か説明できることはありますか?』

『そうね……スキル効果は端的に言って条件付きの不死身よ。あのおかしな特化付与を使った20秒以内に敵の攻撃で倒された場合、なんて条件がついているわ。

 本来のスキル時間は2秒、けれどそれをアクセサリー枠を全て消費して35秒時間を追加しているわね。本来なら40秒くらいまでは、もう少し工夫すれば伸ばせると思うのだけど……そんなに37って数字に思い入れがあるのかしら?』

 

 なるほど、今も減少を続けているアキさんのカウントはそういう理由だったらしい。それに多分、明らかに威力が上がってることからして何かしらのバフも付いてそうだ。37秒という時間は……まあ、あの作品のファンならそうするだろうからパスで。

 

『ならば翡翠の超強化はなんでしょう? 性質はアキと翡翠が喋っていた通り、半分強化アイテムのような扱いのようですが』

『なんでシャケが喋っているのかしらね? 本来あのサーモン型ペット、そこまでの知能があるAIは搭載されない筈なのだけど。一体どういう育て方したのよ……?』

『えぇ……?』

 

 どうやらあのシャケは運営にも想定外の存在だったらしい。まあ、うん、でも翡翠さんのペットだしそれも止むなしかもしれない。片やゲーミング発光するヤベーひよこ、片や透明な口と化している謎のサイズのエクレア。それに比べれば……いや、やっぱり異質だわ。

 

「なるほど、理解した。だが俺が"勝つ"、この勝負決めさせて貰うぞ」

「お断りします。速度の乗りに乗ったレンさん、美味しそうですから」

 

 そうしてアキさんのカウントが20を切った時、一気に戦局が動いた。

 

「装填 : 断空剣ティルフィング、天空翔剣ハイペリオン。無双の神剣に比翼の翼よ、暁へ飛翔し敵を断て」

「ひーこー、エクレア、分身を最大です」

 

 それは、一瞬の出来事だった。最大級に分身したゲーミングひよこと、恐らく見えない口が展開されている空間。その全てに、一筋の斬線が走った。ズバズバと放射される黄金の爆光とは違って、線状にまで収束された焔光刃。格段に跳ね上がった代償に減ったはずの遠距離攻撃が、武器の射程の延長という裏技で代償が踏み倒されていた。

 

「おやおや、これは詰みましたか」

 

 無論、それだけでは終わらない。翡翠さんの右脚が、気が付いた時には蒸発していた。記憶が確かなら断空剣ティルフィングの能力が射程延長なのに対し、天空翔剣ハイペリオンは飛翔と自動反撃、おまけに逆境時の補正。

 恐らく後者が直撃したのだろう。それにしては翡翠さんの攻撃が見えなかったうえ、アキさんの攻撃にしてはダメージ量が低過ぎる気がするけど……本人の言う通りこれは詰みだろう。それでも反撃の捕食でのバフや回復を阻害されたこと、そして脚1本という大きなディスアドバンテージを負ってしまったことは覆せない。

 

「やはり、1度そうなると手が付けられませんね」

「文字通り背水の、覚醒の真似事だ。本音を言えば、これでも足りないと思うがな」

 

 だというのに、器用にも片足で翡翠さんは怒濤の猛攻をひらりひらりと躱し続けていく。その姿は知識の神か、一本だたらか。後者は討伐されそうだから前者だろうなぁ。

 

「ですが、焼き栗を味わう前に倒れてはレストランオーナーの名折れ。いただきます」

「良いだろう、受けて立つ」

 

 アキさんがそう吼え2刀を構えると同時に、翡翠さんが極めて独特な構えをとった。今までひーこーを握っていた両腕の五指を開き、獣の牙のように、大きな口を形作るように構える。

 

 カウントが10を切る。その瞬間、蓄えに蓄えた無数のバフにより、強化された翡翠さんの姿が一瞬だけ霞み──

 

「暴飲暴食、決まりませんでしたか。予想はしていましたが、残機ごと斬られるとは」

「ああ。だが、不死身でなければ相打ちだった」

 

 次の瞬間には、両腕が燃え尽きつつある翡翠さんと、胸部から腹部にかけてをゴッソリと抉られたアキさんの姿があった。どちらも間違いなく致命傷、というかそれを通り越して絶命撃だ。

 しかしアキさんの方はまだ10秒、無敵時間が継続している。どんな内部処理が発生しているのかは分からないけれど、単純に考えてまだ生きてると判別できる。つまりは──

 

「ご馳走さまでした、焼き栗も乙なものです」

「ヤキジャケ……シオジャケ……ノーモアチキン、アスタキサンチン……」

 

【WINNER アキ】

 

 カシャンという儚い音を鳴らして、謎の鮭→翡翠さんの順にアバターが砕け散った。刀を納刀する涼やかな音を響かせて、元の男の姿へ戻ったアキさんが軍服の外套を翻して退場する。

 同時、今度こそ頭上に出現する勝利宣言。鬼のような活躍を見せ覇を唱えたアキさんが、HP0のまま勝利するという異例の結果を生み出した。

 

『決着!! 最強の矛と盾、またしても打ち破ったのは矛であり筋力(Str)極振りであるアキ! それにしても、レン戦以降みんな速さが異常じゃありませんかねぇ! 運営さんや!

『極振りさんや、それだけシステム限界速度とか、異次元の破壊力のぶつけ合いなのよ。もう極限値の試験として見た方が、精神的に安全なくらいにはね……』

 

 目を細く遠くを見るようにして、女性の運営は呟いた。よくよく耳を澄ませれば、実際かなり役に立っているから困るのよね……などとも。

 

『まあ、それはいいでしょう!』

『よくないのだけれど』

『良いことにしました! それよりもです。今回の一戦、色々と疑問も多いと思うのですが』

『そうね。特にアキに関しては、色々聞きたいことも多いでしょう。だからそうね、最低限明かせる情報だけは公開するわ。本人からも許可は貰っているから、そこは気にしないでいいわ』

 

 言うと、先ほどまで【WINNER】表示が出ていた画面がスキル説明へと切り替わった。それによればあの無敵モードの名称は《特化付与 : 烈光星》、その効果は──

 

『発動条件は実況の時に説明した通り、特化付与 : 閃光発動後20秒以内に敵の攻撃で死亡すること。効果時間は本来2秒しかないところを、無理やりアクセサリを使って37秒に延長しているわ。

 様々なバフやデバフが複合されたスキルなのだけど……まあ、簡単に言えば瞬瞬必生、力こそパワーって感じね。解説が必要なのはHP全損無効の裁定についてくらいかしら。この能力は先んじてペットスキルとして実装されているもので、今回の裁定は一般的なデュエル時の裁定を適応しているわ。

 即ち、HPが両者同時に0になった場合において、通常は引き分けとなる。けれどHP全損無効が一方に適応されている場合、そちらが勝者になるわ。単純に、最後まで立っていた方が勝ちということね』

 

 それはまたなんとも、頭部を破壊されたら失格になりそうなアトモスフィアを感じる裁定だ。だけど分かりやすくて良いのではないだろうか。などと、37秒ムテキゲーマーに数百残機のゾンビゲーマーが申しており……

 

『翡翠については──』

『私はあるがままを受け入れたわ。同僚の不憫が偲ばれるわ……』

 

 どうやら実況席の方からは、翡翠さんに関する情報が出てくることは無さそうだった。

 

『さて、気を取り直して決勝戦。景気付けに一丁爆裂を──と、思っていたところですが。どうやら一戦挟まるようですね?』

『ええ、このまま流れよく行っても構わないのだけど。その前に、3位決定戦と行こうじゃない。優勝が決まる前の方が、気持ちよく戦えるでしょう?』

 

 なるほど確かに、それは道理だ。優勝が決まった後に3位決定戦をしても、ぶっちゃけ盛り上がりには欠けてしまうだろう。それは間違いない、間違いないのだが……

 

「3位決定戦、今度こそ本当に勝てる気がしないんだよなぁ」

「ユキくんが最初から諦めるなんて珍しいけど、どうかしたの?」

 

 はぁ、と軽くため息をついていると、不思議そうにセナが話しかけてくる。俺だってそう簡単に、勝ちに行くことを諦めたくはないけど……

 

「いやぁ、あの感じだとスキル任せの抜刀は当たらないし、狙撃は威力不足でダメージが与えられない。魔法はデバフすら通らない。かと言ってペット方面から攻めるのは、ゲーミングなひよこがいるから無理で……流石に勝ち目がね」

「爆弾……は、もうすっからかんなんだっけ?」

「攻撃に使えるのは59個、半分ジョーク爆弾が40個くらいしか残ってないね」

 

 いつかも使った胡椒爆竹。カラーボール型爆竹。対人用に作ったは良いけど効果のなかった唐辛子爆竹。擬似ナパームの酒爆竹(スピリタスボム)。後は虫型mob除けの甘味爆竹……そういえば、翡翠さん曰く俺はカキ氷味だったとかなんとか言ってたような。

 

「うーん……確かにそれじゃあ、ユキくんじゃ難しいかも」

「知ってた。ところで話は変わるけど、セナの好きなかき氷はブルーハワイで合ってるよね?」

「確かにそうだけど……なんで今? 冬なのに」

「いやちょっと、負けるにしても面白い負け具合になってこようかと」

 

 最弱の極振り、また破れる。

 

 そういえば。景気良くクレオパトラアタック*1をかまし、爆散した後聞いたことだけど、藜さんはいちごシロップが好みだったらしい。

 

*1
自身を絨毯で包み込んで差し出すこと。転じて春巻きの意




おまけ

ユキ「クレオパトラアターック!」(PON☆)
翡翠「味付けありがとうございます。では、いただきます」(Clash!)
ユキ「」(死)(Clash!)
翡翠「ごちそうさまでした」(パッパッパッ!)

ユッキー、極振りランキング4位です。
この世の全ての食材に感謝しつつ「いただきます」と「ごちそうさま」は大切。古事記にも書いてある。

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 Name : こいこい
 Race : ジェノサイド・レインボー・サーモン
 Master : 翡翠
 Lv 55/55
 HP 2000/2000
 MP 4000/4000(6400)
 Str : 200   Dex : 200
 Vit : 200  Agl : 200
 Int : 600   Luk : 200
 Min : 200
《ペットスキル》
【まな板の上の鮭】
 跳ねる、喋る、だから生きている。(自身ではそれ以外の行動ができない。例外として泳ぐことは可能)
【鮭身御供】
 捕食される際に発生する判定が、抱えているイクラの数に応じて増加する(現在10回)
【知識の鮭】
 自身が捕食された際、自身のステータス及び付与されていた能力を捕食対象が得る(効果時間等はリセットされる)
【木彫りの鮭】
 自身が捕食された際、特定のポーズ(クマが捕食するポーズ)であった場合、即座に破壊不能オブジェクトへ変化する。
【オーバー・ザ・レインボー】
 自身が捕食したモンスター、アイテムに応じて自身のステータスを加算する(上限値30000)
【オーロラ・アセンション】
 自身が捕食したモンスター、アイテムに応じて虹色に発光する。光れば光るほど能力が上昇している。また、イクラにダメージ判定が発生する。
【被捕食時効果上昇+1】
【被捕食時効果上昇+2】
《スキル》
【覚醒】【忠誠ノ誓イ】【貴方と共に】
【魔力核】【魔力核Ⅱ】【魔力核Ⅲ】
《装備枠》
 なし
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