幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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主人公が延々と死に続けるシーンとか書いててつまらないし、見ててもつまらないと思うのでかなり割愛されてます。戦えてるように見えるのはそのせいです。

-追記-
警告タグが必須タグになって、しかも増えるんだ…


第10話 ランペイジ・ボア①

 キーンコーンカーンコーンとチャイムの音が響く。漸く6時限目の授業が終わったようだ。起きようかと思ったけれどまだ眠気が取れない、どうせ放課後なんだしもうちょっと……

 

「起きてとーくん!」

「むごっ」

 

 机を叩かれた衝撃で頭を支えていた腕が外れ、俺の頭は机に叩きつけられた。半ば眠ってる無防備な状態にこれは些かキツイ。そして学校でこの呼び方をしてくる相手は1人しかいない。

 

「今回は何さ……沙織」

 

 半眼で軽く睨みつけながら俺は言う。起こしてくれるのは嬉しいのだけれど、毎度毎度痛みを伴うのはやめてほしい。

 そんな俺の気持ちを華麗にスルーし、ぽわぽわとした雰囲気を漂わせ、若干の逡巡の後沙織は話しかけてきた。

 

「【UPO】の話なんだけどさ、とーくんってギルドに入ってたりする?」

「ギルドか……特に考えたこともなかったなぁ……」

 

 土日はお金を稼いでアイテムを買って、合成しての無限ループをこなしていたのだ。レアアイテム以外のドロップ品は全てNPCに、レアアイテムは仕方なく一部をザイルさんに売り、ザイルさんから第2の街以降に売ってるアイテムを仕入れ、漸く準備が整ったのが今朝だったりする。はいそうです、また徹夜です。若いって良いね。

 イベントまで今日を含めて7日……ボスは可及的速やかに始末してイベントの準備に入りたい。流石に今日は偵察しかしないが。

 

 ごちゃごちゃと考えたけれど結論は、ギルドなんか考えてる暇がなかったということだ。多分何か恩恵もあるんだろうけど、はっきり言って知らない。

 

「それじゃあさ、次のイベント期間中だけでもいいからウチに来ない? 結構小さいギルドだし」

「ウチって、沙織がマスターやってるギルド?」

「うん」

「別に構わないけど、何か理由でも?」

 

 そもそも俺がソロでやってるのは極振りだからってこと以外に理由はないし、ギルドに誘われたのなら断る理由はない。ノルマとかの面倒くさい何かがない限りだけれど。

 それにしても、なんでこのタイミングなんだろうか? 最初に会ったときに誘ってもらっても全然構わなかったのに。そう疑問に思っている俺に、沙織はキョトンとした顔で逆に聞き返してきた。

 

「イベントの告知、見てないの?」

「うん、全く。擬似とは言え、1人暮らしはやることが多いから…」

 

 料理・掃除・洗濯・勉強は基本として、週末は親が置いていく大量の洗濯物と格闘する必要があるし、そこに加えてUPOをしていたのだから余力なんてない。

 ながら仕事はミスに繋がり死に直結……するのはゲーム内だけだが、リアルでも火傷とかはするかもしれない。正直それは御免である。コラテラルダメージ認定はできない、死か自由かではないのだ。

 

「そっか……そうだよね……うん、説明してしんぜよう!」

「ははぁー」

 

 なんとなく(こうべ)を垂れるような動作をしてみる。

 断る理由はないし、ここで教えてもらった方が実際早い。多分アブハチトラズなんだろう。

 

「今回のイベントはね、イベント中に現れる特定のモンスターを倒して、そのときにドロップするアイテムを集めるやつなんだ。勿論、集めたアイテムは色々な物と交換が可能だよ!」

「ふむふむ」

「それで、そのドロップアイテムの個数とモンスターの討伐数で、ギルドのランキングがあるんだけど……」

「なるほど、流れが見えた」

 

 俺の4桁に届きそうなLuk値があれば、ドロップアイテムが多くなったりするとかそういうことだろう。俺もゲーマー、報酬は欲しいし断る理由はやっぱりない。

 

「あ、そう? 告知で、極々稀に大量のポイントとレア素材を抱えたボスモンスターが出現するって話だったから、とーくんには参加してほしかったの!」

「え」

 

 英語にするとWhat?  いや違うそうじゃない。や、これはこれで線が繋がった。第1の街のボスをソロ討伐しろってあのメッセージは、多分この為だったんだろう。燃えてきた。

 そんなことを思っていると、沙織に声がかかった。曰く、そんな奴に構ってないで早く部活に行こうとのこと。一瞬恐ろしい気配が沙織から漏れ出てたけど、知らぬ知らぬ聞こえぬ見えぬ。

 

「それじゃあ、よろしくねとーくん! 暇を見て申請は送っておくからー!」

「おー、部活頑張れよー」

 

 さてと、そこまで言われたらやらないわけにはいかなくなった。本番は明日の予定だけど――別に、倒してしまっても構わんのだろう?

 

 

「さてっと」

 

 ログインして降り立った噴水前。そこで一先ず状況を確認しようと思う。

 ボスモンスターであるランペイジ・ボアがいるのは、この始まりの街から北に広がる草原の先。出てくる敵はいなすことはできるけど、時間が勿体無いから避けるべし。聖水ってアイテムで、エンカウント率は下げられるからそれで良し。体調は土日の金策マラソンのせいで悪いけど、今日のうちにボスの攻撃は全部見ておくべきだろう。

 

「百聞一見」

 

 そんないつか読んだ略し方のことわざを呟きつつ、長い杖を持って俺は北の草原に向かうのだった。あ、聖水使わないと。

 

 ・

 ・

 ・

 

 特にエンカウントをするでも無く歩くこと10分、俺はボスがいるらしい場所へと到達していた。していた、のだが……

 

「人、多くね……?」

 

 そう、夜の7時だというのに何故かとても人が多いのだ。その誰もがPTの勧誘をしている。PTの人数上限が確か6人だから、ここで不足分を勧誘するのも不思議ではない……のかな?

 

「まあいいか」

 

 どうせ今回はソロ討伐を目指すのだ。今回は偵察目的だけど、特にPTを組む理由もないだろう。そう思っていた俺に、思ってもいなかった声がかけられた。

 

「あの、ちょっといいでしょうか?」

「はい?」

 

 声をかけてきたのは、沙おr……セナ並に背の低い男子。装備品は軽鎧、小盾、片手剣。一般的で、どう考えても俺より強そうだ。俺みたいな服装備の奴に話しかけてくれるなんてね…きっと優しいんだろう。

 

「僕たちのパーティには魔法を使える人が居ないんです。杖を装備してるし、あなたは魔法を使うタイプの人ですよね? どうか手伝ってくれませんか?」

 

 そういうこの子の後ろを目で追ってみれば、確かにぱっと見魔法での攻撃ができそうなメンバーはいなかった。槍を持った紫がかった銀髪の女性、弓を背負った黒い髪の女性、大きな盾を持った男性がパーティだろうか? うん、混ざる余地なしだね。

 

「ゴメン。俺は攻撃役(アタッカー)でも回復役(ヒーラー)でもなくて、支援役(バッファー)だから」

 

 申し訳なさそうな顔をして、俺はその誘いを断る。露骨に残念そうな顔をしてるけど、ここから死にながら敵の行動を覚えるのには実際邪魔だ。というのは建前で、俺はガチで足手まといだからお邪魔したくない。

 

「じゃあそれでも……」

「それに、俺は今日はボスに勝つつもりはないんだ。だから、多分邪魔になるんじゃないかな」

「そうですか……すみません」

「いや、こっちこそ誘ってくれてありがとう」

 

 とても落ち込んだ顔をして去っていく男の子を見送り、俺は人が流れていっている先に向かって歩く。

 こんな大人数でボスを狩って、リポップとかどうなっているのだろうか……そんな俺の素朴な疑問は、即座に解決された。

 

「なるほどね」

 

 草原のど真ん中に、堂々と刻まれた魔法陣っぽいもの。そこにパーティが載るたびにシュンッという音と共に何処かへ消え去っている。いんすたんすさーばー? みたいなところにボスを出現させて、プレイヤーがいくら同時に押し寄せても別個に戦える様な配慮だろう。

 

「それじゃあ、いよいよご対面っと」

 

 魔法陣(推定)に足を乗せた瞬間出現した、

〈ボスモンスター【ランペイジ・ボア】に挑戦しますか? Yes/No〉

 というメッセージウィンドウの、Yesボタンを勢いよく押す。

 刹那、全身を包む死に戻りの時と同様の浮遊感。その後、即座に視界が切り替わった。即座にサバイバルを気配探知で起動、敵の場所を探る。見事に探知圏外、残念。

 

 ブモォォォオオォォォオッ!!

 

 それが敵対行動とみなされたのか、そんな叫びが轟いた。

 開いた目に映ったのは、最低10mは離れた場所で明らかに突進のモーションに入っている大猪。《フルカース》は射程外だし……あっ、これマズイやつだ。

 

「《スピードエンハンス》とうっ!」

 

 予想通り一直線に、凄まじい勢いで走ってきた大猪を全力のダッシュで回避する。ランペイジ・ボア……長いしらんらんでいいや。らんらんは俺のかなり後方で土埃をあげながら停止し、再び突進のモーションに入る。

 

「《フルカース》!」

 

 今度は射程内だったため、いつもの暴発で突進の出を潰す。これで少しは考える余裕ができた。

 相手は、成人男性程の長さと太さの双牙を持った巨大な大猪。今のところ、突進から次の突進までは多少の猶予あり。全クリティカルの《フルカース》で減ったHPバーは、バーは……うん、多分減ったと思う。

 

「《フルカース》!」

 

 もう一度突進を潰す。バーは減った、減ってるんだ!(現実逃避)

 やっぱり、ソロ討伐とか無茶があったのかもしれない。いくら固定ダメージを与えるアイテムがあっても、これは中々以上にきつい。これは手のひらクルーテオ卿からの待たれよ卿のコンボを決めて、協力を要請するのも……

 

「あっ」

 

 そんな俺の思考は、目の前一杯に広がった茶色の所為で掻き消された。あぁ、これが例の岩投げなんだろうなぁ…と思いつつ、俺のHPはなんの抵抗もなく0になったのだった。

 

 

「到着までの聖水は必要経費と割り切るとして……」

 

 噴水前(リスポーン地点)で、俺はさっきのまま頭を回す。

 あのHP量の敵に勝つ方法があるとすれば、突進は躱して、岩投げを潰して、まだ見ぬストンプを潰してが最低条件だ。それさえできれば、毒・麻痺・睡眠・出血を始めとした状態異常を与えるアイテム類を駆使して、無理すれば勝てないこともないわけではないかもしれない。……自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。

 

「とりあえず実戦あるのみだよなぁ」

 

 自分のスペックはよくわかっているけれど、相手のことを情報でしか知らないままじゃ勝てるものも勝てない。多分使い方がおかしいけど、彼を知り己をしれば百戦危うからずって言葉もあるくらいだし、相手を知らないとダメなのだ。

 

 というわけで。これから明日の実戦のために、時間の許す限りボス相手に戦って死に戻る事を続けようと思う。

 

「よし、先ずは30戦!」

 

 心の中でファイトーッ! と叫び、俺は再びボスの待つあの場所へと足を運ぶのだった。明日の晩御飯は牡丹鍋にしてやる……猪でも出荷よー。




現在のユキの持ち物
・小型爆弾 ×10 ・パラライズボム ×10
・スリープボム ×10 ・HPポーション ×10
・MPポーション ×10 ・ただの石 ×99
・ポイズンポーション ×10 ・金属片 ×99
・スリープポーション ×10 ・危険なゴミ ×64
・中型爆弾 ×10 ・毒々しい木片 ×58
・聖水 ×21 錆びた金属片 ×43

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