幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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TRPGに嵌ったので初投稿です


第138話 文化祭(当日)

 正体不明枠で乱入した先生方がARによる特殊効果とロープアクション込みの殺陣をし、別れの挨拶がブレイクダンスしながらというサプライズで前夜祭は幕を閉じた。

 正直自分でも何を言っているのかわからないが、今でも信じられない。だがしかし、事実先生方はやっとうを振り回すタイプの演劇(多分忠臣蔵ベース)をやっていたし、校長先生はカツラを使って高速回転していたのだ。

 

 会場が大興奮するそんなことはあったがそれはそれ。

 

 一先ず熱狂はなりを潜め、一般的な高校っぽさを取り戻した我が校の文化祭は一般公開の日を迎えた。そしてそれは、空さんが文化祭に来ることも意味していた。正門で12時頃に待ち合わせである。だからこそ、早く仕事を終わらせなければいけないのだが……

 

「厨房供給薄いよ、何やってんの!」

「コンロが足らんのです!」

「あっ焦げた、まあいいでしょ!」

「3秒ルールは出せないって言ってんだろ!? 私たちのお昼ご飯だっての」

「ホットプレートが死んだ!」

「コレクッテモイイカナ?」

「あの、僕は何をしたら……」

「「「あんたは生地を作るんだよぉッ!」」」

 

 朝7時から入っている厨房は、午前11時を過ぎた今なお戦場だった。寧ろ荒れ具合は、昼に近づくにつれて増していってる気がしないでもない程だ。

 俺含め料理ができるメンツは、両手にフライパンとフライ返しと生地と油を持ちパンケーキを量産。料理が不得意なメンツもホットプレートでパンケーキを量産。出来たそばから販売組が持って行くせいで、トッピング組も悲鳴を上げている。

 

「これで沙織が午後の店担当じゃなきゃ、躊躇なく見捨てられるんだけどなぁ」

 

 そんなことを呟きながら手を動かし続けていれば、すぐに時間は経って12時少し前。厨房の忙しさはピークといっても過言じゃないけど、まあ頃合いか。

 

「あ、じゃあ俺そろそろ失礼しますね」

 

 一応の礼儀として一言そう断って、近くにいた適当な人に焼き上げる作業を押し付けた。そしてそのまま出口に向かいつつ、三角巾とエプロン&マスクとかいうクソ暑い格好を解除していく。本当はビニール手袋も着用義務があったけど、あんなものはとっくにガスの熱にやられて捨ててある。

 

「ファッ!? 一番の焼き手が!」

「引き止めろ! 生産体制が!」

「誰か、誰か手が空いてる奴はいないのか!?」

「……ダメみたいですね」

 

 そんな感じの会話が背後から聞こえてくるけど知ったことか。普段からされている仕打ちは、気にしてないとはいえストレスがないわけではないのだ。少しは仕返しを受けるといい。

 

「っ、寒」

 

 厨房とかしていた部屋から脱出すれば、少し汗をかいていたこともあってか結構肌寒く感じた。携帯を見れば表示されていた気温は16℃、季節はもう11月だ。空気はかなり冷え込んできていた。

 

「こんな中待たせるのは嫌だし、早く行こう」

 

 軽く制汗スプレーを吹き付けて臭いを打ち消しつつ、手早く制服を羽織る。エプロンとかは……どうせ後で回収するし、下駄箱にでも突っ込んでおけばいいか。

 そうして寄り道なく来たからか、腕時計が指し示す時間は12時5分前。最低限のマナーは守れたかなと思いつつ歩いていると、明らかな人だかりが感知……感知でいいやもう。とりあえず感知できた上に、バカ共のこんな会話が聞こえてきた。

 

「あの制服、○○中のだよな? なんでうちの高校にいるんだろう」

「それよりも可愛くね? ワンチャン告ってみようかな」

「お、いいんじゃね? あわよくば……までいけると思うぜ」

 

 田舎少年は……というより、男子高校生なんてこんなものなのだろう。俺も自制できてるだけで、本質は変わらない自覚は多分にある。とはいえだ。性欲に頭が直結してる連中がうちの高校、多過ぎやしないだろうか。先輩方は別の欲望に一直線だから、パッと見1年だけだけど。

 

「すみません、ちょっと通してくださいね」

 

 そんな不快な人混みの中を何とか通り抜ければ、校門の外で空さんを見つけることができた。ただし、金髪のチャラい男性グループに絡まれているという状況だったが。

 

「いいじゃんいいじゃん。そんな奴待つより、俺たちと一緒に回ろうぜ?」

「いや、です」

「そんなこと言わないでさぁ、俺たちここの学校にいたことあるんだよね。だから安心していいって」

 

 周りの人達は遠巻きに見ているだけで、空さんのことを助けようなんて人は1人もいなかった。剰え、スマホを向けて動画撮影をしている奴までいた。チンピラもスマホ撮影マンも顔は覚えた、後で証拠として貰っておこう。

 

「です、から、私は、待ってる、人がいるって」

「でもそんな奴いないじゃん?? それに、30分以上待たせてる奴なんかより、絶対俺たちの方が──」

「はい、ストップです」

 

 空さんに伸ばされた手を、無理矢理に割って入って掴み引き止めた。30分も待たせたとか最悪なのは俺だけど、一度掴んだら空さんじゃ振りほどけないだろうし、そもそもコレも離さなそうだし止める。

 ……というかコレとその連れ、タバコ臭い。しかも紙ではなく電子タバコの方。5人中3人くらいから同種の臭いがしている。香水で誤魔化してるみたいだけど、バレる人にはバレるくらい臭っていた。

 

「ああ? 横からしゃしゃり出てくんなよ」

「そうだぞ高校生のガキが」

「待ち人が私ですので」

 

 一応穏便に済ませるために、丁寧な言葉遣いを心掛けつつ手を下げさせる。……いつまでも力尽くでは抑えられないから、さっさと引いてくれないかな。

 

「すみません、そんな早く来てるとは思わなくて待たせちゃいました」

「大丈夫、です。私が、早く、来過ぎただけ、です、から」

 

 制服の上に厚手のコート、ニット帽、マフラーと手袋といったフル装備の空さんは、そう言って謝ってくれたけど釈然としない。連絡1つあれば厨房作業なんてすぐ切り上げて──いや、たらればの話だし、情けない言い訳だからこれは無しだ。

 

「……わかりました。じゃあ、行きますか」

「はい!」

 

 とまあそんなことを話しつつ、空さんを5人の囲みの中から連れ出した。しっかりと手を握って、男連中が手を伸ばしてきても大丈夫な様に俺の身体を盾に見立てて。

 

「では、失礼しますね」

 

 抑え込んでいた手を離し、出来るだけことを荒立てないために頭を下げる。これでよし、もうコイツらに拘うことなく空さんを案内できる──と、思ったのだが。

 

「チィッ、待てお前!」

「兄貴のメンツを潰しやがって!」

「はぁ……」

 

 いつのまにか、回り込まれてしまっていたらしい。周囲の人混みより更に小さい円状に取り囲まれていた。多分校内まで追いかけて来ようとしたら、チケット確認の都合上警備員が……ああいや、この人だかりから抜ければそれで大丈夫か。

 

「どう、しましょう」

「強行突破しますか」

「えっ」

 

 まあ所詮5人だし、普通に居場所も分かる。周りの人だかりも1人分くらいの隙間はあるし、多分これが一番都合が良い。俺の学校での扱いが悪くなる気がするくらいしかデメリットがない。

 

「失礼します、ね!」

「え、ひゃっ!?」

 

 そうと決まれば先手必勝。脱出の道が見えたのに合わせて空さんをお姫様抱っこ式で抱き上げ、囲ってる男どもが反応する前に駆け出した。

 

「くそッ!」

 

 一番近くの男が伸ばしてきた手は、身体の軸ごとずらして回避。そのまま一気に踏み込んで、膝から嫌な音がしたけど突破。野次馬の群れにある隙間を突っ切って、一直線に校門に向かう。

 

「すみません、後ろの5人をお願いできますか?」

「勿論。明らかな迷惑行為ですから、お任せ下さい。ナイト殿」

 

 そんな洒落に一礼してから、一先ずの安全圏と思われる校内に飛び込んだ。途端に注目が凄まじく集まるのは、予想出来ていたとはいえ流石に恥ずかしい。空さんが首に腕を回してきてるから、完全にお姫様抱っこが成立してるし。

 

「さて、ここまで来れば……まあ大丈夫だと思います。いきなりすみませんでした」

「い、いえ、だい、大丈夫、です」

 

 空さんのコートが長めの裾だったお陰で、ハラスメント的に問題のある状態ではない。とはいえ、いつまでもこうしてるのはなんだし、そろそろ降ろしたいのだけど……

 

「あの、空さん? 出来れば降りてもらえるとありがたいんですけど……」

「や、です」

 

 間近で、囁くように言われて変な感覚が走った。

 

「その、そろそろ腕がアレなので、出来れば降りてもらえると……」

「重い、です、か?」

「イイエソンナコトハ」

 

 寒気のする笑顔でそう言われては、否定する他なかった。実際あと数分なら抱えていられるだろうけど……先輩と思しき、ニンジャじみた軌道の人に写真撮られてるしなぁ。

 

「流石に邪魔になるので、もう少し混み合ってきたらやめますよ。それまででいいですか?」

「わかり、ました。それで我慢、します」

 

 少し不満気ではあるけれど、どことなく満足そうな顔で空さんはそう言った。顔が近い。笑顔が眩しいし、沙織とは違ったなんか甘くいい匂いがする。

 そんな煩悩に繋がりかねない思考は切り捨てて、校舎外に出ている出店を少し見渡してみる。近い順に焼きそば、たこ焼き、綿あめ……当然だが、どれも外でやる方が都合が良さそうな物が並んでいる。更に奥では、お好み焼き(広島風)とお好み焼きの屋台の人が取っ組み合いになってるけど、無視した方が良いとみた。

 

「大体、主食系統が外の屋台、デザート・ドリンク系統が校舎内、レクリエーション系が外か体育館になってますね。何か食べたいものとか、行きたい場所とかあります?」

「あ、それなら、昨日、沙織さんから、聞いた、おばけ屋敷、行きたいです」

「えっ」

 

 迷わず空さんが選択した行き先に、思わずそんな声が漏れてしまった。いや、確かに唐突に飛び出してくる系以外怖くはなかったけど、割とガチで刺激が強過ぎる感じが……

 

「怖い、なら、私が、守って、あげます、よ?」

「ゲーム内なら兎も角、流石に現実では逆ですって」

 

 まあ、空さんが自信満々だしいいか。因みにおばけ屋敷の人気は、上から順に1年、3年、2年となってるらしい。恐怖度は低い方から1、2、3年なんだけど、午前中に2年生のところでボヤ騒ぎがあったせいで逆転している。

 

 そんなこんなで、空さんと回る文化祭当日が始まったのだった。

 




UPOコソコソ話(本編に絡みも影響もありません)

九頭 宮阿ちゃん(無言の着火)
内藤 ホテプくん「ン=カイの二の舞耐えられない(パリーン)」(逃走)

フルダイブVRMMOの普及によって、割とゲームと現実の境界が小さくなった結果、割とゲーム内のノリをリアルに持ち込む輩が現実では増えている模様。大きな犯罪率は低下しているが、逆に今回みたいなものは増加傾向にあるとかなんとか。

ユッキーの二股疑惑が学内に拡散されました

ユッキーのヘイト(主に男子からの)が爆発的に上昇中です

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