幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

170 / 243
久々にリアルの方書くな……?


第135話 忘れ去られた学校行事

 ミスティニウム解放戦の後、予告通りにUPOはサーバーのメンテナンスに入った。そのメンテ終了予定時刻は、明日の朝8時頃。まあ何時もの通りならば、明日の正午くらいまでは伸びるだろうか。

 

「……味、締まってないなぁ」

 

 そんなだからか、いつもに増して夕食の味付けは適当になってしまっていた。最近沙織は割と忙しそうで家には来ないだろうから、さして問題ではないけど。そういえば、なんで沙織は最近忙しそうにしてるんだったか。

 

「あぁ、学園祭あったんだっけ」

 

 チラリとカレンダーを見て思い出した。正直ほぼほぼ関わってないから忘れてたけど、来週の金曜土曜で学園祭をやるらしい。うちの高校。

 言われてみれば、いつだったか回された調理係の練習に呼び出されたような記憶がある。俺含め男子2人、女子6人の計8人でパンケーキ屋をやるとか言ってた筈。UPOの所為で、何だか時間感覚が相当に狂ってる。

 

「そうと決まればー」

 

 某密林の通販から取り寄せてる青森県の方の醤油で、ちゃちゃっと料理の味を締めてガスを切る。火の元の安全を確認したら、ポケットから取り出したスマホを操作した。

 登録数が1桁の連絡帳から電話番号を呼び出して、1年ぶり位に親に電話を掛けた。とっくのとうに定時の時間は過ぎてるし、今なら連絡しても問題ないだろう。何時もの通り残業だろうけど。

 

「もしもし」

『友樹か、どうかしたのか? ちょっと父さん今ハイパー残業タイムかつ地獄のデスマーチ中なんだが』

 

 待つこと数コール、漸く電話に出てくれたお父さんの声はガラガラで、今にも死にそうな気配を漂わせていた。酒焼けか、或いはエナドリを決め過ぎているのか。分からないけど、案の定デスマーチに入ったらしい。これではもう望みは絶望的だろう。

 

「いや、来週の金・土に学校祭やるっぽいんだけど、いつも通り来ないよね?」

 

 さっき思い出したことだけど、ウチの学園祭は部外者を呼ぶ場合チケット制らしいのだ。なんだかんだ融通は利くらしいけど、来場者管理兼出し物の人気投票に使うんだとか。でもって、生徒1人に配られるチケットは2枚。もしお母さんとお父さんが来るなら、どうせ使う予定もないし渡そうと思ったんだけど……まあ無理だろう。当然期待はしてない。今まで来た試しもないし。

 

『……すまん。多分行けない、行けてもゾンビみたいな顔にしかならないと思う』

「だよね、知ってた。母さんもでしょ?」

『そうなると思う』

「分かった。じゃあ仕事頑張ってね」

 

 何処までもいつも通りの結果に、特に何も思わず電話を切った。昔はこれで、一々泣いてたなぁなんて思い出が蘇ってきたけど、それはさておき。

 問題なのはチケットが余ることだ。既にクラスから干され気味なのに、これ以上変に付け入らせる隙をくれてやりたくはない。でもあげる友達がいるわけでもないし、誰か誘う人がいるわけでも……

 

「あっ」

 

 いた。セナは両親分でチケットを使い切るだろうから、俺が動かない限り来れない人が。一般公開は土曜日だから、多分問題なく来れるだろうし。

 

「そうと決まれば」

 

 今度はSNSのアプリを起動して、そっちの無料通話で藜さん……空さんに電話を掛けた。わざわざランさんやつららさん、れーちゃんを呼ぶ理由はないけど──

 

『も、もしもし』

 

 なんてことを考えていたら、2回目のコールが鳴り切る前に通話状態に入った。早い……早くない?

 

「ちょっと相談があって電話したんですけど、今ちょっと時間あります?」

『大丈夫、です。それで、相談って、なん、です?』

「確か空さんの志望ってうちの高校でしたよね? 来週の土曜日に文化祭あるんですけど、良かったら来ます?」

 

 うちの高校、推薦入試は確か12月だけど、進学予定高校の学園祭なら観に来ても何の問題も、誰の文句もないだろう。

 

『えと、いいん、です、か? 確か、入るには……』

「うちの両親は来ないので。空さんと……1人じゃダメそうなら、誰か保護者の方とでも」

『いえ、1人で、大丈夫、です!』

「あ、はい」

 

 食い地味に大丈夫と言われて、こちらは頷くしかなかった。多分関係性としてはwin-winなんだろうし……まあいいか! うん、そういうことにしておこう。

 

『それに、しても、本当に、沙織さんの、言ってた通りに、なり、ました』

「それってどういう?」

『友樹さんは、きっと、私を、誘うって。昨日』

「あー……沙織なら言いそ、えっ」

 

 流石にそれは予想外だった。そこまで俺、沙織に交友関係とか把握されてたっけ……? 何だ……何だこの、真綿で首を絞められてるような危機感は。早くしないと手遅れになるような焦燥感は。

 

『その感じ、だと、グルじゃ、ないんです、ね』

「え、ええ。文化祭があること自体、思い出したの今さっきですから」

『それはそれで、いいん、でしょうか?』

「ダメなんじゃないですかねぇ」

 

 一応勉強という学生の本分は果たしてる、役割だけは果たしてる。けど、クラスの付き合いがないのはどうしたものかという話だ。正直知ったこっちゃないけど。イジメも沙織への飛び火もない分、何も苦じゃないし。

 

『じゃ、じゃあ、当日は、一緒に、遊びましょう、ね』

「はい、こっちこそよろしくです」

『よしっ』

 

 そんなこんなで数分雑談して、空さんの方が晩御飯だからということで電話は切れた。家出してきた時より、少しはいい関係になってるらしい。安心した。

 何か最後の言葉が引っかかるけど、まあいいかとキッチンに戻る。そうしてガスコンロの摘みを捻り、ボッ!と着火した時にさっき感じた疑問の答えを、空間認識能力で鍛えられた脳が弾き出した。

 

 今のは、少し見方を変えればデートの誘いなのでは?

 しかも中々に面倒くさい、歪曲した誘い方の。

 

 気がついた瞬間、動きが止まった。いや、いやいや待て待てちょっと待て。どう考えてもさっきのはデートの誘いでしょ。10人に聞いたら8人くらいは頷くレベルの。アウトですね分かります。沙織とは前夜祭一緒に回る約束して? 当日は空さんと?? 傍目から見れば美少女と??? 2日連続で???? それぞれの日一緒に文化祭を巡る?????

 

 客観的に見ればこれ二股なのでは(名推理)

 

「……アレク○! 刺されない方法を教えて!」

《すみません、よくわかりません》

 

 反射的に叫んだ声に返ってきたのは、そんな無機質な合成音声。広大なアーカイブにアクセスして検索しても、答えは404 not foundだったらしい。いや待て違う何を考えてる。

 

「そう、こういう時はこっちだ。ヘイSir○! 刺されない方法!」

《すみません、よくわかりません》

「ならなんか歌ってて!」

《プレイリスト1を再生します》

 

 落ち着こう、ちょっと気が動転してる。いい感じのアニソンも流れてるし、深呼吸しよう深呼吸。

 

「スゥゥゥ……げほっげほっ」

 

 噎せた。落ち着けてない証だ。ただ少しだけ時間を確保できたお陰で、なんとか頭を働かすことが出来た。

 さっき空さんはなんて言っていた? そう、「沙織さんの言ってた通り」だ。それなら少なくとも、こうなることは予想出来ているはず。というかされていると確信できる。であればきっと、ここまで織り込み済みの筈。というか、俺抜きで既に談合が成立してる可能性まである(自意識過剰)これは完全無欠のボトル野郎になるしかない。

 

 なんて茶番は置いておいてだ。

 

 今からやっぱりなしで、なんて言うのは有り得ない。そんな妻に浮気がバレた夫ムーブを全力でかますのは、素直に嫌だ。だったらハッキリ答えろって話なんだけど、諸々の装飾を剥ぎ取れば俺自身に覚悟がないという言葉に尽きる。つまり情けないけど、今すぐには決断できないということだ。

 とはいえこのまま筋書き通りに進むと問題が……問題、が……問、題、が? 問題ある……か? 俺の名誉が消し飛んで、多分さらにクラスから干されるくらいしかなくないか……?

 

「取り敢えず確認取るか」

 

 脳内で『お前のその根性、醜くないか……?』と煽ってくる幸村 TOTOKIを無視しながら、再度スマホを開いて沙織にSNSで連絡。文面は要約すれば「仕組んだ?」という言葉のみで、秒で来た返信には「バレた?」の一言。その後煽りスタンプが送信されてきてるから、嘘だったり、無理をしてるわけでもなさそう。

 

「はぁ……」

 

 大きく安堵の息を吐く。いつのまにかキリキリと痛んでいた胃も、この分だと持ち直してくれそうだ。まあ、うん。無くなるのは俺の名誉だけだしいいよね、うん。不純異性交友な訳ではないから、評価に響くこともあるまい。

 

「あ、味噌汁煮立ってる」

 

 考え込み過ぎたせいか、味噌汁は沸騰していた。即座にガスは切ったけど味が……いや、これはアレだ。所謂コラテラルダメージというものに過ぎない。目的の為の致し方ない犠牲だ。死か自由かの選択だったから、うん。

 

「お前の言い訳、醜くないか……?」

 

 自分の苦しい言い訳を自分で煽り返しながら、さっき雑に味を調整したおかずの方を温めなおし始める。ここまで適当に茶化せるようなら、まあ精神的に落ち着いたと言っても問題なさそうだ。

 

「取り敢えず誘った手前、全額奢りができる準備は前提として……」

 

 元々は微塵も興味がなかったけど、お店の並びとラインナップもある程度予習しておこう。後は……当日のシフトから合流時間を合わせないと。

 シフトの時間は確か、沙織とは絶対に一緒に行動させないって意思が透けて見える、俺が午前中全部が調理時間/沙織が午後全部が接客って感じになってた記憶がある。普通顔の邪魔者には労働させて、美少女には客の掻き入れどきに接客させる……合理的だ。

 

「確かメインイベントは午後に揃ってるし、今考えるとそれも当てつけか」

 

 でも逆にそれが、空さんを案内するには好都合になったなんて誰も思うまい。……あっ、いや、なんか寒気がしたから誰かの目論見通りな気がしてきた。




作品開始168話で漸く喋った主人公パッパ(対策室所属)
そして鋼のムーンサルトを決めてる主人公の自制心を崩す為に手を取った2人

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。