幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第5話 やっと合流

 一瞬の暗転後、俺は尻餅をついた状態で噴水の前に実体化していた。うん、まさかバックアタックで死ぬとは…どんなときでもチェック・シックスとは言ったものである。

 

「……うん、切り替えよう。とりあえず、レベルとか確認して」

 

 確か上がってたみたいだし。

 そう思ってメニューを開いていけば、振れるポイントが10確かに増えていた。その全てをLukに躊躇なく振って、ドロップアイテムが有ったか確認するためにアイテムの画面を開く。

 

「うさぎのしっぽ……?」

 

 そこには、戦闘前には存在しなかったアイテムが存在していた。

 

 

【うさぎのしっぽ】

 Luk +3%

 獲得経験値 +3%

 

 

 種別はどうやら装飾品らしく、個人的にはなんとも嬉しい性能のアイテムだった。なるほど、Lukはアイテムのドロップ率にも影響してくれるらしい。

 装備できるアクセサリーの枠は基本10。〜枠消費と書いてあるものはそれだけ場所を食うが、このしっぽはそれがない。つまり10個集めればLukが30%上昇することになる。

 唯一気がかりなのは、見た目と動きやすさ。その2つが壊滅的なら夢のLuk爆上げ計画は潰えることになる。腰とかに付かないでくれよ…そう思いつつ装備画面を操作し、アクセサリーの枠にうさぎのしっぽをセットする。

 

「あれ? どこいった?」

 

 立ち上がり全身を確認してみるが、うさぎのしっぽらしき存在は何処にも確認できない。つまり、アクセサリーは見た目には反映されない? そんな考えが頭をよぎるなか確認を続け、遂にフワフワとした触感の物を見つけた。

 

「えぇ……そこかよ」

 

 うさぎのしっぽが装着された場所はローブの一部、肩口から背中にかけて着いてるヒラヒラした部分の裾だった。確かにファンタジーな魔法使いがゴテゴテした装飾品を付けてそうな部分だけど、なんでそこなのさ…

 

「まあ、ローブも白いし問題ないだろ」

 

 これで黒いローブだったら残念だったけど、今の色ならそこまで問題ないと納得させる。そして、見た目も動きも問題がないと分かったのならばやることはただ1つ。

 

「さあ、うさぎ狩りの時間だ」

 

 スキル上げ、極振り、戦闘経験、アイテム集め…その全てが同時に賄えるなんて素晴らしいじゃないか。残り2時間弱、あの森でうさぎを狩り続けることにしよう。

 さっきは弾切れの憂き目に遭ったことだし、道中可能な限り石を拾っていくのも忘れなければ完璧だ。

 

 

「ふぅ……って、もうこんな時間か」

 

 休憩時間(夕飯)を挟みつつ、うさぎだけを狩り続けること約2時間。ドロップしたしっぽが10個を超え、レベルが5になった頃には、もうメニューの時計は9時54分を示していた。熱中していたから気にしていなかったが、周りもかなり暗くなっている。

 このまま走って行っても、待ち合わせの時間には確実に遅れる。それならばやることは決まりきっている。

 

「さあ来い!」

「きゅっ!」

 

 両手を広げ、うさぎの突進を抱擁する。この威力、このモフモフ感はまさに圧政。叛逆しないと()そんなしょうもない事を考えながら、俺は何度目か分からないゲーム中の死を経験した。

 

 暗転

 

 

「よし、間に合った」

 

 ただの力技とか言っちゃいけない。デスワープはれっきとした移動手段だ。デスペナが発生するまでは、の話だけど。

 再び降り立った噴水前、そこは夜の10時だというのにまだまだ賑わっていた。時間が時間だし、そろそろ沙織の方も来ていておかしくないだろうけど。

 

「やめてください、私は人を待ってるんです」

「別にいいだろ? そんな奴より、俺と一緒に来た方が楽しめるぜぇ?」

 

 そう思って軽く周りを見渡すと、口論するような声と野次馬の姿が見えた。…というか、絡まれている方の声にとても聞き覚えがある件について。

 

「すみません、ちょっとどいてください」

 

 野次馬を掻き分け(退いてもらい)、俺は最前列へと躍り出る。そこで繰り広げられていたのは、ゲームの世界特有のものであった。特に髪色とかが。

 

「だから、あなたなんかとは行かないって言ってるじゃないですか!」

「その待ってる奴も来てねえみたいだし、いいじゃねえか」

 

 この状況を簡潔に言い表すならば、声かけ事案&誘拐未遂。

 

 嫌がる銀髪碧眼の幼い女の子の腕を、金髪のどこか顔に違和感を覚えるイケメンが掴み連れて行こうとしている。ステータスという概念が存在するゲーム内でなければ、確実に憲兵=サン案件である。とりあえずGMコールの画面を開いてスタンバイ。

 

 そしてまあ、その女の子の方が沙織だった。声と色以外の見た目が変わらないから一瞬で分かる。いや、なんかそれだと変態くさいから「幼馴染だから」にしておこうそうしよう。長い付き合いだから忘れそうになるが、沙織はいわゆる美少女だ。偶にああいうタチの悪い輩に捕まることがあるのはよく知っている、今回もそのパターンだろう。

 

「あっ!」

 

 そんなことを思ってるあいだに沙織も俺のことを見つけたらしく、イケメン金髪()の腕をフ゛ン゛ッと振り払ってこちらへ走ってくる。……力強いっすね。

 そしてそのまま、俺の背中に隠れてしまう。ローブの裾をぎゅっと握ってる辺りあざとい、実にあざとい。これで素だから、あざとさは倍率ドン!更に倍!! 相手がヒテンミツルギスタイルじゃない限り勝ち確ですね。

 

「一応5分前には来たんだが、待たせたみたいだな」

「ううん、別に大丈夫だよユキくん!」

 

 そういう沙織……セナは、明らかに初心者装備でないどころか、戦闘用でもなさそうな洋服を着ている。恥ずかしいから口には出さないけど、暗めの青がとてもよく似合っていると思う。時間も時間だし。

 とまあ、それは一先ず置いておくとして。

 今まで自分が必死に声をかけ誘っていた美少女、それがポッと出の、俺みたいな平凡な男に掻っ攫われたらどうなるだろうか?

 その結果は明白だ。

 

「ああ? なんだお前」

「見ての通り、待ち人ですが何か」

 

 こうやって絡まれるに決まっている。なんかこちらをバカにした言い方だから、むっとして言い返したけど少し失敗だったかもしれない。無駄に装備が上物だし。

 

「はっ、お前みたいな冴えない奴が待ってる奴だったとはな!」

「別にユキくんはむーむー!」

「はいはい落ち着いて」

 

 何か反論しようとしたセナの口を手で押さえる。何か、トンデモナイことが暴露されそうな気がしたからこれが正解だ。前やらなかったせいで「小さい頃(幼稚園の頃)一緒に風呂に入ったことが何度もある」という事実が暴露された実例があるんだから間違いない。

 だけど、諸々自覚してることとは言え他人に言われると不快だな。野次馬に囲まれてる今、逃げるのはみっともないし………煽るか、徹底的に、敬語もどきで。

 

「そんなことを言うなら、貴方だって同類じゃないですか。

 よっぽど現実の顔が気に入らないのか何だかは知りませんが、顔面のパーツとか骨格とか、弄りすぎて気持ち悪いですよ?」

 

 俺の言い放ったその言葉に、金髪のイケメンがビクリと反応した。俺みたいな素人でも分かる反応をするとか、弄りすぎって暴露してるようなものじゃん……

 ゲームを始める際に分かった通り、このゲームでは体格はほぼ弄れないが各パーツはかなり自由に弄ることができる。それは造形師とか上手い人が弄れば上手くいくのだが、普通の人が下手に弄ると目の前の金髪さんのように、動いて喋る1/1マネキンのような気持ちの悪い物になる。原因は、多分不気味の谷現象だろう。知らんけど。

 

「それのどこが――」

「別に悪いとは言ってませんよ」

 

 顔を怒りに染め怒鳴りかけた金髪さんの、先手を封じる形で言い返す。実際、そこは個人の自由だしね。俺が口出しするような問題じゃない。

 

「ですけど、そんな『ぼくのかんがえたさいきょうのイケメン』みたいな状態で相手の容姿を罵るのは、失礼ながら大爆笑ですね。諸々自覚はしてるので俺を罵るのは良いですけど、現実の顔で出直してきてください」

 

 真顔で、語調を荒だてもせず俺はそう言い切った。

 言いたことも言えたし、相手も煽れたし、絡んできた奴も黙ってくれた。これは勝ち組ですね『A.コロンビア』ポーズをとりたいくらい。

 

「手前、よくも散々コケにしてくれたな……」

「あ、決闘(デュエル)は先にお断りしておきますね」

「あ゛あ゛!?」

 

 よくあるPvPのシステムを起動しようとしていた金髪さんが、怒鳴り返してくる。いや、やるわけないじゃん。どう考えても俺が負けるし。

 

「考えてみてもくださいよ。見ての通り始めて間もない俺と、βテスターか自宅警備員かそれ以外かは知りませんが、明らかに質のいい装備で全身を固めた貴方。考えるまでもなく俺の負けです」

 

 初心者装備とウサギのしっぽしか装備してない俺が、あんな豪華な鎧(緑の下地に色々な装飾がされてる)を着た相手に勝てるわけがない。もとい、ウサギに一撃で殺される奴がPvPなんてできるわけがない。

 

「だから、運勝負にしましょう。それなら、かなりのレベル差があってもギリギリ平等です。例えばコインの裏表とか」

 

 そう言って俺は所持金をコインとして実体化させた。単位はD(ディル)とか言うらしい。剣が交差したマークと、城のマークが描かれた2面の金色の丸い硬貨だ。カッコいいとこ見せましょ。

 ポーカーフェイスを保ってるけど、押さえてる左手を舐めるのはやめてくれませんかねぇ沙織さん。折角格好良さげに決めたのに、これバレたら完全に変な空気になるから。あと地味にくすぐったいし。

 

「チッ、仕方ねえ」

「剣が交差してる方が表、城が描かれてる方が裏で。

 本当はこんなこと、やる必要ないんですけどね……もし俺が負けたら今日は帰りますよ。でも勝ったら、貴方が帰ってくださいね」

「むー!」

 

 バシバシと腰の辺りを叩かれるけど、この勝負はもう勝ってるようなものだから問題ない。運極振りを舐めちゃいけない。

 

《ラックエンハンス》じゃあ俺は表で」

「なら俺は裏だな」

 

 はぁ……と溜め息を吐きつつ、俺はコインを弾く。【投擲】スキルで調整しながら、ではあるが。

 つまるところ、全力全開のイカサマである。極振りによる馬鹿げた値の幸運値とスキルによって、俺が投げる限りこのコインは確実に表になる(多分)

 バレなきゃなんの問題もない。十の盟約にもそう書いてある。アッシェンテアッシェンテ。

 

「はい、それじゃあ俺の勝ちですね」

 

 綺麗な放物線を描いて石畳に落下した1Dコインは、3回ほど跳ねて表面を出して動きを止めた。

 ふっ、計画通り。

 

「ふざけるなぁ!」

 

 ジャランと音を鳴らし、顔を真っ赤にして怒る金髪さんが、これまた豪奢な剣を抜きはなった。決着はつけたのに、ああ面倒くさい。

 というわけで、ずっと待機させていたGMコールを発動させる。音声じゃなくメッセージ形式なのが幸いした。隙を生じぬ二段構えである。……つまり、俺がヒテンミツルギスタイルを使う側だったということか。勝てて当然だな。

 

「それじゃあ行くか、なんだかんだで遅くなってゴメンな、セナ」

「むー、なんであんな真似をしたのか説明してもらうんだからね!」

 

 剣を振り上げた状態で動きを停止させられた金髪さんを無視し、退いてくれた野次馬の人達のお陰でできた道を歩いていく。舐められてたせいで一部濡れている左手はローブで拭ったし、きっと誰にもバレてはいないだろう。

 完 全 勝 利。あいあむヴィクトリー。

 

「ん?」

 

 内心歓喜の声を上げていた俺の耳に、ピロンという何かを受信した音が聞こえた。気になってメニューを開くと、何があったか即座にわかった。

 

 

 称号《詐欺師》を取得しました

 取得条件 : 相手を欺いたまま勝利する

 効果 : 敵の情報解析系のスキルの効果を受けづらくなる。Luk +5%

 

 

「どうかしたの? ユキくん」

「いや、なんでもない」

 

 なんだか、最後の最後で後味が悪くなった気がした。ありがたく称号は使わせてもらうけどね!




《うさぎのしっぽ》
 兎系モンスターから、稀にドロップするアイテム
 敵のレベルが高ければ高いほど、種族が強力であれば強力である程ドロップ率上昇する

 レッサーラビットからのドロップ率は、数%
 10個も集めて使う奴は変態



 Name : ユキ
 称号 : 詐欺師
 Lv 6
 HP 300/300
 MP 275/275

 Str : 0(3) Dex : 0
 Vit : 0(5) Agl : 0(2)
 Int : 0(10)Luk : 250(700)
 Min :0(3)

《スキル》
【幸運強化(小)】【長杖術(小)】
【投擲】【付与魔法】【愚者の幸運】

( )内は、装備・スキルを含めた数値
 小数点以下は切り捨て

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