幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

115 / 243
第96話 高難度ダンジョン(幸運)⑦

「【死界】? なんだっけ、それ」

 

 セナが引き倒された格好のまま、首を傾げて藜に問いかける。何処かで聞いたような感じはするけど、どこでだったかまでは思い出せない。そんな感じの表情だ。

 

「えっと……」

 

 その疑問に、藜が答えに行き詰まる。ただでさえ色々なことがありすぎた第2回イベ、その中でも最も濃かったと言える3日目が【死界】攻略日だったのだ。加えてイベント開催期間もかなり前で、詳細な情報を思い出そうとすると難しい。けれど、それでも1つだけハッキリしている事実がある。

 

「入ると、死にます」

「死ぬ!?」

 

 単純明快なその答えに、セナが驚きを表して答える。

 

「はい。なんの、対策も、しないと、ですけど」

 

 実際あの時攻略することが出来たのは、偶然が重なった奇跡に他ならない。何か1つでも選択を間違えたら、行動が遅れたら……それだけで、3乙からのイベント強制退去となっていたことは疑いようもない。

 

「じゃあさ、具体的にどんな場所なの? そこ」

「ん!」

 

 セナが投げかけた疑問に答えたのはれーちゃんだった。メニュー画面から飛んだメモ欄に、多くの文字がタイピングされている。それは、【死界】を経験した当事者ではないが、ユキの装備をよく整備しているが故の情報だった。

 

 ==============================

 【死界】

 ・獄毒…HPスリップダメージ(50/1s)

 ・腐食…使用武具耐久値減少(50/1s)

 ・祟り…状態異常耐性0化

 ・汚染…状態異常効果倍加

 

 ・アンデット系モンスター(下級・中級)無限湧き

 ・アンデット系モンスター全能力強化(200%)

 ==============================

 

「うへぇ……どうやって攻略したの? こんなの」

 

 その文字列を何度か見返して、物凄く嫌そうな顔をしてセナがそう呟く。今明らかになっている情報を見る限り、正に「入ったやつ死ねば?」と言わんばかりのクソ環境である。

 

「私は、ユキさんのコート、借りて……バイクに、一緒に乗って、空飛んだり、爆発したり、木を登ったり?」

「ユキくんの攻略法、やっぱり参考になんないや。でも、藜ちゃんの装備のお陰で、アンデットは湧き潰しされるから楽……なのかな?」

 

 寝転がる中でも、冷静に頭は回っているらしいセナがそう呟いた。因みに、どさくさに紛れて思いっきりスカートの中を覗かれていることを、藜はまだ知らない。

 

「きっとそう、です?」

「多分ね。後中級は、アンデットって言うなら光とかが良く効きそうだし……レーザーに変えとこ」

 

 そうして寝転がりながらスマホを弄るように、セナは銃剣の設定を変えていく。特殊称号とともに配布されたアイテムの中で、唯一耐久値が設定されている代わりに、汎用性が最も高いのがセナの持つ双銃剣の特色だった。

 

「じゃ、他に何か、先達として言っておくべきことってある?」

 

 ピョンと起き上がったセナが藜に問いかける。その眼は既に覚悟が決まっており、真っ直ぐに藜のことを見つめていた。

 

「倒せないボスが、いるかも、です。この前の、レイドボス、みたいな。後……あの樹が、ゴール、です」

 

 因みにセナたちは知る由も無いが、今回の【死界】にはあの伊邪那美は実装されていない。リソース不足でカットされた敗北者である。

 

「よっし、オッケー。れーちゃん、例のブツを!」

 

 銃を上に投げ、カッコつけて指を鳴らしたセナがそう言った。そして銃をキャッチしたのと同時、れーちゃんが1つのアイテムを取り出した。

 それを一言で表すならば、深い青の宝石が埋め込まれたブローチだろうか? 金で作られた精緻な装飾が縁取るそれは、どこか神秘的な雰囲気を放っている。

 

「それ、は?」

「散々天候について注意されてたからね。れーちゃんが倉庫にある豊富な素材を使って5分で作った、使うと10分間天候と地形の影響を遮断できる使い切りアイテム!」

「それはまた、便利、ですね」

「ん!」

 

 自信満々のれーちゃんとセナとは対照的に、ボス部屋で待つユキは悟りの境地に達していた。良かれと思って積み重ねてきた、ギルド共有財産にレアアイテムを大量投棄するという行為が、当初の予定通りの効果を発揮しているのだ。悪いわけがない。ただ、その攻略力が自分の作り出したダンジョンに向けられているという点を除けば。

 普段よく苦情をくれる対策班の幻影が、ユキの肩にポンと手を置いた幻影が見える。

 

「でもまあ、流石に3人で走るのもアレだし……」

 

 そんなボスのことはいざ知らず、【死界】に入る直前の場所でセナが1つのアイテムを取り出した。それは、いつかユキを運んでいた荷車……が、微妙に改造された物。両手で持たずとも、腰部に勝手にアタッチメントで接続される優れもの。それを見れば、セナのやりたいことは口に出さずとも理解できた。

 

「私のスーパーカー、乗ってく?」

「スーパーじゃ、ない、ですけど」

「ん!」

 

 そうして、金に煌めく双銃剣を構えた少女が引く、意味不明な戦車が【死界】を踏破すべく発進した。

 

 

 黄金の閃光が、幾条も伸び暗い世界を照らし出す。

 黄金の剣線が、ソレに寄る有象無象を刻んでいく。

 浮遊する銃剣が、鉛弾と斬撃で雑魚を寄せ付けず。

 時折刺す太陽光が、大物の死霊たちを蒸発させる。

 荒れた大地には、厚い氷が張られ走行を安定させ。

 ソレを一直線に、第2回イベントの際鎮座していたものと同様の逆さ大樹へ向けて疾走させる。

 

「はーはっはっは! その程度の物量で、私たちを止めようだなんて100年早いわー!」

 

 そう叫びながら全力で脚を回すセナが基本的な雑魚を散らし、荷台から藜がビットを操作&指輪の力で太陽光を呼び寄せ中ボスを弱体化、トドメにれーちゃんの全体的な補助。

 それらが熟練の連携に寄って組み合わさった今、この場に【すてら☆あーく】戦車を止められるものは何一つとしてありはしなかった。そしてさりげなく、ユキのバイクより倍近く速度は速かった。

 

彼方にこそ栄えあり(ト・フェロティモ)!」

 

 しかしこの、天下のクリスティー式で走行するBT-42並に快速なこの戦車にも、たった1つの、けれど重大な欠陥が存在していた。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!」

 

 セナのテンションが高い──これはさしたる問題じゃない。

 けれど、引いているのがセナ……人型のプレイヤーであるということが問題だった。高いAgl値からその時間は短いが、走る為脚を入れ替える時、車体は僅かに上下する。それが、連続するのだ。

 

「うぷ……」

「ん……」

 

 そう、極めて酔うのだ。しかもVR空間であることが災いして、リバースして楽になることもできない仕様である。それでいて敵の攻撃を迎撃し続け、補助をし続けなければならないのだから、それはもう地獄のような時間である。

 対してセナも、気にしなければいけないことは山ほどある。揺れるとは言ったが、最大限これでも揺れないように努力して走っているのだ。更に回避や旋回、転倒や急停止などしようものなら大クラッシュを起こすことは想像に難くない。

 

 そんな薄氷の上で成り立っている戦車は、その努力相応の力を発揮する。平均台の上でタップダンスするかのような暴挙で、【死界】という環境が踏破されていく。ユキとはまた別のスタイルで、RTAが成されていく。

 

「多分あと5分くらいで着くから!」

 

 セナのそんな声に、2人は手を挙げるだけで答える。話せば舌を噛む、やはり環境は最悪だった。

 そうして走ること数分、逆さ大樹に迫るところあと僅かになった時のことだった。大地を震わせる振動と共に、伊邪那美(敗北者)が残した最後の置き土産が目を覚ます。

 

「WRAAAAA!!」

 

 走るセナたちと並走するように地面を突き破り、蛇行しながらその巨大な蛇体をくねらせてセナたちの前に立ち塞がった。

 

 所々が腐り落ち骨を露出させた、1枚だけの翼を持った巨大なクサリヘビの様な化物。それが目の前に降り立ち、身の毛もよだつ悍ましい咆哮を発する。名前は【Hunter Farewell】いかにもこちらのSAN値を削ってきそうな見た目だ。

 

「藜ちゃん!」

「分かって、ます!」

 

 どう見てもそのモンスターはボス級。しかも三段あるHPバーから見るに、まともに戦っていたらアイテムの効果が切れて御陀仏なのは明白だ。故に、取れる手段は逃走ただ一つ。

 

 本来であればそれも不可能に近いことなのだが、この3人であれば別だ。擬似的に晴天を作り出せる藜がいる。光属性の攻撃を乱射できるセナがいる。デバフ特化のれーちゃんがいる。更にフィールドに雑魚敵がいないことも相まって、それは現実となる。

 

「WRAAAAA!?」

 

 【死界】の暗い空の一部が突如晴れ渡った空に変わり、その光を浴びたボスの身体が煙を上げて融解していく。猛烈なHPの減少に合わせ閃光が走り、れーちゃんが放った鎖が幾重にも重なってボスを拘束する。

 そして、『戦闘が始まった』ことでセナのスキルが十全に機能を始める。シャゲダンとしか言いようのない動きでスキルの条件である『ジャスト回避』の回数を溜めたセナが、急激に加速する。2,000を超えたそのスピードで、逆さ大樹へとセナが牽く戦車が突撃していく。

 

「うぷっ……」

 

 乗客が死にそうになることを代償に得た加速は、残り5分と予定していた距離を瞬時に詰めた。けれど、大樹の何処にも階段への入り口らしきものは存在しない。間違っていたのかとセナが思った時、後方から檄が飛んだ。

 

「登って、下さい!」

 

 そう、これがこの階層を突破する正解だった、何せ、製作者が正式な突破方法を知らないのだ。あの時と同じような無茶をする以外、突破方法はない。事実、木の根や樹皮には所々に登っていくよう示す矢印が刻まれている。

 

「それじゃあ落ちないように、捕まっててね!」

 

 そうして、空中を歩くスキルを併用してセナ戦車は逆さ大樹を登っていく。所々にある出っ張りを足掛かりに、それがないところはスキルで踏みしめ、しなる枝をジャンプ台に駆け登っていく。

 

 そうして一際大きな枝を抜けた瞬間、視界が暗転し、縦と横の感覚が入れ替わった。

 




次回、漸くユキ戦

なので今回はアッサリと。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。