幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

106 / 243
祝100話!


第86話 高難度ダンジョン(運営)②

 瞬く間に6層を抜けたセナたちすてら☆あーくは、同様に高難度ダンジョンを駆け抜けていく。最速で、最短で、真っ直ぐに。

 

 敵のレベルが上がっただけで代わり映えのしない7層は、6層の時同様数分で駆け抜けられた。

 

 8層は強力な敵mobが徘徊を始めたが、ルートが決まっているため回避。そのままこちらは10分経つか経たないかといった時間で攻略された。

 

 そして9層も、徘徊ボスのパターンが変わっただけ。一定のルートを周回するタイプ・プレイヤーを見かけたら一定距離まで延々と追いかけてくるタイプ・不意打ちで現れるタイプ。そのどれもが本来であれば強力な障害となり得た筈なのだが、悉くれーちゃんの探知によって避けられ障害としての役目を果たすことが出来なかった。

 大量にあった筈の罠も、カモフラージュごと凍結させられ機能不全を起こしたり、銃弾を撃ち込まれて誤作動を起こしたりして無力化された。

 

 普段極振り(異常者)と関わり合うことのない職員が涙を流して頭を掻き毟り、極振り対策室の連中からは言わんこっちゃないと呆れられる所業でダンジョンが攻略されていく。

 

「これで、最後!」

 

 そしてたった今、最後の10階層へ続く階段の扉が解放された。これまでの経過時間は、休憩を含めて40分程。ユキなんていなくても余裕だと言わんばかりに、一応トップギルドとしての威信を示した形だ。

 

 最早ボス以外攻略を阻む手立てがなくなった運営が、涙と共に崩れ落ちた。それを極振り対策室の連中が笑い、軽く暴動になったのはまた別の話。

 

 安全地帯である階段に入り、全員が一息ついたところでセナが言った。

 

「折角ここまで速くダンジョン攻略してきたし、いっそタイムレコード狙っちゃわない?」

 

 ダンジョン入口の立て札に記載されていた運営側の記録タイムは【02 : 32 : 43】。プレイヤーサイドとして掲示されていたパーティ『モトラッド艦隊』の攻略タイムは【01 : 23 : 50】。次のボス戦次第では、十分に記録更新を狙えるタイムだった。

 

 無論悠長に休憩していては間に合わない時間だ。

 だが、最低限の休息を入れるだけなら間に合うかもしれない。

 最速の記録を更新出来るかもしれない。

 何か報酬が貰えるかもしれない。

 

 なにもかもが『かもしれない』だが、目の前に届きそうな記録があるのだ。オンリーワンが狙える場所にいるのだ。で、あるのならば。挑戦しないということがあり得るだろうか?

 

「いいです、ね」

「ん!」

「いいんじゃないかな?」

「いいだろう」

 

 いや、ない(反語)

 ゲーマーというのは大抵そういう人種だ。ましてや、高難度ダンジョンをRTA(リアルタイムアタック)なんてする連中であれば言うまでもない。

 

「まあ、超レベル差あるから、勝てるかは分からないけどね……がんばろー!」

 

 何せボスのレベルは85であるのに対し、すてら☆あーくの平均レベルは60。現状プレイヤーの最高レベル(センタ)が72である以上仕方のないことだが、20というレベルの差は非常に大きな隔たりとなって立ち塞がることは目に見えている。

 だが、それでもクリアしたパーティがあるのだ。されば突破は不可能ではなく、ただの難題でしかない。高難易度、そう冠された名前に相応しい。

 

 ピリピリと緊張を孕んだ空気の中、各々が回復と軽く気を休めながら階段を登っていく。パチパチと階段を照らす松明の音が静かに響く中、階段の果てである踊り場に到達する。

 そこにあったのは、豪華絢爛な装飾を施されながら、どこか不気味でおどろおどろしさを感じられる重厚な扉。ユキが居れば適当なことを言って雰囲気をぶち壊しかねなかったが、残念ながらここにはいないので全く問題がない。

 

「それじゃあせーので開けるよ!」

「ん!」

「「「「せーの!」」」」

 

 全員で扉を押し、相当な重さのそれをゆっくりと開いていく。そして半分まで扉が開いた時、一気に抵抗が無くなり大きく開かれた。

 

「わぁ……」

 

 そうして眼前に広がったのは、とても美しい森だった。黄金に透き通る素材で出来た森が風に揺れ、扉からその先にあるひらけた広場のような場所まで一直線に道が続いている。

 

 そして広場の中心に、どう見ても景観にそぐわない異物が存在していた。

 

 風に揺れる闇を濃縮した様なローブ。

 三重の王冠の様な装飾がある円錐形の魔女帽。

 そしてエジプトのファラオが持つ様な形状の杖。

 それら一式を装備した、黒人の人よりも黒い肌の成人男性。

 

 それがジッと、侵入してきたセナたちを見据えていた。ただそれだけでなにもしないのは、恐らく戦闘エリアがひらけた広場の内部だからであろう。

 セナが全員を見渡し、頷き足を踏み出す。そうして全員が広場の内部に入った時、黒い男がその口を開いた。

 

「貴様らが、此度の挑戦者か」

「喋った……?」

「如何にも。我には貴様ら挑戦者と言葉を交わす権利が与えられている」

 

 会話が成立するボスモンスターに遭遇したことのないセナたちがその言葉に騒つき、藜が1人息を飲んだ。ああ何せ、決して短くはないこのゲームのプレイ経験の中で、会話の成立するボスモンスターなんて代物は、あのイベントの【死界】の主であった伊邪那美しか遭遇したことがないのだから。

 

「だが、急いでいるのだろう? 多くを語ることはあるまい」

「そう、ですね。では!」

 

 ボスが杖を付き、全員が武装を構え、双方が如何にもな戦闘態勢に入る。そして大仰な身振り手振りをしながらボスが告げる。

 

「我は暗闇。千変万化の恐怖の具現。いと小さき挑戦者よ、存分に挑むが良い。そしてその果てに待つ煌めく栄華を夢想し、無念のまま散るがいい!!」

 

 そして暗い波動が吹き荒れ、セナたちに掛かっていたバフが全て消滅し戦闘が開始された。敵のHPバーは3本、名前の表示は【Unknown】。格好から見れば魔法使いタイプだろうが、それだけで終わることはないだろうと誰もが直感していた。

 

「《ピアッシング》」

 

 そして誰よりも速く動いたのはセナだった。

 最高速ではない為3人と控えめだが分身し、それぞれがそれぞれの双銃剣から防御貫通攻撃である銃撃を放つ。1発1発の威力は4分の1まで低下しているが、それでも確実にHPを削り取る筈の一撃だ。

 

「なるほど、《舞姫》か。確かにこれは躱せないな」

 

 それを一切回避しようとせず、ボスは銃弾を体で受け止めた。心臓などの急所を狙って放たれた為クリティカルが発生し、僅かにそのHPが減少する。

 次いでローラーダッシュで周囲を旋回しながら、ガトリングガンを連射するランの射撃がボスを襲う。これも一切避けようとせず、軽く身体を揺らしてボスは動かない。

 

「だが、これらは陽動だ。本命は次の──」

「やぁっ!!」

「これだろう」

 

 そんな銃弾の雨を掻い潜り、最高速で放たれた3連突きをボスは全て回避した。更には空間に走る爆破の軌跡も見切っているようで当たることがない。

 

「舐めるな、です」

「ぐっ」

 

 けれど、槍の延長線上に発射された爆破の衝撃波は回避しきれなかったらしい。結果としてダメージは殆どなく、軽く体勢を崩すだけに終わってしまった。

 

「ん!」

「《フォールンダウン》!」

 

 だが、それで生まれた隙は大きかった。

 体勢を崩したボスをれーちゃんの放った炎の鎖が拘束し、次の瞬間つららの放った大氷塊を墜落させる魔法が炸裂する。その直撃を受けたボスのHPが減少し、フィールド全てが凍てついた。

 まるでアイススケートのリンクの様に凍りついた地面は、何の補助もない場合真っ当に動くことすら叶わない場所へと変化した。

 

「《アイスエッジ》、行くわよ!」

「ん!」

 

 そんなフィールドで、つららは自分の足裏に氷の刃を生成して動き始めた。れーちゃんは全員に風属性のグリップを保つバフをかけ、自分も金属防具であるブーツで滑りながら移動を開始する。

 

「ん!」

「《プリズムレーザー》!」

 

 そして高速移動をしながら2人は更に魔法を重ねる。大氷塊に押し潰され凍結し行動不能となっているボスを襲うのは、氷のレンズを通して収束した青白いレーザーと雷霆。それらは確かに命中したようで、ボスのHPが更に減少する。

 

「フィールドそのものの書き換え、それによる高機動と移動妨害、元よりの高火力。成る程、寒冷効果によるデバフも発生するのか。これは確かに不利に──」

 

 瞬間、黒い風が吹き荒れ大氷塊が木っ端微塵に砕け散った。そしてその中心から、所々が凍りついた黒い男が現れた。

 

 そしてそれ以上の言葉を紡ぐ前に、無言かつ気配を殺して放たれた7×2の斬撃がボスを斬り裂いた。その全てがクリティカルヒットとなり、ボスのHPを大きく削り取った。ランの銃撃にわざわざ当たりに行き、それを数人分でジャスト回避することで即座にバフを全開にしたのだ。

 

「《フルオート》」

 

 そしてその斬撃を行った張本人であるセナが、空中で回転し方向を変えてから追い討ちを放った。左右それぞれに残った十数発の銃弾を、銃スキルで一気にボス目掛けてばら撒いたのだ。計200発を超えるその弾の7割強がクリティカルヒットとなり、更に大きくボスのHPを削り取る。

 そして空中で本体のセナが銃弾をリロードし、氷の大地に着地する。滑ることなく全員が着地した時には、本体の設定が反映され分身体の銃もリロードが完了していた。

 

「ぐっ」

「隙だらけ、です」

 

 そのダメージ量にノックバックが発生してしまったボスの胸の中心に、藜の3連突きが《天元(小)》のスキルでヒット数が増加し且つクリティカルで叩き込まれた。甚大なダメージが発生したが、今度はボスにノックバックは発生しなかった。

 

 だが、ここは氷の大地だ。何の補助もない場合、受けた衝撃を受け流すことなんて出来はしない。踏ん張ろうとボスが踏み出した足がスリップし、転倒した。

 

「Delete」

 

 そこに、狙い澄ました様な銃撃が直撃する。実弾の嵐の中、黄色のエネルギー弾がボスの頭を吹き飛ばす様に直撃する。それを行ったのはランで、右手の3連装ガトリングガンが煙を上げ、左手に持った巨大な拳銃は次のエネルギーのチャージを開始していた。

 

「畳み掛けるわ、《フロスト》」

「ん!」

 

 さらに倒れたボスが再び凍結した。数秒で解かれる拘束だが、れーちゃんの攻撃が命中するまでには十分な時間稼ぎとなる。天から落ちてくるピラミッドの様な三角錐が、その角をボスへと突き刺した。

 

 1段目のHPはそこまで多くなかったのだろう。鈍い音が響き、ボスのHPの1段目が静かに消滅した。

 

「みんな気をつけて! 多分第2形態が来るよ!」

 

 そんなセナの忠告が響き、直後空が闇に包まれた。

 




因みに運営ダンジョン、最終ボスは何種類かいるうちからランダム一体です。あと極振りが参戦出来た場合レンがソロで10分台を叩き出します。



【速報】ユキ第3の街で逮捕も札束ビンタで釈放!

「ビルを花火にしただけなのに訳が分からない。いつもやってることじゃないか今更御託を並べるな!」
 などと、意味のわからない証言を繰り返していた模様

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。