幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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あと1、2話リアル話


第82話 準備中

 俺が卑劣な手段でクエストをクリアしてから1日と少し後。セナたちは、戦う相手を入れ替える方法でクエストをクリアしたようだった。何回かリトライしてからの、辛勝だったらしい。

 俺がそんな風に伝聞調でしか言えないのには、2つほど理由がある。

 

 1つ目は、俺自身もあのクエストに入り浸ってたこと。腕試しと鍛錬も兼ねて自分自身とやり合い続けていたことで、その時間はあまり他のことに集中力を割くことが出来なかった。まあ、お陰で障壁の制御できる限界展開数は200まで増えた。丁度いいので制御なしで展開できる数を測ってもらった結果、そちらの限界は500枚だった。

 自分の限界が見えた分、もっと精進しなければ。

 

 2つ目は、例のダンジョン製作を始めたこと。ボス部屋はありがちな感じで適当に。9層はお試しでランダムにしたら【死界】が出たのでそれで決定。現在は8階層を製作中だ。迷路を作ったりトラップを配置したりが中々に面倒だが非常に楽しい。朧を含めたトラップを考えたりしてると、時間があっという間に過ぎていくのだ。

 

 その2つの理由によって、結果的にセナからの報告が2日ほど遅れたのだ。夏休みじゃなかったら毎日会うので少しは違ったのだろうが、正直少し悪いと思っている。

 

 と、そんなことをうっかり吐露してしまったからだろうか。

 

「とーくん、このお皿って仕舞う場所どこだっけ?」

「食器棚の2段目。多分同じの重ねてあるから」

「はいはーい」

 

 沙織が再び我が家に訪れていた。

 それも結構な荷物を持って。話を聞くに、今度は2泊予定だとかなんとか。確かに、1人でやるより洗い物とか掃除を始めとした家事全般が楽だし、ご飯も1人よりは楽しい部分があるけども……

 

「1泊ならともかく、2泊とかちゃんと親の許可取って来た?」

 

 残りの食器を洗いながら、そう問いかけた。

 多分うちの親も長居はしないだろうけど帰ってくるし、結構な問題になるんじゃないかと思う。だってほら、一応年頃の男女な訳だし。俺は怖い……沙織が俺を狙っている(自意識過剰)、正気ではない。

 

「うん! それに、とーくんのお母さんからも良いよって言われてる」

「えっ」

 

 どこぞの映画のセリフを思い出していると、食器を仕舞う沙織があっさりとそう答えた。

 そうだった……うちの親はだめなんだった。お父さん? お父さんがマイマザーに勝てるわけがないから、必然的に味方は消えた。我が家なのに逃げられない包囲網が完成してる件について。まあ……うん、いっか。真綿で首を絞められてる感しかないけど今更だし。追加で言えば最近、更に包囲網が狭まって来てる気がするけど。

 

「それで? 今回来た理由は?」

 

 最後の食器を洗い終え、気を取り直してそう聞いた。こういう風に突然くる場合、きっと何か目論見がある。……ただ単純に会いたかったなんてのもありそうだが。

 

「んーとね、本当はゲーム内で話そうと思ってたことが何個かあるんだけど、ユキくんいつ会いに行っても、何処か行ってて会えないんだもん。だから、リアルの方で来ちゃった」

「さいですか」

 

 これに関しては、俺が悪い気がしないでもない。四六時中一緒ってのもおかしい気はするけど、ずっとダンジョン製作で引きこもってたのも事実だし。

 そんなことを考えながら、台所から脱出しソファーに腰掛け脱力する。疲れたなぁとと思いボーってしていると、ぽすと沙織が股の間に座って寄りかかって来た。あの、なんで今日はこんなにグイグイくるんですかねぇ……

 

「それで、話そうと思っていたことって?」

「昨日ね、リアルの方で藜ちゃんと会ってきたんだ。ちゃんととーくんにも教えてあるから怒らないよね?」

「そりゃあね」

 

 ゲーム内でのメッセージじゃなく、丁寧にリアルの携帯電話の方に連絡が来ていたから見逃しもしなかった。確か『そんなに遠くじゃないなら行ってくればいいと思う』って感じで返信したはずだ。

 

「よかった。それで、2駅くらい離れてたけど、思ったより近くに住んでたし普通に仲良くなってきたよ。なんか変なおじいちゃんに絡まれかけたけど、藜ちゃんが顔見知りみたいで追い払ってくれたから大丈夫!」

「なるほど。いや、不審者が出るのか……となると、夜遅くに1人で帰すのは危ないかな?」

 

 因みに2駅と言っても、都会というよりは田舎な地域なのでかなりの距離がある。上りか下りかわからないが2駅も離れたところだと、夜10時にでもなればもう頼りない街灯くらいしか明かりもなくなる。畑なんかがあれば尚更だ。

 半分くらい偏見も入ってるが、不審者もいるとなると女の子を1人で帰して良い道じゃない。俺が送るのはありだと思うけど、男だからなぁ……俺。一時的なTSアイテムでもあれば良いのにと思ってしまうのは、流石にゲーム脳が過ぎるか。あ、でもTSトラップは面白そうだからダンジョンに作れないか考えておこう。

 

「それなんだけどね、女の子同士ならって私の家に泊まって良いって向こうの親御さんが言ってたよ。とーくんも来る?」

「まさか。態々そんな死地に行くわけないし、第一に俺が行ったら寝る場所無くなるじゃん」

 

 沙織の家はマンション、一軒家のうちとは違ってそんなにスペースが余っているわけではない。2人も増えたら余裕のキャパオーバーである。一緒に寝れば良い? そんなの実質、後戻り出来ない既成事実じゃないですかやだー。しかも2人分。

 

「それはそうだけどー。偶にはとーくんがうちに来てもいいじゃん」

「確かに偶にはって思うけど、沙織のお母さんグイグイ来るんだもん……」

 

 親公認というのが恐ろしいと思ったことが何度あったことか。なんで親が娘と同じベッドに俺を放り込もうとして来るんですかねぇ? あぁ、今気がついた。沙織がグイグイきてるのは遺伝か。

 

「それより、よく泊まりなんて許してもらえたよな」

「どこの高校だとか、変な薬やってないかとか、色々聞かれたけどね」

 

 それくらいは当然って言えば当然か。ネットで知り合った人のところに泊まるとか、薄い本の書き出しそのままだし。幾ら車で行ける距離とはいえ、心配するのは親として当然だ。俺と沙織の関係が世間一般の幼馴染にしても異常なだけで。

 

「だから、みんなで夏祭りに行くのには何も問題ないよ!」

「そうだな」

 

 満面の笑みで頭をぐりぐり擦り付けて来る沙織に、やはり大型犬の姿を幻視する。最近獣っ娘モードを見たせいか、その幻覚に拍車がかかってきた。

 ああもう、夏場だから暑いってのに……楽しそうだから良いけどさぁ。

 

「ちなみに今回ゲームは?」

「持ってきてるよ!」

 

 そう言って沙織が指差した先には、既に大きめのバッグから取り出されているヘッドギアの姿が。UPOやる気満々ですねはい。やるにしたら電気代……

 そう思った時、携帯が某緑色アイコンのSNSを受信した音を鳴らした。見れば発信元はお母さんで、内容は『b』一文字。問題ないのは分かったけど、エスパーかよマイマザー。

 

「やるなら俺の部屋使ってね。1階でやると何かと怖いし」

 

 盗撮空き巣その他諸々。別にそんなことが起こると決まった訳じゃないが、念には念を入れておく。もし空き巣が入ってきた時、ゲーム中で意識がないのが俺なら兎も角、沙織だと考えるとおちおちゲームなんてやってられない。だから過保護かもしれないが、これで良いのだ。

 

「りょーかい。ふっふっふ、とーくんの部屋であんなことやこんなことを──」

「したら許さないぞー」

 

 そんなこちらの心配を知ってか知らずか、そんなことを宣いやがった沙織の頭をわしゃわしゃとして続きを妨害する。ははは、安心しきってそんな場所に座ったのが運の尽き。満足に逃げることも出来なかろう。

 

「やーめーてー」

「その割には楽しそうじゃない?」

「だって楽しいもん」

 

 尻尾がぶんぶんと振られていそうな声音に、手の動きを止めた。これくらいじゃ無意味な行動だったか……

 後もうやらないから、もっともっと的な感じで催促してくるのやめて。精神面は長年の付き合いと鉄の意志に鋼の強さで耐えられるけど、刺激による生理現象だけはどうしようもないから。

 

 この状況から脱出するには、無理やり話題をすり替えるしかない。それでいて沙織の気を引けるものとなると……

 

「あ、そうだ。今日の晩御飯、沙織に任せて良い? 夏場の台所って──」

「いいよ! なんなら明日の朝も作るけど?」

 

 こちらが全部言い終わる前に、食い気味に沙織が返事をした。何この待ってましたと言わんばかりの超反応。ちょっと怖いんですけど。

 

「お、おう。それじゃあお願いするかな」

「腕によりをかけて作るんだから!」

 

 ハイテンションの沙織が立ち上がったのを見計らって、なんとか俺も立ち上がり埃を払うように服の裾を整えた。よし、逃げ出すならこのタイミングだ。

 

「ちなみに俺はそろそろゲームしに行くけど、沙織はどうする?」

「じゃあ私もやる! とーくんの部屋使っていいんだよね?」

「そうそう。序でに俺のも持ってきてくれると助かる」

「はいはーい!」

 

 バタバタと階段を駆け上って行く沙織を見送り、戻ってくるまでの時間で家の戸締りを確認する。玄関、リビング、トイレの窓、一応全てを施錠し戻ってくると、俺の安物ヘッドギアが机の上に鎮座していた。沙織のは音声認識も出来る高級品なので間違えようもない。

 

「もしかしたら、ゲームの筐体変えたらやりやすかったりして」

 

 埃被ってたくらい古いマイゲーム機より、最新の物の方がスペックは確実に高い。だからきっと、空間認識能力の処理限界だって上がるんじゃないだろうか。まあ、そんなもの買う金の余裕なんてないのだけれど。

 

 薄い自分の財布を思い出しながら、ヘッドギアを装着してソファーに身体を預ける。……微妙にさっきまでいた沙織の残り香が。これ、いくら1番安全だからって、俺の部屋使ってもらったのは間違いだったかもしれないなぁ。

 

「気を取り直して」

 

 雑念を払いヘッドギアのスイッチを押し、UPOの世界へログインした。

 ……襲われないよね?

 




晩御飯は肉じゃがだったそうな

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