クロスアンジュ LIGHTNING EDITION ~天使とドラゴンと五人の巨人使い~   作:ヒビキ7991

36 / 48
Ep.25/Stand by Me ~本当に大切なもの~《前編》

~皇宮 エンブリヲの部屋~

 

 

ヒルダ達の作戦は失敗し、タスク・モモカ・天馬が消息不明となった日の夜、皇宮にあるエンブリヲの部屋では、タスクと共に爆発に巻き込まれた筈のエンブリヲが地下にいるアウラとラグナメイルの様子をモニターで見ながら時空融合の準備を進めていた。

 

 

エンブリヲ

「ラグナメイルコネクター、パージ。耐圧隔展開。ドラグニウムリアクター、エンゲージ。Dフレーム共振器接続。全出力、供給開始。」

 

 

ラグナメイルの模様が浮かび上がり、暁ノ御柱にエネルギーが送られ、柱の回路が輝き出した。

 

 

エンブリヲ

「準備は整った。だがアンジュが居ないとは・・・。」

 

 

エンブリヲはふと、部屋の一角に目を向ける。

 

 

エンブリヲ

「サリア、そこに居るのだろ?」

 

 

エンブリヲが呼ぶと、カーテンの影からサリアが姿を見せた。だが、サリアの顔は険しかった。

 

 

サリア

「お呼びですか?」

 

エンブリヲ

「何故アンジュを逃がした?嫉妬か?」

 

サリア

「・・・。」

 

 

サリアはエンブリヲの問いに答えず、黙り混んだ。

 

 

サリア

「どうして、アンジュが必要なのですか?」

 

エンブリヲ

「・・・?」

 

サリア

「私はずっと、エンブリヲ様に忠誠を誓ってきました。エンブリヲ様の為に戦ってきました!なのに・・・なのにまた、アンジュなのですか?私はもう、用済みなのですか!?」

 

エンブリヲ

「・・・。」

 

 

エンブリヲは立ち上がり、サリアを見る。

 

 

エンブリヲ

「私の新世界を作るのは、強く賢い女たちだ。だから私は君達を選んだ。アンジュも同じ理由だ。だが、愚かな女に用は無い。」

 

サリア

「っ!!」

 

エンブリヲ

「アンジュは私を殺すために必ず戻ってくるだろう。サリア、君が私の思う賢く強い女なら、やるべきことはわかるね?」

 

サリア

「・・・アンジュを捕らえ、服従させます。」

 

エンブリヲ

「期待しているよ、私のサリア。」

 

 

エンブリヲはそう言って部屋を離れた。

 

 

サリア

「くっ・・・!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~地下牢~

 

 

一方、地下牢にはエルシャとエンブリヲ幼稚園の子供達、そして鉄格子の向こうには信助がいた。

 

 

エルシャ

「ごめんね、信助君。子供達を助けてくれたのに、こんなところに入ってもらう事になっちゃって・・・。」

 

信助

「エルシャさん・・・。」

 

エルシャ

「でも安心して。エンブリヲさんには私が捕虜として捕らえたって事にしてあるから、直ぐに殺されるって事は無いハズよ。タイタニアスも格納庫にちゃんと置いてあるから。」

 

信助

「ありがとうございます・・・。」

 

エルシャ

「じゃあ信助君、またね。」

 

少女

「お兄ちゃん、バイバイ。」

 

 

エルシャは子供達を連れて地下牢を離れた。

 

 

信助

「僕、これからどうなるんだろう?」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~アウローラ 格納庫~

 

 

同じ頃、アウローラでは帰艦したヒルダ達と、戦場で合流した明日人達とサラマンディーネ達がリィザから話を聞いていた。

 

 

ヒルダ

「二つの地球を融合?」

 

リィザ

「制御装置であるラグナメイルと、エネルギーであるアウラ。エンブリヲは二つの地球を時空ごと融合させ、新しい地球に作り変えようとしている。二つの地球が混ざり合えば、全てのモノは滅びる・・・ゴホッ!ゴホッ!」

 

マギー

「コレ以上は無理だ!休ませるよ?」

 

ヒルダ

「ああ、頼む。」

 

サラマンディーネ

「・・・。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~休憩所~

 

 

リィザは病室に移され、ヒルダ達は場所を変えた。

 

 

明日人

「ついに始める気だな、エンブリヲ。」

 

サラマンディーネ

「・・・司令官殿。」

 

 

サラマンディーネはヒルダに声をかける。

 

 

ヒルダ

「何だ?」

 

サラマンディーネ

「我々アウラの民は、ノーマとの同盟締結を求めます。」

 

ヒルダ

「同盟?」

 

サラマンディーネ

「現在の我々の戦力だけでは、エンブリヲの防衛網を突破するのは困難。ですが、それは貴女方も同じハズです。」

 

ヒルダ

「確かに、アタシ達だけじゃラグナメイルには手も足も出ない。明日人達のガンダムを加えても、勝てる望みは薄いだろう・・・。」

 

 

ヒルダは目を閉じ考え始める。そして数秒後、サラマンディーネに目を向けた。

 

 

ヒルダ

「良いよ。でも、同盟を結ぶのはアンジュを連れ帰ってからだ。」

 

 

『おや?アンジュは来ていないのか?』

 

 

突然、近くからエンブリヲとおぼしき声がした。ヒルダ達が声のした方向を見ると、そこにはエマが居た。だが、その目は虚ろになっていた。

 

 

エマ

『やれやれ、我が妻は何処へ行ってしまったのやら・・・。』

 

「エマさん?」

 

サラマンディーネ

「いえ、アレはエンブリヲです!」

 

ジャスミン

「エンブリヲだって!?」

 

バルカン

「グルルルルッ!」

 

 

ヒルダ達は驚き、ジャスミンとバルカンは立ち上がり構えた。

 

 

ヒルダ

「トチ狂ったかアンタ!」

 

サラマンディーネ

「違います、彼女は操られているだけです。」

 

 

サラマンディーネはエマを睨み付け、エマを通してエンブリヲに語りかける。

 

 

サラマンディーネ

「逃げた女に追い縋るなど無様ですわね、調律者殿?」

 

エマ

『ほう、ドラゴンの姫か?』

 

サラマンディーネ

「焦らずとも、近々アンジュと伺いますわ。その首、貰い受けに!

 

 

ラアアァァァァ!!」

 

 

サラマンディーネは突如大声と共に、エマに向けて音波を放つ。エマは音波を受けた途端瞳に輝きが戻り、その場で気を失い倒れた。

 

 

サラマンディーネ

「司令官殿、エンブリヲは形振り構わずアンジュを探している御様子。貴女はその目をかわし、アンジュを助け出す事が出来ますか?」

 

ヒルダ

「そ、それは・・・。」

 

サラマンディーネ

「焦らずとも、アンジュは必ず帰ってきますわ。」

 

剣城

「根拠は?」

 

サラマンディーネ

「簡単です。彼女は私の友ですから。」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~皇宮 図書室~

 

 

エンブリヲ

「やれやれ、野蛮な女だ・・・。」

 

 

ガチャン

 

 

エンブリヲは憑依時に使っていたのか、電話の受話器を戻し、テーブルの隅に置いてあった本を手に取る。

 

 

ガチャ

 

 

本を手に取った瞬間、図書室の扉が開きエルシャが現れた。

 

 

エルシャ

「失礼します。」

 

エンブリヲ

「エルシャ、どうしたんだい?」

 

エルシャ

「いえ、その・・・信助君に何か食べ物を持って行ってあげようかと思いまして、エンブリヲさんに許可を・・・。」

 

エンブリヲ

「信助?・・・ああ、捕虜の少年か。いいだろう、彼は君の手柄だ。生かすも殺すも君の好きにするがいい。」

 

エルシャ

「ありがとうございます。」

 

エンブリヲ

「・・・聞きたい事はそれだけか?」

 

 

エンブリヲに問われ、エルシャは少し俯いた。が、直ぐに顔を上げ、エンブリヲに目を向けた。

 

 

エルシャ

「エンブリヲさん、新しい世界が完成したら・・・。」

 

エンブリヲ

「ん?」

 

エルシャ

「新しい世界が完成したら、幼稚園の子供達も一緒に連れて行ってくれるんですよね?」

 

エンブリヲ

「・・・。」

 

 

パタン

 

 

エンブリヲは本を閉じテーブルに置く。そして椅子から立ち上がり、窓の外に目を向けた。

 

 

エンブリヲ

「すまないが、それは出来ない。新しい世界は新しい人類のモノ。彼女達を連れては行けない。」

 

エルシャ

「えっ?」

 

 

エルシャはエンブリヲの話を聞いて耳を疑った。

 

 

エンブリヲ

「君には、新たな世界で新たな人類の母になって貰いたい。分かってくれるね、エルシャ?」

 

 

エンブリヲは振り向き、優しく問いかけた。だが、その問いを聞いたエルシャは呆然としていた。

 

 

エルシャ

「そんな・・・イヤ・・・イヤアアア!!」

 

 

エルシャは号泣し、エンブリヲに泣き縋った。

 

 

エルシャ

「あの子達は、あの子達は私の全ての

なんです!!私はどうなっても構いません!!だからどうか・・・!!」

 

 

ドスッ!

 

 

だがエンブリヲはエルシャを蹴り飛ばした。

 

 

エンブリヲ

「やれやれ、もう少し物分かりの良い女だと思っていたが・・・。」

 

エルシャ

「エンブリヲ・・・さん。」

 

エンブリヲ

「これ以上無駄な手を掛けさせないでくれ。私は忙しいんだ。」

 

 

エンブリヲはそう言って図書室を離れた。残されたエルシャは絶望し、泣いていた。

 

 

エルシャ

「嘘、だったのね?平和な世界も、平等な暮らしも、何もかも・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい、みんな・・・うぅ・・・。」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~アウローラ コックピット~

 

 

一方、アウローラのブリッジではヒカルとオリビエが行方不明になったアンジュ・天馬・タスク・信助を捜索していた。

 

 

ヒカル

「レーダー、反応無し。そっちは?」

 

オリビエ

「ダメです。通信及び救難信号、共にありません。」

 

 

オリビエの見る画面には、各メイルライダーの通信状況がモニターされている。だがアンジュ・天馬・タスク・信助の枠には《LOST》と表示されていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~ミーティングルーム~

 

 

ミーティングルームでは、ヒルダ達メイルライダーと明日人が集まり 、今後の事について話し合っていた。

 

 

ロザリー

「なあヒルダ、マジでアンジュを待つ気なのか?」

 

ゾーラ

「世界がヤバいんだろ?どうすんだよ、隊長?」

 

ヒルダ

「分かってる。でも、どの道アンジュとヴィルキスが居ないと太刀打ち出来ない。」

 

神童

「今、オリビエさんとヒカルさんがアンジュさんと天馬達を探しています。」

 

ナオミ

「私達、これからどうなるんだろう・・・?」

 

「天馬・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロザリー

「・・・アタシ、ドラゴンと戦うよ。」

 

ヒルダ

「えっ?」

 

 

突然のロザリーの発言に、ヒルダ達は驚いた。

 

 

ロザリー

「何だってやるよ、クリスを倒せるなら。アタシ、アイツの事ずっと友達だと思ってた。なのに・・・。」

 

 

ロザリーは目から大粒の涙を流し泣いていた。

 

 

ロザリー

「何で・・・何でこうなっちまったんだろうな?」

 

ヒルダ

「ロザリー・・・。」

 

剣城

「・・・。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~司令室~

 

 

司令室では、ヒルダ達の纏めたレポートをジャスミンがジルに報告していた。

 

 

ジャスミン

「ヴィルキスとペガサス、そしてタイタニアスを落としたのはクリスだそうだ。」

 

ジル

「なに?」

 

 

ジルはジャスミンの発言に驚いた。

 

 

ジャスミン

「エンブリヲの部下は優秀だね。兵隊も隊長さんも。」

 

ジル

「・・・何が言いたい?」

 

ジャスミン

「いや・・・。」

 

 

ジャスミンは静かに立ち上がる。

 

 

ジャスミン

「サリアにもっと優しくしていれば、あの子が敵になることは無かったんじゃないかってね・・・。」

 

 

そう言うと、ジャスミンは部屋を離れた。

 

 

ジル

「・・・。」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~無人島~

 

 

そして、タスクのエアバイクで脱出したアンジュは、とある無人島へとたどり着いた。

 

 

シューン・・・カチャ

 

 

エアバイクは着陸し、着陸と同時にアンジュの腕の手錠が外れた。

 

 

アンジュ

「う・・・ん?」

 

 

アンジュは気を失っていたが、手錠が外れたと同時に目を覚ました。

 

 

アンジュ

「ここは・・・。」

 

 

アンジュは直ぐ、あるモノを見つけた。目線の先には、タスクが住んでいた住処があった。アンジュはエアバイクを降り、住処へ向かった。住処は以前タスクと天馬と共に過ごした時から、何一つ変わっていない。

 

 

アンジュ

「あの日のまま・・・。」

 

 

チャリン

 

 

突然、アンジュの服のポケットから何かが零れ落ちた。

 

 

アンジュ

「・・・っ!」

 

 

零れ落ちたのは、アンジュ達がドラゴン達の世界に迷い混んだ時、タスクにプレゼントしたペンダントだった。

 

 

アンジュ

「・・・。」

 

 

アンジュは静かに、ペンダントを手にした。

 

 

 

 

 

『何処か懐かしくて、嬉しいような、不思議な歌だった。また聞かせてね。』

 

 

 

 

 

アンジュ

「タスク、帰る時にはいつも貴方が。」

 

 

 

 

 

『アンジュリーゼ様、どうかご無事で。』

 

 

 

 

 

アンジュ

「モモカ、帰る場所にはいつも貴女が。」

 

 

 

 

 

『大切なのは、何が正しいかじゃなくて、自分がどうしたいかじゃないですか?』

 

 

 

 

 

アンジュ

「天馬、戦うときにはいつも傍に貴方がいた。なのに・・・なのに・・・ううぅ・・・。」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~皇宮 サリアの部屋~

 

 

同じ頃、サリアは自分の部屋に居た。だが彼女は今、エンブリヲに対する怒りと、アンジュに対する嫉妬、憎悪、そして殺意に満ちていた。

 

 

サリア

「"アンジュは私を殺すために必ず戻ってくるだろう。期待しているよ、私のサリア"ですって?嘘ばっかり・・・。」

 

 

サリアはベッドを降り、腰のホルスターからナイフを抜き取った。

 

 

サリア

「でもねアンジュ、アンタがいなくなれば・・・アンタより私の方が強いって分かれば・・・。」

 

 

グサッ!

 

 

サリアは腕を大きく振り上げ、ドレスを着たマネキンの胸にナイフを突き刺した。

 

 

サリア

「エンブリヲ様は私の価値を認めてくれる。それが出来るなら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も要らない!」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。