クロスアンジュ LIGHTNING EDITION ~天使とドラゴンと五人の巨人使い~   作:ヒビキ7991

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Ep.22/世界の調律者、エンブリヲ《前編》

 

 

アンジュ

「う、う~ん…」

 

 

アンジュは目を覚ますと、ベッドの上で横になっていた。妙に寝心地が良く、懐かしい匂いがしていた。

 

 

アンジュ

「ここは・・・?」

 

 

「アンジュさん!アンジュさん!」

 

 

アンジュは自分を呼ぶ声に気づき、ゆっくりと身体を起こした。服はライダースーツから桃色のベビードールに変わっており、横には心配そうにアンジュを見る天馬と笑顔のモモカがいた。

 

 

アンジュ

「天馬?それにモモカ?」

 

モモカ

「おはようございます、アンジュリーゼ様!」

 

天馬

「アンジュさん!良かった、はぁ~。」

 

 

天馬は安心して胸を撫で下ろした。

 

 

アンジュ

「ねえ、ここは?」

 

モモカ

「ミスルギ皇国、アンジュリーゼ様のお部屋です!」

 

アンジュ

「えっ!?」

 

 

アンジュはベッドから降り、窓の外を見た。外には見慣れた街と巨大な塔が見える。

 

 

アンジュ

「ホントだ。でもどうして?」

 

天馬

「俺にもさっぱりです。目が覚めたら俺はここの床に倒れてて、直ぐ隣でモモカさんの声が聞こえてそれで・・・ん?」

 

 

ふと天馬は机の上に置かれた手紙を見つけた。机の周りには沢山の花が飾られている。

 

 

天馬

「手紙?」

 

 

天馬は手紙を手に取り読むと、顔をしかめた。

 

 

天馬

「・・・なるほど。」

 

アンジュ

「えっ?なるほどって?」

 

 

天馬はアンジュに手紙を見せる。

 

 

アンジュ

「っ!!エンブリヲ・・・。」

 

 

送り主のところにエンブリヲの名前が書かれていた。

 

 

天馬

「・・・。」

 

 

突然、天馬は頬を赤くして目を反らす。

 

 

アンジュ

「天馬?」

 

天馬

「と、取り合えず着替えませんか?流石にベビードールのままで居られるのはちょっと・・・。」

 

アンジュ

「あ、ごめん・・・。」

 

 

天馬はアンジュに背を向け、アンジュはモモカに手伝ってもらいドレスに着替えた。

 

 

アンジュ

「にしても、サリアは何で私達をここへ連れてきたのかしら?タスクや明日人達は無事かしら?」

 

天馬

「きっと大丈夫ですよ。みんな強いですから。」

 

モモカ

「・・・はい、終わりました!」

 

アンジュ

「ありがとう。天馬、もういいわよ。」

 

 

天馬は身体をアンジュに向けた。

 

 

天馬

「おっ?懐かしいですね、そのドレス。」

 

アンジュ

「懐かしい?」

 

天馬

「稲妻町で初めて出会ったときも、そのドレスだったじゃないですか。」

 

アンジュ

「あ、そっか。フフッ。」

 

 

アンジュは微笑み、天馬とモモカも微笑んだ。

 

 

アンジュ

「・・・さてと。」

 

 

アンジュは机の引き出しを開け、万年筆やペーパーナイフ等を手に取りドレスに隠した。

 

 

アンジュ

「本当はライフルかグレネードが欲しいところだけど、無いよりマシか。」

 

モモカ

「アンジュリーゼ様、何を?」

 

アンジュ

「襲撃よ。この花の送り主のところへ。」

 

 

ガチャ

 

 

「それは許可出来ないわ。」

 

 

突然ドアが開き、御揃いの黒い制服に身を包んだサリア・ターニャ・イヌマが現れた。

 

 

天馬

「サリアさん!それに、ターニャさんにイヌマさんまで!」

 

サリア

「アンジュ、天馬、あなた達はエンブリオ様の捕虜よ。勝手な行動は許さないわ。」

 

アンジュ

「エンブリヲ様ねぇ・・・。サリア、一体何があったの?あんなに司令が大好きだったあなたが、何故エンブリヲに?」

 

サリア

「別に、目が覚めただけよ。」

 

天馬

「目が覚めた?どう言うことですか?」

 

サリア

「あの人は自らの手で私を救ってくれた。私を生まれ変わらせてくれたの。アレクトラは私を必要としていなかった。いくら頑張っても、決して報われる事は無かった・・・。でも、あの人は私を価値を分かってくれた。私を必要としてくれた。私は見つけたのよ、本当に守るべき人を。」

 

 

サリアは左手の中指の指輪を見て微笑んだ。指輪にはアンジュの指輪と同じ形の青い宝石が埋め込まれている。

 

 

サリア

「エンブリヲ様の親衛隊、名付けて《ダイヤモンド・ローズ騎士団》。私が騎士団長のサリアよ。」

 

モモカ

「ダイヤモンド・・・。」

 

天馬

「意味は何となく分かりますけど、長いなぁ…」

 

アンジュ

「要するに、路頭に迷っていたところを新しい飼い主に拾われたってことね?でもまさか、あんたに司令を捨てる勇気があったなんて、感心したわ。」

 

サリア

「・・・。」

 

 

カチッ

 

 

サリアはアンジュに銃を向けた。

 

 

サリア

「私はエンブリヲ様に愛されているの。誰にも愛されてないあなたと違ってね!」

 

アンジュ

「それは良かったわね・・・!」

 

 

ガシッ!ゴンッ!

 

 

天馬はサリアから銃を奪い、背中に強烈な肘打ちを叩き込んだ。サリアはバランスを崩し前へよろける。

 

 

バシッ!

 

 

その隙にアンジュがサリアの腕を掴み、ベッドへと投げ飛ばした。

 

 

サリア

「ぐはっ!」

 

ターニャ・イヌマ

「騎士団長!」

 

 

ターニャとイヌマは即座に銃を抜く。

 

 

バーン!

 

 

天馬

「ハイヤッ!」

 

 

ドカッ!

 

 

だが天馬がターニャの銃を撃って弾き飛ばし、イヌマを蹴り飛ばした。イヌマは気を失い倒れ、ターニャは手に激痛が走りうずくまった。

 

 

天馬

「アンジュさん、今のうちに!」

 

アンジュ

「分かったわ。行きましょ、モモカ。」

 

モモカ

「は、はい!」

 

 

天馬はターニャの銃を拾い、3人は急いで部屋を出た。

 

 

サリア

「ま、待ちなさい!」

 

 

サリアは急いでアンジュ達を追いかける。だが廊下に出ると、アンジュ達の姿は何処にも無かった。

 

 

サリア

「何処に消えたの!?アンジュ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~皇宮 裏庭~

 

 

ガコッ

 

 

天馬達は隠し通路を通り、裏庭へと出た。

 

 

天馬

「よいしょっと。」

 

 

飛び石の蓋を開け、天馬・モモカ・アンジュは順番に外へと出た。

 

 

モモカ

「隠し通路があって助かりました!」

 

アンジュ

「サリアったら、今頃必死に走り回ってるでしょうね?」

 

 

コツン

 

 

アンジュ

「どおっとぉ!?」

 

天馬

「うわあ!?」

 

 

ドサッ

 

 

アンジュは穴から出る際につまづき、天馬に覆い被さる様に倒れた。

 

 

モモカ

「アンジュリーゼ様!」

 

アンジュ

「だ、大丈夫よモモカ。」

 

 

「フゴフゴ・・・!」

 

 

アンジュ

「ん?」

 

 

妙な音が聞こえアンジュは下に目を向けると、天馬が仰向けでアンジュの下敷きになっていた。天馬の顔はアンジュの胸に埋まり、天馬は息が出来ず苦しんでいる。

 

 

天馬

「フググググ・・・。」

 

アンジュ

「うわあああああ!?」

 

天馬

「プハァ!・・・ゲホッ!ゲホッ!」

 

 

アンジュは急いで立ち上がり、天馬は咳き込みながら上半身を起こした。

 

 

天馬

「あぁ~苦しかったぁ~。」

 

アンジュ

「え~っとその、ごめん天馬!」

 

天馬

「だ、大丈夫ですよ。」

 

 

天馬は立ち上がり、辺りを見た。

 

 

天馬

「それよりも、何処ですかここ?」

 

アンジュ

「多分、裏庭だと思うけど・・・。」

 

 

すると・・・。

 

 

「あ!アンジュお姉様と天馬お兄様だ!」

 

 

庭で遊んでいた女の子達がアンジュを見つけ集まってきた。女の子達は皆、アルゼナル幼年部の制服を身に付けている。

 

 

エルシャ

「あらあら、アンジュちゃんと天馬君を追い詰めるなんて、みんな凄いじゃない。」

 

 

そこへ、サリア達と同じ制服姿のエルシャが現れた。

 

 

天馬

「エルシャさん!」

 

エルシャ

「久しぶりね、みんな。良ければ一緒にお茶しない?」

 

 

3人はエルシャに連れられテラスに移り、エルシャは3人に紅茶を入れた。

 

 

天馬

「・・・あの、エルシャさん。」

 

エルシャ

「なにかしら、天馬君?」

 

天馬

「何でエルシャさんがここに?」

 

エルシャ

「私、今はこの"エンブリヲ幼稚園"の園長さんなの。」

 

 

天馬の問いにエルシャは笑顔で答えた。

 

 

アンジュ

「エンブリヲ幼稚園?」

 

エルシャ

「そう、本当は幼年部の子供達みんな連れて来たかったんだけど・・・。」

 

 

天馬は庭で楽しそうに遊ぶ子供達を見た。

 

 

天馬

「でも、あれだけの惨劇を受けてよく無事でしたね。」

 

 

天馬がそう言うと、エルシャも子供達に目を向けた。

 

 

エルシャ

「・・・ねえ、信じられる?」

 

アンジュ

「何が?」

 

エルシャ

「あの子達、一度死んでるの。」

 

 

エルシャの言葉に3人は耳を疑った。

 

 

エルシャ

「でもね、エンブリヲさんが生き返らせてくれたの。」

 

アンジュ

「生き返らせた!?」

 

モモカ

「そんなの、マナの光でも不可能です!」

 

エルシャ

「信じられないでしょ?でもね、私見たのよ。エンブリヲさんが目の前で、あの子達の傷を治し、生き返らせたところを。」

 

天馬

「バカな・・・。」

 

エルシャ

「エンブリヲさんはね、あの子達が安心して暮らせる世界を作るんだって。私は、それに協力するって決めたの。あの子達を守るためだったらなんだってやるわ。人間どもの抹殺だって、アンジュちゃんと天馬君を殺すことだって。」

 

 

エルシャは真剣な表情を見せ、アンジュと天馬はエルシャの覚悟が本物だと思った。

 

 

天馬

「エルシャさん・・・。」

 

 

「ママー!一緒に遊ぼう!」

 

 

エルシャ

「・・・久しぶりにお喋りが出来て楽しかったわ。またね。」

 

 

エルシャはそう言うと席を立ち、子供達のところへ向かった。

 

 

アンジュ

「・・・天馬、モモカ、エンブリヲを探すわよ!」

 

天馬・モモカ

「はいっ!」

 

 

「一緒に来る?」

 

 

すると、今度は庭の木の影から同じ制服姿のクリスが現れた。

 

 

アンジュ

「クリス!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~図書室~

 

 

クリスはアンジュ達を図書室へと連れてきた。

 

 

天馬

「ここは?」

 

クリス

「図書室。エンブリヲ君、よくここで本を読んでるんだ。」

 

アンジュ

「・・・ねえ、クリス。」

 

クリス

「別に無理に話しかけなくていいよ。あんた、私に興味無いでしょ?」

 

アンジュ

「ヒルダとロザリー、スッゴく怒ってたわよ?」

 

 

アンジュがそう言うと、クリスは顔をしかめた。

 

 

クリス

「怒ってるのはこっちだよ。アイツら、私のこと見捨てたんだよ?」

 

天馬

「クリスさん、実は・・・。」

 

クリス

「でも、エンブリオ君は違う。彼は命懸けで私を助けてくれて、私と仲良くなりたいって言ってくれたんだ。私にとって、エンブリヲ君だけが本当の友達さ。」

 

 

 

「この役立たず!!」

 

 

パシン!

 

 

突如、図書室に少女の声とムチの音が響き渡った。

 

 

天馬

「何だ?」

 

 

四人が声を頼りにその場へ向かうと、シルヴィアがリィザにムチ打ちをしていた。リィザは口を鋼鉄製のマスクで塞がれ、シルヴィアの前で四つん這いにされていた。

 

 

アンジュ

「り、リィザ!?」

 

リィザ

「・・・!!」

 

 

リィザとシルヴィアはアンジュの声に気付き目を向けた。

 

 

モモカ

「これは、いったい・・・。」

 

シルヴィア

「あ、あなた達は!!」

 

 

シルヴィアはアンジュ達に驚き後ろへ下がる。アンジュは心配そうな表情でシルヴィアを見た。

 

 

アンジュ

「シルヴィア・・・。」

 

シルヴィア

「私を殺しに来たのですね?お父様、お母様、お兄様を殺め、最後に私を!」

 

天馬

「シルヴィア様、落ち着いてください!俺達何も・・・。」

 

シルヴィア

「助けて・・・助けてください叔父様ぁぁ!」

 

アンジュ・天馬・モモカ

「叔父様?」

 

 

ガチャン!

 

 

突然図書室の大扉が開き、サリア・ターニャ・イヌマが現れた。

 

 

サリア

「見つけたわよ!」

 

天馬

「ったく、しつこいなぁ!」

 

 

天馬は銃を両手に持ち構えた。

 

 

「騒がしいねぇ。読書中は、少し静かにしてくれるとありがたいのだが。」

 

 

突然、聞き慣れない男の声が聞こえてきた。声の主を探すと、図書室の二階にエンブリヲの姿があった。

 

 

天馬

「あなたは・・・!」

 

エンブリヲ

「やはり本は良い。これには宇宙の全てが詰まっている。それに比べ、世界の何と詰まらん事か・・・。」

 

 

エンブリヲは階段を降り、アンジュと天馬の前で立ち止まった。

 

 

エンブリヲ

「久しぶりだよ、本より楽しいものに出会えたのは。」

 

アンジュ

「エンブリヲ・・・。」

 

エンブリヲ

「久しぶりだねアンジュ。そして天馬。手荒な真似をしてすまなかった。」

 

天馬

「・・・何故、俺達をここへ?」

 

エンブリヲ

「君達と話がしたくてね、サリア達に連れてきてもらったんだ。来たまえ。君達も私に聞きたい事があるのだろう?」

 

天馬

「どうします?」

 

アンジュ

「行きましょう。」

 

 

エンブリヲはアンジュと天馬を連れて大扉へと向かう。すると、エンブリヲは途中で足を止めた。

 

 

エンブリヲ

「すまないがサリア、しばらく3人だけにしてくれ。」

 

サリア

「いけません!」

 

エンブリヲ

「サリア・・・。」

 

 

エンブリヲは優しい眼でサリアを見つめ、サリアは仕方なさそうに後ろへ下がった。

 

 

エンブリヲ

「では行こうか?」

 

 

エンブリヲはアンジュと天馬を連れて図書室を離れた。

 

 

 


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