クロスアンジュ LIGHTNING EDITION ~天使とドラゴンと五人の巨人使い~   作:ヒビキ7991

21 / 48
Ep.16/世界の片隅で《前編》

~バー~

 

天馬

「う、う~ん…」

 

 

ある日、天馬は1人とあるバーのカウンターで眠っていた。店の中には自分以外誰もいない。

 

 

天馬

「ここ、何処なんだ?俺、確かアンジュさんと一緒に海の上に・・・。」

 

 

「お目覚めかな?」

 

 

突然、誰かに声をかけられた。顔を上げると、目の前にエンブリヲがいた。

 

 

天馬

「あなたは。」

 

エンブリヲ

「私はエンブリヲ。そしてここは、君の夢の中だ。」

 

天馬

「俺の夢の中?」

 

エンブリヲ

「君は海上で私と会ったときに、私がアンジュと君に言った言葉を覚えているかな?」

 

天馬

「えっと・・・。」

 

 

天馬は海上でエンブリヲの言葉を思い出す。

 

 

天馬

「君たちの怒りは、純粋で白く、何よりも熱い。理不尽や不条理に立ち向かい、燃やし尽くす炎の様に。」

 

エンブリヲ

「そうだ。だが私は、君にもう1つの美を見ている。それは・・・。」

 

 

エンブリヲはコップに水を注ぎ、天馬の前に置いた。

 

 

天馬

「水?」

 

エンブリヲ

「そう。仲間を信頼し、仲間を決して疑う事のない、水のように何処までも限りなく透き通った純粋な優しい心。それが君の持つもう1つの美しさだ。だがその心は君の強さでもあり、弱さでもある。仲間との強い信頼は自らを前進させる力となる。だが、信頼を約束した仲間が裏切り敵になれば、その時の絶望は誰よりも大きい。」

 

天馬

「絶望。」

 

エンブリヲ

「もっとも、君は自分が絶望しても必ず立ち上がる者だと私は知っている。君はこれまで数々の苦難に立ち向かい、勝利してきたのだから。」

 

 

『天馬・・・天馬!』

 

 

突如、何処かからアンジュの声が聞こえてきた。

 

 

天馬

「アンジュさん?」

 

エンブリヲ

「どうやら時間のようだ。」

 

 

エンブリヲはカウンターを離れ、店の入り口へと向かう。

 

 

エンブリヲ

「近いうちに、私は君達の前に再び現れる。また会おう・・・。」

 

 

ガチャ ピカアアアァ!

 

 

エンブリヲはドアを開ける。すると、店内は強い光に包まれた。

 

 

天馬

「うっ!」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

天馬

「う、う~ん・・・。」

 

 

目を覚ますと、天馬はペガサスのコックピットでうつ伏せで倒れていた。

 

 

アンジュ

「天馬!」

 

信助

「天馬!」

 

天馬

「アンジュさん……信助……」

 

 

天馬はゆっくりと身体を起こす。すると、目の前にはアンジュと信助、そしてドラゴンに姿を変えたヴィヴィアンが心配そうに見ていた。

 

 

天馬

「でえええ!ドラゴン!?」

 

信助

「落ち着いて!これはヴィヴィアンさんだよ!」

 

天馬

「そ、そうなんだ。よかったぁ~……」

 

 

天馬はホッと胸を撫で下ろした。

 

 

タスク

「目が覚めたみたいだね。」

 

 

今度は後方からタスクに声をかけられた。

 

 

天馬

「タスクさん!みんな、無事だったんですね。」

 

アンジュ

「何とかね。でも・・・。」

 

 

天馬は立ち上がって辺りを見渡した。

 

 

天馬

「何だこれ・・・。」

 

 

ペガサスの隣には壊れたヴィルキスとタイタニアスが横たわり、辺りにはビルが何棟もそびえ立っているが、一部は倒壊し、建物や道路や近くの錆びた鉄道橋等全て緑に覆われていた。

 

 

天馬

「何処なんですか、ここ?」

 

アンジュ

「私にもさっぱり。いつの間にかヴィルキスのコックピットの中で気を失ってて、目が覚めたら別世界で、ヴィヴィアンがドラゴン化してた。」

 

ヴィヴィアン

「ウ~!ウ~!(アタシもビックリだよ!)」

 

タスク

「おまけにレーダーや無線機が全く反応しないし、位置センサーも機能してくれないんだ。こんな場所、俺の知る限りアルゼナルの近くにはない。」

 

アンジュ

「大昔の廃墟とかじゃないの?人類が戦争してたときの。」

 

天馬

「・・・いや、それは無いと思います。」

 

アンジュ

「何で?」

 

天馬

「俺、ここが何処か分かったんです。ここは新宿駅の東側。新宿大ガード下交差点です。」

 

 

天馬の発言に皆は驚いた。

 

 

アンジュ

「新宿!?じゃあまさか、ここは日本って事!?」

 

天馬

「恐らくは。でも妙なのは、緑が生い茂ってる以外は俺がよく知る新宿の風景と変わらないってことです。」

 

アンジュ

「じゃあ、私達は遠い未来か別世界に飛ばされた訳?」

 

タスク

「ヴィルキスなら可能性はあるよ。ヴィルキスは特別な機体なんだ。何を起こしても不思議じゃない。」

 

アンジュ

「特別・・・。」

 

信助

「これからどうしましょう?」

 

タスク

「取り合えず、俺はヴィルキスの修理をしてみるよ。」

 

信助

「だったら、僕も手伝います!」

 

アンジュ

「じゃあ、私と天馬で辺りを散策しましょう。」

 

天馬

「はい。」

 

ヴィヴィアン

「ウ~!ウ~!(アンジュ!天馬!)」

 

 

突然、ヴィヴィアンがアンジュと天馬に背中を向けた。

 

 

アンジュ

「乗れってこと?」

 

ヴィヴィアン

「ウ~!(そうそう!)」

 

タスク

「それにしても、君がドラゴンだったとはね…」

 

ヴィヴィアン

「ウ~(内緒だよ?)」

 

 

天馬とアンジュはヴィヴィアンの背中に乗り、ヴィヴィアンは大空へと飛んでいった。

 

 

タスク

「よし、じゃあ始めようか。えっと~・・・。」

 

信助

「あ、自己紹介まだでしたね… 僕は信助です。」

 

タスク

「俺はタスク。よろしくね、信助君。」

 

 

タスクと信助はヴィルキスの修理を始めた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~東京上空~

 

 

一方、アンジュ・天馬・ヴィヴィアンは東京の上空を東へ向けて飛行していた。

 

 

アンジュ

「どう?」

 

天馬

「やっぱり、東京とみて間違い無いと思います。ただ・・・。」

 

 

天馬は前方の更地に目を向ける。更地の中心には巨大な湖があり、その湖の中には倒壊したスカイツリーとおぼしき塔と、スカイツリーより巨大な倒壊した塔があった。

 

 

アンジュ

「暁ノ御柱!?」

 

天馬

「あそこは位置的に墨田区。スカイツリーが建っている場所です。でも、俺の知ってる墨田区に、暁ノ御柱はありません。」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~新宿大ガード下交差点~

 

 

数分後、アンジュと天馬は散策の結果をタスクと信助に話した。

 

 

天馬

「現時点で分かっているのは、ここが東京であって俺の知る東京じゃないって事です。」

 

タスク

「可能性があるとするなら、ここが何処か別の世界か、遠い未来の世界かだね。」

 

ヴィヴィアン

「Z…z…z…」

 

 

いつの間にかヴィヴィアンは眠っていた。すると・・・ 。

 

 

~♪

 

 

突然、何処かからオルゴールの音が聞こえてきた。

 

 

天馬

「何だ?」

 

 

一同はヴィルキスの影に隠れる。するとその直後、四本足の赤いロボットがヴィルキスの前を通り過ぎた。

 

 

 

『こちらは首都防衛機構です。生存者の方はいらっしゃいますか?首都第3シェルターは現在も稼働中。避難民の方々を収容しております。』

 

 

赤いロボットはそのままガーター橋の向こうへと消えた。

 

 

アンジュ

「生存者?」

 

タスク

「追いかけてみよう。」

 

 

アンジュ・天馬・タスク・信助の四人はヴィヴィアンを残し、ロボットの後を追いかけた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~首都第3シェルター前~

 

 

四人はロボットを追いかけシェルターの前へとやって来た。

 

 

タスク

「ここがシェルター。」

 

アンジュ

「ここに生存者が?」

 

 

四人は入り口へと近づく。すると・・・。

 

 

『生体反応を確認。収容を開始します。ようこそ、首都第3シェルターへ。首都防衛機構は、あなた達を歓迎いたします。』

 

 

シェルターのシステムがアンジュ達を認識し、入り口が開き通路が現れた。

 

 

信助

「どうします?」

 

アンジュ

「入るしか無いわね・・・。」

 

 

四人は恐る恐るシェルターの中へと入った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~シェルター エントランス~

 

 

階段を下りると、広い空間へとたどり着いた。中央の柱に設置された大型ディスプレイに黒髪の若い女性が映し出された。

 

 

『現在、当シェルターには1.7%の余剰スペースがあります。どうぞ、快適な生活を。』

 

 

あちこちのシャッターが一斉に開き、シェルター内部が露になった。

 

 

アンジュ

「うぐっ!」

 

天馬

「これは・・・!」

 

 

シェルター内には白骨化した遺体やミイラ化した遺体があちこちに散乱していた。内部の光景を一同は唖然とし、アンジュは酷い臭いのあまり鼻を塞いだ。

 

 

タスク

「何だこれ・・・?」

 

信助

「ここ、ホントにシェルターなの・・・?」

 

天馬

「・・・。」

 

 

天馬は急いでディスプレイの所へ戻った。アンジュ・信助・タスクも後に続いた。

 

 

天馬

「あの、さっきの人!いたら出てきてください!」

 

 

天馬の呼び掛けに答えるように、再びディスプレイに先程の女性が映し出された。

 

 

『管理コンピューター、《ヒマワリ》です。ご質問をどうぞ。』

 

タスク

「コンピューター・・・だったのか?」

 

天馬

「ヒマワリさん、俺たち以外に生きてる人はいないんですか?この世界で、いったい何があったんですか?」

 

アンジュ

「教えなさいよ!コンピューターのあんたなら、全部知ってるんでしょ!?」

 

ヒマワリ

『・・・質問を受け付けました。回答シークエンスに移行します。』

 

 

パンッ

 

 

辺りの証明が一斉に消え、エントランス全体に映像が映し出された。映っていたのは、高度に発展した都市に降り注ぐミサイルの雨。多数の戦車・戦闘機・軍艦が攻撃する映像だった。

 

 

アンジュ

「何これ?映画か何か?」

 

ヒマワリ

『実際の記録映像です。統合経済連合と半大陸同盟機構による、大規模国家間戦争。通称第7次大戦、ラグナレクD5等と呼ばれるこの戦争により、地球の人口は11%にまで減少。膠着状態を打破すべく、連合は絶体兵器ラグナメイルを投入。』

 

 

映像にヒステリカと、ヴィルキスによく似た黒い機体が6機映っていた。

 

 

天馬

「あれって、ヒステリカ?」

 

アンジュ

「それにあれは、黒いヴィルキス?」

 

 

ヴィルキスに似た6機とヒステリカが竜巻を纏った白い光を放ち世界中の都市や軍隊を破壊する様と、暁ノ御柱が倒壊し大爆発する映像が映し出された。

 

 

ヒマワリ

『こうして戦闘は終結。しかし、ラグナメイルの次元共鳴変異によって、世界中のドラグニウム反応炉が共鳴爆発を起こし、地球は全域にわたり生存困難な汚染環境となり、全ての文明は崩壊しました。以上です。』

 

 

アンジュ

「なにこれ・・・なんの冗談よ・・・。」

 

 

ヒマワリの回答に、一同は困惑した。

 

 

信助

「それって、いつの話なんですか?」

 

ヒマワリ

『今から538年193日前です。』

 

 

ヒマワリの回答に、一同は仰天した。

 

 

ヒマワリ

『世界各地20976ヵ所のシェルターに、熱・動体・生命反応無し。現在地球上に生存する人間は、あなた方4人だけです。』

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~新宿大ガード下交差点~

 

 

その後、四人は交差点に戻り焚き火をして暖をとった。

 

 

天馬

「500年か・・・。500年経っても町が原形をとどめているのが不思議だなぁ・・・。」

 

アンジュ

「あんな紙芝居、信じるの?」

 

タスク

「あの白骨やミイラを見ればね・・・。」

 

アンジュ

「作り物かも知れないじゃない。」

 

信助

「そうだとしても、いったい誰が・・・。」

 

アンジュ

「知らないわよ!私はこの目で見たモノしか信じない!」

 

 

アンジュはイライラしながらヴィヴィアンの背中に乗り、大空へと飛び立った。

 

 

アンジュ

(認めない!ここが500年後の未来だなんて!)

 

 

天馬

「・・・俺達はどうしましょうか?」

 

タスク

「取り合えず、ヴィルキスの修理を進めよう。少しでも早く直さないと。」

 

信助

「はい。」

 

 

天馬・タスク・信助は工具を手に取り、ヴィルキスの修理を始めた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。